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バイオリニスト 川井郁子さん

(聞き手 五味哲太アナウンサー)

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去年、デビュー20周年を迎えたバイオリニスト・川井郁子さん。型にはまらない情熱的な演奏で世界を舞台に活躍してきました。クラシックの枠を飛び越えたジャンルにとらわれない演奏は、音楽ファンを魅了しています。
デビュー20周年を記念した東京でのコンサート最終日、東京渋谷区の新国立劇場を訪ねました。コンサート終了後、まずは川井さんの楽屋へ向かいました。
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(五味)
失礼します。公演を終えたばかりのところすみません。初めまして、NHKの五味と申します。
(川井)
よろしくお願いします。
(五味)
本当に素晴らしくて、音に圧倒されました。
(川井)
ありがとうございます。
川井さんは高松市で生まれ育ち、6歳でバイオリンを始めました。その後、東京芸術大学で学び、現在は東京を拠点に活動しています。終演後の舞台で、客席を背景にインタビューしました。
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(五味)
本当に、いままさに公演を終えたばかりで、客席こそ誰もいなくなりましたけど、濃密にまだ気配が残っているような感じがします。
(川井)
そうですね。まだ熱気が残っているような。私もまだ呆然としている感じなので。
(五味)
そうですか。コロナ禍で、2年近く本当に劇場に来るということもなくて、私は今日来てみて、やっぱりこういうことってすごく人生の中にというか、大事な経験なんだなってことがわかった気がしました。
(川井)
うれしいです。そう言っていただけると励みになります、私たちにとっても。ほとんどのコンサートやイベントが中止になりましたので、こうやって立ってみると、ここでしか味わえない幸せ感というのがあって、感謝の気持ちでいっぱいですね。
(五味)
この2年間、ふるさと香川には戻られましたか?
(川井)
いいえ、全く戻りませんでした。やっぱり東京から帰るのも、遠慮するというか躊躇(ちゅうちょ)しますし、ニュースで感染者数とか出るじゃないですか。香川県の感染者数とか気になって。
(五味)
やっぱり。
(川井)
香川は幸い、大きい数字はなかったですけれども、やっぱり母のことも心配だし、電話の数も増えました。
(五味)
そうですか。
香川への思いを募らせてきた川井さん。心を支えてきたのは、ふるさとの「ある風景」だったといいます。
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(川井)
私にとっては、瀬戸内海の風景なんですよね。私の気持ちを育んでくれたのは、あの海の風景の部分が大きいと思うので、「懐かしいな、帰りたいな」って思って思い浮かべるのは、海ですね。
(五味)
海ですか。
(川井)
はい。子どもの頃から間近にあったので、海を見ていると、いまの自分の気持ちを投影して見えるんですよね。すごく寂しい気持ちの時は、海も一緒に泣いているような気がしたりとか、夢に燃えている時は、応援しているような気がしたりとか。本当にそれって、桜を見る時と同じ感覚なんですよね。桜も毎年見る時の自分の状態によって、泣いているように見えたり、自分の気持ちを投影して見るんですけど、瀬戸内海の海も自分を映し出す、そんな海だと思います。
川井さんの心を映し出す、瀬戸内の海。その風景は、創作活動にどんな影響を与えてきたのでしょうか?
(川井)
私は空想するのが大好きな子どもだったので、海と対峙(じ)していると、いろんなことが次々とインスピレーションが湧くというか、自然に空想の中で遊べるので、私にとっては心を自由にしてくれる場所というか。
(川井)
いまでも、曲を作る時も、あの風景に対峙(じ)していた時の気持ちになると、浮かびやすい状態になるんですよね。
(五味)
そうなんですか。川井さんの曲の中で、瀬戸内の海をイメージして作られた曲というのはあるんですか?
(川井)
はい。花音(カノン)という曲があって、娘の名前なんですけど。娘が生まれてから、久しぶりに見たふるさとの海で浮かんできた、なんとも言えない気持ちになった時に浮かんだ曲です。子どもの頃、寂しい気持ちや不安な気持ちで見ていた海が、娘を授かってから、そのころの自分を見つめている親の気持ちというんですかね。昔の自分を愛おしく思う、なんかそんな思いになったんですよね。
(五味)
じゃあ、娘さんと若い頃の自分が二重写しのような。
(川井)
そうそう。その時、私は、あ、この海に支えられていたんだなっていう。人間関係もあるけど、それだけじゃなくて、支えてくれたものっていっぱいあるんだなって感じ。
(五味)
しばらく帰られてないとおっしゃっていましたけど、いま瀬戸内の海を見に行ったらどう見えるんでしょうね?
(川井)
いやあもうね、刺さると思います。
(五味)
刺さりますか。
(川井)
一番、慰めてくれる場所があそこだなと思います。
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新型コロナによって様々なイベントが中止になり、川井さんの音楽活動も影響を受けました。
(五味)
そのコロナ禍のなかで、音楽との向き合い方って何か変わりましたか?
(川井)
本当に音楽って必要なんだろうか、とか。不要不急って言われていましたけれども、本当にみなさんが必要としているのだろうか?という。最初は、どうなるんだろう、私たちアーティストはどうなるんだろうと思っていたんですけど、その時期を超えると、自分とじっくり見つめ合う時間に変わっていって、そうすると温めていた夢とか、自分はこういうことをやりたいんだよなっていう、コロナ禍じゃない時にはどこかでこう隅にやっていたものが目の前にきて、夢がコロナ禍の自分を救ってくれたとこはあると思いますね。
川井さんの夢のひとつだったのが、今回実現した20周年のコンサートでした。ジャンルを超えたアーティストとの共演に加え、日本の伝統芸能も取り入れて、企画から作曲・演出まで自らが手掛けました。最新の映像技術も使って、新しい音楽舞台を作り上げました。
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(五味)
バイオリンのイメージってやっぱりクラシック音楽のイメージだったんですけれども、こんなに物語を紡いで、感情を表現して、世界を表現するんだなというのが印象的で。今回の公演というのは、どういうことを感じて欲しくて作ったんですか?
(川井)
音楽だけじゃなくて、ビジュアルの映像だったり美術だったり、物語だったり、あと西洋の音楽と、東洋の音楽。いろいろな越境によって化学反応が生まれることを作り上げたかったというのがひとつと、若い演奏家を目指すみなさんに、新しい表現というのはまだまだ模索できるよっていうのを感じて欲しいなっていう思いもありました。
インタビューの最後にふるさと香川へのメッセージをうかがいました。
(川井)
もの作りをしたり、ものを考えたりするには最高の場所なので、素晴らしい香川の風土を生かして、特に若い方達が、持っている個性や夢を育んでほしいなっていう感じが一番強いかな。
(五味)
川井さんご自身は、この20周年の先、どんなものを目指していますか?
(川井)
実は、20年間デビューして、自分らしい表現を探してやってきましたけど、あまり外には言えなかったけど、ずっと自身のなさと闘っていた部分があるんですよね。ようやく最近、自分の直感が正しいんだなっていう自信が持ててきたんですよね。なので、これからの20周年の先は、自分を信じてもっと冒険的に表現をしていきたいし、若い人をどんどん応援するような活動をしたいなと思っています。
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川井さんのインタビューを終えて、香川で瀬戸内の穏やかな海を眺めてみると、自分の心を海が映し出すという感覚がわかるような気がしました。人と会いづらい時期だからこそ、自分と向き合い、自分のなかにあるものを深めてほしいと話していた川井さん。そのメッセージからは、バイオリンで生み出す音にも通じる川井さんの力強さを感じました。
※なお掲載している情報は放送当時のものです。
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