みんないつから英語を始めるの? うちの子もそろそろ始めたほうがいい?
番組でおこなったアンケートの結果、「小学校までに英語を始めたい」と答えた人は84%。
「将来の選択肢が広がる」「英語ができて当たり前になる時代がくる」など、将来を心配して子どもに英語を身につけさせたいという声が多く寄せられました。
英語、そろそろ始めたほうがいいのでしょうか?

専門家:
遠藤利彦(東京大学大学院 教授/発達心理学)
松井智子(東京学芸大学 教授/心理言語学)

英語は早く始めたほうがいいの?

“10か月までに言語回路がグンと伸びる”とか、”LとRを聞き分けることができるのも10か月ごろまで”だと聞いたことがあります。早く始めたほうがいいのでしょうか。
(7か月 男の子のママ)

私自身、学生時代に1年間留学をして英語を話せるようになったという経験があるので、子ども自身が「留学をしたい」「英語の勉強をしたい」と思ってから始めても遅くはないかなと思っています。本当のところはどうなのでしょうか。
(3歳 女の子のママ)

早く始めないと興味を持たないということはない。全く焦る必要はありません。

回答:松井智子さん

全く焦る必要はありません。英語を早いうちから始める理由として、「興味を持たせたい」「嫌いにならないようにしたい」そして「発音や聞き取りがよくなると聞いた」という理由が多いようですね。まず、興味を持たせたいとか、嫌いにならないようにという点については、早く始めるかどうかは全く関係がありません。本当に伸びる時は、子ども自身が興味を持って取り組む時です。そういう時期が来てから始めるといいのではないでしょうか。詰め込みすぎて嫌いになってしまう可能性もありますので、興味を持っているかどうか、子どもの様子をよく見て判断する必要があります。

外国語の発音が聞き取れなくなるのは、「母語」である言語の習得に必要なステップ。

回答:松井智子さん

9か月ごろまでに英語を始めると発音や聞き取りが良くなるという話は、みなさんどこかで耳にしたことがあるかもしれません。それは、アメリカのワシントン大学、パトリシア・クール教授による「音の聞き取り」に関する研究が元になったものと思われます。
その研究では、赤ちゃんは生後9か月ごろまでは全ての言語の音を聞き取れますが、10か月を過ぎると、自然に身につく「母語」の音だけをよく聞き取れるようになるというものです。でも実は、これは必ずしも残念なことではないとその研究でも言われています。
9か月ぐらいまで、いろいろな言語の音を聞き分けられるのには理由があります。子どもは自分にとってどの言語が母語になるか分からない状態、つまり、どの言語にも適応できる状態で生まれてきます。そして、その子とよく触れ合う人の言語を聞いているうちに、「これが母語になるのだな」と分かるようになります。すると、それ以外の言語の音声はあまり必要なくなる、ということで、必要のある言語に特化する、という状態になっているのです。その後、およそ10か月以降に、母語の語彙や単語の習得が始まります。母語に特化した聞き取りができることが、ことばの獲得を促進するための一つの条件だと考えるとわかりやすいと思います。

「母語」とは?

子どもが最初に接する言語、毎日のように聞いて、自然に身につける言語を「母語」と言います。母語である言語が身につくと、気持ちを表現したり、ものごとを理解したり、その言語でものを考えるようになります。特に学校に入ってから勉強をする時や、少し難しいことを考える時、母語の力がしっかり身についていれば、新しいことを学習することもできるようになります。学校に入る前までに、母語である言語を習得しておくことはとても大切です。


英語を身近に感じてもらうために、2歳の息子に時々英語で話しかけています。英語の歌に合わせて自分で歌っていることもあるのですが、最近おしゃべりが上手になった息子は、「やだ。英語、怖い」などと言って、私が英語で話しかけるのを嫌がるようになってしまいました。ネットを見ると、妊娠中から英語を効かせるような教材もある中、2歳だと遅すぎたのかなとも思います。どうして怖いと言うのでしょうか。
(2歳 男の子のママ)

いつもと違う様子のお母さんに違和感があるのかもしれません。

回答:遠藤利彦さん

お子さんは、本当に怖がっているわけではないと思います。ただ、もっと他にやりたいことがある時や、お母さんといろいろなコミュニケーションを取りたいと思っているときにお母さんから英語で話しかけられると戸惑ってしまいますね。いつもと少し様子が違うお母さんから、「英語を勉強しようね」という雰囲気を感じて、嫌だと思っているのかもしれません。


ことばを学ぶための3つのステップ

解説:針生悦子さん(東京大学大学院 教授/発達心理学)

子どもは、人とのやりとりの中でことばを学んでいきます。動画や音楽、音声などを一方的に流すだけで、人とのやりとりがない状態でことばを身につけようとするのは難しいでしょう。
ことばを学ぶためには次の3つのステップがあります。

STEP1 ことばの発見

そもそも赤ちゃんは、「ことば」というものが何なのか知りません。
「ママが口から出している音は何だろう?」と、いう興味から始まり、「あれで気持ちを伝え合うんだ」ということを、周りの人が話している様子を見ることや、人とのやりとりを通して発見していきます。

STEP2 単語の発見

ことばの概念がわかったら、次に、音を聞き分け、ことばのかたまりを見つけます。
お母さんが「まめ」と言うのと、おじいちゃんがしわがれた声で「まめ」と言うのでは、声としては違うけれども同じことを言っているということがわかるようになります。
声が違っても、「ま」と「め」という音のつながりは、「この丸いモノをさすんだな」ということを自分で見つけていくのです。

STEP3 文法の発見

単語の発見と並行して、文にはルールがあることも発見します。
例えば、「熊が 学校に行きます」「熊は 今日は機嫌が悪い」「熊を 追いかけろ」という文章の主語はみんな「熊」ですが、「熊」は名詞なので、その後に「が」「は」「を」などが付きます。
さらに、「熊る」「熊らない」など、動詞のような使われ方はしないというルールを自然に学びながら、単語を適切につなげて、意味のある文をつくることができるようになっていきます。

こうした3つのステップを踏んで、ある程度の文が話せるようになるまでにおよそ3年かかります。個人差はありますが、3歳ごろには、約1000語のことばを獲得しているといわれています。
母語であっても1日24時間、3年間でようやく3歳児程度に話せるようになるわけですから、そこに母語以外の別の言語を入れてしまうと、母語の習得の時間が減ることになります。1日は限られていますから、別の言語の時間も24時間というわけにはいきません。
実際にバイリンガル(母語と他言語を話す)のお子さんのボキャブラリーは、モノリンガル(母語のみを話す)のお子さんの、それぞれの言語の半分ずつくらいで、二つの言語を合わせてモノリンガルのお子さんと同じくらいだと言われています。


英語を効率よく身につけるにはいつから始めるといいの?

母語の基礎を獲得する9、10歳以降から始めると効率がよいと言われています。

回答:松井智子さん

きっとみなさんは、効率よく英語を身につけさせたいと考えていらっしゃるのだと思います。
子どもを早くから英語に触れさせることも否定はしませんが、9歳までは母語獲得の基礎段階です。日常話すことばを身につけるなど読み書きの基礎をひと通り習得します。9~10歳以降は、母語の発展段階。より高度な読解や、作文を書く。抽象的な概念を使いこなすことができるようになっていきます。
基礎段階を終えてから英語を始めると効率がよいとさまざまな研究でいわれています。
実際にバイリンガルの環境であるカナダでこうした研究が多いのですが、9歳までは母語だけを使い、それ以降に初めて英語に触れて学習し始めた子どもは、小さいころからカナダに移住してきた子どもよりも、その後、学習したことばが伸びるのが早かったという研究があります。


大人になってからでも英語は話せるようになるの?

私自身、子どものころから英語は好きで、大学でも英語を学んでいましたが、私の頑張りが足りなかったこともあるとは思いますが、話せるようにはなりませんでした。英語を大人になってから獲得することはすごく難しいと思っています。大人になってからでも身につけることはできるのでしょうか。
(2歳 男の子のママ)

大人になってからでも大丈夫。自分で取り組むことで効率よく伸びます。

回答:松井智子さん

基本的にはいつからでも大丈夫です。実際に大人になってから海外に行って生活している方もいらっしゃいますよね。大人になってからだと、例えば少し大変でも、「今日は何時間勉強しよう」というように、自分で意識的な取り組みができます。
小さい子どもにはそういうことはできませんので、自分で本当に身につけたいと思って取り組むことで、大人になってからでもやはり効率よく早く伸びると言えます。
また、発音については、今はグローバルな時代ですから、さまざまな母語を持つ人たちが英語を話します。ネイティブのような発音でないと通じないという場面は、みなさんが想像しているほど多くはないと思いますよ。実際には「何を伝えるのか」ということが重要です。

「人とつながりたい」という思いが「ことばを獲得したい」という気持ちになる。

回答:遠藤利彦さん

ことばは、コミュニケーションの道具です。自分の気持ちをどうやって相手に伝えるか、相手の気持ちをどうやって受け取るかということが大事です。「人とつながりたい」という思いがあって初めて、「ことばを獲得したい」という気持ちが強くなります。何歳から始めても、それは遅くはないと思います。
例えば子ども同士で、全く言語が違っていても、いつの間にか一緒にじゃれ合って遊んだり、けんかをしたりすることがあります。そしてまた、けんかをしていたと思ったら、仲直りをしているようなことがあります。そういう楽しい雰囲気や遊びの中で、自分と言語の違う友達と一緒に遊んでみたいな、話をしてみたいなと思えるような機会のある場に活動範囲を広げることは、ひとつ効率的な方法なのかもしれませんね。


専門家から
これだけは言っておきたいメッセージ

豊かな母語のやりとりを通してことばのセンスを磨きましょう。

松井智子さん

まずは、豊かな母語でのコミュニケーションから始めていかれるのがいいのではないかと思います。母語を通して子どものことばのセンスを磨いていくと、おそらく外国語に接した時も、同じセンスで興味を持ってくれるはずです。

ことばの土台づくりは赤ちゃんのときから。「気持ちが伝わる」経験を大切に。

遠藤利彦さん

赤ちゃんの段階から、視線、表情、声の調子などでお互いに気持ちと気持ちが反応しています。「気持ちがちゃんと伝わる」という経験の上に、ことばが身についていきますので、そこを大切にしていただきたいと思います。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです