新型コロナウイルスとこれからの子育て(2)
子どもの教育を考える機会に


2020年6月3日

新型コロナウイルスの影響で、「人との距離をとる」「オンラインでのやりとりが増える」など、暮らしが大きく変化しています。子育ては今後どうなっていくのでしょうか? 子育てをどう乗り切っていったらいいのでしょうか? 専門家とともに考えます。

今回は、教育学・育児学が専門で、日本や世界の教育内容や制度などにも詳しい汐見稔幸さんに伺いました。
(2020年5月18日 インタビュー)


汐見稔幸さん
東京大学 名誉教授/教育学

今回の新型コロナの問題では、「外へ出かけていって、人と対面で接して、活発に議論して」というスタイルではなくなり、「人と接触することをできるだけ避ける」というように、従来と違う論理で生活することを強いられていました。そんな生活をしている中で、「人から離れたい要求。そして、人と接したい要求。そのバランスが大事」と、人間関係のあり方が問われている感じがしています。そして、こういう変化が、子どもの教育に与える影響もあるのではないか、とも考えています。

例えば学校について。もともと、学校というところは、子どもが集まって学習する場でしたが、集団でいることで「ひとりひとりが大事にされている」という感覚があまり体験できなかったのではないかと思います。集団の中の変な力学が働いてしまったり、子どもが集団の秩序を勝手につくろうとしたりして、そこからはみ出た子をいじめる、というようなことが起きる。集団での関係というのは、うまく行ったときはとてもありがたいものです。しかし、うまく行かなかったときはこんなに苦しいものはありません。子どもによっては、集団の中で苦しんだまま学習をするということになり、本来の学習には至らないケースも出てきます。

ところがオンライン授業になると、家にいて、画面上で先生と対峙できる。つまり、僕と先生という1対1の関係ができます。そうすると、集団の中で気を遣わなくてよくなるので、分からないことは分からないと言えるようになったりする。これまではあまり発言しなかったような子が、グループ授業で発言するようになると、「それは面白いね!」「質問してくれたから、おかげで自分もわかってありがたい」なんて、みんなも発言するようになっていく。そうすると、新たな授業の面白さがいっぱい出てくると思うんです。それって本来の学習の姿でもあるんですよね。
こんなふうに、オンライン授業で、ひとりひとりの良さや個性が出てくると、実際に学校に行ったときにも、直接みんなで話し合うのが楽しくなる。こんなふうにしていくことができれば、学校の中での人間関係が、集団、先生との1対1、子ども同士のグループ、と多様になっていく可能性があるんじゃないか、ということを今回の新型コロナで考えさせられました。

今回の新型コロナ対応については、誰も正解をもっていない状態です。だから、みんなで、こうじゃないか、ああじゃないかって、調査したり、知恵を出し合ったりする必要があった。教育でもそれと同じで、教えられたことをただ覚えるんじゃなくて、自分なりに調べて意見を言うとか、みんなで議論をするとか、そういう能力を鍛えていくことが学校のいちばん大事な役割だったんだということが、はっきりと示されたような気がしています。教育の内容や育児、保育なども、「ママの言うことを聞きなさい」「先生が指示したとおりにやるといいよ」っていうのではなくて、親子でも「〇〇ちゃん、どう思う?」「どうしてそう思うの?」など、少しずつ議論し合う力みたいなものを育てていくことがいちばん大事になってくるんじゃないかな。そういうふうに新しい発見をして変わっていかないとね。新型コロナでは、つらい思い、不自由な思いをたくさんしたんだから、できればそこから学びたいな、と思います。


みなさんへのメッセージ

外出自粛や登園自粛などで、子育て中の方たちは、子どもとの関わり方を改めて考えることになったと思います。それと同時に、「子どもと関わる時間と自分の時間のバランスをどうとるか?」「仕事と家族で過ごす時間のバランスはどうする?」「通勤時間がなくなると、いろんなことができるかも⋯」などなど、どんな生活のしかたが合理的なんだろうか、今の時代に必要なんだろうか、ということを考えることになったのではないかと思います。そういう意味で、育児は生活であり、文化であるといえます。
個人的には、「家族」と「会社」、その中間にあたる存在がないことが窮屈だ、ということに気づく人が今後増えていくのではないかと感じています。昔あった縁側のように、お年寄りも赤ちゃんも、地域のいろんな人がそこに集まれる場所をつくることで、もっと暮らしていくことが楽になったり、潤いが出てきたりするのではないか、と思います。
いったいどういう生活がこれから大事になるのかな?ということについて、みんなで意見を出し合って、ワイワイ議論し合っていくっていうことを、ぜひやっていければと思います。