空海が思い描いた仏像を再現 最後の仕上げに五味アナが密着
- 2023年06月15日

弘法大師・空海が理想としたとされ、現存しない仏像を再現しようという取り組みを高松市の寺が進めています。東京の工房で行われている最終仕上げを取材してきました。
10年がかりのプロジェクトは最終仕上げへ
6月、東京・足立区にある彫刻家の工房では、仏像の胴体に腕の部分を取り付ける作業が行われていました。制作にあたる彫刻家の大森暁生さんが胴体と腕をつなぎ合わせる小さなパーツを削り、段差をなくしていきます。
弘法大師・空海が理想としたという大日如来像を再現するこのプロジェクトを2013年から10年がかりで進めてきたのは、高松市にある四国霊場第80番札所、讃岐国分寺です。お遍路で訪れた人に寄付を募ったり、クラウドファンディングを行ったりして資金を集めてきました。

再現しようとしているのは、空海が構想し、京都の東寺に作られた大日如来像です。15世紀に失われ現存しない仏像の特徴を、東寺の記録「東宝記」の記述をもとによみがえらせようとしています。制作は最終段階を迎えていて、ことし10月の一般公開に向けて最後の仕上げが行われています。

仏像の顔や体に色を付ける「彩色」では、工房のスタッフが立体感を表現する影を付け、唇や眉といった細部を描いていきます。

彩色スタッフ 菊地貴子さん
「もともと立体がすごく素晴らしい造形にはなっているんですけど、ただなんとなく影をのせてしまうといい形も台無しになってしまうので、それがよりよく見えるように気を付けています。」

影を付けた後、空海が伝えた密教で仏の髪の色とされる青色で眉を引いていきます。

影だけのときはすこし人肌っぽい感じの印象だったのが、青い眉毛が入ってきて“畏怖”っていうのが出てくるといいなと思って描いているんですけど、そんな雰囲気が出始めていると感じます。

大日如来がかぶる宝冠には5体の小さな仏像が十字形につけられるのが、今回再現する大日如来像の特徴のひとつです。彫刻担当のスタッフが慎重に取り付けていきます。

彫刻スタッフ 関口恵美さん
「小さな仏像のおでこについている白毫(びゃくごう)が光背の円の真ん中に来るようになっていて、傾いたりしないように位置調整しながら接着します。」

夕方、実際に設置されるのと同じ高さに仏像を置いて、この日の出来栄えを確かめます。空海がおよそ1200年前に思い描いた大日如来像が、いまふたたび姿を現します。

自然できれいだね。

手を入れれば入れるほどだんだん自分から離れていくような感覚です。

本当に完成したとき自分はどう受け止められるんだろう、その衝撃は計り知れないんだろうなと楽しみです。

今後、さらに顔などの彩色が進められるほか、体には装身具が取り付けられます。完成した大日如来像は、10月から高松市の讃岐国分寺で一般公開される予定です。

彫刻家 大森暁生さん
「自分たちで作ったものに多くの方が手を合わせてくださるというのはちょっと経験のないことで、そのとき自分がどんな気持ちになるのか正直予想がつかないんです。“一切の悔いなし”と言えるように残りの作業をとつとつと頑張りたいと思います。」
取材後記
大森さんや工房のスタッフが、組みあがった大日如来像を黙ったまましばらくじっと見つめていたのが印象的でした。「自分の手から離れていく」と話していた通り、これまでに込められた手間や技が、人間を超えた作品を作り出していく過程を目の前に見ている感じがしました。讃岐国分寺では仏像を安置するお堂の改修工事も進んでいます。最終的に完成する世界を想像して、ワクワクしています。
※なお掲載している情報は放送当時のものです。