どこまで大丈夫? 甘えと甘やかし

すくすく子育て
2020年7月25日 放送

子どもが甘えてくるのはかわいいけど、どこまで甘えさせていいのか迷いますよね。実は、「甘え」は子どもの自立にとって、とても大事なものです。では、「甘やかし」はどう違うのでしょう。今回は、子どもの甘えと甘やかしについて、専門家と一緒に考えます。

専門家:
汐見稔幸(東京大学 名誉教授/教育学)
遠藤利彦(東京大学大学院 教授/発達心理学)
福丸由佳(白梅学園大学 教授/臨床心理学)

うちの子は甘えてばかり⋯ このままで大丈夫?

息子は9か月になりますが、あと追いがひどくて困っています。泣かれるたびに手を止めて相手をしていますが、いつも甘えにこたえることが、子どものためになるのか疑問です。泣けば要求が通ると思って、将来がまんができない子にならないでしょうか。
(9か月 男の子のママ)

新型コロナで自粛生活がはじまったころから、長男がママにべったり甘えるようになりました。半年前に弟が生まれたので、赤ちゃん返りもあると思います。パパが相手をしようと頑張っていますが、「パパはやだ!」といいます。このままだと、わがままになったり、性格に影響しないか心配です。どこまで甘えさせていいのか悩んでいます。
(2歳7か月・6か月 男の子のママ・パパ)

信頼できる人にくっつくことで安心する

回答:遠藤利彦さん

親が「甘え」と感じていることは、心理学の立場からすると、「アタッチメント」が顕著に現れている状態だといえます。子どもは、不安や恐れを感じたとき、パパやママなど特定の信頼できる人にくっつくことで、安心感を得て、気持ちを立て直そうとします。このような欲求や行動を、心理学では「アタッチメント(※)」と呼んでいます。

※アタッチメント(attachment)のアタッチは、英語で「くっつく」という意味です

くっつくことが、子どもの自立を支える

回答:遠藤利彦さん

アタッチメントは、子どもの自立・自律性と強く関連するといわれています。
子どもは、信頼できる人にくっついて、だっこされたり慰められたりすることで、不安が解消され、安心感を得ることができます。このとき、信頼できる大人は子どもにとっての「安全基地」となるのです。安全基地があることで、子どもは何かあったとしても、絶対に守ってもらえるという見通しを強く持つことができます。その見通しに支えられて、子どもはいろいろなことにチャレンジ(探索活動)できるようになります。

チャレンジしたときに不安を感じることがあれば、安全基地へ避難し、再び安心感を得ます。そしてまたチャレンジできる。こうしたサイクルを繰り返しながら、子どもは自分の世界を徐々に広げていくのです。
このように、甘えることができる、安心できることが、子どもが健康に自立していくことを支えていく、と考えてみてください。

アタッチメントは、自立に向けた練習

回答:汐見稔幸さん

子どもはくっつく行為(アタッチメント)を通して、安心できる世界を獲得します。それが心の中に落ち着いてくると、自分だけでできる領域が増えていきます。くっついてくるような甘えは、自立に向けた練習になるのです。
また、アタッチメントの対象は、ママである必要はありません。パパやきょうだい、あるいは保育士などの場合もあります。親でなくてもよいのです。子どもは信頼できる人のところで、自分を取り戻すわけです。


甘えと甘やかし、何が違うの?

息子は5歳になりますが、「食べさせて」「着替えさせて」など、自分でできることなのに「ママやって」と言ってきます。急いでいるときは手伝ってしまうのですが、5歳だと「甘え」ではなく、ただ自分が楽をしたいようにも思えます。「自分で食べられるでしょ」など、自分でやるように言っていますが、もっと厳しくするべきなのか、やってあげてもいいのか、甘えと甘やかしの違いがわかりません。
(5歳 男の子のママ)

行動の枠(ルール)を与えることが大事

回答:遠藤利彦さん

「自分で食べられるでしょ」のような言葉をかけることは、子どもに「行動の枠(ルール)」を与える、大事なメッセージになります。なかなか伝わらないかもしれませんが、そのような接し方を心がけていることは、よいことだと思います。
また、お子さんは、必ずしも「食べさせてもらえる」「着替えさせてもらえる」ことを求めてないように感じます。甘えというよりは、「もっとゆっくり食べたいな。今は食べたくないな」など、何か自分の気持ちを伝えたいのかもしれません。

では、親のどんな対応を「甘やかし」というのでしょうか?

甘やかしは、愛情だけでコントロールがない

回答:遠藤利彦さん

子どもとよい関係をつくろうとするとき、私たちは「愛情」ばかりに目がいきがちです。でも、子育てには、「愛情」はもちろん必要ですが、その上で「コントロール」も重要です。適切ではない行動を制限し、正しいルールを教えることがコントロールです。

ここまではいいけど、これは絶対ダメなんだよ、と毅然と振る舞い、丁寧に伝えることで、行動の枠をつくってあげる。それが、子どもが社会に出ていくための基礎になります。「愛情」と「コントロール」が備わっていることで、子どもは健やかに育っていくのです。

愛情だけでコントロールがないとき —— 例えば、子どもの気持ちを受け止めて応答はするけど、「これはダメだよ」となかなか言えずに、結果的に何でも許してしまう。こういった対応は、「甘やかし」といえるのではないでしょうか。

ルールを教えないことや自立を妨げてしまうのが甘やかし

回答:汐見稔幸さん

「甘え」は、子どもが信頼する他人の善意に頼ることです。一方で、大人が社会のルールを教えない、子どもの自立を妨げてしまうのは「甘やかし」です。
子どもが本来やってはいけないことをしても、うちの子はいいんじゃないか、と認めてしまうと、子どもが社会のルールを知ることができません。子どもが自分でできることなのに、親が先回りしてやってしまうと、自分でできる力が育たなくなってしまい、自立が妨げられます。

どのように、子どもと接すればよいのでしょうか?

子どもが自分で考えて行動できるように

回答:汐見稔幸さん

「甘やかし」にならないように、子どもに葛藤させるような伝え方をしましょう。例えば、「自分でできるはずだよね」「今はママ忙しいのよ」「そんなに言うならやってあげるけど、本当は自分でやってほしいんだよ」「今日だけだよ」のように伝えると、子どもは「やってもらってうれしいけど、別のときはダメなのかな」と感じて、葛藤が呼び起こされます。すぐにわからなくても、どんなときがダメなのかな、子ども自身が考えて、行動して、乗り越えていく練習になります。子どもの成長とは、それがだんだんわかってくることなんです。


余裕がなくて甘えに応じられないときは?

適切に甘えさせることは大事だと思います。でも、仕事や家事などで余裕がなくて、甘えに応じられないとき、どうすればいいのでしょう?

子どもの気持ちに気づいて目を向ける

回答:福丸由佳さん

親は「甘え」をひとくくりに考えがちですが、「寂しい」「不安だ」「こっちを向いて」など、子どもからのさまざまなメッセージが込められています。対応するには、その背景や経緯を見極めることが重要です。
大事なのは、甘えに応じられないときでも、子どもの気持ちに気づいて、目を向けることです。

余裕がないときは、「やってほしいんだね。でもちょっと手が離せないから、あとでね」など、いったん気持ちを受け止めつつ、こちらの状況も伝えてみましょう。子どもが「自分の気持ちがわかってもらえた、拒否されたのではない」と少しでも感じられることが大切です。

その場で応じられないときは、後から声をかけてみる

回答:福丸由佳さん

手が離せないなど、その場で応じられないときは、後からでも声をかけてみましょう。寝る前に意識してスキンシップしたり、「さっきは手が離せなかったの。よく我慢したね。がんばったね。ありがとう」と言葉をかけたりできるといいですね。
ちゃんと自分を見てくれる、わかってくれる、何かあったときには聞いてくれる、そんな存在が自分にはいる、と思えるだけでも安心につながるのです。

大人も甘えることが大事

回答:福丸由佳さん

子どもの甘えが煩わしいと感じるときは、親もストレスがたまっていたり、疲れていたり、困っているのかもしれません。そんなときは、大人も甘えることが大事です。周りの人に、ちょっと頼ってみる、気持ちを伝えてみる、子どもを預けたり、体を休めたり。大人も甘えることが必要なときもあります。


私って子どもに干渉しすぎ?

甘やかしを心配しながらも、つい子どもに干渉してしまいます。私自身がとても心配性で、子どもに何かあったらと思うと、怖くてたまりません。公園遊びのときも、子どもがケガをしないように、トラブルにならないように、といろいろ手を出してしまうので、のびのび遊ばせてあげていないかもしれません。私の過干渉で、子どもの自分でできる力を伸ばせていないのではと心配です。
(2歳4か月 女の子のママ)

心配し過ぎると、危険に対処する力が備わりにくい

回答:遠藤利彦さん

絶対に危ないことは、当然、親が制止しなければいけません。でも、ひとりでできるはずのことまで、親が過剰に心配して制止してしまうと、子ども自身の危険に対して適切に対処するような力が、なかなか備わらないことにもなりかねません。

親が子どものシグナルを待つことが大切

回答:遠藤利彦さん

子どもとの関係で重要なのは、子どもからのシグナルを、親が受け止めて応答するという「順序」です。子どもが何か感じたり考えたりする前に、子どもが何かのシグナルを発信する前に、親が先回りしてやってあげるのは、順序が逆になります。これでは、子どもの自己主張の力がうまく育たず、自立的な行動が弱くなってしまうことがあります。子どもの自律性を育むために、親が子どものシグナルを待つことが大切です。


甘えてばかりいて、自立できるのか心配⋯

6歳になる息子の甘えに困っています。絵が上手に描けない、おやつが足りないなど、思い通りにいかないと、すぐに泣き出して甘えてきます。もう6歳だから、泣いてないでもっと強くなってほしい、というのが正直な気持ちです。
実は、仕事のため海外で生活していたのですが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で一時帰国しています。甘えん坊になったのは、それからです。今は受け止めて共感するようにしていますが、もうすぐ小学校にあがると思うと、気持ちが焦ります。自立をうながすために、突き放したほうがいいのでしょうか。
(6歳 男の子、3歳 女の子のママ)

年齢に関係なく必要な甘え

回答:遠藤利彦さん

6歳でも、8歳でも、あるいは思春期でも、大人であっても、「アタッチメント」は重要なものとしてあり続けます。怖さや不安、フラストレーションなどで感情が崩れたときに、あの人と一緒にいたい、少し話をしてみたい。身体的な意味だけでなく、心理的な意味でもくっついていたい。信頼できる誰かと一緒にいることで、感情を元通りにしようとするのは、年齢に関係ありません。ひとりでも、そういう存在の人がいる、とイメージできるだけで、私たちは心の落ち着きを保つことができるはずです。

「甘え」は自立への助走のようなもの

回答:汐見稔幸さん

お子さんは、海外から日本に来て、習慣も遊びも仲間も違う、おそらく全く違う環境で生活することになった。新しい環境に適応することは、相当なストレスになっている可能性があります。ストレスを発散するために、一度うしろに戻っているように感じます。自立への助走をするために、うしろに下がった、ともいえます。ですので、あまり心配しなくても大丈夫です。しばらくは、お子さんの甘えを受け止めてあげたほうがいいと思います。

私たちの世代では「甘えはよくない、頑張って自立する」ことがよしとされた文化が続きました。その影響で、「甘えるなんて、とんでもない」と思う人が多いと思います。でも、「甘え」は、上手に人に頼りながら、自分を取り戻す力なのです。甘えることで、心のバランスを取り戻せる。必要なときに、しっかり子どもに甘えさせてあげると、うまく自立していくのです。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです