衛星中継器の非線形歪補償用送信装置の伝送評価
新4K8K衛星放送の伝送方式であるISDB-S3(Integrated Services Digital Broadcasting – Satellite – Third Generation)は,変調方式として16APSK(Amplitude Phase Shift Keying:振幅位相偏移変調)と32APSKを新たに採用し,2018年12月に開始された本放送では16APSKが運用されている。16APSKよりさらに多値の変調方式である32APSKを用いれば,伝送容量の拡大を図ることができるが,この場合,衛星中継器の特性に起因する非線形歪が課題となる。この非線形歪を送信装置のデジタル信号処理により補償する方法の1つとして,デジタルプリディストーション(DPD:Digital Pre-Distortion)がある。当所では,ISDB-S3の規格に準拠したDPD機能付き送信装置を開発した。本稿では,開発した送信装置の概要,およびこの送信装置から出力された32APSK変調信号を衛星伝送路で送ったときの受信性能評価について報告する。
1.はじめに
従来のハイビジョン放送(2K)より高精細な4Kや8Kの番組を放送する新4K8K衛星放送が 2018年12月に開始された。新4K8K衛星放送では,新しい伝送方式であるISDB-S31)2)3)が使用されており,シンボルレートを33.7561Mbaud,ロールオフフィルター*1のロールオフ率*2を0.03とすることにより,伝送容量の拡大が図られている。変調方式としては,新たに16APSKと32APSKが規定され,衛星中継器1チャンネル(占有帯域幅は34.5MHz)当たりの伝送容量は,変調方式が16APSK,誤り訂正符号(内符号)の符号化率が7/9(以下,16APSK(7/9)のように表記)のとき約100Mbps,32APSK(3/4)のとき約120Mbpsとなる。新4K8K衛星放送では現在16APSK(7/9)が使用されており,1つの衛星中継器で8K番組1チャンネルを伝送することが可能となった。一方,32APSKは16APSKと比較して変調シンボル点がより多値となっているため,衛星中継器で生じる歪の影響を受けやすく3),情報通信審議会答申においては,32APSKの運用に関してはサービス時間率の適切な確保を課題としている4)。
放送衛星に搭載されている衛星中継器は,IMUX(Input Multiplexer)フィルター,電力増幅器,OMUX(Output Multiplexer)フィルターで構成される。IMUXフィルターは地上アップリンク局から送られてくる複数の変調信号から特定の1波を抽出し,電力増幅器は抽出された変調信号を規定のレベルまで増力し,OMUXフィルターは増幅器の増力により引き起こされた帯域外スペクトラムリグロース*3を抑圧する5)。これらの衛星中継器のコンポーネントは,衛星伝送において必要不可欠である一方,伝送信号に歪を与える要因となる。IMUXフィルターやOMUXフィルターはアナログ型の帯域制限フィルターであるため,周波数対振幅特性/群遅延特性が歪として変調信号に影響を与える。また,増幅器は飽和領域付近で線形性が劣化し,AM-AM(Amplitude to Amplitude Modulation)特性*4,AM-PM(Amplitude to Phase Modulation)特性*5が利得減少や位相偏移の要因となり,非線形歪として変調信号に影響を与える。この非線形歪に対しては,アナログ型のリニアライザーを増幅器の前段部に搭載することで,入出力特性がより線形となるように調整できるが,飽和領域では非線形歪が残存する。
そこで筆者らは,衛星中継器で生じる非線形歪の軽減を目的に,DPD(Digital Pre-Distortion)の研究を進めており,提案するDPDが従来手法と比較して優位であることを示すとともに6),計算機シミュレーションやハードウェア実験により効果を検証してきた7)。本稿では,32APSK信号を放送衛星で伝送したとき,受信性能がDPDによって改善することを実験により評価した結果について報告する。なお,本実験においては,衛星中継器のフィルターや増幅器の特性を汎用的に変えることのできるデジタルシミュレーター8)を使用した。
2.開発したDPD機能付き送信装置
当所で開発したDPD機能付き送信装置の信号系統を1図に,諸元を1表に,外観を2図に示す。1図内のDPD構成部は,提案するDPDの機能を実現するための信号系統であり,送受信機内のルートロールオフフィルター*6 を模擬するRRF(Root Roll-off Filter)部,模擬衛星中継器部,ベクトル加算部で構成される。ここで模擬衛星中継器部には,実際の衛星に搭載されるIMUXフィルター,電力増幅器,OMUXフィルターの特性をあらかじめ設定しておく。
送信装置の入力信号は,伝送するデジタル情報(シリアルデータ)であり,S/Pでパラレルデータに変換してから,搬送波信号の振幅・位相情報として直交座標上にマッピングしたIQ信号点(以下,「理想信号点」と表記)とし,DPD構成部へ入力する。DPD構成部からの出力信号は,歪補償の処理がされたIQ信号点であり,RRFで帯域制限を行った後,直交変調でIQ信号点の振幅・位相により搬送波の変調が行われて,送信装置の出力信号となる。
DPD構成部では,最初にマッピング後の理想信号点を本線系統から分配し,RRF1(送信側のルートロールオフフィルターを模擬),模擬衛星中継器,RRF2(受信側のルートロールオフフィルターを模擬)を通過させることで,実際の送信装置出力部→衛星伝送路→受信装置入力部通過後のIQ信号点を再現する。このとき,DPD構成部内で送受信機内のロールオフフィルターの特性を正確に模擬するために,RRF1通過前でIQ信号を2倍にアップサンプルし,RRF2通過後で1/2にダウンサンプルしている。その後,ダウンサンプルされた信号を理想信号点とベクトル加算して誤差ベクトルを生成し,この誤差ベクトルの逆ベクトルを改めて理想信号点に付加して,DPD出力とする。実際の伝送においては,放送衛星の中継器で生じる非線形歪とDPD構成部で送信時に生成した逆歪がキャンセルされるため,受信信号は理想信号点に近づくこととなる。
出力中心周波数 | 140MHz |
---|---|
出力レベル | -10dBm |
伝送方式(変調方式等) | ARIB STD-B44 2.0 版に準拠 |
シンボルレート | 30.0〜36.0 Mbaud (0.0001Mbaudステップで切替可) |
ロールオフ率 | 0.01〜0.35(0.01ステップで切替可) |
3.伝送実験の構成
3.1 構成
開発したDPD機能付き送信装置による衛星中継器の非線形歪補償の効果を確認するために,デジタルシミュレーターを使用して伝送実験を行った。デジタルシミュレーターは,ソフトウェアにより放送衛星の中継器の特性をデジタル信号で再現する装置である。
伝送実験の構成を3図に示す。また,今回用いた主な伝送パラメーターを2表に,伝送実験で使用した32APSK(3/4)の信号点配置を4図に示す。3図内の送信装置および受信装置はISDB-S3の規格に準拠し,送受信装置内のロールオフフィルターはルート配分とする。また,送信装置は提案するDPDの機能を有する。送信装置から中心周波数140MHzで出力される変調信号はデジタルシミュレーターに入力され,衛星中継器で受ける歪の影響がIQ信号上で模擬される。デジタルシミュレーター通過後の出力信号は衛星中継器の歪が付加されたアナログの変調信号として出力される。その後,実際の伝送を想定し,雑音付加装置により白色雑音を付加することで,ダウンリンクのC/N(Carrier to Noise Ratio)を設定する。C/N設定後,BS-IF帯(1356.36MHz)に周波数変換し,受信装置に接続した誤り率測定器によりBER(Bit Error Rate)を測定した。
変調方式 | 32APSK | |
---|---|---|
誤り訂正符号 | 内符号 | LDPC(符号長 : 44,880) |
符号化率 | 3/4 | |
外符号 | BCH(65,535, 65,343) | |
シンボルレート | 33.7561Mbaud | |
ロールオフ率 | 0.03 |
LDPC:Low Density Parity Check code
BCH:Bose Chaudhuri Hocquenghem code
3.2 デジタルシミュレーターの構成
今回の実験では,伝送路モデル(信号に影響を与えるアナログコンポーネントの特性)を設定するために,衛星中継器の特性をソフトウェアで模擬するデジタルシミュレーターを使用した。一般に,衛星中継器はIMUXフィルター,電力増幅器,OMUXフィルターで構成されるため,デジタルシミュレーター内の系統も同様の構成としている(3図)。デジタルシミュレーターの主な諸元を3表に,外観を5図に示す。
3図において,変調信号はA/D変換され,デジタル信号上で衛星中継器の影響が模擬された後,D/A変換されて中心周波数140MHzのアナログ信号が出力される。衛星中継器特性は,IMUXフィルターやOMUXフィルターの周波数対振幅特性/群遅延特性により発生する線形歪,および増幅器のAM-AM特性/AM-PM特性により発生する非線形歪で模擬される。このときフィルターや増幅器の特性は数値テーブルファイルの読み込みにより反映され,任意の特性設定が可能となる。
入出力中心周波数 | 140MHz |
---|---|
入出力レベル | -10dBm |
A/D変換ビット数 | 16ビット |
3.3 衛星中継器の各特性
衛星中継器を構成しているIMUXフィルターおよびOMUXフィルターの周波数対振幅特性/群遅延特性を6図に,電力増幅器のAM-AM特性/AM-PM特性を7図に示す。6図の規格化周波数は,中心周波数12.03436GHzを0Hzに規格化した相対周波数を,7図の規格化電力は,最大出力電力を0dBに,対応する入力電力も0dBに規格化した相対電力を表す。
評価の対象とする電力増幅器の特性は,リニアライザー非搭載の進行波管増幅器(TWTA:Traveling Wave Tube Amplifier)とリニアライザー搭載の進行
波管増幅器(LTWTA:Linearized Traveling Wave Tube
Amplifier)の2つとした。リニアライザーとは,TWTAの前段に設置してTWTA単体で生じる非線形歪をRF(Radio Frequency)信号上で軽減させる仕組みであり,リニアライザーとTWTAを合わせてLTWTAと呼ぶ。特に衛星搭載型のLTWTAは,相互変調歪や位相偏移等を改善できることが知られている9)。
6図の緑色で示した帯域は,変調信号の主要部分が通過する周波数帯域(以下,変調信号帯域)*7であり,この帯域内で振幅や群遅延の値が一定であれば歪は発生しない。しかしながらIMUXフィルターやOMUXフィルターの群遅延特性は,規格化中心周波数(0Hz)を基準(0ns)とすると,変調信号帯域の両端(±16.87805 MHz)ではそれぞれ23.6ns,32.2nsまで値が変化しており,変調信号帯域内で不均一性が見られる。この不均一性は,線形歪として変調信号に影響を与える。
また,7図より,増幅器においては入力電力が増加するにしたがって利得の低下や位相偏移が見られ,特に飽和領域ではその傾向が大きくなる。これらの特性は,非線形歪として変調信号に影響を与える。7図よりLTWTAの位相偏移はTWTAと比較して小さいことが分かる。
6図のIMUXフィルターおよびOMUXフィルターの特性,7図のTWTA特性は,ISDB-S3の標準化における室内実証実験で利用した12GHz帯衛星中継器シミュレーター(ハードウェア)の各特性4)を適用し,LTWTA特性は文献10)の特性を適用した。
4.伝送実験
3図の実験系統で,32APSK(3/4)のC/N対BER特性を測定し,DPD機能の有無による受信性能を比較した。衛星伝送路としては,6図と7図の特性を反映したデジタルシミュレーターを使用し,リニアライザー無し(IMUXフィルター – TWTA – OMUXフィルター),リニアライザー有り(IMUXフィルター – LTWTA – OMUXフィルター)の2系統について測定を行った。
4.1 衛星中継器の動作点
衛星中継器の動作点は IBO(Input Back Off)とOBO(Output Back Off)で表現される。その定義を8図に示す。無変調波を衛星中継器に入力しながら電力レベルを変化させ,衛星中継器出力における電力レベルが最大となる出力電力を基準点(入力規格化電力=0dB,出力規格化電力=0dB)とする。次に,無変調波を変調波として,入力電力レベルを変化させたとき,IBOは基準点の入力電力と変調波動作点の入力電力の比,OBOは基準点の出力電力と変調波動作点の出力電力の比と定義した。本稿では,DPD機能の有無それぞれに対してIBOを固定し,C/N対BER特性を測定した。
4.2 測定方法
受信C/Nは3図の雑音付加装置により設定し,1010ビットまでデータを送信したときの設定C/Nに対するBERを測定した。所要C/N*8 は「BER=10-11となるC/N値」と定義し,測定したBER値から外挿補間1)2)3)により求めた。
4.3 伝送実験結果(C/N対BER特性)
まず,リニアライザー無しの場合について,DPD機能付き送信機からの32APSK(3/4)信号を,デジタルシミュレーターによる衛星伝送路を通過させたときのC/N対BER特性を測定した。DPD機能無しの結果を9図に,DPD機能有りの結果を10図に,所要C/Nの結果一覧を4表に示す。9図,10図ともにIBOの測定ポイントはIBO=3.32~7.49dBの範囲とした。DPD機能有無のどちらの条件であっても,IBOの増加に伴い動作点における増幅器の線形性が良くなり,結果として所要C/Nが小さくなった。また,9図と10図でIBOの値が同じ測定結果を比較すると,すべてのIBO値において,DPD機能有りの方がDPD機能無しより所要C/Nが小さくなった。特に,IBO値の小さい,増幅器の飽和動作付近では,DPDによる所要C/Nの改善効果が顕著に見られ,IBO=3.32dBのときには所要C/Nが5.51dB改善した。
次に,リニアライザー有りの場合について,32APSK(3/4)信号のC/N対BER特性を測定した。DPD機能無しの結果を11図に,DPD機能有りの結果を12図に,所要C/Nの結果一覧を5表に示す。11図,12図ともにIBOの測定ポイントはIBO=1.13~5.31dBの範囲とした。9図,10図と同様に,IBOの増加に伴い所要C/Nは小さくなり,すべてのIBO値において,DPD機能有りの方がDPD機能無しより所要C/Nが小さくなった。IBOが最小である1.13dBの動作点では,DPDによる所要C/Nの改善量は最大となり,4.24dBとなった。
IBO(dB) | 3.32 | 3.94 | 4.47 | 4.95 | 5.38 | 5.78 | 6.15 | 6.51 | 6.85 | 7.18 | 7.49 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
DPD無し | 所要C/N(dB) | 20.30 | 18.16 | 17.19 | 16.55 | 16.23 | 15.71 | 15.41 | 15.20 | 14.98 | 14.91 | 14.79 |
DPD有り | 所要C/N(dB) | 14.79 | 14.50 | 14.16 | 13.95 | 13.84 | 13.73 | 13.69 | 13.64 | 13.60 | 13.58 | 13.53 |
DPDによる改善量(dB) | 5.51 | 3.66 | 3.03 | 2.60 | 2.39 | 1.98 | 1.72 | 1.56 | 1.38 | 1.33 | 1.26 |
IBO(dB) | 1.13 | 1.93 | 2.56 | 3.06 | 3.48 | 3.84 | 4.17 | 4.49 | 4.78 | 5.05 | 5.31 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
DPD無し | 所要C/N(dB) | 18.70 | 16.34 | 15.31 | 14.95 | 14.50 | 14.18 | 14.08 | 13.98 | 13.87 | 13.83 | 13.76 |
DPD有り | 所要C/N(dB) | 14.46 | 14.05 | 13.92 | 13.76 | 13.67 | 13.63 | 13.57 | 13.53 | 13.48 | 13.47 | 13.40 |
DPDによる改善量(dB) | 4.24 | 2.29 | 1.39 | 1.19 | 0.83 | 0.55 | 0.51 | 0.45 | 0.39 | 0.36 | 0.36 |
4.4 所要C/N+OBO
前節の結果から分かるように,IBOを増加させると所要C/Nは改善する(値が小さくなる)。一方,IBOの増加に伴いOBOが増加するため,衛星中継器の出力電力が低下して受信機における受信電力が小さくなる。このことは,結果として受信C/Nマージンの低下となり,年間サービス時間率の低下の原因となる。すなわち所要C/NとOBOはトレードオフの関係にあり,所要C/N+OBOが最小となる動作点(最適動作点)を設定することが回線設計上最も有利な伝送となる。
リニアライザー無しおよび有りそれぞれの伝送路モデルにおいて,DPD機能の有無による32APSK(3/4)の受信性能を総合的に比較するために,9~12図の結果から得られたIBO対所要C/N+OBOの関係を13図に,所要C/N+OBOの結果一覧を6表に示す。13図に示すように,所要C/N+OBOが最小となるIBOの最適点が存在し,DPD機能の有無,リニアライザーの有無によって最適点のIBO値が異なる。リニアライザーにより,LTWTAの方がTWTAよりも小さいIBO値が最適動作点となっている。所要C/N+OBOの値が小さい方がより良好な特性であることを示し,各伝送系統の最適動作点同士で32APSK(3/4)の受信性能を比較したときのDPDによる改善効果は,リニアライザー無しの伝送路では,DPD機能無しのとき所要C/N+OBO=18.58dB(IBO=6.85dB),DPD機能有りのとき所要C/N+OBO=16.89dB(IBO=4.95 dB)となり,DPDにより1.69dB改善した。また,リニアライザー有りの伝送路では,DPD機能無しのとき所要C/N+OBO=17.18dB(IBO=3.84dB),DPD機能有りのとき所要C/N+OBO=16.73dB(IBO=3.06dB)となり,DPDにより0.45dB改善した。13図より,DPD機能無しの場合は,IBOが小さくなると非線形歪の影響が大きくなり,所要C/Nの劣化が著しくなって所要C/N+OBOが増加するが,DPD機能有りの場合は,リニアライザーの有無にかかわらず, IBOを下げてもDPDによって非線形歪の影響を軽減できていることが分かる。
IMUX -TWTA -OMUX |
IBO(dB) | 3.32 | 3.94 | 4.47 | 4.95 | 5.38 | 5.78 | 6.15 | 6.51 | 6.85 | 7.18 | 7.49 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
DPD 無し |
OBO(dB) | 2.00 | 2.20 | 2.40 | 2.60 | 2.80 | 3.00 | 3.20 | 3.40 | 3.60 | 3.80 | 4.00 | |
所要C/N(dB) | 20.30 | 18.16 | 17.19 | 16.55 | 16.23 | 15.71 | 15.41 | 15.20 | 14.98 | 14.91 | 14.79 | ||
所要C/N+OBO(dB) | 22.30 | 20.36 | 19.59 | 19.15 | 19.03 | 18.71 | 18.61 | 18.60 | 18.58 | 18.71 | 18.79 | ||
DPD 有り |
OBO(dB) | 2.52 | 2.66 | 2.79 | 2.94 | 3.09 | 3.26 | 3.43 | 3.61 | 3.78 | 3.97 | 4.15 | |
所要C/N(dB) | 14.97 | 14.50 | 14.16 | 13.95 | 13.84 | 13.73 | 13.69 | 13.64 | 13.60 | 13.58 | 13.53 | ||
所要C/N+OBO(dB) | 17.31 | 17.16 | 16.95 | 16.89 | 16.93 | 16.99 | 17.12 | 17.25 | 17.38 | 17.55 | 17.68 | ||
IMUX -LTWTA -OMUX |
IBO(dB) | 1.13 | 1.93 | 2.56 | 3.06 | 3.48 | 3.84 | 4.17 | 4.49 | 4.78 | 5.05 | 5.31 | |
DPD 無し |
OBO(dB) | 2.00 | 2.20 | 2.40 | 2.60 | 2.80 | 3.00 | 3.20 | 3.40 | 3.60 | 3.80 | 4.00 | |
所要C/N(dB) | 18.70 | 16.34 | 15.31 | 14.95 | 14.50 | 14.18 | 14.08 | 13.98 | 13.87 | 13.83 | 13.76 | ||
所要C/N+OBO(dB) | 20.70 | 18.54 | 17.71 | 17.55 | 17.30 | 17.18 | 17.28 | 17.38 | 17.47 | 17.63 | 17.76 | ||
DPD 有り |
OBO(dB) | 2.68 | 2.73 | 2.83 | 2.97 | 3.12 | 3.28 | 3.43 | 3.61 | 3.79 | 3.96 | 4.14 | |
所要C/N(dB) | 14.46 | 14.05 | 13.92 | 13.76 | 13.67 | 13.63 | 13.57 | 13.53 | 13.48 | 13.47 | 13.40 | ||
所要C/N+OBO (dB) | 17.14 | 16.78 | 16.75 | 16.73 | 16.79 | 16.91 | 17.00 | 17.14 | 17.27 | 17.43 | 17.54 |
4.5 コンスタレーション
リニアライザー無しの伝送路における32APSK(3/4)の送信および受信コンスタレーションを14図に,リニアライザー有りの伝送路における同様のコンスタレーションを15図に示す。中継器の動作点は,DPD機能無しのときにOBO=2.2dBとなるように,リニアライザー無しの伝送路ではIBO=3.94dB,リニアライザー有りの伝送路ではIBO=1.93dBとした(6表参照)。伝送路歪が無ければ理想信号点に収束するように,送信機側はルートロールオフフィルター通過前を,受信機側はルートロールオフフィルター通過後を測定した。なお,受信機側において,ダウンリンクのノイズは無い状態としている。
14図より,DPD機能無しのときの受信コンスタレーションは,信号点の広がりと,同心円の振幅ごとに位相のずれが観測されるが,DPD機能有りの場合は,これらの歪が補償されて,元の理想的信号点に,より収束していることが確認できる。また,15図のDPD機能無しの受信コンスタレーションは,14図の同条件のものと比較して,同心円の振幅ごとの位相差が小さくなっている。これは,リニアライザーの効果により,衛星中継器における位相偏移量が小さく抑えられているためである(7図のAM-PM特性参照)。15図のリニアライザー有りの場合でも,DPD機能有りの受信コンスタレーションは信号点の広がりが軽減されており,理想信号点に,より収束していることが確認できる。
5.まとめ
32APSKによる伝送容量の拡大を目指して,衛星中継器における非線形歪の軽減により受信性能を改善できるDPDの研究を進めてきた。
所要C/N+OBOを測定・解析することにより,32APSKの受信性能とDPDによる改善量を実験により確認した。その結果,リニアライザー無しの伝送路では,DPDにより所要C/N+OBOが1.69dB改善し,リニアライザー有りの伝送路では0.45dB改善することが分かった。リニアライザー有りの場合,増幅器の線形性が良くなる分,相対的な改善量はリニアライザー無しの場合と比較して小さくなるものの,DPDによる改善量があることを確認した。また,32APSKのような多値変調信号を,増幅器の飽和動作付近で伝送する場合,DPDによる補償技術が特に有効であることを今回の実験で示した。
今後は,リニアライザー有りの12GHz帯衛星中継器シミュレーターを試作し,ハードウェア化された伝送路で評価を行う予定である。
本稿は,電子情報通信学会技術研究報告に掲載された以下の論文を元に加筆・修正したものである。
小島,鈴木,小泉,筋誡:“デジタルプリディストーションによる32APSK衛星伝送の性能改善,” 信学技報,Vol.118,No.136,SAT2018-18,pp.43-48(2018)