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災害時 子どもの命を守るために

2021年5月31日放送 東日本大震災では、学校や幼稚園で子どもが犠牲になるケースが相次ぎ、子どもが集まる施設の避難方法などをあらかじめ定めた防災マニュアルの重要性が指摘されました。
国は、学校と幼稚園には防災マニュアルの作成を義務づけていますが、放課後などに児童を預かる放課後児童クラブについては、マニュアルを作成するかどうかが自治体に委ねられていて、その結果、義務づけられていない自治体もあります。
この春、高松市で放課後児童クラブを立ち上げた代表の女性は、手探りで防災マニュアルを作りましたが、その道のりは簡単ではありませんでした。
(高松放送局 記者 谷口碧)

■子どもが集まる現場の不安

イメージ 放課後などに児童を預かっている、高松市にある放課後児童クラブです。
預かっている児童の保護者は共働きが多く、自宅や習い事の教室などへ1人1人送迎もしています。
イメージ ことし4月にこの施設を立ち上げた代表の佐藤有花さんは、西日本豪雨の被害を目の当たりにして、災害への備えの大切さを実感。
施設を立ち上げるにあたり、子どもたちを預かる身として防災マニュアルを策定することを決めましたが、最初は、何から手をつけたらいいのかも分からなかったと言います。
佐藤有花さん

「行政からの指導はなかったので、何をしたらいいのか分からなかった。自分たちでなんとかしなければならないと感じた。南海トラフ地震もいつ起きてもおかしくない状況で、スタッフが正しい防災の知識を身につけて子ども達を守ることが必要だと思った」

■放課後児童クラブの防災は努力義務

イメージ 東日本大震災では、大津波警報が発令されている中、幼稚園の送迎バスが津波に巻き込まれ、乗っていた園児5人が亡くなるなど、多くの子どもが犠牲になりました。
イメージ 東日本大震災をきっかけにその重要性が改めて浮き彫りになった「防災マニュアル」は、災害時の避難行動などをあらかじめ定めるもので、震災前から学校や幼稚園には作成が義務づけられていましたが、東日本大震災を受けて、国は地域の特性を踏まえて、さらに充実したものにするよう取り組みを強化しました。
また、国は、震災後、新たに保育所とこども園にも防災マニュアルを策定するよう法律で義務づけました。
イメージ ところが、放課後児童クラブについては、国はマニュアルの策定を義務づけるかどうか、市町村(特別区を含む)に判断をゆだねています。その結果、市町村の対応はまちまちになっている現状があります。
佐藤さんの施設がある高松市は、策定の指示はしてはいるものの、その内容について施設側に特段の指導はしていません。

■自力で防災マニュアルを策定

イメージ 防災の知識はなかった佐藤さんは、知人に紹介してもらい、防災が専門の香川大学の岩原廣彦客員教授に指導を依頼しました。

佐藤さんがまず最初に考えたのは、災害が起きた時に、預かっている児童をどのようにして自宅などに送り届けるかどうかです。
イメージ 佐藤さんたちは、ハザードマップに児童の送迎先を落とし込み、その危険性を確認していきます。
イメージ ここで岩原客員教授からのアドバイスが。
アドバイス1

「警報が出た場合には、習い事先には送迎することはないという、決めごとを決めておかないといけない」

アドバイス2

「災害は1つではない。津波であったり、河川氾濫であったり、高潮もあるが、それによって、安全なルートが変わってくる。ハザードが違うと、送迎ルートが同じでも、状況を判断する場所が変わってくるはず」

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たとえばこちらの2つの地図。
左は津波で浸水が想定される場所を示した地図。
右は川の洪水で浸水が想定される場所を示した地図です。
左の地図では浸水が想定される場所はありませんが、近くに川が流れているため、右の川の洪水の地図では、同じ場所でも浸水すると想定されています。
浸水しなくても土砂災害の恐れがある場所もあり、佐藤さんたちは、すべてのハザードマップで危険性を確認して、災害ごとに児童を送り届けるべきかを判断する必要があると気づきました。
イメージ 「複数のハザードマップを見て、どのルートを通るのかということをたどっていって初めて、『ああここで立ち止まってしまってこの先行けないな』と気が付いたりする。『こうなった時はこう』ということを細かいところまで決めて、保護者にもお伝えしないといけないなと思っている」
イメージ さらに、佐藤さんたちは、送迎ルートに地震で倒れてしまうものがないか、自分たちの目で確認もしています。
イメージ 佐藤「道が狭いと、電柱とか看板とかが倒れた時に通れない可能性がある。無理に自宅とかに送迎するよりは」
イメージ 山本「施設で待機してもらったほうが安全」
検討の結果、危険なルートを通らなければ送り届けられない児童は施設で待機させることにしました。 検討結果は防災マニュアルに反映し、保護者ともその内容を共有していきます。 防災マニュアルの策定は、保護者からの評判も上々です。
イメージ 「自分自身があまりアンテナ高く、意識高く準備できていないので、逆に我々がお尻をたたかれるような思いで、一緒に防災について意識を高めていかなければいけないと感じている」
イメージ 誰もが安心できる施設を目指し、佐藤さんは今後もさらに防災マニュアルを充実させていきたいと考えています。
佐藤有花さん

「子どもの数が増えるごとに作業が大変にはなってくるが、一人一人の安全を、命を、守っていきたいという思いがあるので、こういう防災活動を通して本当の意味で安心安全な学童保育を作っていきたいと思う」

■岩原教授の指摘

放課後児童クラブについては、香川県内17市町のうち、15市町が計画の策定を施設の努力義務としています。
イメージ 岩原客員教授は、同じ子どもが集まる施設であるにも関わらず、求められる防災対策に差が生じかねない背景には、学校と幼稚園は文部科学省の所管で、放課後児童クラブは厚生労働相の所管であることや、同じ厚生労働相の所管でも、保育所や幼稚園・こども園と、放課後児童クラブでは守るべき法令が違うことも一因だと指摘しています。
岩原教授は、
▼行政が縦割りをなくし、子どもが集まる施設についてはどんな施設であっても同じ水準の防災対策が講じられるよう指導していく必要があるほか、
▼施設側もマニュアルの策定や改定を自主的に進める必要がある
と指摘します。
岩原廣彦客員教授

「施設だけの努力では防災対策はなかなか浸透しない。行政側も防災マニュアルのひな型を見せるだけではなく、もう少し踏み込んで、職員の防災意識がどのレベルにあるかのチェックや指導をして全体の底上げをしていかないといけない」

後説

取材の中で岩原客員教授は次のように話していました。「防災と言うが、実際には被災してから対策することが多い。建築基準法の大幅な改定も阪神・淡路大震災がきっかけ。気が付くことは大切だが、これは犠牲を伴う気付き。犠牲がなくても気が付いてほしい。犠牲が出る前に、日常の延長でできる対策でいいので防災に取り組んでほしい」と。犠牲が出る前に気付く、というのは、当たり前のようでいて、日常生活の中で私たちがいつの間にか忘れていることなのではないかと思いました。
今回の取材を通して、子どもたちが当たり前に過ごす場所の防災が見逃されている実態に気がつかされるとともに、私たちも、いざという時に自分の命と、大切な人の命を守れるように、身の回りでできることから防災に取り組まなくてはならないと、改めて考えさせられました。

※なお掲載している情報は放送当時のものです。
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