運動神経って伸ばせるの?

すくすく子育て
2018年9月29日 放送

運動神経を伸ばすことはできるの? 運動のできる・できないは遺伝なの? そもそも運動神経ってなに? そんな疑問の数々に、すっきりとお答えします。

専門家:
榊󠄀原洋一(お茶の水女子大学名誉教授/小児科医)
吉田伊津美(東京学芸大学 教授/幼児教育学)

そもそも運動神経ってなに?

実は「運動神経」という医学的な用語はありません。医学的な用語でいちばん近い意味で使われるのは「運動能力」でしょう。「運動神経」という言葉は、一般的に、瞬発力・筋力・バランス感覚など、総合的な能力の総称として使われていると思います。
(榊󠄀原洋一さん)


運動神経は遺伝するの?

長男は0歳のころから保育園に通っています。4歳になりましたが、周りの子どもたちと比べて運動ができないことが気になっています。例えば、鉄棒にはぶら下がることしかできず、前回りもできません。かけっこも遅いほうです。小学校に入った後、体育についていけるように、スイミング教室や体操教室に通っています。実は、私も運動があまり得意ではないので、遺伝したのだろうかと考えてしまいます。運動神経は遺伝するものなのでしょうか?
(4歳3か月の男の子と1歳6か月の女の子をもつママより)

遺伝と同じぐらい運動の経験が大事

回答:榊󠄀原洋一さん

例えば、親の身長が高いと子どもも身長が高い傾向があり、そこには遺伝がみられます。このように、瞬発力やバランス感覚なども、親から引き継いでいる部分もおそらくあります。しかし、生まれもっての運動の素質と同じ程度に、運動の経験が大事になります。経験によって運動能力が伸びるわけです。

運動を経験できる環境も大事

回答:吉田伊津美さん

子どもたちがどのぐらい運動の経験ができるかは、環境も大きな要因となります。例えば、親が外遊びによく連れて行ってくれる、遊んでどろんこになっても気にしない、近所に遊ぶことができる公園がある、などです。そういった環境が、子どもの運動の経験に影響していきます。

小学校低学年の体育は運動遊び

回答:吉田伊津美さん

小学校の学習指導要領では、低学年の体育は「多様な動きをつくる運動遊び」と規定されています。少なくとも、小学校に入るときに、鉄棒の逆上がりができないから困るといったことはありません。幼児期は、遊びを通して、いろいろな動きの経験をしておくことがとても大切です。

幼児期の運動の経験が、体育で困らないための土台作りになる

回答:吉田伊津美さん

乳幼児期の運動は、何ができるかより、運動を楽しんで自分なりにいろいろな経験をすることが大事です。多様な経験によって、いろいろな動きが身についていきます。まずは、動くことを楽しめるようにしてあげてください。運動の経験を重ねることで、将来的に体育でも困らない子に育つのではないでしょうか。


運動神経を伸ばすにはどうしたらいい?

4歳になる長男は、体を動かすことは大好きですが、どちらかといえば運動が不得意だと思います。例えば、同年代でうまくボールを蹴ることができる子がいますが、うちの子はうまくありません。いろいろな動きの練習になればと、本人が希望した体操教室とサッカーチームに入っています。でも、できないとすぐに飽きて、なかなかやる気になってくれません。運動は苦手より得意なほうがいいだろうと思いますし、小学校にもつながっていくと思うので、伸ばしてあげたいのですが、どうすれば運動神経が伸びるのでしょうか?
(4歳と1歳5か月の男の子をもつママより)

個人差はあるが、経験の繰り返しで伸びる

回答:榊󠄀原洋一さん

もちろん子どもの運動能力を伸ばしてあげることはできます。生まれながらに持っている素質は決まっていますが、動きの経験を何度も繰り返すことでうまくなります。個人差はありますが、その子の能力の範囲で、いろいろなことができるようになっていきます。

年齢的に向いていない運動もある

回答:榊󠄀原洋一さん

子どもの年齢によっては難しい運動もあります。例えば「ボールを蹴る」動作は、難しい動きの組み合わせです。片足でバランスをとって静止するだけでも難しく、その上で足を振りかぶって蹴る。さらに、ねらった方向にボールを飛ばすために、ボールを蹴る場所もコントロールしないといけません。うまくボールを蹴るためには、いろいろな動きが要求されるわけです。
練習を繰り返せば、はじめは空振りしていた足がボールに当たるようになり、うまくなっていきます。大人と同じような動きができるようになるのは7歳ぐらいまでかかる、と医学的な経験則で知られています。その子なりのできることをみていきましょう。

日常生活の中にも動きがある

回答:吉田伊津美さん

運動はスポーツに限ったものではなく、日常生活の中にも“動き”があります。ですので、生涯にわたって健康な心と体を保つという意味でも、幼児期に多様な動きの経験をしておくことは必要だと思います。

息子は、周りと比べて自分ができないと、すぐにしなくなってしまいます。そういった壁を超えられなくて「嫌だな」となっているときは、無理にでもやらせたほうがいいのでしょうか?

周りの子どもと比べず、できたことを褒める

回答:榊󠄀原洋一さん

うまくできる子を目標にして「あの子ぐらいにできるようにやりなさい」といったことを子どもに言うのは注意してください。子どもの性格による部分もありますが、それでは子どもがめげてしまいます。周りと比べるのではなく、本人ができたことを褒めてください。「この前よりできるようになったね。練習するとうまくなるよ」と声をかけて、子どもを心理的にサポートしていきましょう。


いろいろな動きを経験してほしいが、やりたがらないときは?

子どもは、いろいろな遊びを通して体の使い方を学んでいくと思うのですが、娘はなかなか体を使った遊びをやりたがりません。外で遊ぶことは大好きで、よく砂場で遊んでいますが、アスレチックのような遊びに誘っても臆病な性格でやろうとしません。もっと、いろいろな動きのある遊びをしてほしいと思っているのですが、やりたがらないときはどうしたらいいでしょう。
(3歳5か月の女の子をもつママより)

子どもがやりたいことを認める

回答:吉田伊津美さん

まずは「お子さんがやりたいこと」を第一に考えてください。どんな“遊び”がよいかではなく、子どもが楽しんで取り組めることから広げていくことが大事です。“遊び”はやらせるものではないのです。
子どもが「砂場遊び」をしているとき、親は見守って、子どもの取り組みを認めてあげるところからはじめてください。その上で、「もっとこういう遊び方もあるよ」と提案したり、行ったことのない公園に連れていってあげたりして、少しずつ子どもの興味の幅を広げてあげてはいかがでしょうか。

家の中で、できることはありますか?

親との触れ合いでも“動き”は育つ

回答:吉田伊津美さん

乳幼児期であれば、親と触れ合うことで身につく“動き”もあります。例えば、親がうつ伏せになって、子どもがその上で立ったり歩いたりするとバランス感覚が育ちます。その他、親がお馬さんになる、座っている親を子どもが押したり引いたりするような遊びでもよいと思います。子どもにとって、スキンシップはとても楽しいので、そのようなことからはじめてあげるとよいのではないでしょうか。子どもは、人や物など、周囲のいろいろなことからたくさんのことを学んでいます。そういった刺激をたくさん受けていくことも大事だと思います。

生活の中の動きでも体を動かす経験になる

回答:榊󠄀原洋一さん

特に乳幼児期は、遊びの中で体を動かすことが原則です。子どもが楽しく遊ぶ中に“動き”があり、それが自発的に行われます。親が何も言わなくても、子どもは自分から、何かにのぼったり、走ったり、はってみたり、たくさん体を動かしています。これも運動なのです。
アスレチックのような、ある特定の運動をしないといけないわけではありません。日常生活の中でも運動はあります。例えば、階段を上る、手を洗うために洗面台で背伸びする、イスにのぼって座る、それらすべてが運動になり、体を動かす経験になります。親は、そういったことがやりやすく、安全な環境を用意してあげてください。


幼児期に三点倒立などをやっても大丈夫?

長男は、1歳のころから前回りをはじめ、最近では壁を使った三点倒立をしています。体ができあがる前からこんな動きをして、体への影響はないのでしょうか?
(2歳10か月の男の子と1歳の女の子をもつママより)

親は安全を確保し、負荷のかかる動きは褒めない

回答:榊󠄀原洋一さん

まずは、子どもがけがをしないように、安全を確保しましょう。例えば、柔らかいマットを敷く、テーブルの角にガードをつけるなど、三点倒立しているときに倒れてもけがをしないようにしてあげる。
次に、「ちょっと危険だな」と思うことは、あまり褒めないようにします。例えば、子どもが階段から飛び降りたときに「すごいね」と褒めていくと、「もっと高いところから飛んでみよう」となり、けがにつながることもあります。子どもが高いところから飛び降りると、まだ骨ができていないので痛める可能性もあります。そういった負荷がかかる動きは、褒めずにあまりやらせないようにしましょう。

大人の力が加わる動きには注意

回答:吉田伊津美さん

基本的に、子どもが遊びとして取り組んでいる動きは、本人にとって無理な部分は少ないと思います。自分から無理な負荷がかかることをすることはそれほどありません。
一方で、大人の力が加わる動きには注意が必要です。例えば、大人が子どもの手を引っ張るような動きは、大人の力が子どもにとって過度な負担になる場合があります。
また、子どもが自分の身長以上の高さから飛び降りるようなことはやめさせてください。

子どもは「ここから落ちたら危ないな」といった判断能力が、大人に比べてないように思います。

子どもでも危険を察知できる

回答:榊󠄀原洋一さん

子どもは、小さなころから「はいはい」や「たっち」をする中で、何度も転んだり、いすに上ろうとして怖い思いをするなど、いろいろな経験をしています。その経験から、子どもでも危険を察知する能力が育っているのです。


子どもの運動の得意・不得意をどう考えればいいの?

ひとつひとつの動きの獲得に目を向けて認めてあげる

回答:吉田伊津美さん

例えば、1歳になったら歩けるわけではないように、「何歳だから、この“動き”ができなければ」と考える必要はありません。それよりも、歩きはじめたり、寝返りをうったり、走ったり、そういった“ひとつひとつの動き”ができたことに目を向けて認めてあげましょう。

みんな得意・不得意があるので、あまり心配しなくていい

回答:榊󠄀原洋一さん

子どもには、それぞれ得意・不得意があります。運動が苦手でも歌がうまいなど、その子の得意なことを伸ばせばいいと思います。「運動神経がないのでは」と心配している方も、あまり心配せずに、子どものいろんな側面のうちのひとつだと考えてよいのではないでしょうか。


すくすくポイント
幼児期に身につけたい“いろいろな動き”

幼児期に身につけたい”動き”について、吉田伊津美さん(東京学芸大学 教授/幼児教育学)にお話しをうかがいました。

動きの獲得

人の動きには「基本となる動き」があります。歩く・走る・跳ぶ・投げる・転がる・引くなど、ほかにもいろいろな基本的な動きがあります。
このような動きを獲得するには、ひとつの動きを繰り返して練習するより、力の入れ方や方向を変えるなど、動きに変化を加えて経験していくほうが身につきやすいといわれています。

例えば、「歩く」という動きに変化を加えると、「すたすた歩く」「静かに歩く」「後ろ向きに歩く」などになります。このような、いろいろな歩き方の経験をすると、「歩く」動きそのものが上達するのです。

動きの獲得に適しているのは「遊び」

いろいろな動きを獲得するために、もっとも適しているのが「遊び」です。

例えば「鬼ごっこ」の中には、いろいろな方向へ走る、スピードを変えながら走る、横向きに走る、よける、振り向く、タッチするために手を伸ばすといった多様な動きがあります。こうして獲得した基本的な動きが、小学校以降の運動の土台となっていきます。

幼児期は、いろいろな動きを身につけやすい時期です。たくさん遊べる環境を整えてあげられるといいですね。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです