防災に関する国内最先端の研究を行っている京都大学の研究機関「京都大学防災研究所」矢守克也教授。
心理学や社会学を切り口に防災に関する多角的な研究を進め、防災や巨大災害に関する書籍も多数執筆されています。
矢守教授が提唱し、東日本大震災以降特に注目されているのが身近な生活と密接した「生活防災」です。
「生活防災」とはどんなものなんですか?
防災減災の活動と言うと、普段の暮らしとはちょっと違ったところにある、特別な活動というイメージがあると思います。
たとえば「避難訓練」というのも普段の暮らしとは離れたところで、そのためだけに特別にやりますよね。
しかし「生活防災」というのは普段の暮らし、日常の生活から切り離さずに、普段の暮らしでしていることの中に、防災や減災のための取り組みを組みいれてしまおう、ビルトインしてしまいましょうという試みです。
非常に身近な例でいえば、部屋の中を「整理整頓」していただくことです。
これは、立派な生活防災だと思うんですね。
整理整頓、つまり重たい物が上の方にないようにしておく、あるいは床の上に余分な物が転がっていないようにしておく、このことは即そのままスムーズに避難をしたり、あるいは自分が上のほうに置いてあったものが落ちて来て怪我をしないための防災対策でもあると、このことが身近な例としてもあります。
生活防災が実際の災害時に役だったという事例はあるんですか。
東日本大震災の被災地の事例です。
これは岩手県の野田村という北のほうに位置している村の保育所であった例です。
この保育所、3.11当日、非常に大きな津波に襲われました。
100名あまりの0歳児を含む子供たちと職員の方々、先生方、全員無事に高台に避難できました。
なぜそのような避難が可能だったか、たくさんの理由の1つに生活防災に関わっていると思います。
それは何かといいますと、「速足散歩」という普段の習慣です。
普段、保育所なので、毎日のようにお散歩に行かれるわけです。
そのお散歩の中で、行きと帰りに分けて行きはできるだけ速足で歩いてみて、単に速足で歩くだけでなく、 先生方が小さい子供たちと速足で歩くことで、どれぐらいの時間でどこまで行けるかをチェックするための機会でもあり、ここが大事なんです。
普段の保育活動の一環なんですが、その中に上手に防災、特にこの場合、津波避難の要素を組み込まれていたんですね。
香川県の場合は生活防災といいますと、どんなことが考えられますか。
生活防災の一つの大事な柱は暮らし生活に根差すので、暮らしや生活は地域によって特徴があります。
香川県は南海トラフ巨大地震が起きた場合、大きな被害が出ることが予想されていますが、むしろより大きな被害が徳島県や高知県で発生して、その支援を要請される、
あるいは支援のための基地となることが期待されている地域でもあります。
これは香川県の一つの特徴ですよね。
県を超えた、つまり香川と高知・徳島の間で、地域、県境を越えた支援の枠組みづくりをしておくということが必要と考えられます。
例えば、普段から香川県内のある商店街と、高知県のある商店街とが連携をして、時々、その商店街の名産品や名物料理などをお互いに交換して、プロモーションをするような会をやっておくとか、普段はお互いの商店街の活性化に役立てつつ、その関係性をいざというときに、高知から香川に、あるいは香川から高知に、 援助物資をスムーズに届けるためのチャンネルやルートを作っておくことが大切です。
他に香川県の例としては何がありますか。
香川県は雨が少ないということで「渇水・水不足」という災害に見舞われることが他の地域と比べると可能性が高いです。
全国的にもやって下さいと進められているペットボトル等の備蓄・買い置きを、香川県のみなさんも心がけることが大事だと思います。
ペットボトル等の備蓄・買い置きは、日常の暮らしにも役立ち、大きな災害への備えになるという意味で生活防災を進めていく上のひとつとして、香川らしいアプローチの一つかなと思います。
色々な生活防災の話を伺いましたが、香川の人もこれから簡単にすぐ始められるという感じがしますね。
一石二鳥という言葉がありますが、生活防災をすることで普段の暮らしもちょっと便利になったり、あるいは少しだけ快適になったりし、しかもそのことがいざというときにも役立つようなアイデアを住民の方が中心に主役になって、一つでも二つでも考え出していただければと思います。
このほかにも電車バスで通勤通学の際に最寄りの駅より一駅前で降りて歩くことで、健康増進のほか、危険個所の把握や避難ルートの確認にも役立ちます。