就学前に身につけたい力とは?

すくすく子育て
2019年11月30日 放送

小学校入学前、不安はありませんか?
「45分間、座る経験を1度もしたことがない。先生の話を聞けるか不安」
「ひらがなやカタカナは書けるようにしておいたほうがいいの?」
「引っ込み思案の子ども、小学校に入学したら、お友達できるかな?」
小学校では、2020年度から新しい学習指導要領がスタート。
うちの子、小学校でうまくやっていけるの?

専門家:
汐見稔幸(東京大学 名誉教授/教育学)
大豆生田啓友(玉川大学 教授/幼児教育学)

2020年から小学校の教育が変わると聞きました。どんなふうに変わるの?

「トーク&チョーク方式」から「ワークショップ方式」へ。

回答:汐見稔幸さん

2020年度から小学校で新しい学習指導要領がスタートします。先生が黒板の前に立ち大事なことを板書して、生徒がノートをとる「トーク&チョーク方式」ばかりでなく、子どもたちが自分で調べたり、わいわい議論したり発表したりする「ワークショップ方式」をどんどん増やしていこうとしています。

幼児期に遊びで育てた主体性を受け、小学校はスタートします。

回答:大豆生田啓友さん

幼児期から小学校への接続が大きく変わると言われています。幼児期に遊びを通して育ててきた主体性を受けて小学校がスタートする形になっていきます。これまで心配していたような「小学校に入る前にこれもできるようになっておかなければ」ということではなく、もっとその子らしさや意欲を大事にするようになっていきます。


活発な娘、落ち着いて授業を受けられるか心配です。

娘は、再来年小学校に入学します。体が動かすのが大好きで元気いっぱいなのですが、とにかくお話が好きで一日中おしゃべりをしています。保育園でも、先生が話していても「それ知ってるよ」などとかぶせて話しているようで、小学校では授業を中断してしまうのではないかと心配です。今までに、授業時間(45分間)ぐらい、ずっと座り続けるような経験もしたことがありません。座る練習にと思いドリルをさせても、すぐに飽きてしまい、座っていられるのは長くても3分程度。ずっと座ってお絵描きをしているお友達を見て驚きました。
外遊びに力を入れてきたことで、机に座って集中することができなくなってしまったのではと悩んでいます。落ち着いて授業を受けられるでしょうか?
(4歳3か月 女の子のママ)

子どもが意図的に聞く場面を作ってみる。

回答:大豆生田啓友さん

今の段階で不安になる必要はないと思います。今後、年長くらいになったら子どもが話すだけではなく、「じゃあ今度はママの番ね」などと言って、子どもが「聞く」場面を意図的に作ることも少し大事になってくると思います。「対話はキャッチボール」を意識してみましょう。

嫌いなことに集中させても、集中する練習にはならない。

回答:汐見稔幸さん

「自分の好きなことをどれだけ集中してできるか」が、集中する練習です。嫌いなことに集中させようとしても、集中できるようにはなりません。今は集中できる時間が3分でも、小学校入学までの2年半の間に、10分、15分と確実に伸びていきます。また、学校の授業も、みんなで討論をするなどいろいろなことが入ってくるので、45分間じっと座り続けるだけではなくなっていきます。
ですから、今は、好きなことに没頭させることと、具体的にやりとりをすることはおもしろいということを体験させていけば心配はありません。むしろ、リーダーシップをとれるお子さんになるかもしれませんね。

実は、本人はパズルはあまり好きではありません。私としては、いずれ図形などの理解に発展していくのかなという思いがあるので経験させたいのですが、このような場合には経験させたほうがいいのでしょうか?

本人が好きなことに集中する時間を少しずつ広げていくことです。

回答:大豆生田啓友さん

子ども自身はパズルが嫌いなのに「させられる」ことは、その子にとって、あまり意味がないと思います。今大事なのは、おもしろいことにちゃんと集中する時間を少しずつ広げていくことです。好きではないものでは「パズルは嫌だ」となってしまいます。そこは、好きなことから始めたほうがいいと思います。


5歳の娘は朝の身支度がテキパキできず、生活面で心配があります。

5歳の娘は朝の身支度がテキパキできず、生活面の心配があります。来年小学校にあがるのですが、決まった時間に集合して登校班で登校する形なので、その集合に間に合うのだろうかと心配です。
(5歳 女の子のママ)

見て分かる情報があると子どもは動きやすくなります。

回答:大豆生田啓友さん

親として心配なのはよくわかります。ただ、だいたいの子どもはテキパキしません。だとすると、こちらの戦略としてどうするかですよね。朝の身支度と言いますが、夜のうちに必要なものは準備してから寝るのが一つポイントですね。もう一つは、例えばボードに「朝やること」を貼っておくのもいいと思います。まずこれをして、次にこれをする、ということが目で見て分かるようにしておくことです。視覚的に分かる情報があると子どもは動きやすくなります。


就学前にひらがなはちゃんと書けないといけませんか?

年中の娘がいます。お友達とのお手紙交換で、返事が書きたくてひらがなを自然に覚えました。お手紙を書くのを楽しんでいるようです。でも、お手紙をくれたお友達は、大人が書いたのかと思うくらいとても上手な字だったので、それを見て焦ってしまいました。1年生でまずひらがなを習うと思いますが、そこで挫折してしまうと勉強や学校が嫌になったりしないかなと心配しています。就学前にひらがなはちゃんと書けていないといけないのでしょうか。
(4歳6か月 女の子のママ)

早くできることよりも、遊びの中で興味関心を育てることが大事です。

回答:大豆生田啓友さん

お子さんは、文字に対してとても意欲があるようですね。それだけで十分です。私は、今年の4〜5月に、いくつもの小学校で1年生の授業の様子を見てきました。多くの小学校はゆっくりとひらがなについて学んでいました。黒板にひらがなの「し」を書ける人が書いてみて、それを見てみんなで書いて、「〇〇さんの形はおもしろいね」というところからゆっくりやっていました。逆に早くから書けたり読めたりするとどうなるでしょうか。「『し』なんて知ってるから別にいいや」って思ってしまう場合もあるかもしれません。これではかえって学ぶ意欲を失ってしまいます。それよりも、「〇〇さんの『し』はおもしろいな。私もこんな風に書いてみたい」と思えるほうが、むしろ意欲を持つことができます。そして、それによって次の学びの意欲に向かいます。今のように遊びの中で文字に興味関心を育てることがいちばんいい教育だと思います。

ひらがなは十数文字読むことができれば十分。文字を使う面白さを体験させて。

回答:汐見稔幸さん

例えば、文字について何も知らずに学校に入ってしまうと、学校でいきなり自分の名前が書いてあるプリントを渡され戸惑ってしまうことはあるかもしれませんね。ある程度は文字というものに興味関心を持った状態で入学させるほうがよいでしょう。でもそのために、文字を一個ずつ順番に書いて覚えるのではなく、「お手紙がきたよ」「お手紙、読んであげようか」「返事を書くのを手伝ってあげようか」など、本人が興味を持つような自然な流れで、文字を使うことはおもしろいんだという体験をさせてあげてほしいのです。例えば、絵本を読むこともすごく大事です。そうすれば、15文字くらいまで一通り読めるようになると、あとは自分であっちこっちを見て勝手に覚え始めます。入学前にひらがなを読めるようになっていなくても大きな問題はありませんが、可能ならば10数文字を読めるようになっておけば、心配はありません。


恥ずかしがりやの息子。小学校でお友達とうまくやっていけるでしょうか。

5歳の息子は恥ずかしがりやで、お友達の中に入っていくことがあまり得意ではありません。小学校に行ったとき、自分でお友達をつくることができるか心配しています。今は幼稚園の先生が周りの子と仲良く遊べるように働きかけてくれているので楽しく過ごしていますが、ふだんは1人でブロックを組み立てたりじっくりと遊ぶことが大好きです。また、家では自分の意志表示ができますが、外ではあまりできません。幼稚園でも、歯みがきの順番を抜かされてそのことを言えずに泣いていたこともあります。小学校に入ると先生がずっと見てくれるわけではないので、友達とうまくやっていけるのか気になります。今から親ができることや心構えがあればぜひ教えてください。
(5歳1か月 男の子のママ)

自信がつくと人と関わろうとする力につながっていく。

回答:大豆生田啓友さん

これも多くの方が心配していますね。本当にお気持ちよくわかります。ただ、いちばん大事なことは、親が心配し過ぎないということです。親の緊張は子どもに伝わるので、「うちの子、けっこう頑張るんじゃないかな?」というくらいの感覚で思っておくことが大事なことの一つです。
また、積極的でなくても、遠巻きにいろいろな子の様子をよく見るタイプの子もいます。そういう子は他の人に対して表現をすることが少ないかもしれませんが、心の中ではすごく動いているのです。それは主体性や意欲がきちんとあるということなんですね。
でも、お子さんがほかの子に対して気持ちを表現しないと、親としては心配になってくると思います。その時に思い出していただきたい大事なことは、「子どもがたくさん自信をつけていくこと」です。「あれ頑張ってたよね」「ママ見てたよ」など、そういう声かけによって自信がついていくことで人と関わろうとする力につながっていくと思います。

活発だからたくさん友達ができるわけではない

回答:汐見稔幸さん

引っ込み思案の子やあまりしゃべらない子同士が友達になることもよくあります。活発な子だから友達がたくさんできるというわけではありません。まわりの子どもたちをよく見て、この子となら気が合いそうだという子を見つけていろいろと関わります。友達ができるかどうかを心配し過ぎなくても大丈夫です。

恥ずかしがりやだと、新しいワークショップ型の授業についていくのは大変なのでは?

家庭でも、子どもに共感しながら対話していくことが大事です。

回答:汐見稔幸さん

ワークショップ型のような教育は、今まで「アクティブラーニング」という言い方をされてきました。でも、「アクティブ」という言葉に誤解があるのではないかと思っています。最近は、「主体的で対話的で深い学び」という言い方をしています。
主体的というのは子どもが自分でやりたいことをやっていくことです。対話的というのは、何かをする時に自分1人だけでやるんじゃなくて、意見を交換しながらやっていこうということです。おそらく、先生の指導のしかたにもよりますが、よくしゃべる子どもが目立つような授業というのは本来あるべき授業ではありません。先生がじーっと待っていて、「お、そういう意見持ってるんだね。なるほどね」というように引き出してくれたり、少し意見を言ったらちゃんと評価してくれたりして、意見を言うことがうれしいということが重なっていくと、どんな事でも話せるようになっていきます。
これまでの日本の教育は、先生の言うことをしっかり聞いているかが評価の基準になってきました。ひとりひとりが自分の意見を言うことが評価の基準になってないことが多いのではないでしょうか。それを切り替えていかなければならないと思います。
だから家庭でも、「ママの言うことを聞きなさい」と言うことはできるだけ減らしてほしいのです。「どうしてそう思うの?」と聞いて、子どもが何かを言ったら、「なるほどね」と共感しながら、「でもこういう時はどうするの?」などと、子どもと対話していくことです。そうやって子どもが「話すことはおもしろい」と感じる体験を重ねていってください。学校でも、何かの機会に話したことが評価されるようなことで、子どもは変わっていきます。


園から小学校への移行をスムーズに スタートカリキュラムって何?

横浜市の小学校では、2020度からスタートする新しい学習指導要領に先行して、「スタートカリキュラム」という取り組みを行っています。
幼稚園・保育園から小学校にスムーズに移行させるためのプログラムです。

ある小学校を訪ねて、その様子を見せてもらいました。

これは小学校1年生の4月から5月中旬までの時間割です。
国語や算数などの教科がありません。

「なかよしタイム」は、幼稚園や保育園と同じように、遊びを中心にして、安心して自分を表現できるようにするための時間。

「わくわくタイム」は、遊びの中で得たことを、具体的な体験を通して、徐々に学習につなげていく時間。

園の生活から学校の授業にスムーズに移行するための工夫なんですね。
そして、「ぐんぐんタイム」で自然に教科の学習につながっていくように進めています。

例えば、「なかよしタイム」では、パンの歌や手遊びをして楽しみ、それが発展して、それぞれの子どもが好きなパンを調べてみようという活動が生まれ、最終的には、それぞれのパンが好きな子の人数を調べる、いう算数の学習につながっていくのです。

さらに横浜市では、各小学校に必ず1人、児童支援担当の先生がいて、入学する子どもたち全員の様子を、それぞれの園から引き継いでいます。

例えば、いつもの活動の場と全く違う場所で活動をするときに「歯が痛い」というお子さんがいました。その時、園からの引継ぎ資料を見ると、保育園でも運動会や遠足などいつもとは違う場に入っていくときには、とてもドキドキして難しくてなかなか入って行けないという様子が書いてありました。みんなと一緒に参加ではなく、その子なりの参加で支援・指導ということができました。
(児童支援専任教諭)

小学校と各保育園・幼稚園との交流は年に数回ずつ行われています。
この日は、保育園の年長さんが小学校にやってきました。

この小学校では保育園の子どもたちをスムーズに迎えるためにおもちゃを準備しています。さらに初めての給食を体験できるようにしていました。このように、入学前に何度か学校生活を体験することで不安が減るといいます。

先生たちは、スタートカリキュラムを始めてから子どもたちに変化がみられたと感じています。こちらは2年生の教室。生活科では、年間を通してお米について学んでいます。

この日の授業では、お米の脱穀のしかたを考えます。先生は3つの例「わりばし」「お茶わん」「手」を黒板に書きました。

子どもたちはいろいろなやり方を試します。中には、机の隙間を使って脱穀するという、全く違うやり方を思いついた子もいます。どの子も、主体的に、おもしろがって学ぶ姿勢が見られます。こうした子どもたちの変化に、先生たちも驚いたそうです。

受け身ではなく、自分たちからどんどん校長先生に聞きに行くなど、アンテナをすごく張っているのが分かります。こちらが教えるものではなく、今までの経験があるからこそ身についている力が集まって、今こういう活動が続いているんだなと感じます。
(2年生の担任)

子どもたちが主体的に動く、何か困っても自分たちの力で解決できる、問題解決できる楽しさということを、すごく学んできているのかなと思います。スタートカリキュラムを通して子どもたちは学ぶ楽しさを経験できているんですね。
(校長)


このようなスタートカリキュラムはこれから全国で始まる。

コメント:汐見稔幸

スタートカリキュラムはこれから全国で始まることになります。ですから、横浜市のこうしたケースが確実に一つのモデルになると思います。

いろんなタイプの子どもがその子なりのやり方で授業に参加できる。

コメント:大豆生田啓友

私もいくつか授業を見せていただきました。横浜市で行われているようなスタートカリキュラムによって、今、就学前に多くの方が心配しているようなことはほとんどなくなると思います。ほとんどの子どもたちがワクワクして授業に参加しています。いろんなタイプの子どもがその子なりのやり方で授業に参加することができるのもスタートカリキュラムの特徴だと思います。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです