自分の時間

すくすく子育て
2020年7月4日 放送

新型コロナウイルス感染拡大の時期には、子育て家族の生活も大きく変化しました。保育園や幼稚園の登園自粛や休園で、子どもから離れられない日々を過ごし、自分の時間を持つことができなかった。そんなママやパパも、多かったのではないでしょうか?
今回は、子育てや家事から離れる自分の時間について、専門家と一緒に考えます。

専門家:
大日向雅美(恵泉女学園大学 学長/発達心理学)
汐見稔幸(東京大学 名誉教授/教育学)

今回のテーマについて

自分の時間を持つことは非常に大切なこと

大日向雅美さん

新型コロナウイルス感染拡大のころ、本当にママ・パパたちは、大変な思いで子育てをしていたと思います。自分の時間なんて、全くなかった、という方も多かったのではないでしょうか。でも、自分の時間を持つことは、子育て中の親にとって、非常に大切な問題です。永遠のテーマのひとつなのです。

自分の時間は、自分を発見する時間でもある

汐見稔幸さん

緊急事態宣言の期間、私は、仕事の予定がなくなるなどして、本当に自分の時間を過ごさざるをえなくなりました。そして、仕事の役割や責任、期限といったものがなくなったとき、自分がどういう生活をしたかったのかを、たくさん発見できたんです。自分の時間は、自分を発見する時間でもあると思えます。


アンケートにみる「自分の時間」

番組で「自分の時間」についてアンケートを行ったところ、8割以上の人が「自分の時間を十分に持てていない」と回答していました。

さらに、およそ4割は自分の時間が60分以下、8.9%の人は30分未満しかないと答えました。
一方で、自分の時間があると答えた人も、深夜や早朝など、子どもが寝ている時間を自分の時間にあてていると答えた人がほとんどでした。


自分の時間が欲しいと思うことは、ぜいたくな悩みなの?

子どもたちを保育園に預けて、手話通訳の仕事をしていました。外で仕事をしているときが、自分の時間だと感じていました。でも、緊急事態宣言の後、登園自粛となり、家で子どもをみながら仕事をすることになり、自分の時間はなくなりました。
家事や仕事をしていると、子どもがかまってほしそうに寄ってきて、思うように進みません。そんな日々に疲れてしまい、ひとりになりたくて、トイレにこもったり、私だけソファーで寝ることもありました。
でも、もっと過酷な状況で働いている方のことを考えると、私は子どもと一緒にいられるだけでも幸せなのではないかとも思います。自分の時間が欲しいと思うことは、ぜいたくな悩みなのでしょうか?
(5歳・1歳10か月 女の子のママ)

自分の時間と相手に合わせる時間とのバランスが大事

回答:汐見稔幸さん

外での仕事は、自分がやりたいことを、自分のペースでできる時間だったから、自分の時間だと感じていたのでしょう。一方で、育児は全く逆、子どものペースに合わせる時間になります。心の健康を保つには、自分が自由にできる時間と、相手のペースに合わせる時間のバランスをとらなければいけません。
今、保育の世界では、保育から離れて子どもとコンタクトしない時間を、1日のうちに必ず持たなければいけない、というようになってきています。その時間で、休んだり、相談したり、デスクワークなどをするのです。
保育のプロでも必要な時間ですから、親が「ちょっと子どもから離れて、自分の時間を持ちたい」と思うことは、ごくごく自然なことです。できるだけ、時間を持てるような工夫をしていただきたいですね。

生きていく上で必要な欲求を自分に認めてあげて

回答:大日向雅美さん

自分の時間が欲しいと思うことは、決してぜいたくではありません。人として生きていく上で、とても大切で必要な時間です。そして、それは何のための時間か。ご相談の方であれば、ゆっくり休む時間であったり、仕事で社会に貢献することかもしれません。
この新型コロナの問題で、社会や世間から「わがまま!ぜいたく!」だと言われているような気分になることがあるかもしれない。でも、それに負ける必要はありません。なぜなら、自分の時間は、息をするように必要な欲求なのです。誰かを説得する必要もありません。誰かに「息をしてもいいですか?」と聞く必要がないことと同じです。人が人として生きていく上で大事な欲求を、自分に認めてあげてほしいなと思います。


子どもがずっとつきまとう。自分の時間をどうつくればいい?

幼い子どもを育てていると自分の時間を持つことは難しいと感じます。子どもがずっとつきまとい、イライラが募ってしまいます。ほんの数分でも、子どもと離れる方法はないのでしょうか?

親の事情やその場を離れることを、子どもにきちんと説明する

回答:汐見稔幸さん

子どもが目の前にいるような状況では、自分の時間を持つことはとても難しいと思います。ただ、親が自分の時間を作ろうとするときに、子どもに説明していなかったり、子どもが納得しなかったりする場合があります。すると、子どもは、親が自分から逃げようとしていると感じ、「行っちゃダメ!」と言って追いかけてくるなど、かえって自分の時間がなくなってしまいます。
自分の時間を過ごしたいときは、言葉が十分に通じないと思う年齢でも、子どもにきちんと説明することが大事です。「ママは今から〇〇をしないといけないから、ひとりで遊んでいてね」「少しの間、こっちの部屋にいるからね」など、真剣に目を見て、丁寧に話してみましょう。そして、子どもが聞いてくれたら「ありがとうね」とほめてください。そうすると、5〜10分でも、自分の時間がつくれる可能性があると思います。

自分の時間がとれず、イライラが募ったときのアドバイスはありませんか?

イライラは自分自身へのシグナルだと考える

回答:大日向雅美さん

イライラしてしまうと、「私は親として失格だ!」「うちの夫婦関係はダメだ!」と思い詰めてしまうかもしれません。でも、イライラするのが当たり前なのです。イライラは、今の状態をなんとか乗り越えようという、自分自身に対するシグナルだと思っていただきたい。
自分がイライラしていると感じるのは、自分にシグナルをキャッチする力がある、何とかしようというシグナルなんだと思ってみてはいかがでしょう。


自分の時間。どうつくる? どう過ごす?

親が「自分の時間が欲しい」と思うことは自然なことで、ぜいたくだと思う必要はありません。子育て中こそ、自分の時間を持つことが大切です。
では、どうやって自分の時間をつくればよいのでしょうか。時間をつくるために工夫をしているというご家族に話をうかがいました。

どうやって時間をつくる?

ケース① 子どもの体力消耗作戦

(4歳 男の子、10か月 女の子のママより)

新型コロナウイルス感染拡大のころは、不安を抱える毎日で、子どもも大人もストレスがたまっていると感じていました。その期間を経て、あらためて自分の時間の大切さも実感しています。
自分の時間を確保しようと考えたのが、子どもの体力消耗作戦です。人が少ない時間に公園へ出かけて、子どもが疲れるまで体を動かして遊びます。すると、夜早めに子どもが寝てくれます。昼に寝過ぎないように、かくれんぼしながら家事をしたり、常に声をかけたりしています。
子どもたちが寝た後は、ひとりの時間です。当時は新型コロナ関連のニュースを見ると怖くなってしまうこともあったので、意識的に離れて、ゆっくりストレッチ運動などをしていました。

ケース② 交代制で自分の時間

(1歳9か月・4か月 女の子のママ・パパより)

以前から、夫婦それぞれがひとりになれる時間を大切にしてきました。例えば、休日はパパ、ママ、それぞれ2時間ずつ自由な時間をつくっていたんです。でも、外出自粛が求められた時期には、なかなか時間をつくれなくなり、その大切さを身に染みて感じました。
そこで、夫婦で家事・育児を協力し、あまった時間で、交代制で自分時間を過ごすことにしました。ママは、部屋にこもって、手付かずだった写真の整理をしたり、パパは毎日トレーニングをして、ストレスを発散しています。パパは、家で過ごす時間が増えて、子育ての大変さや日ごろのママの負担を知ることができたといいます。

ケース③ 家事を終わらせて子育てバトンタッチ

(2歳10か月 女の子のママより)

新型コロナの影響が出る前から、ときどき友人と会って語り合う時間を大切にしていました。そのときは、食事の準備・掃除・アイロンがけなど、家事をひと通り終わらせて、パパに子育てをバトンタッチして出かけるようにしていました。ただ、自分の時間をつくるために、ここまでやらなければならないのか、とモヤモヤしていました。
ところが、緊急事態宣言の後、パパが在宅勤務になって状況が一変しました。この時期は、私が毎日仕事に出かけ、パパが家で子どもと2人で過ごす生活になったんです。パパは家事と育児だけで大変になり、在宅での仕事が思うように進まないようでした。私は、パパが子どもを見てくれるから安心して仕事に行けますが、やっぱりパパの時間も必要だと感じます。これからも夫婦それぞれ、子育てや家事から離れる自分の時間を大切にしていきたいと思います。

コメント:大日向雅美さん

自分の時間をつくろうと、最初は自分のために始めたことかもしれません。でも、結果的にえられたものは、自分の時間だけではなかった。子どもとの濃密な関わり方や、夫婦が互いを思いやるあり方にもつながっていて、すばらしいと思います。

コメント:汐見稔幸さん

現実には、自分の時間をつくろうとしても、うまくいかないご家族も少なくないと思います。かえって、夫婦関係がギクシャクするかもしれません。そんなときは、ケンカではなく、「少しギクシャクしたけど、これからどうしようか、こんな家族にしたいね」など、夫婦の関係や家族の関係を考える時間をつくってほしいと思います。


自分の時間が持てたらどう過ごす?

では、自由にできる自分の時間を持てたら、どんなふうに過ごすのでしょうか。滋賀県大津市で行われた、ママに自分の時間を過ごしてもらうための託児デビュー・イベントの様子を見せていただきました。
※イベントは2020年2月に行われたものです

イベントに参加したママたちは、これまで家族以外に子どもを預けたことがありません。はじめて保育サポーターに預けます。子どもを預けたら、いよいよ自分の時間(2時間)の始まりです。

この自由時間をどう過ごしたのでしょうか。ママたちに話を聞きました。

育児は朝から晩まで続いて、終わりがありませんよね。決まった休みも取れないので、育児のすき間で休む感じだと思います。ひとりきりの自由時間は3年ぶりです。カフェでのんびりしました。何にも気にせず、ゆっくりできるのは、特別なことじゃないかもしれないけど、私にとっては心休まる時間だなと思いました。

思えば、この春から職場で着る服が全然ないと気づいて。この機会に買い物ができてすごくよかったです。

子どもとずっと2人でいると、「ひとりになりたいな」とよく思うんですが、ひとりになってみると、逆に「子どもに会いたいな」と思うようになって。すごくいい時間を過ごせたと思います。

子どもを預けて、自分のためだけに時間を過ごすのは、はじめてです。いつもしっかりしないといけないと気負っている部分が流れ落ちている感じがして、ほっこりします。これから息子が成長して、ひとりでお留守番できるようになったとき、私はどうしているんだろう? ―― そんな漠然としたことをぼんやりと考えながら、有意義に過ごせたと思います。

このようなイベントを企画した市の担当者は、「自由時間を持つことで、気持ちに余裕を持ってほしい。そして、新たな気持ちで子どもと向き合ってほしい」と言います。子育てから離れる時間が、自分のことを客観的に考えるきっかけにもなるんですね。

コメント:大日向雅美さん

2時間という時間が、こんなにも大きなプレゼントをママたちに贈ることができる。本当に感動しました。だた、ぼーっと過ごした方もいる。その「ぼーっと」も大事ですよね。職場に着ていく洋服のことに気づいた人もいる。社会に出ていく自分を想像することができたわけです。そして、子どもが大きくなった後のことに思いをはせた方もいる。
私は、人間は目先のことに関わりながらも、5年後、10年後、その先をいつも考えておくことが必要だと思っています。特にママたちには、子育てで頑張っている時期にも、考えてほしいのです。それが、たった2時間でも。子どもが成長したとき、社会に出たとき、そこで自分は何をしているのか考えるというのは、その人の人生にとってとても大切なことです。
やはり、自分の時間は大切だと、あらためて思いました。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです