田んぼの地下に潜むのは…
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地形や地質のスペシャリスト、香川大学の長谷川修一特任教授とともに訪れたのは、三木町の氷上地区にある田園地帯。
歩いていると、東西方向に伸びる1メートル余りの段差に出くわしました。
一見しただけではなかなか気づくことができませんが、実はこれ、県内最大の活断層「長尾断層」の一部です。ここは、かつて巨大な地震を引き起こした活断層を見ることができる、県内でも数少ない場所なのです。
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この長尾断層、長谷川特任教授らによっていまから20年ほど前に詳しい調査が行われていました。地層のずれの大きさから、長尾断層はかつてマグニチュード7クラスの地震を引き起こしたと考えられています。
長谷川さん
下の地層も同じように約1メートル50センチずれていて、地表に単なる崖があるのではなく、地下の断層がずらして、地表に段差ができているということがわかりました。ここで過去に直下型の大地震が起きたということがわかる生きた証拠です。
長尾断層はどうできた? 模型で解説
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では、長尾断層はどのようにできたのでしょうか。
長尾断層について独自に研究している、地元の自主防災組織の会長、亀井満夫さんに、手作りの模型を使って、そのメカニズムを説明してもらいました。
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横から力を加えていくと、地面に亀裂が入り、左側の地層が右側に乗り上げるようになりました。これが「逆断層」と呼ばれる、長尾断層ができたメカニズムです。
さらに力を加えていくと、繰り返し断層ができました。こうしてできた左側の盛り上がりが讃岐山脈で、一番右側に最後にできた断層が長尾断層にあたるということです。
長尾断層はいつできた?
地域の歴史から推測
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地層の調査から、長尾断層が最後に動いたのは8世紀から16世紀の間とされています。
亀井さんは、より具体的な時期を地域の歴史をもとに割り出すことができないかと考え、周辺の神社が作られた年に注目しました。
亀井さん
936年8月に作られたり、移転したりしている神社が、香川県東部のほうで見る限りでこれだけあります。
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亀井さんは、この時期に神社の創建が相次いだのは、長尾断層による地震が起きたためではないかと推測しています。
亀井さん
人々の心が動揺し、神に頼ろうという気持ちでこの時代にできたのではないかと。
長谷川さん
これから検証していく価値のある、おもしろい仮説だと思います。
知られざる活断層も
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長尾断層はおよそ3万年の間隔で活動することがわかっています。
国は、今後30年間に長尾断層の活動によって地震が発生する確率はほぼ0%と評価。ただ、長谷川特任教授は、まだ知られていないほかの断層がずれ動くことも考えられるため、決して安心はできないと指摘します。
長谷川さん
高松平野や丸亀平野の地下に、長尾断層のような他の活断層が隠れている可能性があるわけです。2000年の鳥取県西部地震や2008年の岩手・宮城内陸地震といった地震は、活断層がないと思われていたところで、マグニチュード7クラスの直下型地震が起きました。いま活断層が見つかっていないからといって、ここで直下型地震は起きないということは言えないのです。
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直下型地震は震源が近く、突然、激しい揺れが襲うのが特徴です。いつ、どこで起きるかわからない地震に備えて、家具の固定や建物の耐震補強などをしておくことが大切だといいます。
直角に曲がる謎の川 その理由は
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続いてやってきたのは、三木町から高松市へと流れる二級河川・新川のほとり。
この川、この場所でほぼ直角に流れを変えているんです。
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地図を見ていると、この地点から1キロあまり離れた吉田川も、同じように大きく曲がる場所がありました。長谷川特任教授は、自然に流れている川が直角に流れを変えることはめったにないといいます。
と、いうことは・・・。そう、現在の不自然な流れは、人の手によって行われた河川改修によるものだと考えられているのです。その時期は江戸時代とみられています。
昔の川の痕跡を探して
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昔の川はくねくねしていたはず!その痕跡を探そうと、三木町の中心部にある、昔の役所だった「池戸公民館」に向かいました。
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そこで注目したのは、公民館の前にある「旧長尾街道」と呼ばれる道。
地図上でこの道をなぞってみると、くねくねと曲がっていて、まるで川の流れのようです。
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公民館の中に展示されていた江戸時代初期の絵図で、昔の川の姿を確認することができました。描かれたかつての川筋の横には「池戸」という文字が。やはり、公民館の前の道路が昔の川の痕跡だったのです。
長谷川さん
もともと1つだった川の流れを分離して、北と南に分かれて流すように河川改修をしたということが読み取れます。
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かつて街の中心部を流れていた川の流れを変えたことで、現在の流れになったと考えられているのが新川と吉田川です。河川改修によって、1つの川に流れる水の量が減り、洪水のリスクを下げることにつながったといえますが、一方で、現在の中心部は2本の川に挟まれる形になりました。
長谷川さん
大雨が降ると、2つの川に挟まれた低い土地から浸水が始まります。浸水想定区域に住む人は、自分の周囲の浸水の様子、それから河川の水位に注意を払って、早めに避難することが大事です。
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ユニークな地形をヒントに三木町を巡り、防災のポイントを見てきた今回の「とち知り」。最後に長谷川特任教授にポイントをまとめてもらいました。
五味アナウンサーのひとこと
手作りの道具を使って断層を再現する実験、おもしろかったです。長い年月をかけて地形を作る力の動きが、目の前にあるなにげない段差につながっているんですね。自然と人がどう向き合ってきたか、その歴史を知ることが未来への第一歩だと感じる町歩きでした。
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※なお掲載している情報は放送当時のものです。