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「オリーブの島」の波乱

2021年12月27日放送 小豆島が“荒れた”。小豆島といえば、平和の象徴「オリーブ」が島中に茂り、引き潮になると別の島へと続く砂の道が現れる「エンジェルロード」など、フォトスポットとしても魅力的なイメージ。だが、ある町の町長選挙は波乱の中、行われた。何が起きたというのだろうか。
(高松放送局 石山寛規 富岡美帆)

■5人が立候補

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「財政は極めて厳しい状況」
「このままでは、町の貯金が大きく減ってしまう」

今月(12月)上旬、土庄町で行われた討論会。
演台に上がった5人の論者は口々に財政の厳しさを指摘した。

イメージ 討論は、ほぼ「1対4」の状態で進んでいった。標的となっていたのは、現職の三枝邦彦(63)。いち早く選挙への立候補を表明していたが、この日は防戦一方だった。

「いま現在は、健全だというお墨付きをもらっている」と、財政運営に問題はないと反論する三枝。

討論会の様子は、どことなく、今後の波乱を感じさせた。

人口1万3000人という規模の町で、現職に新人4人が挑むという選挙。
4人以上が立候補するのは初めてのことだ。

■乱立の背景

土庄町の町長選挙が選挙戦となるのは、前々回・平成25年以来のことだ。
これまでは、現職と新人や新人どうしなど一騎打ちの構図が多かった。
それがなぜ乱立する状況となったのか。

三枝のほかに、名乗りを上げた4人は多種多様だ。
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    ◇製麺業を営んでいる、大峯茂樹(73)。三枝を支援してきた人物だ。
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    ◇元保守系の町議会議員の岡野能之(50)は、前回の町議会議員選挙でトップ当選。
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    ◇同じく元町議の岡本経治(59)はカイロプラクティック店の店長でもある。
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    ◇そして、もう1人の元町議、茂木邦夫(35)は群馬県からの移住者だった。
「とにかく現職を変えるしかない」「町を活性化させなければいけない」
みな口々に語るのは、三枝の町政運営に対する不満だった。

■町長が自己破産!?

いまの町の運営にそんなに不満があるのか。

波乱の予兆は去年あった。
三枝が、自らが連帯保証人を務めるホテルを運営する会社の借金が膨らんだことなどから、裁判所に自己破産を申請したのだ。

三枝は、会社が金融機関から借りたおよそ5億5000万円の返済に、みずからの報酬も充てていたが、当時役員を務めていた別の組合の倒産も拍車をかけ、行き詰まっていた。
現職首長の自己破産は、もちろん、異例中の異例だ。

「町長の職務に影響はない」

三枝は、そう語って難局を切り抜けようと試みたが、議会の不信感は高まった。
町議会では去年6月、法的な拘束力はないものの、問責決議も可決された。

■次第に傾く町の財政

追い打ちをかけたのが、町の財政状況の悪化だった。

人口減少による税収減に加え、6年間に、小学校や小豆島中央病院、こども園の新規建設などが重なったほか、新たに別のこども園も建設中で、公共事業費がかさんだ。

さらに、耐震性の弱さが問題視されていた、町役場の庁舎建設では、高潮対策のかさ上げなどを含めた総額33億円の事業を、災害対策の事業に充てられる地方債を活用して進めた。

三枝は、「将来的には、地方交付税で措置される」として断行したが、「もっと費用を抑えられた」とか「高額になりすぎだ」という指摘もあがった。

町は、財政状況について、今後特に何の措置も講じなければ、早晩行き詰まることを示す数値もみずからはじき出していた。

こうした状況が、候補者乱立の1つの要因になったと見られる。

■ほかの候補者にも批判

三枝以外の候補者にも、批判はつきまとう。

地元事情をよく知る人物は言う。
「いまの町長ではいけない、という気持ちでみんな立候補しているんだろうけど、自分でも町長できると思っているからこんなに立候補できるんでしょう」

さらに地元の町議会議員の1人も「町長や町議会議員のポストを甘く見過ぎている」と手厳しい。

■選挙戦・・・しかし盛り上がりには欠ける

そうした状況の中、21日に告示された町長選挙。
そして選挙戦は、事実上、三枝と岡野を中心に進んでいった。
イメージ これまでの実績と知名度を武器に、およそ6000軒を訪問し、業界団体にも支持を呼びかけた三枝。
イメージ これに対し、岡野は、商工会の青年部や同級生なども動員して支持の拡大を狙った。
有権者は冷静だった。
「選択肢が多いのはいいことだけど、誰が新しい町長になってもね」
「選挙には行くけど、町長選挙にはあまり興味がない」

それぞれの候補者とのつながりがあるのか、話しづらそうに口をつぐむ有権者もいた。

一方で、土庄町とほぼ同規模で隣り合う小豆島町の町民からは関心も。
小豆島町に住むある女性は、「複数の候補と知り合いだがいい話も悪いうわさも聞く。自分の町の選挙より関心がある」と、好奇の視線を送っていた。

■結果は

26日の投開票日。
投票率は、選挙戦となった前々回・平成25年の選挙から10点48ポイントあがった。
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そして、三枝をダブルスコアで引き離して勝利したのは岡野だった。
岡野「『土庄町を変えるんだ』という思いが周りの方にも伝わり、熱を帯びて動いてもらったからこそ、思った以上の数字になった」

一方の三枝は、悔しさもにじませた。
「こちらは支援者が高齢で、なかなか人を集められなかった。町の財政について、ほかの4人に指摘されたのもきつかった」

次の町政を担うことになった岡野は「行政の透明化」を目指すと語った。
そして、信頼を失いつつあった町政再建への意気込みも新たにしたが、選挙を通じて、この町に残された爪痕は小さくない。 (敬称略)
※なお掲載している情報は放送当時のものです。
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