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研究内容紹介

1.3 3次元映像デバイス技術

超高密度空間光変調器の研究

 自然な3次元(3D)映像を表示することができる電子ホログラフィーの研究に取り組んでいる。広い視域の3次元像を表示するためには、これまでにない微細な画素で構成される空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)の開発が必要である。
 当所では、微小磁性体を画素とするスピン注入型SLM(スピンSLM)の研究を進めている。スピンSLMは、磁性体の磁化の向き(磁化方向)に応じて反射光の偏光面が回転する現象(磁気光学効果)を利用し、光を変調するデバイスである。これまでに、磁性体にパルス電流を流すことで磁壁が移動し、磁化方向を反転できる素子(磁壁移動型スピン光変調素子)の試作と基本動作検証に成功した。
 2018年度は、ガドリニウム鉄合金から成る光変調部の組成を最適化し、1μm×2μmサイズの微小トランジスターで駆動可能な0.8mAの低電流化を達成した。さらに、この組成で0.5μm×2μmサイズの素子を試作し、光変調動作を評価した(図1-13)。光変調部の両端には電極および磁化方向の異なるナノマグネット(NM1、NM2)がそれぞれ配置されており、ナノマグネットを経由して光変調部に電流が流れる構造である。光変調部の端部には、ナノマグネットからの局所磁界により、初期磁区が形成される。ここで、電流を右(左)から左(右)へ流すと磁壁移動により初期磁区の領域が光変調部の全領域にまで拡大し、反射光のON(白)/OFF(黒)動作が確認された。これにより、微小素子による光変調動作の実証に成功した(1)



図1-13 磁壁移動型スピン光変調素子の光変調動作

光フェーズドアレーの要素技術の研究

 インテグラル3Dディスプレーの飛躍的な性能向上を目指し、レンズアレーを用いずに各画素から出力される光線の方向を高速に制御することができる光偏向デバイスの研究を進めている。光偏向デバイスとして、複数の光導波路(チャンネル)から成る光フェーズドアレー(OPA:Optical Phased Arrays)に着目し、特に、各チャンネルで、電圧の印加で屈折率を超高速に変化させることができる電気光学(EO: Electro-Optic)ポリマーを用いたOPAを設計・試作し、評価した。
 試作したEOポリマーOPAは、チャンネルごとに電圧を印加し、EOポリマーの屈折率を変化させて光の位相を制御することで、出力される光線(光ビーム)の方向を自在に変えることができる。これまでに、8チャンネル構造のOPAを設計・試作し、±3.2度の光偏向動作を実証した。
 2018年度は、屈折率差の大きな材料を光導波路に用いて、導波路内に光を強く閉じ込める技術を開発し、チャンネル間のクロストークを低減した。この技術により、OPAの出力チャンネルを4μmにまで狭ピッチ化することが可能となり、22.1度の光偏向動作に成功した。さらに、デバイスの最適なレイアウト設計により、光導波路の湾曲部や分岐部などで生じる光の伝播損失を抑制し、光ビームパターンの不要な迷光成分を大幅に低減した。その結果、試作したOPAにおける光ビーム強度のピーク値が増大し、200kHzの高速光ビーム走査にも成功した(2)(図1-14)。



図1-14 光フェーズドアレーの実験結果

 

〔参考文献〕
(1) 東田,船橋,青島,町田:“電子ホログラフィ応用を目指したWスピン磁壁移動型光変調素子,”映情学年次大,32C-3 (2018)
(2) 平野,宮本,本山,町田,田中,山田,大友,菊池:“電気光学ポリマーを用いた4μmピッチ光フェーズドアレイによる偏向動作,”映情学誌,Vol.73, No.2,pp. 392-396 (2019)