No.108 2008年3月発行

音の聴こえと認知 特集号

※概要のみ公開しています。

巻頭言

  • What makes audio sound good
    Francis Rumsey / Research advisor
    ↓概要

    概要
    This issue of the NHK R&D bulletin is concerned with‘Perception and recognition of sound’.In particular it contains some interesting articles on the way in which human listeners respond to reproduced sound,including an emphasis on the emotional response that arises when certain types of sound or music are played.It leads me to ask the apparently simple question:‘What makes audio sound good?’By audio,I mean reproduced sound of one sort or another,using loudspeakers or headphones,as opposed to naturally occurring sound.

解説・報告

  • 高臨場感音響システムとその評価
    伊藤 崇之 / 人間・情報、安藤 彰男 / 人間・情報
    ↓概要

    概要
    NHK技研では,究極の高臨場感音響を家庭に届けるための研究を進めている。高臨場感音響を実現する方式として,従来からさまざまな方式が提案されている。本来ならば,これらの方式を臨場感という観点から比較すべきであるが,その段階には至っていない。音の評価は先入観や他の感覚の影響を受けやすく,音の臨場感を安定して評価するための手法が実現されていないことも,その一因となっている。本稿では,高臨場感音響を実現するシステムの現状を述べた後,音の臨場感を評価する際の問題とこれを解決するための研究の方向性について解説する。
  • 音楽心理学の研究動向
    谷口 高士 / 大阪学院大学情報学部
    ↓概要

    概要
    「音楽心理学」という分野が世の中にあることやその内容を多くの方はご存じないかもしれない。音そのものの性質や音を扱うシステムに関しては音響工学,人間が音をどのように聞き取るかに関しては聴覚心理学や聴覚生理学,音楽のルールに関しては音楽学などといった分野があり,それぞれに確固たる立場を築いている。しかし,音楽心理学と聞くと,人はしばしば「音楽療法」や「癒やし音楽」には効果があるのか,音楽を聞かせると牛乳の出が良くなるというのは本当か,あるいは,ヒット曲を作るにはどうしたらよいのかといった質問を投げかけてくる。確かに,そのようなことも研究動機としてはあり得るのだが,実際に音楽心理学の研究がアプリケーションレベルに達することはそれほど多くはないというのが現状である。
  • 音質の客観測定法
    渡辺 馨 / 人間・情報
    ↓概要

    概要
    デジタル放送では映像やオーディオ信号を少ないビットレート*2 で効率よく圧縮して放送を行っている。オーディオ信号では聴感的に影響の少ない領域に,圧縮に伴うノイズ成分を生じるように制御する「知覚符号化」が用いられる。この符号化音の音質を評価する理想的な方法は主観評価であるが,主観評価には多大な時間や労力を要し,日常的な音質評価には適さない。そこで,人が聞いたときの主観的な音質をオーディオ信号の物理的な特徴量から定量的に推定する音質の客観測定法が望まれている。ITU-Rにおいて規定されたPEAQ(Perceptual Evaluation of Audio Quality)測定法は,聴覚マスキングなど「聴覚モデル」を巧みに取り入れることで,主観的な音質を精度よく測定することができる。本稿では,音質の客観測定法の分類,PEAQ測定法の測定アルゴリズムとその基礎となる聴覚知覚など音質の客観測定法の動向について解説する。

論 文

  • 高齢者の聴覚補助機能を搭載したラジオおよびテレビ受信機の開発
    今井 篤 / 人間・情報、 都木 徹 / 人間・情報、 武石 浩幸 / 日本ビクター株式会社
    ↓概要

    概要
    高齢者の中には,放送の話し言葉が早口に感じられて聞き取りにくいと感じている人が少なくない。このような声に応えるために,放送の時間枠を延ばすことなく,また,音質を損なうことなく音声をゆっくりと聞くことができる新しいラジオおよびテレビ受信機を開発した。高齢者を対象に,開発した機器を用いて聴取実験を行った結果,聞きやすさに関する有効性を確認することができた。さらに,大きい音を大きすぎるように感じてしまう現象(リクルートメント現象)を補償する音圧レベル圧縮機能を併せて導入し,高齢者に対する総合的な聴覚補助を市販のラジオやテレビ受信機の音声機能として実現した。
  • 語彙(ごい)間の主観的な類似度による感動語の分類
    大出 訓史 / 人間・情報、 今井 篤 / 人間・情報、 安藤 彰男 / 人間・情報、 谷口 高士 / 大阪学院大学情報学部
    ↓概要

    概要
    我々は「良い音・感動する音」の実現を目指し,放送,特に,音による感動について検討している。「感動」とは「美しいものやすばらしいことに接して強い印象を受け,心を奪われること」(大辞林第2版)であり,ある体験のすばらしさを表現するためにしばしば用いられる言葉である。感動には喜びや悲しみなどの異なる心理状態があると言われているが,その心理状態の定義については研究者の中でもあいまいである。そこで,本稿では,アンケート調査から感動を表現する言葉(以下,感動語)を収集し,感動語の分類を試みた。まず,主観評価実験を行い,感動語どうしの距離を語義ではなく,その言葉を使うときの気持ちや状況の類似度から求めた。次に,言葉の心理的な距離に基づいて感動語の分類表を作成した。その結果,「感動」とは「肯定的な体験を表現する総称であり,伴う感情の質だけではなく,心が動く向きによって分類される」ことがわかった。

研究所の動き

  • シリコンマイク ~あらゆる環境で使える高性能マイクロホン~ ↓概要

    概要
    マイクロホンは音を電気信号に変換するデバイスである。放送局では,小さな音から大きな音までひずみ無く収音できる高性能なマイクロホンが使われている。ところが,従来の高性能マイクロホンは樹脂や金属などの材料を精密に組み立てて製作されているため,熱や湿気,衝撃などに弱いという課題があった。そこで技研では,あらゆる環境で使える高性能マイクロホンの実現を目指して,半導体技術により製作するシリコンマイクの研究を進めている。これまでに開発した放送用シリコンマイクは,高温・多湿,酸性雰囲気などの過酷な環境での収音を可能にし,放送を通じて多彩な音の世界を届けることに寄与している。
  • 有機EL材料の研究 ~フレキシブルディスプレーの実現を目指して~ ↓概要

    概要
    放送をいつでもどこでも気軽に楽しむためには,薄くて軽いフレキシブルディスプレーがあると便利である。技研では,有機EL(Electroluminescence)を用いたフレキシブルディスプレーの研究を進めている。

発明と考案

  • コンデンサ型広帯域マイクロホン ↓概要

    概要
    本発明は,1つのコンデンサ型マイクロホンカプセルを用いて20Hzの低周波数帯域から100kHzの高周波数帯域まで,広帯域で高感度を有するマイクロホンの設計法を提供するものである。従来の設計法では広帯域化と高感度化を同時に実現できなかったが,本発明を用いればそれらを同時に実現することが可能となる。
  • 音声/音楽混合比推定装置およびそれを用いたオーディオ装置 ↓概要

    概要
    放送のオーディオ信号は多くの視聴者にとって聞きやすいミキシングで制作されているが,年齢を重ねるとともに高域の音が聞きづらくなるなど個人により聴覚の特性(感度)が異なってくるため,人によっては背景音楽によりナレーション音声が聞きづらくなる場合がある。本発明はその人に適応させるようにオーディオ信号のナレーション音声を効果的に強調し,聞きやすいように変換する技術である。