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桶の技術で“エコな家具”

( 高松放送局・楠谷遼 )

2022年11月4日放送

お披露目されたスタイリッシュなソファーや花器。これらに使われているのはいずれも「桶作りの技術」です。桶といって、まず思い浮かぶのは寿司桶やおひつでしょうか。畑違いにも思える世界になぜ桶が?しかも、この技術を使えば、ほかではできない「エコな家具」にもなるとか。いったいどういうことなのか、知られざる桶作りの世界をご紹介します。

・「3代目おけ職人の挑戦」← この記事の続編です。

職人×アーティスト 斬新な作品を

11月3日。高松市でユニークなイベントが幕を開けました。その名も「SANUKI ReMIX 2」。香川の地場産業の職人と全国的に活躍するアーティストがコラボして、これまでとはひと味違う作品を作り上げようというプロジェクトです。
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オープニングイベントは、ファッションショー。香川の伝統的工芸品の「保多織」を藍で染めた衣装を、国内外で活躍する盆栽師が身につけ、さっそうと歩きました。
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会場では、こうしたコラボ作品をはじめ、職人の技術が詰まった100点余りの作品が展示されました。その中の注目作品のひとつが「桶」。寿司桶やおひつに代表される伝統的工芸品「讃岐桶樽」の若手職人、谷川清さんと、大手企業で生活用品のデザインを手がけてきた製品デザイナー、鈴木正人さんがコラボして、2か月近くの間、作品作りに挑んできました。
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完成したのは3つの作品です。ボディーに桶のかたちを生かしたソファーや…。
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こちらの照明器具は、柱の部分が桶になっています。
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美しい花が挿されているこちらの花器も桶の形をしています。
作品を見た人
 「日本の伝統というか、それを取り入れている要素があって、見たことがない形です」
 「花瓶とか椅子のカーブとかすごいなと思いましたね。ただただ感動しました」

知られざる桶作りの技術

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展示されているソファーをじっくり見てみると、ある特徴に気がつきます。

桶と同様、木片を組み合わせて作られていますが、木片1枚1枚の大きさが実はまちまちなのです。それなのに、木片を組み合わせて出来上がったボディーはきれいな円形。

実はこれこそが、桶を作るうえでポイントとなる技術のひとつなのです。
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大きさが異なる木片を組み合わせてきれいな円形にするためには、木片の角度を詳細に考えた上で、1ミリに満たない精密なレベルで削りとる技術力が必要になります。
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桶職人 谷川清さん 「バランスを見ながら組み立てていくのが丸くする秘けつ。1度よりも細かい角度を手加減で感覚であわせていくものなので、角度がバシッと決まったときに自分が求める直径の大きさときれいな丸が成立する」
いまでこそ、こう話す職人の谷川さんですが、修行を始めた当時は、何回やり直してもどうしてもきれいな円にならず、寝ていて夢にまで出てくるほど悩んだといいます。失敗を繰り返しながら、ようやく習得できる桶職人ならではの技術なのです。

桶の技術で“エコな家具”

この技術をもっと生かすべきだと指摘したのが、デザイナーの鈴木さん。プロジェクトでどんな作品を作るか谷川さんと意見を交わす中で、この技術のことを知り「瞬間的にピンときた」と振り返ります。

木片の大きさがバラバラでも、問題なくきれいなボディーが作れるということは、木材から木片を切り出すときに、ロスなく使いきれるということ。つまり、これは木材を無駄にしない“エコな家具”という付加価値になると考えたというのです。
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製品デザイナー 鈴木正人さん 「買うときにこれエコだなっていうのが、これからの時代のバリューになると思う。使っていて気持ちいいというのと、買うときにも気持ちがいいというのが、これからの時代は購入要素になってくる」
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鈴木さんは、このコンセプトをもとに、ソファーや花器などをデザインしました。

伝統的な桶では、木片の組み合わせであることが分からないくらい、ぴったりあわせるのが常識。その常識を打ち破り、あえて木片と木片の間に溝をつけてそこを黒く塗ることで、木片一枚一枚を目立たせるようにしたのです。

こうすることで、木片の大きさの違いに気付いてもらい、それを組み合わせてきれいな円にすることができる桶作りの技術を知ってもらえると考えました。

そして、この技術をベースにすれば、今後ソファー以外にもさまざまな家具や日用雑貨などに展開でき、「エコな家具」を売りに、他の商品との差別化もはかれると考えています。
桶職人 谷川清さん 「昔は一家に1台あったような桶だが、今の時代では求められているものが変わってきていると思う。そういう中で、こういう桶もありだなって思ってもらえたら。寿司桶やおひつにとどまらない新たな桶のカテゴリを作っていきたい」
製品デザイナー 鈴木正人さん 「今回のコラボは刺激だらけだった。さぬきの桶の2.0というか、新たな始まりとして百年後の歴史の資料集にでも載って欲しい」

職人技を間近なところで

知られざる職人の技術を多くの人に知ってもらおうというプロジェクト「SANUKI ReMIX」。その中には、斬新な作品を披露する展示会に加え、もうひとつの仕掛けが用意されていました。

それは、バイヤーなどに職人の工房を実際に訪れてもらう「工房見学ツアー」です。
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間近なところで職人の技術にふれるとともに、作品作りにかける思いを直接聞くことで、展示されている作品をより好きになってもらおうという狙いです。

会場の一つが三木町にある谷川さんの工房。そこに貸し切りバスが到着すると、見学ツアーの参加者がぞろぞろと降りてきました。

対応したのは谷川さんのご両親。2人とも讃岐桶樽の伝統工芸士で、お父さんはおけ作り40年の大ベテランです。
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木片を削る様子などを実際に見せながら、大きさが異なる木片を組み合わせて丸い桶の形にするための角度の取り方や削り方を説明すると、参加者たちは、間近でみる職人技に興奮しているようでした。
訪れた人
「経験というか一発で角度とか寸尺をあてこめる職人さんの技術にかなり感動しました」
「SANUKI ReMIX」のプロデューサーは、プロジェクトを通じて、香川の職人が持つ可能性を広げるきっかけにしたいと思いを語りました。
「SANUKI ReMIX」
プロデューサー
村上モリローさん
「職人がなぜこの技術を身につけたのかとか、なぜ伝統を守るのかなど職人の志や技術のすごさを感じ取ってもらうことを目指して企画したプロジェクトだ。これをきっかけに将来あとを継ごうという人も出てきてくれれば非常にうれしい」
取材後記 香川に赴任した直後の去年秋、プロデューサーの村上モリローさんに「香川県はアーティザン(職人)の県だ。でもそれが十分に知られてこなかった」と教えられたのが、一連の取材を始めたきっかけでした。以来、丸亀うちわや庵治石、そして桶と、さまざまな職人を取材してきましたが、共通していたのは妥協を許さないものづくりへの思いでした。それと同時に、いわゆる「伝統」の中に閉じこもっていては将来が見通せないという危機感を持っていることも知りました。香川の職人たちは伝統を大事にしながらも、いま、未来への大きな一歩を踏み出し、その動きが波のように広がってきているように感じます。

香川の地場産業の歴史的転換点を、今後も伝えていきたいと思います。
この記事を書いた人

高松放送局 楠谷遼
2008年入局 鳥取局、経済部を経て、2021年秋から故郷の香川県で勤務。現在はニュースデスクのかたわら、地域活性化の取り組みなどを取材。

高松放送局 楠谷遼
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※なお掲載している情報は放送当時のものです。
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