「こどもまんなか」とは、子どもや子育てをしている人の目線で、子どもにとって最善の取り組みを社会の真ん中に置こうというものです。専門家と一緒に「こどもまんなか」について考えます。

専門家・ゲスト:
天野妙(みらい子育て全国ネットワーク代表/キャリアコンサルタント/3児のママ)
木下ゆーき(子育てインフルエンサー/3児のパパ)

今回のテーマについて

2023年は、4月に「こども家庭庁」が発足し、「こどもまんなか元年」といわれています。しかし、日本の子育てを取り巻く環境は厳しいものです。番組に寄せられたアンケートでは、「子育てしにくい・ややしにくい」と答えた人が76%でした。ワンオペ育児、教育費への不安、仕事との両立の悩みなど、切実な声が届いています。

その一方で、もっと子育てしやすい社会にするためのアイデアもたくさん寄せられました。子どもに笑顔でいてほしい。そのためには子育てをする人も笑顔でいることが大事です。リアルな「こどもまんなか」について考えていきましょう。


どうして、キャリアか子どもかの選択を突きつけられるの?

社会人になってから学校に通い、税理士試験に合格。転職してキャリアを重ねてきましたが、1年半ほど前に退職しました。理由の1つは、子どもを望んだことです。長時間の労働や人手不足などもあり、子育てしながら仕事ができるとは思えませんでした。産休中に仕事をフォローしてもらうのも難しく、そのあと復職するような雰囲気ではなかったんです。仕事と育児の両立に自信がなく、土俵が違うのにキャリアと子どもを天秤にかけていました。
今では、悩んでいた何年間かが無駄だったのではないかと感じるぐらい、出産を決断してよかったと思っています。出産後、就活と保活を行い、子育てに理解のある会社に出会うことができました。職場のみなさんに迷惑をかけるのではないかと不安もありますが、もうすぐ復職です。キャリアか子どもかの選択を突きつけられることがなくなればいいのにと感じています。
(お子さん7か月のママ)

鈴木あきえさん(MC)

特に第1子を妊娠したいと思ったとき、「子育てかキャリアか」の2択を考えてしまいました。仕事は好きだけど、このペースで続けるのは精神的にも体力的にも難しいと思ったんです。本当は比べるものではないのに、自分で自分に選択を迫っていました。

木下ゆーきさん

とても共感できます。まだ長男が小さかったころ、私はシングルファーザーでした。そのころ、保育園から「熱が出たので迎えに来てください」という連絡が入ったときがつらかったですね。職場に迷惑をかけるという罪悪感で心が重くなっていました。だから、スマホの電話帳で、保育園の登録名を好きなタレントの名前にしてみました。電話連絡があってもその名前が表示されるので、少しはテンションが上がるかもしれないと思ったんです。

―― すくすくファミリーのみなさんはいかがですか?

  • 歯科医でしたが、妊娠で退職を余儀なくされました。例えば、勤務中に急に体調が悪くなって病院に行くことになれば、そのあとの約束がキャンセルになります。そのため、妊娠後期になる前に、一旦仕事はすべてお休みにしました。
  • これまで育休を2回とりましたが、キャリアとの天秤で悩みました。でも、上司に相談すると「全然取っていいよ」と言われたんです。育休は、キャリアに多少の影響があるかもしれませんが、とても大事な期間だと思います。「復帰後に挽回してやろう」ぐらいの気持ちでいいのかもしれません。

―― 天野さん、キャリアと子育てをどう考えますか?

悩んでいた期間は無駄ではない

回答:天野妙さん

子育てをしていると、子どもの成長や自分のキャリアとの兼ね合いで、何度も仕事をあきらめざるをえないことがあります。私も、そんな気持ちになったことが少なくありません。
ただ「悩んだ期間がもったいない」と思うことはありません。キャリアの開発では「自己理解」が重要です。自己理解とは、自分の「興味・関心」「能力」「価値観」を知ること。でも、自分のことを考える時間は、子育てや仕事をしているとなかなか持てません。その意味では、悩んだ期間は無駄ではなく、そのとき考えた自己理解が、次のステージに行くときに役立つはずです。

子育て支援がないと、企業も社会も持続可能ではなくなる

回答:天野妙さん

今後、子育てを応援しない企業は存続が難しくなると思います。これまで、経済最優先・仕事最優先にして、ほかのことが後回しになっていた時代がありました。その結果が、今の少子化だともいえます。政府も「こどもまんなか」と言いはじめているように、子どもを真ん中に置いて、子どもを育てている人たちをきちんと支援する社会構造にしないと、企業も社会も持続可能ではなくなります。「こどもまんなか」について、改めて考え直して進めていくことが大事だと思います。


体も心も、とにかく手が足りない… どうして子育てしにくいの?

