2022年の育児・介護休業法改正によって、パパが育休を取りやすい制度が整ってきました。しかし、仕事の忙しさや職場の理解のなさなどが理由で、まだパパは育休をとりづらいという声もあります。育休を経験したパパは、今、どんなことを感じているのでしょうか。育休の取得経験のある専門家と一緒に考えます。

「育休の理想と現実(1)ママの言い分編」はこちら

専門家:
天野妙(みらい子育て全国ネットワーク代表)
小﨑恭弘(大阪教育大学教授)

改正育休法のポイント

2022年、「育休法(育児・介護休業法)」が大きく改正されました。次のようなポイントがあります。

個別周知・意向確認の義務化
会社側に、育休をとりたいか個別に確認することが義務化されました。

雇用環境整備の義務化
情報提供や相談窓口の設置など、育休をとりやすい環境を作ることが義務化されました。

取得状況の公表の義務化
1001人以上の企業には、育休の取得状況を公表することが義務づけられました。

さらに、子どもの誕生直後に取得できる「産後パパ育休(出生時育児休業)制度」が新たに作られました。

産後パパ育休制度

子どもがうまれてから8週間以内に4週間の休業を取得できる制度です。

パパは4回に分けて取得できる

産後パパ育休と育休を合計4回に分けて取得できるなど、よりパパが育休をとりやすい制度が整いました。

義務化によって無意識層が育休を考えるきっかけに

天野妙さん

義務化によって、「自分は育休をとるつもりはない」のように、育休を意識していなかった方も、育休を考えるきっかけができるのではないかと期待しています。

制度が複雑になったので、しっかり学ぶ必要がある

小﨑恭弘さん

育休をとりやすくなる一方で、制度が複雑になっています。そのため、うまく活用できる人、面倒と考えてしまう人など、育児・育休の格差ができてしまうかもしれません。制度についてしっかりと学びながら、育休を活用してほしいと思います。


1人目の子どものときは、育休を考えなかった

2人目の子どもが生まれたことをきっかけに、育休を3か月半取得することにしました。
育休中、午前中はお姉ちゃん(2歳3か月)と一緒に公園で思い切り遊びます。家に帰って、シャワーを浴びたあとは丁寧にスキンケアします。以前は、どれだけ塗ればいいのかなど知らないことが多くてもたついていましたが、回数を重ねるうちに少しずつできるようになりました。お昼ごはんの準備も私の担当です。授乳中で大変なママは、下の子に専念してもらい、ほかの家事や育児をできるかぎりしていました。
今は、ママと連携してスムーズに家事育児をこなしていますが、1人目のときは育休を考えもしませんでした。妻ひとりで大丈夫だと思ったんです。でも、ママが初めての育児で奮闘する様子を見て考え方が変わり、2人目の妊娠がわかったときは育休をとることを決意しました。
育休をとって、家事育児の大変さを改めて感じました。1週間では何もわからないまま終わっていたと思うので、ある程度長い期間でサポートすることが大事だと思います。家事育児に専念する時間をとることで、仕事とは別の形で家族を支えている実感を持てるようになりました。
(お子さん2歳3か月・3か月のパパ)

すくすくファミリー(パパ)

1人目のときは、まわりに育休をとっている人がいませんでした。仕事のシフトを考えても取得しにくい雰囲気でした。

すくすくファミリー(パパ)

1人目のときは、育休制度そのものに関心がありませんでした。一部の特別な人のことだと思っていました。2人目のときは、職場で育休を取得する男性も増えてきて、育休法の改正もあって、会社から「育休はどうする?」と確認がありました。1人目のときは聞かれることもなかったので、育休を考える機会をもらって助かりました。その後、妻と話し合って育休をとることにしました。職場の先輩には、「今の人は育休がとりやすくて羨ましい」と言われます。

―― 小﨑さん、みなさんの話を聞いていかがですか?

赤ちゃんと接する経験が少ないので育児のイメージを持ちにくい

小﨑恭弘さん

今、パパもママも、赤ちゃんと接する経験が少ないので、育児のイメージを持ちにくいと思います。そのため、特に1人目のときは、パパが「自分は関係ない、ママ頑張ってね」と思ってしまうことがある。ママも「私がしないといけない」と思って、パパに「いいよ」と言うことがある。
今回のパパたちは、2人目のときに育児の大変さやうれしさに気づいたと思います。これはとても大事なことで、育児のたのしさを知らないパパは、もったいないと思います。ぜひ、ママからも積極的にパパの育休を働きかけてほしいですね。

―― 天野さんは育休法改正にも関わってこられましたが、みなさんの話をどう感じましたか?

実際の変化の話を聞けてうれしい

天野妙さん

これまで、私たちは育休が話題になるように活動し、このような変化を応援してきました。そのため、みなさんの話を本当にうれしいと感じます。話を聞かせてくれたパパのように、上の子の世話をしてくれるのは、ママの立場からとてもうれしいことです。ナイスプレーと言いたいですね。


パパの育休について、会社の理解が足りない…

これまで、長男のときに3か月、次男のときに2か月、2回の育休を取得しました。授乳以外のことは何でもやるつもりでした。子どもが生まれて最初の数か月は一生にそのときしかないので、その経験は今も生きていると思います。でも、会社の対応に苦しい思いをしました。
1回目の育休のときは、新たに社員を採用して業務を引き継いでもらえるなど、会社側が配慮してくれたようにみえました。ところが、育休が明けて職場復帰すると、私がいない期間で新体制に変わって、仕事内容も変わって苦労しました。
それから3年後、2人目の育休を申請したときは、人員の補充はなく今のメンバーでフォローする方針になっていました。そのため、育休中は週2回の午前中出勤、足りない部分はリモートワークでカバーしていました。新生児の大変な時期を、仕事をしながらになり、名ばかりで中途半端な育休でした。かえってママに迷惑をかけてしまったと心苦しく思っています。
2回の育休を通じて、育児に対する会社の理解が足りないと痛感しました。例えば、職場の人に「夜中に子どもが寝なくて、私も寝不足なんですよ」と世間話をしたところ、「それはダメだ。仕事にならないから別の部屋で寝たほうがいい」と言われたんです。たまたま同時期に、突発的に病気で1か月ほど職場から離れていた人がいたのですが、復帰するときは「大丈夫だったか?」とまわりから心配されていました。一方で、育休はとることが迷惑だという雰囲気がありました。
その後、この会社に勤め続けるか悩んで、退職することにしました。しばらくは専業主夫として家族を支えて、将来的に起業などを考えています。
(お子さん2人のパパ)

すくすくファミリー(パパ)

中学校の教員です。育休のとき、私の代わりの先生を探していただきましたが、見つかりませんでした。教員不足の影響が育休にも影響しています。

すくすくファミリー(パパ)

私の職場でも育休の補充や異動はありません。今いる社員で同じ量の仕事をこなしていました。

古坂大魔王さん(MC)

職場で誰かが育休を取得したら、まわりの人にも手当のようなものが出るといいですよね。

天野妙さん

実は、育休を取得した社員の同僚に「応援手当」の支給をはじめた企業もあります。

小﨑恭弘さん

まわりの人たちへの手当は、少しずつはじまってきたところです。やはり、育休をとらない理由に、職場の人たちに迷惑をかけたくない思いがあります。手当が出ることで、お互いに気兼ねなく育休をとったり、サポートし合ったりすることにつながると思います。

―― 小﨑さん、天野さん、みなさんの話を聞いていかがですか?

育休を取得した人のほうが会社への帰属意識が上がる

小﨑恭弘さん

実は、育休を取得した人は、上司やチームへの感謝、会社への帰属意識が上がり、復帰してから頑張ろう、助けてもらった分をフォローしよう、次に誰かが育休を取得するときは助けようとなります。そのように、よい循環が起きるという調査もあります。会社もうまく活用してほしいですね。

育休をとりやすいかどうかで、会社の価値観が見える

天野妙さん

育休を取得した方の話を聞いていると、会社には「やりたいことができたので辞めます」と伝えながら、「本当は育休がとれないことが理由」という方がとても多くいます。育児休業は権利でもあります。会社側も危機感を持って、意識を変えていただきたいと思っています。
また、不確実な時代で、勤めている会社が永続する保証はなく、会社の将来性が大事になると思います。会社の価値観は、育休の取得しやすさからも見えてきます。そういったことを考えて、会社を旅立つときがあってもよいのではないかと思います。


育休・ここが不満!

「育休・ここが不満!」というテーマで、みなさんの話を聞きました。

パパにも産前休業がほしい

パパにも、ママの産休のような、生まれる前の休業がほしいと思いました。下の双子の出産のとき、帝王切開で入院することになったのですが、パパの産前休業があれば、上の子の保育園の送り迎えや、子どもが病気になったときの対応ができると思ったんです。

小﨑恭弘さん

たしかにそうですね。特に、双子のような多胎児の場合は、本当に大変ですよね。出産補助休暇など、出産直前にサポートしている会社もありますが、しっかり社会でケアしていく制度が必要だと思います。

給付金がちょっと遅い…

育児休業給付金はとてもありがたいのですが……ちょっともらえるのが遅いです。
※会社勤めをしている人が、育児休業を取得したときにもらえるお金のこと。

小﨑恭弘さん

給付金は、基本的に会社に勤めている人の給与から引かれている雇用保険が財源になっています。通常は会社の倒産や、会社都合で退職したときにしか使うことがありません。せっかくなので、育休で給付を受けたほうがいいと思います。

天野妙さん

給付金のタイミングが遅いという話をよく聞きます。政府の中には知らない方もいると思いますので、こういった提言があるといいですね。育児休業や休業補償などの給付金は、はやくできるようになっていくのではないかと思います。


育休と自営業、どうやって育児の時間を持つ?

現在、自営業者やフリーランスには育休制度がなく、その恩恵が受けられません。そんな自営業のパパからも声が寄せられました。

5人の子どもを育てています。仕事は自営業で、農業を営みながら、畑で取れた小麦を使ってうどんを作り、お店で提供しています。農作業とうどん店の経営、2足のわらじを履きながら、育児と家事の時間もしっかり確保するようにしています。
自営業には育休制度はなく、給付金もないので、自分で工夫していくしかありません。私の場合は、子育ての時間をつくるために、店の夜の営業を減らして、家に早く帰るようにしました。最終的に夜の営業をやめました。
最初は収入が減ると思い、とても不安でした。でも、営業時間を減らしていくと、なぜか売り上げが上がったのです。時間を減らすことでシンプルになって、集中できたり、それでおいしくなったり、よい影響があったのかもしれません。
(お子さん5人のパパ)

―― 小﨑さん、天野さん、この話を聞いていかがですか?

子どもの誕生を契機に働き方・人生が変わる

小﨑恭弘さん

子どもが生まれたこと、子育てを契機に、自分の働き方や人生が変わることがあります。このパパのケースでは、集中できるようになるなど、仕事にいい影響があって、収入も上がっています。子どものこともできるようになっていて、いい見本だと思います。

家族第一主義への変換が、イノベーションを生む

天野妙さん

売り上げを重視すると、営業時間を延ばしたり、労働時間を増やしたりすることを考えがちです。でも、時間を減らしながら売り上げが上がる場合もある。働き方、営業方法、仕事のしかた・あり方をシンプルにわかりやすくしたことで、イノベーションが生まれたと感じました。家族第一主義に変換したからこそ、なしえたことではないかと思います。


育休を取得してよかったこと

最後に、すくすくファミリーのパパたちに、「育休を取得してよかったこと」を聞きました。みなさん、育休がすばらしい経験になったと感じているようです。

  • パパ友が何人かできて、パパトークがたのしい!
  • 娘が前よりもパパのことを好きになってくれました。
  • 子どもと一緒に農作業をしてたのしんでます。
  • 育休取得中、子どもと過ごしたたくさんの時間は、お金には換えられない大切な財産になりました。

そして、今、育児休業の真っ最中のパパにも話を聞きました。

中学校で教員をしています。育休に入る前、校長先生のはからいで、全校生徒の前で話をさせてもらえました。育児に限らず、体調不良や家庭の都合などで、「休みたいとき」がありますよね。そんなときに、休みたいときに「休みたい」と言える社会をみんなで作っていこうと話したんです。生徒たちからは、「育児がんばってくださいね」「将来子どもができたら育休を取ります」といった声をかけられました。いいメッセージになったようでうれしかったです。
私自身、育休で父親としても教師としてもプラスの変化を感じます。どの生徒にも赤ちゃんの時期があり、大切に育てられて、今ここにいる。そういったことを、自分の子どもを通して実感し、保護者の思いも大切にしたい気持ちが強まりました。
(お子さん1人のパパ)

―― 天野さん、小﨑さん、みなさんの話を聞いていかがですか?

休むためにどう働くか「休み方改革」が必要

天野妙さん

今、「働き方改革」や「職業訓練(学び直し)」が話題ですが、まだ「休み方改革」は進んでいないと思います。これからは、休むためにどう働くのかという視点も大事になるでしょう。「となりの同僚が休まないから休めない」「上司が帰らないから帰れない」といった考え方ではなく、自分自身や家族にとって何がいちばんなのか、どのような生き方をしていくのかを大切にする。育休は、そのようなことを考えるきっかけになります。
育休は、子どもたちに休み方を教える重要な機会にもなります。この先生のケースでは、ほかの先生にとっても、生徒たちにとっても、生徒の保護者にとってもよい見本になるのではないかと感じました。

誰かが一歩を踏み出すとその後に続いていきやすい

小﨑恭弘さん

私がはじめて育休を取得したのは約25年前です。それから社会が変わっていないところがあると思う一方で、今日のパパをみていると確実に変わっているところもあります。そんな変化に目を向けていきたいと思います。
私は、育児休業やパパの育児の話をするとき、「はじめの第一歩を大事にしよう」と言っています。誰かが一歩を踏み出すと、その後に続いていきやすいのです。今回、話を聞かせてくれた方たちのようなパパが、どんどん増えていくといいですね。子育てをもっと自由にたのしめるように、ご機嫌なパパたちと一緒に社会をつくりたいと思います。


鈴木あきえさん(MC)

今後、育休をとる機会があったら、子どもたちにいい家族のかたちを見せられるかもしれないと気づきました。そのときは、まずはパパとしっかり話し合いたいと思います。

古坂大魔王さん(MC)

育児をしてみて、人生が長くなったと感じます。もう1回、生き直してるように思えるんです。それを、ママたちは感じていたんですね。パパたちも育児を通して感じたらいいのではないかと思います。そのためにも、社会が変わっていくようにしていきたいですね。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです