母乳とミルクの悩み

すくすく子育て
2020年5月16日 放送

赤ちゃんが生まれて、最初に始まるお世話が授乳。でも、それがママにとってつらいものになっている現実もあります。何度も乳腺炎になる⋯⋯ いくら頑張っても母乳が出ない⋯⋯ 自分は母親として失格なの? そんな、母乳とミルクの悩みについて考えます。

専門家:
笠井靖代(日本赤十字社医療センター 第二産婦人科 部長/産婦人科医)
市川香織(東京情報大学 准教授/助産師/母性看護学)

今回のテーマについて

番組で「母乳・ミルク」についてアンケートを行ったところ、2か月で300人近くのママから声が寄せられました。

「授乳がしんどい、やめたい」と思ったことのあるママは8割近くにも達しています。

悩みの内容は、1位が「乳首・乳房のトラブル」、2位が「睡眠不足」。乳房のトラブルが悪化した乳腺炎、ミルクに対する罪悪感、という悩みも多く見られました。

コメント:笠井靖代さん

今は高年齢での出産が増えていて、約30%の方が35歳以上です。また、赤ちゃんの16人に1人が体外受精での妊娠です。帝王切開での分娩や早産で、出産後にお母さんと赤ちゃんが一緒にいられないことも増えています。全体的に授乳が簡単にはいかないという事情のある方が多くなっていると思います。

コメント:市川香織さん

授乳をすると体がすっきりするものですが、実際にはこれだけつらい方がいる。それは、ママたちが孤独になり専門家のサポートがなかなか受けられないでいる、そんな現実があるのではないかと思います。


繰り返す乳腺炎。どうしたら防げる?

出産直後から乳房が強く張り、授乳のときも痛みがありました。出産直後はそんなものかと思っていましたが、痛みは続き、乳房全体が石のように固くなってしまいました。そして、1か月健診のとき、母乳外来で乳腺炎と診断されたんです。
マッサージの処置を受けて、その後母乳は順調に増え、産後2か月のころには授乳間隔が3時間になりました。ですが、6時間ほど赤ちゃんが寝た日があり、その間授乳しなかったせいか、翌日39度以上の高熱が出て再び乳腺炎になってしまったのです。
予防のために水分を多く取るなど気をつけていますが、たびたびしこりができて乳房が痛みます。繰り返す乳腺炎は、どうしたら防げるのでしょうか?
(7か月 女の子のママ)

飲み残しに気をつける

回答:市川香織さん

母乳を飲み残してしまう原因のひとつに、赤ちゃんがしっかり乳房をくわえていないことがあります。口をしっかり開かずに、乳首の先だけを吸ってしまうのです。ひな鳥が親鳥からエサをもらうときのように、大きく口が開けるといいですね。飲み残しなく飲んでくれているか、ときどき確認しましょう。
また、いつも同じ方向から飲んでいる場合は、抱き方を変えて授乳するなど、いろいろと試してみましょう。

まず片方の母乳が出なくなるまで授乳する

回答:市川香織さん

乳腺炎の方の中には、授乳の時間を右何分・左何分のように決めている方がいます。おっぱいの成分は、飲み始めから飲み終わりにかけて、だんだんと濃くなります。時間を決めて区切ると、赤ちゃんが薄いおっぱいしか飲めず満足できない場合があります。
まず片方の母乳が出なくなるまで授乳してみましょう。もう片方の母乳が残ったときは、ママが楽になる程度に搾乳して、少し抑える。次に授乳するときは反対側から飲んでもらう。このように授乳することで、赤ちゃんに対してどれぐらいのおっぱいの量を作ればよいのか、ママの体がコントロールされていきます。

消炎鎮痛薬を使うこともできる

回答:笠井靖代さん

乳腺炎で熱が出る場合は、消炎鎮痛薬を使うことができます。よく生理痛で痛み止めを使いますよね。授乳中に使っても大丈夫な薬もあります。産婦人科医や助産師に相談してみましょう。


授乳のときに気持ち悪くなるのはなぜ?

授乳のときに、全身に鳥肌が立つような、何とも言えない不快感に苦しんでいました。気持ちが悪く、イライラして、嫌な気分になります。助産師に「嫌な気分になるんですよ」と軽く言ってみたことがありますが、「なにかしらね」といった感じで話が流れてしまいました。母乳不足だったこともあり、3か月でミルクに切り替えましたが、2年たった今でも、授乳のときの不快感は強く記憶に残っています。あの感覚が何だったのか気になっています。
(2歳1か月 女の子のママ)

不快性射乳反射という症状がある

回答:笠井靖代さん

授乳を始めると、気分が悪くなったり、イライラしたりする症状を「不快性射乳反射」といいます。最近いわれるようになった症状で、約9%の方にあるのではないかといわれています。一説では、母乳が出るとき、脳内のドーパミンが一時的に低下することで起きるのではないか、と考えられています。ですが、まだ原因はよくわかっておらず、対応方法などもわかっていません。とにかく、お母さんが悪いわけではなく、産後うつなどとも違う生理的な反応だと思われます。

自分を責めないでほしい

回答:市川香織さん

不快感が毎回のことで、とても大変でしたね。それを乗り越えて授乳されていた期間は、すごく頑張られたと思います。自分の選択に間違いはなかった、決して自分のせいではないと、自分を責めないでほしいと思います。


どんなに頑張っても母乳がでない⋯⋯ 母親として失格なの?

母乳で育てようと張り切っていたのに、どんなに頑張っても出ませんでした。他のママは、みんな順調に出ていて、自分だけダメなのかと落ち込みました。ミルクの哺乳瓶に母乳を数滴だけ絞って入れながら、自分は母親になれないのかと感じてしまいました。

授乳で大切なのは愛情や触れ合い

回答:笠井靖代さん

授乳のとき、赤ちゃんをだっこして一生懸命に目を見て話しかける。そのような愛情や触れ合いが最も大事なことです。どうしても母乳育児がかなわない人でも、自信を持ってミルクをあげていただきたい。母乳でもミルクでも、愛情を持って育てれば、その親子にとっては大事な栄養です。

それぞれのお母さんと赤ちゃんで違う

回答:市川香織さん

産後は、お母さんと赤ちゃんのセットで考えなければいけません。みなさん個別の悩みがあるので、それぞれの方に合わせた産後ケアの体制が必要だと思っています。きょうだいでも違いますし、その時々でも違いがあります。他のママと比べるのではなく、自分と赤ちゃんのことを考えてみてください。


授乳の状況はきょうだいで違うこともあります。1人目と2人目の子どもで全く違ったというママの話をうかがいました。

1人目は、出産直後に呼吸がうまくできず、4日間NICUで過ごしました。その間、頑張って搾乳して母乳を届けました。完全母乳で育てようと思っていたんです。でも、はじめに離れていたせいか、退院した後、乳首を嫌がってなかなか母乳をあげることができず、母乳の量も足りていなくて⋯、ひどく落ち込んでしまいました。
パパは、そんな私を心配して「ミルクでいいんじゃない?」と声をかけてくれたのですが、当時は、母乳育児をしたいという私の気持ちを理解してもらえていないと感じて、とても悲しかったです。その後、何度か母乳外来に通い、「ミルクを足してもいい」と言われ、気持ちを切り替えることができるようになりました。
2人目を妊娠したときは、母乳で育てたい気持ちはありつつも、出る量は多くないだろうから、最初からミルクと混合で考えていました。身構えることがなかったと思います。出産後、結果的に十分な量が出て、母乳だけで足りるように。1人目のときと比べて、体も気持ちも、ずっと楽になっていると感じます。
1人目のときはアパート暮らしで、特に夜泣きのときは近所に迷惑がかかるのではないかと心配でしたが、2人目は比較的大丈夫な場所に引っ越してからの出産でした。そんな環境の影響があるのかもしれません。
(3歳2か月・8か月 男の子のママ)

リラックスして完璧を求めないことも大事

コメント:笠井靖代さん

このママの2人目の対応のように、リラックスして完璧を求めないことも大事ですね。経験を通して、度胸も出てきて、程よくリラックスすることもできたのでしょう。そのような気持ちの変化や、環境の変化で、母乳が出るようになったのかもしれませんね。

家族は赤ちゃんではなくママの気持ちに寄り添って

コメント:市川香織さん

パパ、おじいちゃんやおばあちゃん、周りの人の言葉はとても大きいと思います。悪気はなくても、赤ちゃんのことを考えて、授乳のときに「足りないんじゃないの?」とつい言ってしまう。それはママにとってかけてほしい言葉ではありませんよね。家族や周りの人たちは、この時期はママの気持ちに寄り添ってください。そういった気遣いや声かけで、ママの気持ちの状態も大きく変わると思います。

授乳は当たり前にできることではない。専門家のサポートも重要

コメント:市川香織さん

授乳は当たり前にできることではありません。専門家のサポートも重要なので、うまくママとサポートがつながることができればと思っています。最近は、「アウトリーチ」という自宅に訪問するタイプの産後ケアに取り組む地域も出てきています。


アウトリーチ型の産後ケア

「アウトリーチ」と言われる訪問型の産後ケアは、専門知識を持つ助産師が、出産後の早い時期から自宅を訪れ、授乳に関する悩みを含め、子育てやママの心身の悩みなどについて相談に乗ってくれるサービスです。
どのようなものなのか、2017年から積極的に取り組んでいる千葉市のケースを紹介します。

千葉市のサービスと導入の背景

サービスの利用は登録制で、産後4か月まで7回訪問を受けることができます。料金が比較的安いのも特徴です。利用料金の8割は市の負担となっているため、1回の訪問につき2500円前後、通常の助産師訪問よりも利用しやすくなっています。

訪問する助産師は、ママと赤ちゃんの関わり方や状態に応じて、無理なく過ごせるようなアドバイスを心がけているそうです。乳房ケアや授乳のアドバイスだけでなく、産後のさまざまな悩みに寄り添ってくれます。

2020年4月現在、千葉市内の助産院や医療機関21か所が訪問型産後ケアを提供しています。このようなサービスを導入した背景には、ママたちの切実な声がありました。2016年に、千葉市が4か月健診で行ったアンケートの結果を見てみましょう。

ママたちの悩みのトップは授乳です。


さらに、「望むサービス」では、授乳方法や乳房ケアの相談が一番多く、訪問による相談を希望する人が半数以上だったのです。このような声を受けて、アウトリーチ型の産後ケアを積極的に進めることになりました。

アウトリーチ型産後ケアの体制作りを進めてきた川島広江さんにお話を伺いました。

川島広江さん(千葉市助産師会監事 助産師)

例えば、「おっぱいが痛い」という悩みの背景には、いろんなことがあります。ママの感覚で「大丈夫」と言っていても、実際は疲れていることもあります。疲れの原因が、出産のためか、家族とうまくいっていないのか、相談する人がいないからなのか。そのようなことに、私たち助産師は敏感に気づいて、支援していきたいと思っています。


コメント:市川香織さん

自治体がママたちのニーズをきちんと吸い上げて、助産師や専門家が対応できたいい事例だと思います。現在、アウトリーチ型の産後ケアは少しずつ増えてきていますが、全国どの自治体でも利用できるところまでは進んでいないのが現状です。

コメント:笠井靖代さん

育児の不安は、マンツーマンで寄り添って質問できることが大きいと思います。母親学級など、たくさんの参加者の中で質問するのが難しい方でも、1体1で、同じ担当者であれば話しやすいと思います。前に言ったことが伝わっていない、という問題もありません。こういった取り組みが全国に広がってほしいと思います。


専門家から
これだけは言っておきたいメッセージ

細かいことにとらわれない。自分が授乳の主役

笠井靖代さん

あまり細かいことにとらわれずに、自分が子育ての主役であり、赤ちゃんが主役であり、パパや家族に支えられながら育んでいく。そんなふうに考えていただきたいなと思います。

授乳はひとりとして同じものはない。早めのSOSを

市川香織さん

授乳は、ひとりとして同じものはありません。それぞれに合わせて、ママが楽しめることが一番大切だと思います。そして、早めに「助けて」と、周りにSOSが出せることも大事なことです。みんなで、楽しく赤ちゃんを育てていける環境が整うといいですね。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです