ここからNHK高松放送局ホームページ内のリンクボタンです
読み上げブラウザ用メニューに戻ります
ここから本文です
メインイメージ

“CDR”で命を守る

2021年5月12日放送 「香川県で9か月間になくなった子ども16人のうち、6人の死は防げた可能性があるー」

香川県で行われた「CDR」という取り組みの結果、ことし3月にまとまった報告書の内容です。 子どもの未来が突然、たたれることがない環境を作るために、この「CDR」という取り組みが今、注目されています。
(高松放送局 記者 竹脇菜々子)

■繰り返される子どもの死を防ぐために

「CDR」は「チャイルド・デス・レビュー= Child Death Review」の頭文字をとったもの。

“子どもの死亡検証”とも呼ばれ、子どもが死亡したいきさつを専門家たちが検証し、再発防止につなげる制度です。

アメリカやイギリスなどでは法制化されているこの制度を日本にも導入するため、昨年度、香川県を含む全国7府県でモデル事業が行われていました。
このCDRを中心になって進めてきたのが、国立病院機構「四国こどもとおとなの医療センター」の小児科医、木下あゆみ医師です。

救急搬送されてくる子どもたちの診断にあたってきた木下医師は、同じような原因で亡くなる子どもが後を絶たないことに、やるせなさを感じていたと言います
イメージ 四国こどもとおとなの医療センター
小児科 木下あゆみ医師


「長年小児科医をやってると、同じような理由で亡くなってる子がたくさんいるんです。手を尽くしたけど亡くなってしまったっていう子ももちろんいて、それはもうしかたがない部分もあるかもしれませんけど、予防できたら死ななくて済んだ子どものことをちゃんと話し合わないと、人知れずこの世からフワッといなくなってるっていうのは、子どもたちに対してちょっと失礼だと」
木下医師は7年前から全国の小児科医とともに全国の子どもの死亡事例を検証してきました。
その結果、浮かび上がったのは医師以外を交えて検証をする必要性です。
イメージ こちらは、木下医師が所属する日本小児科学会の検証委員会が全国で死亡した2348人の子どものカルテを、検証した結果をまとめた報告書です。

おととし公表されたこの報告書は「18歳未満の子どもの死のうち25%は、予防できた可能性が中程度以上あった」と結論づけた一方、「臨床情報のみから検証するのは困難で、医療以外の情報源と突合する手順が整備されるべき」と指摘していました。
木下医師

「小児科医だけでいくと、病院で持っている情報だけでしか話ができないですけど、いろんな職種が入ると、視点も変わりますので他職種で話し合うっていうのはすごい大事かなと」

■多機関で検証 その目的は

イメージ 木下医師ら小児科医の働きかけもあって、昨年度、厚生労働省はモデル事業に乗り出します。
イメージ カギになったのは医療機関以外の専門家の参加。

香川県のモデル事業にも、警察や消防、児童相談所などから担当者が集まり、去年4月から12月までに県内で死亡した16歳以下の子どもの死を検証しました。

1年間にわたる検証の結果、まとまったのが冒頭で紹介した報告書です。

死が予防できた可能性があったという6人の中には、「明らかに虐待」とされた子どももいました。
イメージ ただ、何人の子どもの死を防げる可能性があったのかを検証することだけが「CDR」の目的ではありません。

1人の子どもの死をめぐり、子どもに関わる機関それぞれが、「何ができなかったのか」、「これから何ができるのか」を多面的に考えてきました。
木下医師

「単に“当事者が悪い”とか親の不注意が悪い”とか、何が悪いじゃなくて、どうやったら子どもが事故に遭わないか、どうやったら子どもが死ななくて済むのかというところに、もうちょっとフォーカスを当てたいなって思っていました」

■虐待防止には保健師の力を

児童虐待によって引き起こされた病気で、長期療養後に死亡した子どものケースをめぐっては、どうやって未然に虐待を防ぐかについて意見が交わされました。

浮かび上がったのは出産前後に妊娠や出産、子育てについて悩みを抱えながらも児童相談所や保健所の支援を拒む家庭が少なくないという課題です。

そこで、健診などで妊婦や乳幼児の親と接する市や町の保健師の力を借りて虐待の芽を摘むことが提案されました。

この報告を受け、県は今年度、市や町の保健師の知識も踏まえて乳幼児検診の際に虐待のリスクを評価する指標をより充実させる予定です。
イメージ 香川県子ども女性相談センター
水永淳次長(当時)


「児童相談所との関わりを拒否される家庭と関係を持って支援につなげることが求められていることだとは思うんですけれども、なかなかそれに至らずに子どもの安全が脅かされるといった事例があると、限界や無力感を感じることもあります。ほかの職種の方から『こういったこともできますよ』といった提案もあって、とても力をもらえます」

■母子手帳にも注目

基礎疾患があって、在宅で療養していた子どもが、かかりつけ医とは別の医療機関を受診したところ、病状が進んで死亡してしまったケースもありました。

基礎疾患がある子どもは鼻水やせきといった症状でも、体調が急変する可能性がありますが、親がどんな時にどの医療機関を受診すべきかを判断することは簡単ではありません。
イメージ そこで、提言されたのが母子手帳の活用です。

母子手帳に子どもの基礎疾患を書き込む欄を設けて、かかりつけ医が子どもの症状ごとに
病院を受診するタイミングや受診する医療機関を記入することで、親やほかの医療機関に
適切に対応してもらうのが狙いです。

■今年度も議論は継続

香川県でおととし亡くなった1万2000人のうち、未成年は19人でした。
この数字だけ見ると、子どもの死は比較的まれな事例のように思えるかもしれません。
イメージ しかし、子ども1人が亡くなったケースについて調べた結果、同じ原因で
▽25人が入院、▽925人が救急で治療を受け、▽そのほかにも数え切れないほどの子どもが軽い症状を起こしていたことがわかったという、アメリカの研究結果も公表されています。

子どもの死はいわば「氷山の一角」で、同じ原因で多くの子どもたちが苦しんでいるというのです。
イメージ 香川県では今年度も子どもに関わる機関が集まってCDRを続けられます。

木下医師はこうしたモデル事業の結果をみて全国にCDRが広まることを期待しています。
木下医師

「子どもに限らず、死を話すことって、ちょっとタブーなイメージがあると思うんです。『亡くなってしまったから、何も言わないでおこう』みたいな。でも、私は子どもの死を語ることが当たり前の社会にして、亡くなった子どもたちを尊重し、次につなげていけるような仕組みを作っていきたい」

取材後記

記者になって1年。
香川県内で起きる事件や事故の取材をしているうちに、いつの間にか「また交通事故か」「また火事か」と、人が亡くなることに慣れてしまっている自分がいました。

1人の子どもの死から得られた教訓から、子どもたちが安全で安心して過ごすことのできる社会をどう実現するのかについて議論を交わす人たちを目の当たりにして、私自身も1人1人の死に問題意識をもって向き合わなければならないと考えさせられました。

死をタブーにせず、亡くなった子どもたちに目を向けることで、未来の子どもたちの命が守られるよう、引き続きこの取り組みを取材していきたいと思います。

※なお掲載している情報は放送当時のものです。
ゆう6かがわへ
NHKのサイトを離れます。
読み上げブラウザ用メニューに戻ります
▲ ページの先頭へ