BSAT-4a衛星を利用した21GHz帯衛星伝送および降雨減衰特性評価

鈴木 陽一 横澤 真介

放送衛星(BSAT-4a)に搭載された21GHz帯中継器を利用して,世界で初めて21GHz帯の広帯域衛星伝送実験を実施した。変調方式および誤り訂正符号化率をパラメーターとしてC/N(Carrier to Noise Ratio)対ビット誤り率特性を測定することにより,21GHz帯放送衛星の伝送性能を明らかにするとともに,測定結果に基づく年間サービス時間率を評価した。また,同衛星から送信されているビーコン信号の受信強度を降水量とともに1年間測定し,21GHz帯の電波の降雨減衰特性について解析した。本稿では,これらの21GHz帯衛星放送に関する伝送特性の評価および解析結果について報告する。

1.まえがき

次世代の衛星放送である21GHz帯衛星放送は,放送用に600MHzの帯域幅が割り当てられており,大容量の伝送を実現するための有望な手段と考えられる。一方,21GHz帯は降雨による減衰量が現在の衛星放送で使用されている12GHz帯と比較して大きいことから,実用化に向けては,伝送特性や降雨減衰特性などを正確に把握する必要がある。

2017年9月,東経110度静止衛星軌道上に,世界で初めて21GHz帯衛星放送用中継器(以下,21GHz帯衛星中継器)を搭載した放送衛星(BSAT-4a衛星)が打ち上げられた。BSAT-4a衛星には,12GHz帯衛星放送用中継器に加えて,300MHz帯域幅の21GHz帯衛星中継器が2本搭載されている。今回,この2本の21GHz帯衛星中継器のうち,21.7-22.0GHzの1本を利用し,BSAT-4a衛星の広帯域伝送特性の評価を目的とする伝送実験を実施したので,その結果を報告する1)2)。更に,各地の降雨減衰モニター局で長期間実施している12GHz帯および21GHz帯の降雨減衰と降水量の測定結果についても報告する。

2.21GHz帯衛星伝送設備

21GHz帯衛星伝送設備は,車載型地球局,BSAT-4a衛星および受信アンテナで構成される。各設備の諸元を1表2表3表に示す。また,車載型地球局の外観を1図に,当所に整備した受信アンテナを2図に示す3)。なお,本受信アンテナは,降雨減衰モニター局の1つとして,降雨減衰の長期間測定にも使用している。

当所に整備した受信アンテナの開口径は1.5mで,後述する他の降雨減衰モニター局の受信アンテナの開口径1mより大きいため,指向性が鋭い。そのため,当所では,アンテナを放送衛星に正確に向ける自動方向調整のためのアンテナ駆動装置を整備している。

1表 車載型地球局の諸元
項目 パラメーター
アップリンク周波数 18.24375 GHz
偏波 右旋円偏波
アンテナ形式 1.5 m径オフセットパラボラ
2表 BSAT-4a衛星の諸元
項目 パラメーター
ダウンリンク中心周波数 21.55625 GHz(下側チャンネル)
21.84375 GHz(上側チャンネル)
21.40290 GHz(ビーコン信号)
偏波 右旋円偏波(上下側チャンネル)
左旋円偏波(ビーコン信号)
衛星中継器帯域幅 21.4-21.7 GHz(下側チャンネル)
21.7-22.0 GHz(上側チャンネル)
無変調(ビーコン信号)
3表 受信アンテナの諸元
項目 パラメーター
受信周波数 21.4-22.0 GHz
アンテナ形式 1.5 mオフセットパラボラ
アンテナ利得 48.3 dBi
偏波 右旋・左旋同時受信可能
LNB※1ローカル周波数 18.84375 GHz
IF※2周波数範囲 2556.25 - 3156.25 MHz

※1 Low Noise Block-down-converter
※2 Intermediate Frequency

1図 車載型地球局
2図 21GHz帯受信アンテナとアンテナ駆動装置

3.伝送実験の概要

3.1 実験仕様および系統

BSAT-4a衛星を利用した21GHz帯衛星伝送実験を実施し,変調方式および誤り訂正符号化率をパラメーターとしてC/N対ビット誤り率特性を測定した。実験仕様を4表に,実験系統を3図に示す。信号の測定系統として,ベースバンド送信装置で折り返したIF(Intermediate Frequency:中間周波数)折り返し,送信地球局で折り返した地球局折り返し,BSAT-4a衛星を経由した衛星折り返しの3通りの系統で測定を行い,系統ごとのC/N劣化量(固定劣化量)を評価した。本実験においては,所要C/Nは「誤り訂正後のビット誤り率が1×10-11となるときのC/N」と定義し,後述する年間サービス時間率の評価に適用した。

送信設備としては,1.5m径の送信アンテナを搭載するB-SAT社所有の車載型地球局4)1図)を利用し,当所の敷地内からBSAT-4a衛星にアップリンクした。BSAT-4a衛星からのダウンリンク信号は,当所の屋上に設置した1.5m径の受信アンテナ5)2図)により受信した。

ビット誤り率の測定に用いる信号源としては23次疑似ランダム信号を適用し,誤り訂正符号として,内符号をLDPC(Low Density Parity Check:低密度パリティー検査)符号,外符号をBCH(Bose Chaudhuri Hocquenghem)符号とするブロック型の連接誤り訂正符号を適用した。受信C/Nごとに伝送可能な最大情報ビットレートを明らかにするために,誤り訂正符号化率として,LDPC符号の符号化率(以下,LDPC符号化率)を8種類用意した(4表)。変調方式はQPSK(Quadrature Phase Shift Keying)および8PSK,変調信号のシンボルレートは250Mbaud,ロールオフ率は0.1とした。

ベースバンド送信装置から出力される変調信号の中心周波数は1.89375GHzであり,アップコンバーターにより18GHz帯に周波数変換し,高周波増幅器で増幅した後,1.5m径送信アンテナによりBSAT-4a衛星にアップリンクする。

18GHz帯アップリンク信号は,約36,000km離れた東経110度静止軌道上に位置するBSAT-4a衛星によって受信され,衛星内に搭載された中継器によって21GHz帯に周波数変換される。周波数変換後の信号は,進行波管増幅器(TWTA:Travelling Wave Tube Amplifier)により飽和領域で増幅され,出力フィルターにより波形成形された後,送信EIRP(Equivalent Isotropically Radiated Power:等価等方輻射電力)60dBWで日本に向けてダウンリンクされる。

21GHz帯ダウンリンク信号は,1.5m径受信アンテナで受信され,低雑音コンバーター(LNB:Low Noise Block-down-converter)により3GHz帯に周波数変換される。この信号に対して,白色雑音を加えて受信C/Nを設定し,ベースバンド受信装置において誤り訂正復号を行った後,エラーカウンターでビット誤り率を測定した。

4表 実験仕様
項目 パラメーター
アップリンク周波数 18.24375 GHz
ダウンリンク周波数 21.84375 GHz
送信および受信アンテナ径 1.5 m
衛星中継器帯域幅 300 MHz (21.7-22.0 GHz)
シンボルレート 250 Mbaud
ロールオフ率 0.1
変調方式 QPSK,8PSK
誤り訂正符号 内符号:LDPC符号  外符号:BCH符号
誤り訂正符号化率(LDPC符号化率) 1/2,3/5,2/3,3/4,4/5,5/6,7/8,9/10
3図 実験系統図

3.2 ベースバンド送受信装置

ベースバンド送信装置とベースバンド受信装置の外観を,それぞれ4図5図に示す6)7)

伝送フレームの長さはLDPC符号の符号長である44,880ビットとし,LDPC符号の検査行列としては,ISDB-S38)と同一の検査行列を適用した。BCH符号としては,1つの伝送フレームにおいて最大12ビットの誤りを訂正可能なBCH(65535, 65343)短縮符号を適用した。

変調シンボルフレーム*1の構成を6図に示す。変調方式がQPSKおよび8PSKの場合の情報ビットレートは,シンボルレートをRs(baud),LDPC符号の情報ビット長をx(bit)とすると,それぞれ(1) 式および(2) 式で与えられる。

 (1)

 (2)

Rs=250Mbaudにおける,変調方式とLDPC符号化率をパラメーターとした情報ビットレートを5表に示す。

4図 ベースバンド送信装置
5図 ベースバンド受信装置
6図 変調シンボルフレーム
5表 変調方式とLDPC符号化率をパラメーターとした情報ビットレート
LDPC符号化率 情報ビット長:x 情報ビットレート(Mbps)
QPSK 8PSK
1/2 22,440 244.5 366.5
3/5 26,928 293.4 439.8
2/3 29,920 326.0 488.7
3/4 32,912 358.6 537.6
4/5 35,904 391.2 586.4
5/6 37,400 407.5 610.9
7/8 38,896 423.8 635.3
9/10 40,392 440.1 659.7

3.3 伝送実験の結果

(1)各折り返しにおけるC/N固定劣化量の評価

変調方式とLDPC符号化率をパラメーターとした情報ビットレート,各折り返しにおける所要C/N,およびC/N固定劣化量を6表に示す。また,所要C/N対情報ビットレートのグラフを7図に示す。

QPSKの場合,IF折り返し所要C/Nを基準とした衛星折り返し所要C/Nの伝送劣化量(6表の③-①(地球局劣化量+衛星劣化量))は,すべてのLDPC符号化率で1.0dBであり,内訳は地球局劣化量が0.4~0.5dB,衛星劣化量が0.6~0.7dBであった。一方,8PSKの場合は,伝送劣化量(③-①)は1.8~2.2dBであり,内訳は地球局劣化量が0.4~0.5dB,衛星劣化量が1.4~1.8dBであった。

6表より,地球局劣化量はQPSK,8PSKともに同等であり,衛星劣化量は8PSKの方が大きいという結果となった。また,衛星折り返しの8PSK(9/10)については,本実験の衛星折り返しにおける受信C/N(13.7dB)において,誤り訂正復号に必要な所要C/Nを満たすことができず,エラーフリーの伝送が確認できなかった。QPSKに比べて8PSKの衛星劣化量が大きくなった要因としては,変調多値数の増加に伴い,衛星中継器に搭載された入出力フィルターの群遅延や,受信アンテナのLNBにおける位相雑音の影響が大きくなり,受信シンボルの判定に影響を与えたことが考えられる。

7図 所要C/N対情報ビットレート
6表 変調方式とLDPC符号化率をパラメーターとした情報ビットレート,各折り返しの所要C/N,C/N固定劣化量
変調方式
(符号化率)
情報ビットレート
(Mbps)
(dB)
IF折り返し
所要C/N ①
地球局折り返し
所要C/N ②
衛星折り返し
所要C/N ③
地球局劣化量
②-①
衛星劣化量
③-②
伝送劣化量
③-①
QPSK(1/2) 244.5 1.6 2.0 2.6 0.4 0.6 1.0
QPSK(3/5) 293.4 2.7 3.2 3.8 0.5 0.6 1.0
QPSK(2/3) 326.0 3.6 3.9 4.6 0.4 0.6 1.0
QPSK(3/4) 358.6 4.4 4.8 5.4 0.4 0.6 1.0
QPSK(4/5) 391.2 5.4 5.9 6.5 0.4 0.6 1.0
QPSK(5/6) 407.5 6.0 6.4 7.0 0.4 0.6 1.0
QPSK(7/8) 423.8 6.4 6.8 7.4 0.4 0.7 1.0
QPSK(9/10) 440.1 7.3 7.6 8.3 0.4 0.6 1.0
8PSK(1/2) 366.5 6.5 7.0 8.5 0.5 1.5 2.0
8PSK(3/5) 439.8 7.3 7.8 9.3 0.4 1.6 2.0
8PSK(2/3) 488.7 7.7 8.2 9.6 0.4 1.4 1.8
8PSK(3/4) 537.6 8.8 9.3 10.7 0.4 1.4 1.9
8PSK(4/5) 586.4 9.7 10.2 11.7 0.5 1.5 1.9
8PSK(5/6) 610.9 10.3 10.8 12.5 0.4 1.7 2.1
8PSK(7/8) 635.3 11.1 11.6 13.4 0.5 1.8 2.2
8PSK(9/10) 659.7 12.0 12.4 測定不能 0.4 測定不能 測定不能

(2)年間サービス時間率の評価

本実験で得られた衛星折り返しにおける所要C/Nを用いて,ITU-R勧告10)に基づく年間サービス時間率を評価した。本評価で用いるC/Nマージンは,(3)式で定義される。

C/N マージン=受信C/N-所要C/N (dB)  (3)

年間サービス時間率の算出は,まず,(3)式においてC/Nマージンが0となる受信C/Nに相当する降雨減衰量(降雨減衰量閾値)を算出する。続いて,降雨減衰量閾値以上の降雨が発生する年間時間率を算出し,この値を晴天時時間率(100%)から引いた値が,年間サービス時間率に相当する。以上の算出において,ITU-R勧告10)を用いた。本実験におけるQPSK(1/2)の場合の年間サービス時間率の計算例を7表に示す。

8図は,衛星折り返しにおける情報ビットレート対年間サービス時間率を,7表と同様にして計算した結果である。この結果から,QPSKの場合,すべての符号化率において年間サービス時間率が99.5%以上となることが分かる。一方,8PSKの場合は,符号化率が2/3より高いパラメーターにおいて,年間サービス時間率が急激に劣化する。これは,所要C/Nが本実験の衛星折り返しにおける受信C/N(13.7dB)に近づくほど,降雨減衰などの外的要因ではなく,衛星回線固有の雑音成分の影響が支配的になるためである。

BSAT-4a衛星においては,21GHz帯衛星中継器の周波数1Hz当たりの電力密度は,12GHz帯と比較して約9.4dB低いことから,今後の放送衛星においては,21GHz帯衛星中継器の出力電力をより高くする余地が残っていると考えられる。今後は,より高出力の21GHz帯TWTAの開発および実用化を進めることで,8PSKの年間サービス時間率の改善が期待される。

なお,今回は,将来の21GHz帯衛星放送の実用化に向けた標準化等の参考とするための一例として,年間サービス時間率を検討した。

7表 QPSK(1/2)の場合の年間サービス時間率の計算例
項目 単位 晴天時 降雨時
シンボルレート a Mbaud 250
ロールオフ率 b   0.1
EIRP c dBW 60
降雨減衰量 d dB 0 9.6
自由空間伝搬損失 e dB 210.7
受信アンテナ利得 f dBi 48.3
ポインティングロス g dB 0.5
大気減衰 h dB 3.5 13.0
天空雑音温度 i K 260
アンテナ雑音温度(i*(1-10^(-(h/10)))) j K 143.9 247
雑音指数 k dB 1.5
大気温度 l K 290
等価雑音温度 ((10^(k/10)-1)*l) m K 119.6
等価システム雑音温度(10log(j+m)) n dBK 24.2 25.6
ボルツマン定数 o dB/MHz –168.6
雑音帯域幅(a*(1+b)) p MHz 275
受信信号電力(c-e+f-g-h) q dBW –106.4 –115.9
雑音電力(n+o+10*log(p)) r dBW –120.0 –118.5
受信C/N (q-r) s dB 13.6 2.6
所要C/N (6表参照) t dB 2.6
C/N マージン (s-t) u dB 11.2 0
年間サービス時間率 v % - 99.89
8図 情報ビットレート対年間サービス時間率

4.降雨減衰の観測

4.1 降雨減衰モニター局の概要

21GHz帯衛星放送における降雨減衰の影響を解析するために,各地に降雨減衰モニター局を設置し,それぞれの観測地点において,降水量,12GHz帯および21GHz帯の降雨減衰の長期測定を行っている。降雨減衰モニター局としては,日本全国の気象条件を考慮して,北海道札幌市(NHK札幌拠点放送局),東京都世田谷区(当所),福岡県福岡市(NHK福岡拠点放送局),沖縄県那覇市(NHK沖縄放送局)の4地点を選定し,整備している。

当所に設置している降雨減衰モニター局の測定系統を9図に示す9)。12GHz帯は衛星放送の15chの放送波を,21GHz帯はBSAT-4a衛星から送信されているビーコン信号をそれぞれパラボラ・アンテナで受信し,受信強度をスペクトラム・アナライザーで1秒ごとに測定している。より短時間で降水量を捉えるために,通常用いられている転倒ます形雨量計*2ではなく,光学式雨量
*3を用いている。9図のトラッキングレシーバーは,衛星からのビーコン信号を監視し,その受信レベルが最大となるように受信アンテナの向きを調整することで,常に衛星の方向を正確に指向するようにアンテナ駆動装置を制御する装置である。

降雨減衰と降水量の測定例を10図に示す。12GHz帯および21GHz帯の受信強度は,晴天時の降雨減衰がない状態を0dBとして表示している。降水量の増加に伴い,12GHz帯および21GHz帯の受信強度がより低下していることが分かる。また,21GHz帯の方が12GHz帯と比べて減衰量が大きいことも分かる。

以上のように,降雨減衰モニター局によって得られた長期測定データを基に,統計処理を行うことで,21GHz帯衛星放送における降雨減衰特性の解析を進めている。

9図 降雨減衰モニター局の測定系統
10図 降雨減衰モニター局の測定系統

4.2 降雨減衰の年間時間率特性

降雨減衰は,電波が雨滴に入射した際の屈折や吸収等が原因となって生じる。電波の波長によりそれらの影響は異なり,一般に波長が短いほど影響を受けやすい。衛星通信の電波伝搬に関するITU-R勧告10)では,さまざまな回線設計のための降雨減衰の推定モデルを規定している。ITU-R勧告は限られた条件での観測結果に基づいた推定モデルを提供しているため,必ずしも対象としている地域の気象条件や周波数帯,降水量に合った特性を反映しているとは限らない。そのため,衛星放送システムの設計のためには,実測による解析が必要となる。

実測による解析を目的として,当所において測定した1分間降水量の年間累積時間率と,12GHz帯と21GHz帯の降雨減衰の年間累積時間率について,それぞれITU-R勧告の推定モデルと実測の結果を比較した。その結果を11図(a)および(b)に示す。11図において,年間累積時間率は,1分間降水量または降雨減衰が横軸の値を超える確率と等しくなる。

11図(a)より,1分間降水量については,推定モデルに対して全体的に大きい実測値が観測されていたことが分かる。ITU-R勧告では,平年の時間率が0.01%となる1分間降水量をR0.01として,降雨減衰の年間時間率などの推定モデルのパラメーターとしている10)11図(a)の結果から,R0.01は推定モデルでは48.2mm/hであるが,実測では53.7mm/hとなった。

11図(b)における降雨減衰の推定モデルの値は,R0.01,観測地点の緯度・経度,および周波数から求まり,R0.0111図(a)で求めた実測値を使用して算出した。11図(b)に示すように,12GHz帯および21GHz帯の降雨減衰は,いずれも実測値が推定モデルを下回る結果となった。特に,21GHz帯の降雨減衰は推定モデルとの差異が大きくなるため,今後,実測に基づく解析を進めていく必要がある。

11図 1分間降水量および降雨減衰の年間累積時間率

4.3 12GHz帯と21GHz帯の降雨減衰の比較

ITU-R勧告では,4.2節で述べた降水量と降雨減衰の年間時間率に関する推定モデルに加えて,同一の伝搬路で長期間測定されたある周波数の降雨減衰を別の周波数の降雨減衰に換算するための周波数スケーリング特性の推定モデルも規定している10)。当所においても,BSAT-4a衛星の打ち上げ前は21GHz帯のビーコン信号の測定ができなかったため,12GHz帯の衛星放送の信号を測定し,周波数スケーリング特性の推定モデルを利用して21GHz帯の降雨減衰について検討を進めてきた11)。ITU-R勧告では,降雨減衰の周波数スケーリング特性について,次式を定めている10)

 (4)

 (5)

 (6)

ここで,A1A2(dB)は,それぞれ周波数 f1とf2(GHz)における年間累積時間率が等しくなる降雨減衰の値である。この式に12GHz帯および21GHz帯衛星放送の周波数を考慮して,f1=12.0GHz, f2=21.4GHzを代入すると,21GHz帯は12GHz帯に対してデシベル値でおよそ3倍,降雨減衰が大きくなると推定される。

11図で示した降雨減衰の年間累積時間率の実測値を基にして,12GHz帯と21GHz帯の年間累積時間率が等しくなる降雨減衰の値と,(4)~(6)式の周波数スケーリング特性により求めた推定モデルとの比較を12図に示す。この推定モデルは,12GHz帯の降雨減衰を基準としたときの,21GHz帯の降雨減衰の推定値を示している。12図では,12GHz帯の降雨減衰が約2dB以上となる領域において,21GHz帯の降雨減衰の実測値が推定モデルを上回っている。これは,12GHz帯の降雨減衰に対する21GHz帯の降雨減衰が,推定モデルの想定より大きく発生しやすいことを示している。今後,観測を継続し,測定データを増やしていくことで,統計的な評価に基づく降雨減衰の解析を進めていく。

12図 12GHz帯および21GHz帯の降雨減衰特性と推定モデルとの比較

4.4 降水量に対する降雨減衰特性

次に,降水量に対する降雨減衰の発生頻度を考察する。

降水量を[5, 10), [10, 15), [15, 20) mm/h*4の3区間の階級に分けたとき,それぞれの階級における降雨減衰の累積分布を13図および8表に示す12)。12GHz帯および21GHz帯ともに,降水量の階級が[5, 10), [10, 15), [15, 20) mm/hと増加するのに従い,より大きな降雨減衰が生じる傾向があることが分かる。また,同じ降水量階級で比較したとき,21GHz帯は12GHz帯と比較してより大きな降雨減衰が発生している。例として[5, 10) mm/hの降水量階級で,累積時間率90%の降雨減衰は,12GHz帯では1.5dB,21GHz帯では4.5dBと,デシベル値で約3.0倍であった。一方,[15, 20) mm/hの降水量階級では,累積時間率90%の降雨減衰は,12GHz帯では2.6dB,21GHz帯では8.3dBと,デシベル値で約3.2倍であった。

以上のように,降雨減衰は,周波数や降水量から受ける影響が大きく,実測に基づく評価が必要と考えられる。今後,降雨減衰モニター局の測定データの蓄積と解析を継続し,その特性を明らかにしていく。

13図 降水量の階級ごとの降雨減衰の累積分布
8表 降水量の階級ごとの降雨減衰の累積時間率
降水量(mm/h) 周波数帯(GHz) 累積時間率ごとの降雨減衰 (dB)
50% 60% 70% 80% 90%
[5, 10) 12 0.8 0.9 1.0 1.2 1.5
21 1.6 2.1 2.5 3.1 4.5
[10, 15) 12 1.2 1.3 1.5 1.7 2.1
21 2.7 3.2 3.7 4.6 6.3
[15, 20) 12 1.6 1.7 1.9 2.2 2.6
21 3.8 4.4 5.3 6.3 8.3

5.むすび

BSAT-4a衛星を利用した21GHz帯衛星伝送実験を行い,C/N固定劣化量および年間サービス時間率を評価した。

また,降雨減衰モニター局において長期測定した21GHz帯衛星放送の降雨減衰特性を解析した。21GHz帯信号の降雨減衰の測定データは,ITU-R勧告の推定モデルと比較し,降雨減衰が大きい領域において実測値と推定モデルの差が開く傾向があった。このため,衛星放送サービスの検討のためには,引き続きサービスエリアにおける実測が必要であることが分かった。また,降水量により12GHz帯および21GHz帯における降雨減衰の分布が異なることから,長期的な推定モデルだけではなく,短時間の現象についても着目する必要があると考えられる。今後も各地点での長期測定を継続し,21GHz帯の降雨減衰特性について把握を進めていく。

謝辞 本研究は,総務省の電波資源拡大のための研究開発「次世代衛星放送システムのための周波数有効利用促進技術の研究開発」による委託研究の成果を活用し実施した。衛星伝送実験にあたっては,(株)放送衛星システム所属の山崎収様,田中祥次様,中澤進様,松原晃久様,関翔平様,川口衛星管制センターのご協力により実施した。降雨減衰モニター局の設備整備と長期測定にあたっては,NHK福岡拠点放送局,NHK沖縄放送局,NHK札幌拠点放送局のご協力により実施した。