夫婦共働きで毎日時間に追われています。パパは仕事の忙しさもあって、平日の家事育児はママ中心になりがちです。朝は5時に起き、寝るまでノンストップな状態です。

帰宅後の夕食作りは、下の子が甘えてきたり泣いたりするので、対応しながらになります。料理が完成するころにはヘトヘト。子どもたちも保育園で頑張って、親との触れ合いを求めていると感じますが、しないといけないことが多くて、ずっと「もう一人私がいたらいいのに」と思っています。
さらに困っているのが、子育てについての悩みを気軽に相談できるところが少ないことです。両親や兄弟、ママ友はいますが、踏み込んだ相談はできません。
時間に追われながら全てのことをしないといけない焦りと、子どもとちゃんと向き合いたいという気持ちで葛藤しています。うまくできない自分にいらだち、子どもにあたってしまうこともあります。物理的にも精神的にも、子育ての手が足りないと感じています。
(お子さん4歳・1歳7か月のママ)

木下ゆーきさん

子どもに向き合いたいけど、できなくて自暴自棄になってしまう気持ちは、とてもよくわかります。私は「わかってるけど、できない」ではなく、「できてないけど、わかってはいる」と考えるようにしました。心がネガティブにならない気がします。

すくすくファミリー

自分自身を見ているようです。キッチンで食事の準備をしていると、下の子がかまってほしいと言ってきますよね。私の場合、食事の準備のときは、子どもに味見をしてもらうようにしました。つまみ食いのほうに興味がいくんです。

子育てしにくいと感じる、主な4つの理由

番組には、ほかにも「子育てしにくい」という声がたくさん届きました。その理由の主な4つを紹介します。

1. 性別役割分業の意識

家事・子育ては女性がやるべきという考え方が根強く、ママの負担が大きすぎる。実家に頼ることもできず、「全部やれ」と言われても無理。子どもが生まれて、初めて「こんな大変なんだ」と知りました。
(お子さん6歳・3歳のママ)

2. 子育てにお金がかかりすぎる

特に将来の教育費が不安です。児童手当なども所得制限があって、子どもたちの未来が閉ざされている気持ちになります。今のままだと3人目はあきらめるしかありません。
(お子さん3歳・2歳のママ)

3. 仕事が忙しすぎる

パパは仕事が忙しくて、平日起きている子どもの顔をほとんど見られません。ママも子どもが寝た後、持ち帰った仕事のため日常的に寝不足です。イライラして余裕がありません。男性の育休は、制度はあっても「取るな」という圧力が強く、取りたくても取れないパパがいます。
(お子さん7歳・4歳のママ)

4. 子どもに冷たい社会

街なかで子どもが泣くと、舌打ちされることもあります。つらくて、子どもが騒がないよう気をつかって、いつも肩身の狭い思いをしています。「子どもは宝」という言葉を感じたいです。
(お子さん2歳・第2子妊娠中のママ)


日本で子どもを持つと「お金・時間・尊厳」が失われがちなことを改善すべき

天野妙さん

日本では、子どもを持つと稼げるお金の量が減っていきます。今は共働きが多いのですが、片側が時短勤務になると収入が減るわけです。また、子育てにはとても時間がかかり、自分の自由にできる時間が減っていきます。そして、「子ども産んだのは自己責任」と言われたり、時短勤務でだんだん肩身が狭いと感じるようになったり、思い込みの部分があったとしても、尊厳が失われていきます。私は、この3つ「お金・時間・尊厳」が失われていくことがとても心苦しく、改善すべきだと考えています。

日本で子育てが難しいと感じる「親ペナルティー」とは?

日本で子育てが難しいと感じる人が多いのは、「親ペナルティー」が理由の1つだといいます。社会学者の柴田悠さんに話を聞きました。

解説:
柴田悠さん(京都大学大学院 教授/社会学/3児のパパ)

「親ペナルティー」とは、社会学の言葉で、子どもを持つことで幸福感が下がることを指します。日本では、特にママたちにこの傾向が強いという調査結果があります。いったいなぜなのでしょうか。

ワンオペ育児と夫婦関係の悪化

その理由のひとつが夫婦関係の悪化です。家事育児負担が女性に偏って、子どもが生まれるとますます女性に育児負担が加わり、身体的・心理的負担が増えます。これによって夫婦関係が悪化するわけです。
ここで大事なのは、子どもの存在自体は幸福感を低下させていないということです。問題は負担が女性に偏ることの多い、いわゆる「ワンオペ育児」です。これがママ達の幸福感を低下させる大きな要因になっています。

そもそもワンオペ育児は、人類の歴史を振り返っても、ありえない事態です。「昔は母親が1人で育てていた」と言う人がいるかもしれませんが、それは違います。昔は地域や親族全体で、「共同養育」で子どもを育ててきたのです。ヒトは大脳を発達させる必要があるため、成長に時間がかかり、手のかかる子ども期が長くなります。ほかの動物とは違い、母親1人では育てられず、みんなで子育てするのがヒトの育つ状況でした。「ワンオペ育児」はそもそも無理な子育てのスタイルだといえます。

消費生活の満足感の低下

もうひとつ重要なのが消費生活の満足感の低下です。子どもが生まれるとお金がかかります。そして、将来の教育費などのためにお金を制限します。時間もないので、そもそも買い物に行けない、ネットショッピングをする時間も、検索する時間もない。トイレにさえ行けないような状況もあります。
親が追い込まれると、虐待のリスクが高まったり、子どもの社会性の発達に悪影響を与える可能性もあり、子どもにとってもマイナスしかありません。

「親ペナルティー」のない国の取り組み

子育てしやすい国になるためには、「親ペナルティー」のない国の取り組みが参考になります。例えば、フランスや北欧諸国で拡充が進んでいる「私生活と仕事の両立支援(フレックスタイム制・有給休暇・育児休業など)」です。柔軟に働きやすい国では、親であってもなくても幸福感に差がありません。子育て中かどうかに関わらず、誰もが柔軟に働き、生活しやすい国では、社会全体の人びとの幸福感が高くなります。

日本で子育てしている人の幸福感が低いということは、子育てという私生活が守られていない現状をあらわしています。子育ては未来の社会を紡ぐことです。次の社会の担い手を育てるのは、社会全体の責務で、みんなで子どもを育てていく意識が必要です。


古坂大魔王さん(MC)

とても重要なことだと思います。子どもが生まれて親は幸せなはずなのに、幸福感が下がってしまうことが苦しいですよね。

鈴木あきえさん(MC)

「親ペナルティー」という言葉をはじめて聞いたとき、親としてショックでした。私は、妊娠がわかったときや、子どもに会えたときに、これまでにない幸福を感じたんです。でも、この言葉があるんです。日常生活で余裕がなくなってイライラしてしまうのは、親としての幸せと現状とのギャップを自分で認めることができないからなのかもしれません。


「こども・子育てまんなか社会」にするためには?

本当の意味で「こども・子育てまんなか社会」にするためには、どうすればいいのでしょうか。みなさんに聞いてみました。

すくすくファミリー(お子さん3歳・1歳1か月のママ)

子どもを産んで生活が一変しましたが、私自身の人生を考え直す機会にもなりました。育休の人たちが集まるオンラインのコミュニティで、たくさんの方とつながることもできました。つながる機会が多くあるといいなと思います。

すくすくファミリー(お子さん1歳ふたごのママ)

産院と区の方からの勧めもあり、行政の助成のあるシッターサービスを利用しています。自分では「私は大丈夫」と思っていても、シッターの方にお願いしているときに、ぐっすり休めて、とても体が楽になりました。元気になって子育てができるので、とてもいいと思います。みんなが気軽に使えるベビーシッターの助成制度があるといいですね。

すくすくファミリー(お子さん4歳・10か月のママ)

10か月健診のときに、保健師の方に「大丈夫よ」と言ってもらえて、気持ちが軽くなったことがあります。自治体などで「電話で相談できますよ」「市役所や支援センターで相談できますよ」と言いますが、いざ利用しようと思うと敷居が高く感じます。保健師・助産師・保育士などと1対1でゆっくり話せる機会や、コミュニティがあると安心できると思います。

すくすくファミリー(お子さん4歳・2歳10か月のパパ)

育児について相談できる場所はあるのですが、実際に行ってみるとほとんど女性ばかりで、男性の私は利用しづらかった経験があります。自治体などでも、パパも気軽に育児相談できる場ができるといいですね。

木下ゆーきさん

子どもがまだ小さいとき、夜泣きで、だっこして部屋の中を2時間歩き続けて、やっとの思いで寝かしつけた後に、何気なくSNSを見たんです。すると友だちが居酒屋で盛り上がってる写真があって、孤独感にさいなまれたことがあります。同じように子育てに悩んで苦しんでいるパパ・ママが、そっと開いたSNSでクスっと笑える何かを提供したくてSNSで発信しています。そんな子育てを頑張っているパパ・ママが表彰される、ノーベル子育て賞のようなものがあるといいですよね。

―― 天野さん、みなさんの話を聞いていかがでしょうか?

つらさを言葉にすることで社会を変える

天野妙さん

私は、14年間子育てをしていますが、変わらない悩みも、新しく出てくる悩みもあります。ただ、子どもが小さかったころは保育園のお迎えに男性が1人もいないような時代でしたが、今では半分ぐらいになっています。この10年で、大きく変わっていると感じています。私は、みなさんがつらい思いを言葉にして発することで、少しずつ社会が変わっていくと考えています。一人一人ができることをしていただければと思っています。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです