子どもの熱中症Q&A

すくすく子育て
2020年7月18日 放送

夏になると気になるのが熱中症。小さな子どもは、まだ体温調節がうまくできないので心配ですよね。新型コロナウイルスも気になるこの夏。子どもの熱中症について、専門家に教えてもらいました。

専門家:
榊󠄀原洋一(お茶の水女子大学 名誉教授/小児科医)
白石裕子(東京工科大学 医療保健学部看護学科 准教授)

熱中症とは?

榊󠄀原洋一さん

暑くて体温が上がると、汗を出して体温を下げようとします。でも、どんどん汗が出ていくと、体内の水分が少なくなり、脱水状態になります。脱水がひどくなると、体温を下げるためのしくみが働かなくなり、もっと体温が上がって、ぐったりしたり、ときには意識を失ったり、けいれんが起きる場合もあります。熱中症とは、そのような状態のことをいいます。


熱中症かどうか判断する方法は?

子どもが生まれて、はじめての夏です。外出時は、帽子をかぶったり、暑そうなときは冷たいペットボトルをわきの下にはさんだり、照り返しで熱くなりがちなベビーカーに長時間乗せないなど、熱中症に注意しています。でも、子どもが熱中症になったとき、親が気付けるか心配です。熱中症の症状を、初期段階から判断する方法があれば知りたいです。
(8か月 男の子のママ・パパ)

熱中症のメカニズム

解説:榊󠄀原洋一さん

熱中症のいちばんの症状は、体温が上がることです。熱中症を判断するポイントをつかむためには、体温調節のしくみや、熱中症になるメカニズムを知ることが大切です。

体温調節のしくみ

通常、私たちの体温は、直射日光や気温で暑いとき、運動をしたときに上昇します。この熱を体の外へ逃がすために、汗と血液が大きな役割を果たします。

体温が上昇して汗をかくと、汗が蒸発するときに熱も逃がされ、体温が下がっていきます。
また、全身を流れる血液には、内臓など体の奥深くで発生した熱が移ります。熱を持った血液は、体の表面(皮膚)の毛細血管へ集まります。熱は皮膚から体の外に逃がされ、血液の温度が下がり、体温も下がっていきます。例えば、お風呂に入ると体が赤くなるのは、体の表面に血流が集まって、体温を下げようとしているためです。
このように、熱を逃がすことで体温を調節します。

体の熱を逃がせなくなると⋯

ところが、気温や湿度が高い場合は、熱を逃がしにくくなります。

さらに、体内の水分が不足すると、汗や血液による体温調節に影響が出てきます。十分な汗をかけなくなり、汗による体温調節が難しくなります。血液の流れが滞りがちになり、体内に熱がたまってしまいます。
この状態が続くと、体の、特に芯の部分の体温が上がってしまい、熱中症になるのです。

熱中症を見分けるサインはありますか?

体温の上昇、汗やおしっこの量をみる

回答:榊󠄀原洋一さん

熱中症かどうか判断するとき、いちばん気をつけたいのは、体温の上昇です。目安として、子どもの体温が38度を超えたら注意が必要です。
次に、汗が出ているかどうかです。体内の水分が不足してくると、汗が出なくなり、皮膚が乾いて熱くなります。水分の不足で、おしっこの量も少なくなります。いつもより少なくないか、気をつけてみましょう。

熱中症の体温上昇と、風邪の発熱はどう違いますか?

風邪は内側から、熱中症は外側の熱で体温が上がる

回答:榊󠄀原洋一さん

ウイルスや細菌が体内に入ると、血液中のリンパ球が発熱物質を出して、筋肉や肝臓や心臓などに働きかけ、熱をつくります。これが、風邪による発熱で、体内で発生した熱で体温が上がります。一方で、熱中症の場合は、外側から体内に熱が入ってくることで体温が上がります。熱の発生源が違うのです。


熱中症かもしれない⋯⋯ どう応急処置すればいい?

子どもに熱中症を疑う症状があらわれたとき、親はどのような応急処置をしたらいいのでしょうか?

「体を冷やす」と「水分を補給する」の2つがポイント

回答:白石裕子さん

熱中症かなと思ったら、応急処置のポイントは「体を冷やす」と「水分の補給」の2つです。

体を冷やす

まずは、子どもの体を冷やしてあげましょう。屋外の場合は、日陰など涼しい場所に移動することが鉄則です。屋内の場合は、エアコンの効いた涼しい部屋に移動してください。

次に、体にこもっている熱を逃がすため、太い血管があるところを冷やします。首、わきの下、脚の付け根などです。
熱が高い場合は、体を少しぬれタオルで拭いて、うちわで仰いであげます。気化熱によって、熱がよく放散するので、早く熱が下がります。

水分を補給する。乳児は母乳・ミルクを

大量の汗をかくと、体の水分が失われるので、すぐに水分補給が必要です。このとき、塩分も失われています。塩分も一緒に補給してあげると、体に水分がよく吸収されるといわれています。

<乳児の場合>
乳児の場合は、母乳やミルクを飲ませてあげましょう。母乳やミルクの中には、水分や塩分や糖分など、赤ちゃんに必要なものがすべて入っています。そうしたものが飲めていれば大丈夫です。

<幼児の場合>
幼児の場合は、乳幼児用のイオン飲料や、いつも飲んでいる麦茶・ジュースなどでよいでしょう。

それでもぐったりしている、どこか様子がおかしいと感じる場合は、次の段階として経口補水液がひとつの選択肢になります。

体を冷やすために、おでこに貼る冷却シートや、冷却スプレー・制汗スプレーを使ってもいいのでしょうか?

使うときは注意が必要

回答:白石裕子さん

冷却シートでは、熱中症の熱は下がりませんが、子どもが気持ちよさそうであれば、使ってもよいでしょう。
冷却スプレー・制汗スプレーは、子どもの体を冷やす目的で作られたものではありません。小さな子どもの場合は、熱が下がり過ぎる心配もあります。使う場合は、手足などの状態をみながら、体温が下がり過ぎていないか注意してください。応急処置としては、ぬれタオルで体を拭いて、風を送って冷やす方法がおすすめです。

経口補水液やイオン飲料、スポーツ飲料は、何が違うのでしょう?

イオン飲料は総称。スポーツ飲料と経口補水液は用途が違う

回答:白石裕子さん

イオン飲料は、水分の中に塩分や糖分が含まれている飲み物の総称だと考えてください。イオン飲料の中に、スポーツ飲料や経口補水液があり、使用する用途が違ってきます。

スポーツ飲料は、スポーツなどで失われた水分や塩分を補給するためのものです。エネルギーを補給するために、糖分も多く含まれています。
それに対して、経口補水液は、飲む点滴といわれています。脱水症状などを起こした人に、治療で与えるものとして開発されています。スポーツ飲料に比較しても、塩分の濃度が非常に高いので、ふだんの水分補給として飲むと、塩分のとり過ぎになってしまいます。熱中症の予防には向きません。

手作り経口補水液

熱中症の症状があらわれたときに飲む「経口補水液」は、家でも乳幼児用のものを作ることができます。水1リットルに対して、塩3g、砂糖40g、香りづけにレモン汁を少々加え、よく混ぜて溶かします。
※作るときは分量に注意してください

体を冷やすことと水分の補給、2つを一緒に

回答:榊󠄀原洋一さん

「体を冷やす」と「水分を補給する」の2つが大事ですが、どちらかの処置だけだと十分ではありません。両方を一緒に行うことが大切です。また、水分の補給は、脱水の補正が第一です。まずは、水分がとれるものを飲ませてあげる。応急処置としては、これでかまわないと思います。


熱中症予防のため、食事に塩分を足したほうがいい?

熱中症の対策では、水分補給だけでなく、塩分補給も大事だと聞きます。大人の場合は、塩分補給のタブレットなどがあります。熱中症予防のために、赤ちゃんも大人と同じように塩分をとったほうがいいのか気になっています。離乳食をつくるとき、できるだけ調味料を控えていますが、夏場は塩分を足したほうがいいのでしょうか?
(10か月 男の子のママ)

前もって塩分をとっても予防にはならない

回答:榊󠄀原洋一さん

脱水が進んでいるときに、水分と一緒に塩分を与えることに意味はありますが、前もって塩分をとることに、熱中症の予防効果はありません。ふだんから塩分を多くとっても、おしっこで水分と一緒に出てしまいます。また、離乳食の中には塩分が含まれているので、さらに加える必要はないでしょう。


熱中症は、どんなとき病院に行けばいい?

熱中症は危険な場合もあるので、とても心配です。どういうとき、病院に行けばよいのでしょう?

熱中症のサインがあれば受診。吐いたり、意識がもうろうとしているときは救急を

回答:榊󠄀原洋一さん

熱中症のサインが出ているかが受診の目安です。38度以上の熱がある、汗が出ない、尿が出ないなどです。症状が進むと、多くの場合は、ぐったりするか、とてもぐずるかの2通りです。ぐずるときは、ちょっとしたことで、すごく泣いたりします。熱中症が考えられるときは、受診したほうがいいでしょう。もっと進むと、ぐったりして水も飲めなくなります。
熱中症のとき、吐くという症状もあります。ときには意識がもうろうとしてくる。そのような場合は、すぐに治療が必要です。救急車を呼ぶなど、救急で受診することを考えてください。

病院に行かずに、家で様子をみる場合、どんなことに注意すればいいのでしょうか。

いつもとの違いに注意する。記録をとる

回答:白石裕子さん

子どもが、いつもと同じ状態かどうかに注意してください。例えば、具合が悪いときに、いつもと違って、眉間にしわが寄って苦しそうにしているなどです。あるいは、いつもと反応が違う、受け答えがおかしい、目がなかなか合わないなどにも気をつけてください。
おしっこが出ているかどうかも、重要なポイントになります。最後に出たのがいつか、どのぐらいの量だったかを、しっかり見てあげてください。
そういった部分を、きちんと記録しておくと、病院で診てもらうとき、医師が判断する上で、とても役に立つと思います。

親の「何か変」は重要

回答:榊󠄀原洋一さん

親や、いつも子どもを見ている人が「何か変」と感じることは、本当に重要です。私たち小児科医も、親の「いつもと違います」は、とても大事なサインだと考えています。

熱が上がってきたとき、解熱剤を使ってもいいですか?

熱中症に、解熱剤は使わない

回答:榊󠄀原洋一さん

熱中症の場合は、一般的に解熱剤を使いません。解熱剤は、体の中でつくられる熱を抑える作用があります。熱中症の熱の元は、体の外側にあるので、効果がないのです。


熱中症にならないように、外出時の服装やマスクはどうしたらいい?

新型コロナウイルス対策で、外出するときは子どもたちにマスクをさせています。でも、マスクで熱がこもり、熱中症にならないか心配しています。
(5歳 女の子、3歳8か月 男の子のママ)

2歳未満の子どもはマスクをしないほうがいい

回答:榊󠄀原洋一さん

WHO(世界保健機関)、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)、日本小児科医会などでは、2歳未満の子どものマスク着用は危険だといっています。もともと、気道や鼻の穴が細いために、マスクによって呼吸が苦しくなってしまうのです。

2歳以上の場合は、息のしやすさや水分補給に注意

回答:榊󠄀原洋一さん

2歳以上の場合は、新型コロナの対策でマスクをする場合があると思います。呼吸には、息をはくことで熱を逃がす作用がありますが、マスクをすることでこの作用が一定の程度、働かなくなります。ですが、汗や体全体で体温を下げる作用と比べると比較的小さいので、熱中症の要因としてはそこまで関係がないのではないかなと思います。
子どもがマスクをするときは、息が苦しくないかを確認しながら、水分補給を忘れないようにしてあげてください。

直射日光を防ぐことができる服装を

回答:榊󠄀原洋一さん

外出時の服装にも注意するといいでしょう。直射日光が当たると、体の表面が熱くなり、体温が上がってしまいます。通気性の良い素材の長袖を着せるなど、直射日光を防いでください。特に、頭は表面積が大きく熱を受けやすいので、帽子をかぶらせてください。

帽子をかぶると、より暑くなるのではないかと心配です。汗もたくさんかいてしまいます。

直射日光が当たる場合は、帽子をかぶったほうがいい

回答:榊󠄀原洋一さん

直射日光が直接頭に当たると、体温が上がってしまいます。中で汗をかいたとしても、帽子をかぶるほうがよいでしょう。汗は、蒸発して体温を下げることにつながるので、やはり暑くても帽子をかぶったほうがいいと思います。

だっこひもで外出するときの熱中症対策は、どのようにしたらいいのでしょうか。

保冷剤や冷却剤で冷やすなどの工夫を

回答:白石裕子さん

用事などがあって、昼間に子どもを連れて外出することもあると思います。子どもが暑そうなときは、例えば、保冷剤や冷却剤を持ち歩いて、タオルなどでくるんで首のところを冷やすなどの工夫を試してみてください。


小さいころから、暑さに慣れたほうがいい?

暑い日は、室温計を何度も見て小まめにエアコンや扇風機で室温を調節しています。湿度が高いと、赤ちゃんが汗をかくので、除湿モードもよく使います。でも、ずっと快適な環境にいることが、子どものためになるのか気になっています。暑さに慣れることができず、本来の体温調節機能が低下してしまわないか心配です。
(8か月 男の子のママ・パパ)

人は気温に順応する能力がある

回答:榊󠄀原洋一さん

私たちの体には、気温に順応する能力があります。必要な状況になったときに、徐々に慣らしていけばいいのです。例えば、寒い地域から暖かい地域に引っ越した場合、最初のころは暑いと感じるかもしれませんが、気がつけば気候に慣れているものです。数日から1週間、しばらく時間がかかりますが、小さいときから訓練する必要はありません。
また、体温を調節する汗が出る汗腺の数は、生まれたときに決まっています。暑い環境にいると増えるわけではありません。赤ちゃんは体が小さく、汗腺の密度が高いので、たくさん汗をかきます。


専門家から
これだけは言っておきたいメッセージ

小さい子は、暑いとき不要不急の外出を避ける

榊󠄀原洋一さん

熱中症が心配だと思いますが、今は、新型コロナも気になるところでしょう。小さい子どもは、特に夏の暑いときは、不要不急の外出を避けるのが重要だと思います。

対策をすれば、熱中症を過度に怖がらなくていい

白石裕子さん

部屋の温度に気をつける、炎天下に連れ出さない、こまめに水分を補給するなど、熱中症は、ちゃんと対策することで防ぐことができます。過度に怖がらずに、予防ができるものだと考えていただければと思います。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです