専門家からのアドバイス・メッセージ(10)
子どもと遊び、家族の関係について


2020年4月23日

新型コロナウイルスの影響で、外出もままならず、不安・イライラが募る⋯⋯ 子育て中のみなさんから、さまざまな不安の声が番組に寄せられています。こうした不安の声や質問について、「すくすく子育て」でおなじみの専門家の方たちから、回答やアドバイス、メッセージを寄せていただきました。

今回は、教育学・育児学が専門で、日本や世界の教育内容や制度などにも詳しい汐見稔幸さん(東京大学 名誉教授/教育学)です。


子どもと過ごす時間が増えたので、子どものためになることをやりたい

幼稚園が新型コロナウィルスの影響で休園になり、子どもと過ごす時間が増えました。この期間に何か子どものためになることをやってあげられればと思いますが、どのようにして過ごせばよいのでしょうか?

回答:汐見稔幸さん

「ふだん、子どもにしてあげたかったけれど、時間がなくてできなかったこと」を見つけるのがいいと思うのですが、私からの提案として「遊び」を再発見する、というのはどうでしょう? 幼児教育の世界ではいま、子どもの成長にとって「遊び」が最も大事だということがわかってきています。子どもと家庭で過ごす時間が増えた今だからこそ、「あそび」の充実を図ることは、子どもの発達にとって、とてもいい時間になると思うのです。

でも、「遊びを充実させる」といっても、家庭でどうすればいいのか? ――とても難しいことだと思われるかもしれません。そこで、私が提案したいのは「つくる」遊びです。

例えば、ねんどをこねて感触を楽しみながら、いろんな形をつくる遊びでもいいと思いますし、チラシや新聞をびりびり破いて、紙にペタペタと貼ってアート作品をつくるのも面白いと思います。

子どもの年齢やタイプによっては、ひとりで何かをつくるということは難しい作業かもしれません。大人はついつい、「こうやったらいいのに」と口を出したくなるものですが、ここはぐっと我慢して、親も子どもの横に並んで遊びを楽しんでみましょう。このとき、「それ面白いね!そういう遊び方もあるのね!」と共感する声かけをしながら、子どものマネをしてみるのもいいかもしれません。パパやママが楽しそうにつくる姿を見て、子どものほうが「自分もやってみたい!」とマネすることもあるかもしれませんね。こんなふうに一緒に楽しむ雰囲気をつくることで、子どもが「何かいいものをつくってみたい!」と思うようになるといいですね。子どもが何かつくりあげたなら、「すごいのができたね」と、作品のいいところをほめてあげたり、部屋に飾ってあげたりしてほしいですね。そうすると、工夫したらこんなにすてきなものができるんだ! という達成感を子どもに持たせてあげることもできます。

なぜそこまで「遊び」が大切なのでしょうか。それは、子どもに「将来を切り開く力」が身につくからだと考えられています。今の子どもたちが大人になる社会は、AI(人工知能)社会になるのではないかといわれています。人工知能に人間の仕事がとって代わられてしまうのではないか、などという不安の声を耳にしたことがある方もいらっしゃるでしょう。

では、ロボットやAIには絶対にできない、人間だけができる大事な仕事とは何でしょうか。
それは、答えが見つかっていない問題を解いていくことです。

いま、世界には地球温暖化や人口減少など、大きな問題が山積しています。そして、新型コロナウイルスの感染拡大により、世界中の人々が先行きの見えない不安の中にいます。
そうした前例がない問題が次々と降りかかってくる中で、社会を持続していくためには、新しい答えを生み出し続けていくことが必要です。これからの時代を生きる子どもたちは新しい答え、つまり「解」のない「問い」に答える力を身につけていく必要があるのです。

では、答えをつくり出す力を身につけるためには、どうすればいいか。それは「遊び」という活動をすることです。

例えば、遊びのなかで何かをつくるのも、アート作品にも正解はありませんよね。
「こうやったら面白い!」「こっちのほうがきれいだよ」などという試行錯誤を重ねて、自分なりの答えをつくっていく活動が「遊び」なのです。このことが、答えが見つかっていない問題に対して答えを生み出す力につながっていくのです。

こうした力を身につけるために、“どれだけ豊かに遊ばせられるか”ということが、幼児教育の専門家たちによる研究の重要なテーマになっています。

現代の子育ては、親の生活に子どもを巻き込んでしまうことがどうしても多いですね。だから、いま家で過ごす時間が長いぶん、子どもとじっくり「遊ぶ」時間が増えるといいですね。


夫婦でお互いにイライラすることが増えてしまいました⋯

リモートワークで夫婦がそろって家にいるようになり、そのことでお互いイライラしてしまうことも増えました。どのように夫婦関係を保っていけばよいのでしょうか?

回答:汐見稔幸さん

この時期は、夫婦関係を作り直す良い機会だと考えています。

先が見えない世の中でみなさんの心の中はイライラとか不安でいっぱいになっていると思います。それってすごくストレスになりますよね。そうすると、ちょっとした相手のしぐさとか、言動に対してカチンときてしまうものです。それを乗り越えるためには、相手の考えていることを共有することが大切です。共有できる希望や目標をもてると、夫婦の関係が変わってくるのではないでしょうか。

現代の夫婦はそもそも、お互いの考えを話す時間が少ないように思います。
その背景には長時間労働で生活がすれ違っていたり、お互い仕事の話を持ち込まないようにしているということもあるかもしれません。でも、そうすると事務的な会話ばかりになって、共有する話題もなくなり、次第にお互いがどんなことを考えているのかすら、わからなくなっていってしまいます。こうなると相手の意見を大事にできません。意見が違ったときにイライラしてしまいます。
一方でお互いに共有するものが豊かであると、「そういう考えもあるよね。でも、私はこう思うの」と、お互いの意見も尊重しながら議論ができるのです。

共有するものを豊かにする、とは、具体的にどうしたらいいのでしょう?

せっかく夫婦の時間が増えている今だからこそ、一緒に食事を作るのもいいと思います。そうするとお互いが食べたいものを共有できる、これは言ってみれば、2人の「食べたい」という希望を共有することにもなります。一緒に映画やテレビをみながら感想を語り合うのもいいですね。
このように、ささやかなことをきっかけにしていけばいいのだと思います。そこからさらに、どんな家族を築いていけばよいのか、どんな人生にしていきたいのかを共有できるような語り合いにつながるといいですね。


子育てをしているみなさん、親へのメッセージ

汐見稔幸さん

この状況を逆手にとって、子どもの心や豊かな感情を育てる時間だと考えてみませんか?

「Q2」では、夫婦で語り合うことの大切さを述べましたが、子どもの心を育てるためには、子どもと語り合うことが大切だと思います。
以前の生活では、子どもと過ごす時間が限られていて、なかなか語り合うなんていうことはできなかったのではないでしょうか? 忙しい生活の中では、つい、「やめなさい」「何をやっているの?」「早くしなさい」など規制的な関わり方になってしまっていた、という方も多いのではないでしょうか?
子どもと過ごす時間が増えた今だからこそ、何かを決めるときには、子どもと一緒に語り合いながら決めるということをぜひやってほしいと思います。

では、子どもとの議論、語り合いはどのようにしたらよいのでしょうか?

「おもしろいね、その発想がすごいね」と子どもの意見をまずは認めてあげて、「どうしてそう思ったの?」「次はどうするの?」というふうに話を聞くのです。子どもはちゃんと自分の話を聞いてもらい、自分の意見を認めてもらえると、自分は大事にされているんだという感覚を持つことができます。
こうした経験を積み重ねることで、自分のことも、相手のことも大事にする心や感情が育ちます。

言葉をもたない赤ちゃんとも語り合うことはできます。
しっかりと顔を見て、言葉できちんと語りかけてあげてください。赤ちゃんには意味がちゃんとわからなくても、「きょうはね、ママはね、こんなことあったのよ、きいてくれる?」とか、例えばトイレに行くときにも「ちょっと、トイレに行くからいなくなるけれど、いい?」ってちゃんと言葉にしてみるのです。
「ん?」という顔をしたら、それが小さな子どもにとっての言葉なのです。それに対して、「わかってくれたの?うれしい!」といって受け止めてあげてください。すると、子どもは言葉ってすごく大事なんだなっていうことがわかってきます。さらに、言葉の意味に敏感になり、言葉を丁寧に使う子になっていくんですよ。

この機会に子どもと語り合う時間をもってもらいたいと思います。
そうして親子の関係を濃密なものにしていってもらえるといいなと思います。

とはいっても、親のほうも仕事があったり家事があったりして、無限に時間があるわけではありませんよね。時間を決めるなどして、無理のない程度に取り入れてみてください。