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米国における地上デジタル放送の技術的革新への挑戦
Lynn CLAUDY / 全米放送事業者協会(NAB)副会長
↓概要
- 概要
- 本稿の表題に示した放送の技術的革新に関する最初の質問に戻る。その質問とは「研究開発が市場を活性化するのか,逆に,市場が研究開発を活性化するのか?」である。もうおわかりのように,これは意地の悪い質問である。なぜなら,この質問には二者択一の回答がないからである。すなわち,その正しい回答は両方ともYesなのである。研究開発は市場にとって重要であり,市場は研究開発にとって重要なのである。それらはお互いにフィードバックする必要がある。私は,我々がこれらの両方のアプローチを取ることができると期待し,それにより放送サービスが世界中でより強力なものとなるよう希望している。
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RAIにおける技術研究の位置づけとNHKとの連携
Albert MORELLO / RAI 研究所長
↓概要
- 概要
- NHK技研,BBC,IRTおよびRAIの間で,2007年度から非常に実り多い協力関係をスタートさせた。ヨーロッパにおける研究所の時間的な枠組み(研究期間)はNHK技研のそれよりはずっと短期間のものだが,重要な共通分野を見つけることができ,研究活動や協力関係が始まり,実質的な成果が生まれてきている。RAI研究所は,この協力関係で非常に優れた研究成果を得るためには,NHK技研が持つ大きなリソース,卓越性,そして,日本の産業界との密接な関係というものが最も重要なことの1つであると考えている。
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NHK技研ビジョン“YOU”
谷岡 健吉 / NHK放送技術研究所長
↓概要
- 概要
- 放送は,視聴者に伝える情報をより豊かに,より高度にするために,また,その情報を視聴者に伝えるための仕組みをより高度化するために新しい技術を開発し発展してきた。新しい技研ビジョン“YOU”では放送の基本である「視聴者に伝える情報」と「それを伝えるための仕組み」においてイノベーション(技術革新)を図り,新たな放送を実現したいという考えを示している。それを表すのが「感じる」と「つながる」というキーフレーズである。「感じる」とは「高質感・空間再現メディア」の実現,すなわち,「伝える情報の質」のイノベーションである。放送はラジオからハイビジョンへと進化してきた。そして,スーパーハイビジョンでは,超高精細映像と3D音響によって,「これまで以上の高臨場感」あるいは「伝えることが困難であった高質感」を伝えたいと考えている。技研ビジョン“YOU”では,このスーパーハイビジョンの「高臨場感」「高質感」を家庭でもご覧いただくための研究を中心に据えるとともに,更に将来の目標として,特殊な眼鏡が不要でしかも自然な3D映像と音響・触覚情報などによる「現実感」「体感」を視聴者に伝えることを目指している。「つながる」とは「伝えるための仕組み」のイノベーションである。放送における情報を伝える技術の基本は同報性・同時性を有する無線技術である。これまで,無線技術をベースに豊かな情報を「どこでも」享受できる仕組み(放送方式)を研究・開発し,放送の発展を支えてきた。今後,視聴スタイルや視聴者の嗜好(しこう)の多様化,更に,情報を受けるだけでなく視聴者から情報を積極的に発信するという視聴者意識の変化など,視聴者を取り巻く状況はますます複雑化していくことが予想される。このような状況で,視聴者一人一人の要望に沿って「いつでも,どこでも,誰にでも優しく」情報を伝えるために視聴者と放送局とが「つながる」新しい視聴者サービスの研究・開発を推進する。このような「感じる」「つながる」放送を実現するためには,新しい分野,幅広い分野の研究を行うことが必要となる。すなわち,新たな放送技術分野を開拓するとともに外部との積極的な連携など,研究推進のための施策が重要となる。具体的には,放送現場との連携,国内外の外部研究機関との連携,国際標準化活動における寄与,知的財産権の重視などがあげられる。これらのさまざまな施策により,次世代の放送や放送メディアの開発に先導性を発揮し,研究成果を視聴者や社会に着実に還元していきたい。