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日本唯一の木製滑車専門工場 香川県多度津町

中村アナウンサーが「おじゃまします中継」で伝統の技術を生リポート!
  • 2023年11月16日

 

重い物を持ち上げる際などに使われる滑車。今では金属製が主流となる中、木製の滑車を作り続けている工場が多度津町にあります。伝統を受け継ぐ職人の技を取材しました。

いつしか全国でここだけに…

 

昔は帆船の必需品として、帆を引っ張るロープに取り付けられていた木製滑車。近年は活躍の場が少なくなり、作り手も減少しました。今では木製を専門に扱う工場は全国で1か所だけに…。香川県多度津町で90年以上の伝統を受け継ぐ製作所があります。

 

3代目の新谷祐人(あらたに・ゆうと)さん。先代の祖父が亡くなって廃業を考えていたところを一大決心、この世界に飛び込みました。31歳の若き後継者です。祐人さんを決意させたのは、今なお残る根強いニーズ。帆船のほか、サンマ漁をはじめとした漁船、さらには海上自衛隊の装備品など、替えの効かない需要があるのです。元々モノづくりが大好きだったことに加えて、取引先からの「やめないで」の声に、先代の孫として応えずにはいられなかったと言います。

伝統の技術を徹底紹介

 

木製滑車の制作は、部品作りから始まります。中で回転する車も木製、電動のこぎりを使って円の形に切り抜いていきます。船によって滑車の形や大きさも様々なので、1つ1つがオーダーメード。そのため自動化は叶わず、すべての工程で職人の技術が必要です。

 

1つの滑車を構成する部品は約20個。木製の部品は祐人さんがイチから作ったものです。完成までには計50もの工程があり、手間がかかる割に利益が薄いことが生産者の木製離れに拍車をかけました。木材は主にホワイトアッシュ、野球のバットにも使われている木です。

 

中でも職人の技量を問われるのが、部品を組み合わせるための溝作り。溝同士がピッタリ合わなければ、部品が入らなかったり、ぐらついたりする原因になります。この道9年になる祐人さん、修行を積んだ今では、削る面を見なくても日々の経験と勘で削ることができます。

 

さらに組み合わせた部品同士を、金具などの留め具を使わずして止める技術もあります。その名も「かしめ」。針金の表面を金づちで叩いて平たく伸ばすことで、抜けないようにすることができます。針金を折らずに四方八方へ均等に伸ばすには、熟練の技が必要です。

他社の廃業でこんな製品も!

 

他社の廃業によって、これまで作ったことのない滑車の注文も入るようになりました。国内最大級の滑車です。完成すると40kg以上の重量になります。銀色の金物だけで20kg近くあり、組み立てるのも一苦労、最初は試行錯誤を繰り返したと言います。そこで祐人さんが思い付いたのが…

 

滑車を利用して滑車を作るという滑車工場ならではの工法です。滑車で吊り上げて、地面に叩きつけることで重い金物を少しずつはめ込んでいきます。この工法を思い付くまでは、人力で持ち上げて組み立てていたそう…。答えは身近なところにあったんですね。

廃材もアイデアひとつで大変身

 

大きな滑車を作るようになって、新しく生まれた商品もあります。小さな子供がにぎにぎして遊ぶおもちゃ「おうち」。部品を作る際の切れ端を利用したものです。滑車が大きくなると、切れ端も比例して大きくなるため、何か活用できるものはないかと考案しました。

 

さらには、香川県の背の低い山々をイメージして作った置物「こんまいおやま」。今年の県産品コンクールで入選を果たした商品です。廃材を有効活用して、香川県ならではの特徴ある商品を生み出したことが評価されました。

 

これらの商品を考えたのは、先代の娘で3代目の母でもある裕子(ひろこ)さん。元々は高校の美術の教員でした。その経験を生かして作られた商品は、インテリアとしても好評。小さな子供がいる家族連れだけでなく、女性の方々にも大人気だそうです。

 

両親の助けも借りながら、家族経営で工場を営む祐人さん。全国で1社になった今、その誇りと責任を持って滑車づくりに励みたいと意気込んでいます。伝統の技術を受け継ぐ若き後継者の今後の取り組みと新たな展開に期待です。

  • 中村信博

    高松放送局アナウンサー

    中村信博

    2012年入局。高松市出身。2023年から高校卒業以来16年ぶりに地元へ。専門はスポーツ実況。元高校球児。

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