教えて! 予防接種の正しい知識
2017年10月14日 放送
生まれて2か月目から始まる予防接種。ママやパパの子どものころといろいろ変わっていますよね。
ここ最近種類が増えたけど、本当にこんなに必要? 接種後の副反応、どんな症状があるのか心配⋯。
そんな予防接種の疑問を、すっきり解決しましょう!
齋藤昭彦(新潟大学医学部・小児科教授)
堀成美(国立国際医療研究センター看護師)
予防接種 本当に必要?
子どもを3人育てています。これまで、何の疑問も持たずに予防接種を受けさせてきましたが、最近になって、本当に必要なのかよくわからなくなってきました。ありがたいことにみんな健康的で、予防接種の効果があるのか実感がありません。予防接種で病気になっていないのか、たまたま病気になっていないだけなのか?今後病気になったとき軽度ですむのか?
子どもの生まれた年で予防接種の内容が違うことにも戸惑いがあります。長女のとき(2010年)は定期接種が5つ、長男のとき(2016年10月~)は8つに増えて、接種のスケジュールも大きく変わりました。
自分が子どものころとも全然違います。自分が受けたことのある予防接種なら、子どもに受けさせても大丈夫かなと思いますが、新しいものは自分に経験がないので何かあったとき大丈夫かなと不安です。
以前にくらべて種類が増えた予防接種は、本当に必要なんでしょうか?
(7歳と3歳の女の子、1歳3か月の男の子をもつママより)
予防接種の効果は感染症予防や病気の根絶
回答:齋藤昭彦さん
この数年で、海外でつくられたワクチンが日本に入ってきて、2013年から制度(予防接種法)が改正されました。このため、今まで接種できなかったワクチンが接種できるようになったのです。
ワクチンの効果は、病気がなくなることで見えないことなので、その効果を実感することができません。ですが、これまでいろいろな病気が予防されて、日本や世界からなくなった病気もあります。
ワクチンを接種しないと、再び流行してしまいます。ワクチンの効果を考えておく必要があります。
小さいうちから予防接種が始まるのはなぜですか?
生後6か月以降に感染症にかかりやすくなる
回答:齋藤昭彦さん
予防接種が早くから始まる理由は、免疫力をつくる子どもの「抗体」の量が関係しています。
生まれてすぐの子どもは、ママからもらったたくさんの抗体で病気から身を守っています。この抗体は徐々に減り、12か月ごろにはほぼなくなります。一方、子どもはいろいろな細菌やウイルスに会い、自身の抗体が徐々につくられます。このとき、抗体の量が最も少なくなる生後6か月以降、感染症にかかりやすくなります。そのため、早くからの準備が必要なのです。
予防の重要性は実感しにくいかもしれないけど大事なこと
回答:堀成美さん
ワクチンによって病気がなくなり、みなさんが感染症のことを怖いと実感できなくなったのは事実です。ですが、お医者さんたちは、入院して危険な状態でいる赤ちゃん、赤ちゃんが亡くなって家族が泣いている、そんな経験をたくさんしています。治療するより病気にならないように守りたい。そこから始まっています。
パパやママから見える「何も起きていない、何を予防しているのかわからない」という風景と、医療関係者から見える「ワクチンがなかったら、また大変なことになる」という風景がかみ合っていない部分があるかもしれません。専門の先生たちが大事だよと言うときは、そういった背景があるからと思ってください。
予防接種はたくさんあります。受けさせるだけでも大変です。どうしてスケジュールが立て込んでいるのですか?
感染しやすい時期にあわせて予防できるようになっている
回答:齋藤昭彦さん
予防接種のスケジュールが立て込んでいるのには理由があります。
(※日本小児科学会 推奨スケジュールを参考に作成)
例えば「4種混合ワクチン(百日ぜき・ポリオ・ジフテリア・破傷風)」は、生後3か月から始まります。このワクチンに含まれる「百日(ひゃくにち)ぜき」は、生後早期にかかりやすい呼吸感染症です。赤ちゃんが感染すると非常に重い症状となり、お亡くなりになるお子さんもいます。予防接種をしっかり受けていれば予防できる病気ですので、できるだけ早く接種する必要があります。
このように、それぞれの病気には感染しやすい時期があり、その時期の前にしっかり接種できるようにスケジュールが組まれています。是非、このスケジュールを信じて、スケジュールに沿った接種をしていただきたいと思います。
体調が悪くて接種できないなど、スケジュール通りにいかない場合はどうしたらいいのでしょう?
医療機関に相談して再調整する
回答:堀成美さん
体調などで、スケジュールがずれることがありますよね。ですが、再調整ができるので、接種を受けることをあきらめないようにしてください。まずは、かかりつけの医療機関で「ずれてしまったのですが、一緒にスケジュールを組んでください」など相談をしてみましょう。
必要な回数を接種することが重要
回答:齋藤昭彦さん
必要な回数を接種することが重要です。可能なら限られた期間で接種するほうがよいのですが、受けそびれた場合には、しっかり回数を守りましょう。
任意接種はどこまで受けさせたらいい?
予防接種には定期接種と任意接種がありますが、任意のものはどこまで受けさせればいいのかわかりません。定期接種と任意接種は何が違うのでしょう。任意を受けさせたほうがよいのでしょうか?
(4か月の女の子をもつパパより)
制度上の違いはあるが重要性に違いはない
回答:齋藤昭彦さん
定期接種と任意接種には法律上の違いがあります。「予防接種法」で定められているものが定期接種のワクチンで、定められていないものが任意接種のワクチンです。区別はあくまで法律上の違いで、赤ちゃんに接種することの重要性には差がありません。どちらも非常に重要なワクチンです。定期接種、任意接種にかかわらず、どちらもしっかり接種していただきたいと思います。
定期接種は国の補助があるのに、任意接種の費用は補助がないの?
任意接種を定期接種にする要望が出ている
回答:堀成美さん
専門の先生たちは、任意接種を定期接種にするように要望書を出すなど働きかけています。
任意接種の費用については、地域によって助成をしているところもあります。一度、お住まいの自治体に確認してみてください。
接種のあとの副反応が心配
子どもの予防接種のことで、パパとたびたび意見が対立します。パパは「保育園にも通っているし、感染もあるから受けた方がいい」といいます。私は正直、複雑です。ワクチンの副反応が心配なのです。
以前、ポリオの生ワクチンを飲んだことで麻痺が出たというニュースを見たことがありました。子どもが4種混合を受けたあと熱を出して心配になったこともあり、リスクをしょってまでワクチンを打たなくてもいいのではと思っています。
夫婦で話し合って、周りに副反応が出ている子もいなかったので、予防接種は受けてはいます。ですが、もしも何かあったらと思うと心配です。
(2歳3か月の男の子をもつママより)
副反応は起こりうることだけど頻度は極めて低い
回答:齋藤昭彦さん
まず、ポリオのニュースは、ポリオが生ワクチンのときの話です。今は不活化ワクチンに変更になっているので、心配しなくても大丈夫です。
ワクチンを接種した後に、起こってほしくないことが起こることを副反応といいますが、これは起こりうることです。そのことは認識しておかなければなりません。しかしながら、その頻度は極めて限られています。ワクチンは、いろいろな形で、多くの検査をして、お子さんにとって安全で大丈夫だというものがつくられています。
熱が出るのも副反応のひとつです。いくつかのワクチンで、接種しておよそ48時間以内に熱が出やすいものが知られています。体の中に、何もないところに免疫ができる物質を入れるので、接種した場所が腫れる、赤くなる、痛くなるなどは起こりうることです。それは起こっても、自然に回復するので心配されてなくても大丈夫です。
また、「アナフィラキシー」というのがあります。ワクチンの成分に反応して起こる強いアレルギー症状のことです。接種してから30分以内、長くても4時間以内に起こることが知られています。体の中で、強い反応が起こり、それによって血圧が下がったり、気を失ってしまうようなことがあります。アナフィラキシーは非常にまれですが、起こりうる反応です。特に最初のワクチンを接種した後は、その反応が起こるかもしれないので、病院で30分程度様子を見てください。
<予防接種の副反応について>
予防接種の副反応は、ワクチンの種類によってそれぞれ違います。例えば、おたふくかぜのワクチンでは「無菌性髄膜炎」という副反応があります。頻度は非常に低いですが、接種後3週間以内に、発熱やおう吐が続いたら、すぐに受診してください。
また、ロタウイルスのワクチンでは、5万接種から10万接種に1回程度、「腸重積(ちょうじゅうせき)」を起こす可能性が高くなることが知られています。もし、最初の接種から7日以内に機嫌が悪い、おう吐、便に血が混じるなどが見られたら、すぐに受診してください。
予防接種の安全性と効果のデータは世界中で蓄積されており、どのワクチンに、どのような副反応が、いつごろ出るのか把握されています。ほとんどの場合、治療などの対応ができるのです。
可能性が低いとはいえ自分の子に起こってほしくない。どう考えればいいのでしょう?
万が一のときに何をすればよいか確認する
回答:堀成美さん
ワクチンは日本だけではなく世界中で接種されていて、そのデータが蓄積されています。まずは、その点を信用していただきたい。
接種して不安なまま家に帰ると、いろいろなことが不安に思えてしまいます。そのようなときは、「何を観察すればいいですか?」と確認しておきましょう。例えば、「熱が出やすいけど、2日以内に下がるから機嫌がよければそのままでいいですよ。」、「こういう状況になったら何時までだったらここに電話してください。その後は市のセンターに電話してください。」など、何をすればよいのかわかると少し安心すると思います。
また、副反応が心配かもしれませんが、接種せずに病気になったときの怖さも知っておいた方がよいですね。
後遺症などのリスクが高い
回答:齋藤昭彦さん
最近「おたふくかぜによって、この2年間で約300人の難聴の患者さんが出た」という報道がありました。ワクチンを接種していれば、そのようなことは起こらないのです。ワクチンによって難聴になることはありません。難聴など起こりうる後遺症をできるだけなくしましょう。そういう手段がせっかくあるわけですから、しっかりと使っていただきたい。
同時にいくつも接種して大丈夫なの?
予防接種のとき、小さい体に何本も同時に注射して大丈夫なのか気になっています。副反応が倍になったり、効果が薄れたりしないのか心配です。
(4歳の男の子と11か月の女の子をもつママより)
効果に変わりなく副反応の頻度も上がらない
回答:齋藤昭彦さん
一度に複数のワクチンを接種することを同時接種といいます。同時接種は、世界では標準的な接種方法です。複数接種することで、効果が落ちたり副反応の頻度が上がることはありません。心配されなくても大丈夫です。
赤ちゃんの体の中には、強い免疫の潜在能力があります。専門家の中では、「ワクチンを接種することは、海の中に、ひとつまみの塩を入れるようなものだ」と言われています。赤ちゃんは、それをしっかりと許容する免疫の力があり、逆にその免疫を引き出すようにワクチンはつくられています。
同時接種でより早くしっかり予防できる
回答:堀成美さん
同時接種をせずに、バラバラに接種すると、その間に病気になるなどして、結果的にスケジュールがずれ込み受け損なうこともあります。ですので、体調のよいときに、同時に終わらせるほうが、親も子どもも負担が少なくすみます。
接種回数は少なくなっていく
回答:齋藤昭彦さん
ヨーロッパなどでは、6種混合ワクチンが使われています。4種混合に、ヒブワクチン、B型肝炎ワクチンが一緒になったものです。日本の子どもたちは、それぞれ別に3回接種しないといけませんが、それが1回ですむわけです。日本でも、こういったワクチンの開発・承認が検討されているようです。
1日も早く導入されて、赤ちゃんの接種回数が少なくなることは、赤ちゃんにとっても重要だと思います。
予防接種が子どものストレスになっていない?
予防接種のときに、娘がいつも私の方を見て「ママ助けて!」と言っているように泣いています。子どものストレスになっていないかと心配です。
(4歳の男の子と11か月の女の子をもつママより)
予防接種のことは覚えていない
回答:齋藤昭彦さん
お気持ちはわかります。接種する側としても、赤ちゃんの目をみると「助けて!」と言っているような感じがありますよ。でも、本人は覚えていないと思いますし、ストレスの心配はないと思います。
にっこりと大丈夫よという表情で
回答:堀成美さん
赤ちゃんが、ママの怖い顔や不安な顔を微妙に察知しているのかもしれません。にっこりと「大丈夫だよ」という表情をしてみましょう。
すくすくポイント
予防接種 気をつけておきたいポイント
予防接種でわからないことや心配なことがありますよね。
そんなとき、気をつけておきたいポイントを堀成美さん(国立国際医療研究センター看護師)に伺いました。
予防接種は、体調のよいときに受けるのが原則と言うけど、平熱でも鼻水やせきがあるときはやめたほうがいい?
回答:堀成美さん
いつも鼻水を垂らしている子がいますが、必ずしもせきや鼻水がワクチンが打てない理由にはなりません。いつもと同じだったら問題なく打てることがほとんどです。
その日の体調はもちろんのこと、ワクチンや副反応について疑問があれば、接種する前にお医者さんとよく相談しましょう。
ママの不安が解消されて、リラックスすると赤ちゃんも安心して受けられるそうです。
何か起こらないか心配なときは?
回答:堀成美さん
「これはワクチンのせいかな?」と簡単にはわからないですよね。気づくためにはふだんとの比較が必要になります。どれくらいふだんと違うか気づけるために、いつもどれくらいの時間に泣いたりするのかなど、観察や記録してみたらどうでしょう。小さいメモや付箋に、何時に寝た、何時にミルク飲んだなどを書いておきます。メモがあれば、よくわからない状態よりも助けになると思います。
予防接種の情報は数が多くて迷う
そんなときは専門家のサイトが参考になります。「日本小児科学会のホームページ」には、学会推奨のスケジュールや、受けそびれたときのキャッチアップスケジュールなど、予防接種の情報が載っています。信頼できる情報を参考にしてくださいね。
日本小児科学会のホームページ
www.jpeds.or.jp
※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです