子育て中に感じる孤独
2019年4月27日 放送
子どもを産んで、孤独を感じてしまう人が多いといいます。
「パートナーの協力がなかなか得られない」
「夫に子育てのつらさをわかってもらえない」
「SNSでつながることで余計に孤独が増してしまう」
「一人ぼっちだなという気持ちになる」
あなたは、子育て中に孤独を感じたことはありますか?
大日向雅美(恵泉女学園大学 学長/発達心理学)
ママ友はいるけど、孤独を感じてしまうのはなぜ?
幼稚園送迎のバス停が一緒だったり、SNSでつながっていたりするママたち同士が知っていることを、自分だけ何も知らないことがあります。私も、もっとベタベタしたいというわけではないのですが、後からみんなで会っていたことを子どもから聞くと、ちょっと寂しいと思うのです。ママ友から「今度遊びたいね」と言われても、確実な約束ではないので不安になって、人とつながっているのに孤独を感じます。
ママ友とは一線を引かなきゃいけないのかなと思うこともありますし、孤独だとママ友に伝えると、相手が「自分のせいでつらい思いをさせている」と、誤解をするのではないかと思い言い出せないのです。ふと会話の流れで「孤独を感じる」という話をしても「みんな同じだよ」と軽く言われて、みんなは自分ほど悩んでいないのではないかと思ってしまうのです。
どうして私は孤独を感じてしまうのでしょうか。そして、どうすればいいのでしょうか。
(女の子と男の子のママ)
人間関係を「柔構造」に。気になるときは徹底的に悩んでいい。
回答:大日向雅美さん
これは、ママ友に限らず、人間関係すべてに通じる悩みですね。例えば誰かと一緒にいるときも、「今、自分が疎外されたのかな」と思うことがあるでしょう。そのとき、「無意識にやっているのかな」という場合と、「意図的に外しているのかな」という場合がありますね。前者の場合は、悪気はないから気にしなくていい。それでも気になったら、別の人との関係を充足させてみるのはどうでしょう。後者の場合は、我慢しておつきあいすることはないのではないかと思います。
どちらにしても、あまり気にせずにいられるためには、人間関係を「柔構造」にするとよいかもしれません。「柔構造」は建築の言葉です。がっちり作ってしまうと一方から力がかかると崩れてしまいますが、柔軟性を持たせて作ると、一つのところが崩れても全体が崩れないそうです。人間関係も、いろいろな人とつながりながら、柔らかに作っておくのはいかがでしょうか。
それから、私は、何かがどうしても気になってしまうときには、「気にしないようにする」のではなくて、「徹底的に気にする」ようにしています。徹底的に悩んでいいのです。その日は丸一日、その問題だけを考えてみる。すると、ふっと、「あの人は悪気じゃないな」「これは私が悪かったのかな」など、何かが見えてくることがあります。その時、その人だけでなく、他の人たちとも柔軟な関係性があると、私にとって大事な関係はここだけじゃないと思えることでしょう。
SNSと孤独の関係
解説:石田光規さん(早稲田大学 文学学術院 文化構想学部 教授)
SNSは、頻繁につながることができる一方で、何かあるとすぐになくなってしまうような感覚が根底にあります。そのため、SNSでメッセージがきたらすぐに返信しなければならないなど、つながっていてもかえって気を遣うことが増え、疲れてしまうと考えられます。
これは、「携帯メールと孤独」について調べたものです。
携帯メールの利用が高い人ほど、友人の数も多いという結果がでました。
しかし携帯メールの利用が高く、友人の数が多い人は「メールがあまりこないとイライラしたり落ち込む」など、SNSの利用で孤独感が強まっている傾向があることもわかりました。
ママ友同士のSNSでは、自分にとって必要な関係とは何なのかを考えながら、選んで維持する必要があります。自分も選べるけれど、相手にも選ぶ権利が出てくるため、相手にも選んでもらう必要があります。つまり、お互いの関係は「選び選ばれ」を繰り返していかなければなりません。なるべく相手の感情を阻害せず、乱さないようにして、関係をその都度更新しながら人間関係が成り立つという構造です。自分の思いを遠慮なく言ってしまったら相手はどう思うのか心配ですので、なるべく波風を立てないような発言をして、場を落ち着かせようという空気が働きます。
SNSの中ではこのようにどこか緊張感をはらんだ人間関係で、自分の思いを率直に伝えられないので、ますます孤独感が募ってしまうのでしょう。
コミュニケーションが下手なので、子どもに影響が出ないか心配
学生時代から人と話すことが苦手で、人づきあいがうまくできませんでした。会話のキャッチボールがうまくいかず相手を傷つけてしまうのではないかと心配です。話していてもすぐに答えられず自分に自信がありません。
先日、二人のママ友からランチに誘ってもらいました。その二人はよく遊んでいる仲だったので子ども同士も仲がよかったのですが、うちの子は、友達が近寄ってくると泣いてしまい、保育園生活が心配になりました。一緒に遊ぶママ友がおらず、子どもと一対一で過ごすことが多いからそうなってしまったのかな、私の責任なのかなと思います。
自分のコミュニケーションが下手なせいで子どもに影響が出ないか心配です。
(女の子のママ)
子どもの友達は子どもが作ります。
回答:大日向雅美さん
人づきあいがうまくできないと思うのは、たぶん、相手のことをよく考えていらっしゃるからだと思います。自分で話すよりも相手の話を聞くことが多いと、相手はとてもいい気持ちで話ができると思いますよ。
いちばん心配していらっしゃるのはお子さんのことですね。これは、はっきり言えることですが、子どもの友達は、保育園、幼稚園、小学校、中学校などで、子どもが自分自身で作ります。今、ママ友がいらしてそのお子さん同士で仲良く遊ぶことができるのならそれはそれでよいのですが、ママ友がいなくても、お子さんはママと楽しく遊ぶだけでいいのです。つまり、子どもが小さいときに大事なのは、人が愛してくれることを子どもが感じることです。お子さんと過ごす時間に自信を持ってくださいね。ママが愛せばいいのですから。
忙しい夫でも「一緒に育児をしている実感」を持つにはどうすればいいの?
5年前に結婚しました。働いて育休をとりながら子育てをしてきましたが、ずっと孤独を感じています。幼稚園のお友達のお父さんが送り迎えをしたり、行事に積極的に参加している姿を見ると、「私、一人ぼっちだな」という気持ちになります。
夫は土日もほとんど休みはなく、家にいても疲れて寝てしまい、育児や家事をすることはほとんどありません。せめて子育ての大変さをわかってほしいと夫に伝えてみましたが、うまく伝わりませんでした。
「基本的に全部任せている」「結婚する前に言ったよね、自分は忙しいから家事育児はできないよ」と言われ、隙がありません。育児の言葉にならない大変さは、やってみないとわかってもらえないんだと思います。本当は夫にぶつけたいけどぶつけられないので、余裕がなくなってくると子どもたちにあたってしまい、悲しくなります。
家事や育児を一人で引き受け続けてきましたが、働きながら子育ては難しいと思って退職をする決断をしました。よりよい家族になるためにも、お互いの意見を出し合いたいのですが、最後まで話し合うことができません。どうしたら夫につらさを理解してもらえるのでしょうか。
具体的に何かを手伝ってもらいたいということより、「一緒に育児をしているという実感」がほしい。それは何なのか私もわかりません。忙しい夫でも一緒に育児をしているという実感を持つにはどうすればいいのでしょうか。
(2人の男の子のママ)
夫と対等に言葉をかわせるような力を、あなたがつけていくことです。あきらめない強さを持って。あなたは一人ではありません。
回答:大日向雅美さん
ママの孤独感やつらい気持ちの原因が夫というのは、ずっと昔から続いていることですね。高度経済成長で24時間仕事に埋没していた頃の男性たちには育児という発想がまったくありませんでした。でも、これだけ世の中が「イクメン」「パパの育児参加」と言うようになったにもかかわらず、かたくなにやってくれない夫をどう攻略すればいいか。これは、さらに難しさが深まっているように思います。簡単に解決できることではありませんね。
「一緒に育児をしているという実感」を持つための一つの方法としては、まずは、やはり夫婦での会話でしょうね。対等に言葉をかわせるような力を、あなたがつけていくことです。夫に何でも言えるようになることです。一度言えば、「わかった俺やるよ」とすぐに分かってくれるすてきなパパばかりではないので苦しいことなのですが、それでも言い続けることです。相手が変わらないからしかたないと思いながらも、あなたが選んだ相手ですから、あきらめずに言い続ける。その強さを持ち続けることができるようにするために、何ができるかを考えることです。
子育てを頑張っていることは、きっとあなたの自信になるはずです。あるいは、お仕事を持って「私だって万が一のときには別れて一人で暮らせるのよ」という力を持っているママもいるかもしれません。それは人によって違いますが、相手を変えるためには、まず自分の中であきらめない強さを持っていることが必要だと思います。
これは本当に根気がいることですが、それは夫が個人的に悪いわけでもあなたが弱いわけでもありません。そういう働き方をさせている日本の社会、そして歴史的な文化、それらと闘うということなのです。文化を作り替える闘いです。
そして、闘うときは、あなた一人で闘わなくていい。同じ思いを持つ人もたくさんいます。あなたは一人ではありません。
夫はあなただけが育てなくていい。職場でもいろいろな経験を経て変わっていきます。お子さんが大きくなれば、「パパ、ダメだよ~」「パパも一緒にやろう」と言ってくれるかもしれません。みんなで変わっていくことです。どうぞ、一人で頑張らないでくださいね。
専門家から
これだけは言っておきたいメッセージ
気づいた問題を言葉にして伝える力を持ったママたち。とてもうれしく思います。
大日向雅美さん
みなさん、本当によく話してくださいました。ママたちがつらさを話すと、愚痴のようになってしまうこともありますが、今回のお話は愚痴ではありませんでした。今の社会のいろいろな問題に気づいていることです。それをこうして言葉にして伝える力を持ったママたち、女性たち。とても誇らしく、うれしく思いました。
※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです