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水難0目指し ため池事故を防ぐ

2021年5月24日放送 ことし5月、丸亀市のため池で釣りに出かけていた小学1年生の男の子とその父親が溺れて亡くなりました。
ため池の数が47都道府県で3番目に多い香川県では、ため池で子どもが溺れて亡くなる事故が後を絶ちません。
どうしたら同じような事故を防げるのか。県内外で行われている取り組みを紹介します。
(高松放送局 記者 藤松俊太郎)

■繰り返される ため池の事故

イメージ ことし5月、丸亀市のため池で釣りに出かけていた小学1年生の男の子と、33歳の父親が溺れて亡くなる事故がありました。

このため池では、10年前の平成23年にも釣りに訪れていた21歳の女性が亡くなっています。

1万2000か所以上のため池がある香川県では、 これまでにも、ため池に人が転落する事故が繰り返されてきました。

NHK高松放送局の過去の報道を調べると、県内では今回の事故が起きるまでの20年間に、子どもがため池で亡くなる事故が少なくとも5件起きています。
平成13年7月
 志度町(現さぬき市)のため池で女児(当時2)が死亡

平成21年6月
 高松市のため池で小学3年生の 女児(当時8)が死亡

平成22年4月
 三豊市のため池で女児(当時3)が死亡

平成23年4月
 高松市のため池で保育園児の男児(当時4)が死亡

平成27年3月
 三豊市のため池で幼稚園児の男児(当時5)が死亡

このうち、平成22年の事故と平成27年の事故は同じため池で起き、幼い姉弟が犠牲になりました。
ため池の安全対策が不十分だったとして、父親が地元の土地改良区や県などに損害賠償を求めた裁判では、1審で改良区に1100万円余りの支払いを命じる判決が言い渡され、2審の高松高裁で改良区が解決金を支払うことで和解が成立しています。

■ため池の危険性 子どもたちに伝える

こうした事故を防ごうと、県内では子どもたちにため池の危険性を伝える取り組みが続いています。

丸亀市の事故があったおよそ2週間後、高松市の幼稚園でも、警察官が作った紙芝居を使って地元のボランティアがおよそ90人の園児にため池の怖さを伝えました。
イメージ 紙芝居は、ため池の近くで遊んでいた2匹の猫が誤って池に落ちてしまうというストーリー。
ボランティアの女性は「危ない」と書かれた看板や赤い旗が立っているため池には近づかないよう呼びかけました。
イメージ 園児たちは紙芝居を聞いたあと、保護者とともに幼稚園の隣にあるため池へ移動し、地元の自治会長から、ため池は周囲が切り立っているため、一度落ちたら、はい上がることができないことを教わりました。
イメージ 話を聞いた保護者は
「おうちでもどんな危険があるかっていうのを一緒にね、この子が理解できるように話していきたいと思います」
と話していました。

■救助は飛び込まず 転落したら“浮いて待つ”

丸亀市の事故を受けて、県外の団体も事故を繰り返さないための呼びかけをしています。

水難事故の対策を研究している一般社団法人の水難学会が事故のあと公開した動画にも注目が集まりました。
イメージ 水難学会が公開したのは、平成28年に親子3人が溺れて亡くなった宮城県のため池で、医師が立ち会う中、行われた実験の映像です。

ため池の斜面を難なく歩いていたレスキュー隊員が、水辺に近寄ったとたんに、池の中へ滑り落ちてしまいます。

水難学会の斎藤秀俊会長は、たとえ、ため池の斜面が緩やかであっても、表面がコンクリートやゴムの場合、 足を滑らせてはい上がれないことが多いと指摘しています。
イメージ このときの実験でも、訓練を受けたレスキュー隊員ですら、ため池からはい上がることはできませんでした。

足がつく場所で、何とか登ろうと試みても、腰が水面に出るくらいの地点で足を滑らせてしまいます。
イメージ このため、水難学会では、助け出そうと池に飛び込むのではなく、一刻も早く119番通報をしたうえで、溺れている人に何かつかまれる物を差し出すよう呼びかけています。
イメージ 誤ってため池に転落したとき、近くに人がいなかったらー。

水難学会は、誤ってため池に落ちてしまったら、服にたまった空気を利用し、背中を下にして浮きながら救助を待つよう呼びかけています。

いざという時に落ち着いて「浮いて待つ」ことができるよう、プールで服を着たまま泳ぐ実習をしておくことも有効だといいます。
水難学会 斎藤秀俊会長

「子供さんには、小さいうちから水難事故に対する教育をしてもらいたいと思う。自分で実際に着衣したまま水に入る体験をして、自分の体は練習すれば浮くんだということを実感してもらって、いざ水の事故にあってしまった時も浮いて落ち着いて救助を待てるように訓練していただきたい」

■転落者を減らすために

イメージ 丸亀市のため池の周辺には、ことし5月の事故当時、ロープが張られていましたが、立ち入り禁止を呼びかける木の看板は劣化して無くなっていました。

事故を受けて、ため池を管理する水利組合や警察などは、ため池の周辺に立て看板や高さ1メートル20センチの鉄製のフェンスを設けました。
イメージ 水難学会はこうした対策だけでなく、ため池の周辺に、救命用のロープを用意したり、池に落ちた人がつかまれる樹脂製のネットを斜面に張ったりする対策も講じてほしいと呼びかけています。

コストなどの面から斜面全体に張り巡らすことが難しいとしても、特に人が近づきやすそうな場所に絞ってネットを張るだけで、一定の効果が期待できると言います。
水難学会 斎藤秀俊会長

「看板とか柵をつけるということは、今、全国のため池で常識になっているんですね。ため池を管理されている方におかれましては、やはり柵などで、侵入できないようにする。ただ、これでも限界がありますので、落ちたとしても簡単にはい上がれるような救命策も、できれば考えて頂きたいと思います」

取材後記

ひとたび落ちてしまったら、自力ではい上がることができないー。

水難学会の斎藤会長はため池に近づくことを「片道切符」とも表現していました。

子どもたちがため池に近づかないよう、呼びかけることはもちろん、万が一、転落してしまった子どもが命を落とすことがないような取り組みが必要だと感じました。

※なお掲載している情報は放送当時のものです。
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