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『先に死ねない…』障害者就職支援に奮闘する母親

2021年5月26日放送 「この子より先に死ねない」---その思いが母親を動かしています。 高松市のダウン症の息子を育てる母親は障害者の働く場を作る取り組みを始めました。「先に死ねない」という思いを抱える親が1人でも減ってほしいと、周りを巻き込みながら動き出した母親の思いと取り組みを取材しました。
(高松放送局 記者 谷口碧)

■私が先に死んだら…

イメージ 高松市の田辺優香さん。
腎臓の病気を抱える長男と、生まれつきの障害であるダウン症の次男の2人の子の母親です。
障害者が働く場を増やそうと活動しています。
取り組みを始めたきっかけは、妊娠中に次男の奏佑くんに障害があることが分かったことでした。

「奏佑に障害があると分かって悩んだことは、私が先に死んでしまうから、その後この子はどうなってしまうんだろうということ。『この子より先に死ねない』というのは毎日思っていました」

■障害者と家族が家でもできる仕事を

田辺さんは、仕事の課題にも直面しました。
子育てをしながら自宅でネイルサロンを開こうと準備していましたが、オープンしようとしたその日に長男の病気が見つかり、緊急入院。
その後も長男の通院や次男のトレーニングなどがあり、ネイルサロンの開店を断念しました。
イメージ こうした環境でも家で取り組める仕事を、と田辺さんは3年前にオリジナルのアクセサリーブランドを立ち上げました。
イメージ 作るアクセサリーはブローチやペンダントで、型にねんどを敷き詰めて、ガラスストーンというガラスでできた石を並べて作るものです。レッスンを受けて資格を得た障害者やその家族がブランドのアーティストとして登録されます。制作したアクセサリーを販売できるほか、注文に応じて作品を制作するケースもあります。
田辺優香さん

「私が困るということは、きっと同じように困っている人もいると思って。 いろいろな周囲の助けがあったとしても、自分で自立できるのにこしたことはないなと思って、立ち上げた」

SNSなどでこの取り組みを知った障害者やその家族が現在、全国でおよそ30組参加しています。多いときで月に15~20万円の収入が得られるということですが、この取り組みでは「先に死ねない」ことへの解決にはなりません。

■企業と障害者のかけ橋に

イメージ 障害のある子どもたちが将来、親元を離れて自立できる環境を整えたいと考えた田辺さん。
企業が障害者の働く場を知ってもらうきっかけになってほしいとある取り組みを始めました。
イメージ 具体的には、
①田辺さんが考えたオリジナルのロゴが入ったふとんやTシャツ、お菓子などの製作を企業に依頼。
②企業がロゴ入りの商品を製作し、販売。
③売り上げの一部を田辺さんが受け取り、その企業がある地域の障害者が働く施設に寄付する、というものです。
現在、企業3社と話し合いを進めていて、今後、実績を作り、ほかの企業からも賛同を得られるよう、PRしていく考えです。
イメージ さらに、障害者を雇用しようと考えている企業を直接サポートする取り組みも始めました。
異業種交流会で知り合った企業と協力して行っているもので、具体的には田辺さんが企業と、仕事を求める障害者との間に入り、障害者の企業への要望や障害者を雇ううえでの注意点などを伝えたり、企業の不安を聞き取ってアドバイスする役割を担います。

例えば、障害のある人とのコミュニケーションに不安を抱く企業に対しては、障害についての情報を事前に共有したり、障害のある人が働きやすいよう、職場のものの配置を工夫することなどをアドバイスしています。
田辺優香さん

「どう障害者に関わっていけばいいのかが分からないという企業の声も、企業で働きたいけれどつながれないという障害者の声も耳にするので、そこをしっかりつなげていきたい。そうして受け皿を増やしていけば、誰でもどこでも活躍できるんじゃないかと思う」

■障害者が働く場を全国に

イメージ 田辺さんは障害者がより多くの職業を選べるようにと取り組む、全国的な組織にも参加することにしました。
イメージ この取り組みを中心になって進めているのは三重県の障害者福祉事業所の社長、案浦豊土さん。
取り組みを始めるきっかけになったのは案浦さんのもとで働く、障害のある男性の母親からの手紙でした。
男性には側わん症の障害がありますが、レストランのホールでの仕事を任され、いまでは事業所に欠かせない人材になっています。
その母親から「この子よりも先に死ねないという思いが今はなくなりました」という内容の手紙をもらい、案浦さんは親の「先に死ねない」という思いを抱かずに済むよう、障害者が働ける、多くの場を整えなければならないと強く思ったといいます。
案浦豊土さん

「もともと私は障害に関してほとんど知識も経験もなかったが、その文章を見た時に、障害者の親が、“産んだ責任を負って、この子の面倒は一生私が見なくちゃいけない”“私が頑張らなくちゃ、私が頑張らなくちゃ…でもどうしたらいいんだろう”と悩んでいることが分かり、スイッチが入った」

この取り組みには、大きく2つの目標があります。
1つめは、全国各地に障害者の働く場を1から新しく作ること。
障害者のためのビジネスを考え、まずは案浦さんの事業所で実践し、成功すれば、同じ事業をほかの事業所でも行い、障害者の働く場を増やそうというものです。
イメージ 2つめは、障害者が希望の職種を全国規模で探すことができるようにすること。
田辺さんのような企業と障害者をつなぐ仲介人を増やすことです。
例えば、香川県で「パン屋に就職したい」という障害者がいた場合、その要望を田辺さんが聞き取り、まずは県内で仕事を探します。
イメージ 県内で見つからない場合、県外の仲介人と情報を交換し、県外の「パン屋」の仕事を紹介してもらう仕組みです。
イメージ 県外での就職を希望する障害者には、親元を離れても生活できるよう、住む場所も保証したいと考えています。
案浦豊土さん

「障害者の親の“1人で背負わなければならない”という気持ちを楽にするためには、障害のある子の将来の道筋が見えることが大事だと思う。障害者さんたちがいきいきと働いている場所を増やしていくことで、そういう生き方ができるんだよと示してあげられるのではないかと思う。そのためにも、僕らがきちんと形を作って、同じような気持ちで協力してくれる人が世の中に増えていけばうれしい」

イメージ 田辺さんも案浦さんの取り組みに賛同し、周りを大いに巻き込みながら、障害者の仕事の選択肢を増やしていきたいとしています。
田辺優香さん

「周りに障害者がいないんだよねという人たちをいかに巻き込めるかというのがここ最近の私のテーマ。 わが家と関わった人には“障害児がいる生活って意外と普通だね”とけっこう言われる。この“意外と普通だね”が広がったら、みんな助け合いやすくなるのではないかと思う。 企業や行政、それに障害者の事業所の人などが当たり前に関わり合って、障害のある人が当たり前にいる世の中に、障害がある子が生まれても、“おめでとう”と誰もが普通に言える世の中にしていきたい」

後説

「まぜこぜ社会にしたいんです」---以前から田辺さんが口癖のように行っている言葉です。障害が特別なものではなく、みんなが当たり前のように助け合いながら、混ざりあって生活する社会。田辺さんはそんな社会が理想だと強調していました。
田辺さんはこんなことも話していました。
「まずは知ってもらって、そのうえで、合わないと思う人は離れていいし、何かしたいと思った人は寄り添ってくれたらいい。健常者とか障害者とかではなく、人と人として、そんなバランスが当たり前にとれる世の中になってほしい」
多様性が叫ばれる時代になってきていますが、こうした考え方を“きれい事だ”と見る向きはまだまだあります。そうした壁にも挑む田辺さんを、これからも応援したいと思います。

※なお掲載している情報は放送当時のものです。
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