番組視聴と生活行動のスムーズな連携を可能にする端末連携アーキテクチャー

大亦 寿之 池尾 誠哉 瀧口 徹 藤沢 寛

放送は日常生活と関わりの深いメディアであるが,放送とインターネット,あるいは放送と実社会のサービスとを簡単な操作で相互に利用することは難しく,このことが,サービスの利用機会の損失やユーザー満足度の低下を招く原因の1つとなっている。この課題に対して筆者らは,テレビとスマートフォン(スマホ)やIoT(Internet of Things)デバイスとが相互に連携し,放送と多様なサービスとの間で,デバイスをまたいだスムーズな連携が実現すれば,社会に新しい価値を提供できるものと考えている。本稿では,放送通信連携システム「ハイブリッドキャスト」を拡張し,従来の放送を起点としたスマホとの連携に加え,スマホやIoTデバイスを起点とした放送との連携を可能にする「端末連携アーキテクチャー」を提案する。本アーキテクチャーの実装と,番組視聴と生活行動の連携に関する複数の事例の試作・検証を通して,その実用性の高さを確認した。また,ユーザーによる評価を実施した結果,本アーキテクチャーによりスマホを起点とした放送の視聴が実現することで,ユーザーの利便性が向上し,放送の視聴機会を増加させる可能性があるという知見を得た。以上の結果より,本アーキテクチャーが番組視聴と生活行動をスムーズに連携させるための手段として有効であることを確認した。

1.はじめに

近年のインターネット(以下,ネット)とスマートフォン(以下,スマホ)の普及に伴い,誰もがどこにいても簡単に欲しい情報やサービスを利用することが可能になった。一方,テレビ放送は約60年もの間,“お茶の間メディア”としての役割を果たしてきた。しかし,放送が今後も信頼性や話題性のある身近なメディアであり続けるためには,著しく変化する人々の生活スタイルに合わせてさまざまなサービスと連携できるようにすることが今後重要ではないかと筆者らは考えている。

放送とネットという2つのサービスを簡単に連携できるようにするための手段として,日本では放送通信連携システムである「ハイブリッドキャスト」がIPTVフォーラムとARIB(Association of Radio Industries and Businesses:電波産業会)で2013年に標準化され,NHKと民間放送事業者(民放)によりサービスの提供が開始された。2019年5月には,ハイブリッドキャストに対応したテレビの累計出荷台数が1,000万台を突破し1),今後もさらなる普及が期待されている。

ハイブリッドキャストでは,放送の番組の進行に合わせてネットのコンテンツをテレビ画面上に表示したり,見逃した番組をネット動画で提供したりすることができる。さらには,スマホとの連携によるいわゆる端末連携サービス(セカンドスクリーンサービス)の提供も可能であり,例えば,放送中の番組に関連する情報を,手元のスマホに表示することもできる。このように,放送を起点としてネットのコンテンツを連携させるさまざまなサービスが,放送事業者によって提供されている。

一方,この数年で人々の各メディアの消費時間は大きく変化している。スマホの利用時間が大幅に増加した一方で,テレビの視聴時間は減少しつつあり,とくに若年層では,スマホの利用時間がテレビの視聴時間を逆転したという調査結果も示されている2)。このようなメディアへの接し方の変化に鑑みると,ネットを起点として,簡単に放送と連携できるようにすることが,今後の放送の接触機会の向上にとって重要であると考えられる。

そこで筆者らは,スマホのアプリケーション(以下,アプリ)あるいはIoT(Internet of Things)デバイスを用いて提供される多様なサービスと放送との連携を容易にする技術として,ハイブリッドキャストの規格を拡張した「端末連携アーキテクチャー」を提案する。本アーキテクチャーによって,テレビを起点としたスマホとの連携に加えて,スマホやIoTデバイスを起点としたテレビとの連携も可能となり,放送と多様なサービスとの,デバイス間のスムーズな連携を実現することができる。

2.既存の放送通信連携システムの概要と課題

例えば,放送で紹介された観光地を多くの人が訪れたり,SNS(Social Networking Service)で話題になった番組を多くの人が視聴したりするなど,放送の視聴,ネットサービスの利用,日常の生活行動は,相互に密接に関わっている。そのため,放送とそれ以外のサービスとをスムーズに連携させることで,双方のサービスの利用機会の増加と,ユーザーの利用満足度の向上といった相乗効果が見込まれる。しかし,“放送通信連携”という言葉が使われ始めて約15年が経つが,現状では必ずしもスムーズな連携が実現されているとは言い難い。

2.1 ハイブリッドキャストと端末連携サービス

放送通信連携システムは,放送サービスとネットサービスを連携させるための汎用的な技術である。日本では,2013年にハイブリッドキャストが標準化され,これまでに全国で約25の放送事業者によってサービスが提供されている。

ハイブリッドキャストに対応したテレビは,放送信号とネットを連携させるためのHTML5(Hyper TextMarkup Language 5)に対する拡張API(ApplicationProgramming Interface)*1 を提供するHTML5ブラウザーを搭載している。これにより,各放送事業者がチャンネルごとに提供する,放送と連動可能なWebアプリ(放送マネージドアプリ)をテレビ上で利用することができる。

また,スマホのコンパニオンアプリ(CA:Companion Application)*2を用いることで,テレビとスマホによるマルチスクリーンサービスの提供も可能である。具体的には,テレビとCAが同じネットワーク上に存在する環境において,テレビの放送マネージドアプリからCA上のWebアプリを起動することができる。さらに,アプリ間でデータのやり取りを行うことができるため,例えば,視聴中の番組のホームページをCAで見るといったような,放送を起点とした端末連携サービスも可能である。

ユーザーが端末連携サービスを利用するまでの手順を1図に示す。ユーザーは,あらかじめスマホにCAをインストールしておくことが必要である。端末連携サービスを利用する際には,スマホでCAを起動した上で,ハイブリッドキャスト対応テレビのリモコンを使って希望のチャンネルを選局する。次に,ユーザーはリモコンのdボタンを押してデータ放送を起動し,データ放送コンテンツを操作して放送マネージドアプリを起動する(放送事業者によっては,データ放送を経由して自動的に放送マネージドアプリが起動される)。その後,放送マネージドアプリの指示により,CA上にWebアプリが起動され,端末連携サービスが利用可能となる。なお,端末連携サービスを利用するためには,あらかじめテレビとCAとをひも付けておく必要があるが,これはデバイスレイヤーのペアリング*3 により行われる。これにより,CAや放送マネージドアプリにおいてユーザーのアカウント登録やログイン操作をせずに,手軽にサービスを利用することができる。

ハイブリッドキャストの技術仕様3)4)においては,この端末連携サービスに必要なアーキテクチャー(システムの構成)が規定されており,現在は,各テレビメーカーが提供するプロトコル(通信手順)を搭載したCAを用いて,サービスが運用されている。また2016年には,ハイブリッドキャスト運用規定4) 2.4版において,各社のプロトコルが共通化され,1つのCA(共通CA)で多様な機種のテレビとの連携を可能とするプロトコル(端末連携プロトコルv1)とアーキテクチャー(端末連携アーキテクチャーv1)が規定された。

1図 ユーザーが端末連携サービスを利用するまでの手順

2.2 既存の放送通信連携システムの課題

このように,ハイブリッドキャストを用いることで,テレビとスマホという異なるデバイス間の,放送とネットのサービス連携が可能になる。しかし,現状ではテレビを起点としたシステム設計となっているため,スマホのネットサービスを起点としてテレビの放送サービスへとスムーズに連携することが難しい。具体的には,1図に示したように,手元のスマホのアプリの操作だけでは放送の視聴や端末連携サービスの利用はできず,テレビのリモコンによる操作を伴うことが,サービス連携時の手間や煩雑さを増大させる要因となっている。

欧州で開発された放送通信連携システムであるHbbTVにおいても,高度なサービスの実現に向け,新しい規格であるHbbTV2.0 5)が2016年に標準化された。このHbbTV2.0は,ハイブリッドキャストとほぼ同等の規格であり,HTML5に対応したWebアプリをテレビ上で実行することや,テレビとスマホとの端末連携などが可能である。2017年からイタリアや英国などでHbbTV2.0に対応したサービスが開始され,今後,欧州各国における導入が期待されている。しかし,このHbbTV2.0においても,スマホを起点とした放送への連携は実現されていない。

3.端末連携アーキテクチャーv2の概要

前章で述べたように, ハイブリッドキャストやHbbTV2.0といった放送通信連携システムにより,放送を起点としたネットとのスムーズなサービス連携が可能となった一方で,逆方向であるネットを起点とした放送との連携には大きな課題がある。そこで筆者らは,今後更なる普及が見込まれるハイブリッドキャストにおいて,端末連携アーキテクチャーv1を拡張した端末連携アーキテクチャーv2を提案する。端末連携アーキテクチャーv2は,これまでの放送起点の端末連携に加えて,コンパニオンデバイス(スマホやIoTデバイスなど)を起点に,テレビの選局と放送マネージドアプリの起動を可能とする。さらに,コンパニオンデバイスを中心に,さまざまなサービスやデバイスとも連携することができる(2図)。端末連携アーキテクチャーv2を含む各デバイスの機能ブロックを3図に示す。端末連携アーキテクチャーv2は,コンパニオンデバイスの「テレビ連携モジュール」と「サービス連携モジュール」,ハイブリッドキャスト対応テレビの「コンパニオンデバイス連携モジュール」から構成される。3図において,灰色の部分は既存の規格により実現されている機能,青色の部分はそれを一部拡張する機能,緑色の部分は新規に導入する機能を示す。以下で,各モジュールの詳細を述べる。

2図 ネットを起点とした放送との連携の概念
3図 端末連携アーキテクチャーを含む各デバイスの機能ブロック

3.1 テレビ連携モジュールとコンパニオンデバイス連携モジュール

コンパニオンデバイスのテレビ連携モジュールと,テレビのコンパニオンデバイス連携モジュールは,対となって動作する。

3図の端末連携プロトコルv1には,機器の相互の発見と接続,放送マネージドアプリからのCA上のWebアプリの起動,これらのアプリ間で相互にデータを送受信するための機能が含まれる。

端末連携プロトコルv2では,端末連携プロトコルv1に加え,テレビ連携モジュールからコンパニオンデバイス連携モジュールに対して,選局や放送マネージドアプリの起動命令を発行するプロトコルが追加されている。放送マネージドアプリの起動は,放送マネージドアプリのロケーションを示すAIT(Application Information Table)のURL(Uniform Resource Locator)を指定することにより実行される。

コンパニオンデバイス連携モジュールは,チューナーや放送マネージドアプリの管理機能と連携し,コンパニオンデバイスが指定したチャンネルへの選局と放送マネージドアプリの起動を行う。アプリ起動時には,各アプリを実行可能なチャンネルを記した情報を,アプリ管理機能が確認することで,誤ったチャンネルでアプリが起動されることを防げるようにした。

また,端末連携アーキテクチャーv1と同様に,CA上のWebアプリが簡単に端末連携プロトコルv2を利用できるように,テレビ連携モジュールを呼び出すためのAPI(JavaScriptで記述)を設けた。さらに,これまではCA上のWebアプリのみが放送と連携できたが,テレビ連携モジュールをアプリやデバイスの実行環境に応じて実装することにより,多様なアプリやデバイスが放送と連携できるようにした。

3.2 サービス連携モジュール

サービス連携モジュールは,放送サービスと連携するアプリが用いることのできる汎用的なモジュールである。各デバイスやアプリの実行環境に応じたAPIとしての機能を提供することで,サービス提供者が簡単にアプリを開発できるように設計した。以下に,サービス連携モジュールの各機能の詳細を述べる。

  • アプリ連携機能:アプリを相互に起動する機能,およびデータを受け渡す機能である。
  • デバイス連携機能: IoTデバイスの制御を,デバイスの種別に依存せず,統一的なコマンドで実行するための機能6)である。デバイスごとの通信プロトコルや制御手順についても,可能な限り本機能に吸収し,共通のAPIで利用できる設計とした。
  • イベント発火機能:時刻,位置情報,デバイスの接続状態などの条件が,あらかじめ設定した条件に合致したときに,ユーザーやサービス事業者が,情報の通知などのイベントを実行する機能である。
  • パーソナルデータ管理機能: ユーザーの視聴データや行動データの管理に加え,テレビ・IoTデバイス・他のアプリとの接続履歴データを管理する機能である。モジュールの内部およびネットワーク上に,各データを保存・管理できる設計とした。

4.端末連携アーキテクチャーv2の評価

4.1 試作による実用性の検証

端末連携アーキテクチャーv2の実用性を検証するために,民放やテレビメーカーなどにご協力いただき,端末連携アーキテクチャーv2を用いて放送の視聴と日常の生活行動を連携させる事例を試作した。試作にあたって,筆者らはコンパニオンデバイスのテレビ連携モジュールを,スマホのアプリやIoTデバイスなどとハイブリッドキャスト対応テレビを連携させるためのリファレンスソフトウェア「ハイコネ®・ライブラリ」7)として開発し,スマホのアプリやIoTデバイスに簡単に実装できるようにした。また,市販のハイブリッドキャスト対応テレビ上にコンパニオンデバイス連携モジュールを試作した。

2017年からの2年間で,参加各社により,数多くの事例(約20種類)が試作された。代表的な事例として,スマホのアプリから放送を視聴する事例については文献8),スマホとテレビにおける動画の連携の事例については文献8)9),IoTデバイスと放送との連携の事例については文献10)11),屋外での生活行動と放送の連携の事例については文献12)や記事13)を参照していただきたい。これらの事例から,端末連携アーキテクチャーv2は,実用性に加え,汎用性が高いことが示された。

4.2 端末連携アーキテクチャーv2の妥当性の検証

筆者らは,端末連携アーキテクチャーv2の妥当性を検証するために,検証システムを試作した。検証においては,NHK総合テレビのサッカー中継を家庭で視聴する状況を想定し,放送と連携する複数のIoTデバイスの動作シナリオを作成した。そして,試作した検証システムを用いて,各IoTデバイスが動作シナリオに従って連携して動作することを確認した。

検証システムの構成と検証環境を,それぞれ4図5図に示す。スマホには,スポーツ情報を提供するアプリ,TwitterやLINEといったSNSアプリに加えて,テレビ連携モジュールとサービス連携モジュールを実装した共通CAをインストールした。IoTデバイスとしては,Bluetoothによる通信が可能なボール型ロボット(BLE(Bluetooth Low Energy)プロトコルを用いて, LEDライトの明るさや色調および回転動作を制御可能),WiFiによる通信が可能なスマートLED(HTTPプロトコルを用いて,明るさや色調を制御可能)や小型ロボット(HTTPプロトコルを用いて,胴体,手,首の8軸の動作と,音声ファイルの再生を制御可能)を用意した。放送信号送出装置からは,地上デジタル放送(ISDB-T方式)の信号を送出し,トリガー信号であるイベントメッセージ(Event Message:EM)を多重した。

動作シナリオに沿った各シーンにおけるシステムの動作内容とその実現方法を1表および6図に示す。なお,具体的な動作の様子については,ホームページ14)に掲載した動画を参照していただきたい。

以上で述べた試作と検証により,端末連携アーキテクチャーv2を用いてテレビ・スマホ・IoTデバイスを連携させることで,番組の放送中に限らずその前後の時間においても,放送の視聴と生活行動をスムーズに連携させられることを確認できた。

4図 検証システムの構成
5図 検証環境
1表: 検証シナリオに沿った動作内容と実現方法
動作内容 実現方法
シーン1 NHK Eテレを視聴中に,SNSアプリまたはスポーツアプリから,まもなくNHK総合でサッカー中継が始まる旨の通知がスマホに届く。 既存のスマホのアプリへのメッセージの通知手段により実現した
シーン2 ユーザーが通知メッセージをタップすると,共通CAが起動の後,自動的にテレビをNHK総合に選局し放送マネージドアプリを起動する。 通知メッセージに共通CAのURLスキーム,選局するチャンネルの情報,起動する放送マネージドアプリのAITのURLをパラメーターとして埋め込んだ。ユーザー操作に伴って他のアプリの起動やデータを受け渡す命令であるintentを発行し,アプリ連携機能を用いて共通CAを起動するとともに,端末連携プロトコルv2によりテレビの選局と放送マネージドアプリの起動を実行した。
シーン3 間もなくしてサッカー中継が始まると,テレビ起点での端末連携サービスが開始され,共通CAのWebアプリに選手情報などの関連情報が表示される。 端末連携プロトコルv1を用いて放送マネージドアプリから共通CAに対して指定したWebアプリの起動命令を発行した。
シーン4 さらに,IoTデバイスの探索画面が表示され,ユーザーが接続するデバイスを決定する。 HTTPおよびBLEで接続可能なデバイスを,デバイス連携機能を用いて探索し利用可能なデバイスを提示した。
シーン5 得点が入るなど番組中のイベントに応じて,ボール型ロボットが動作したり,スマートLEDの色調が変化したり,小型ロボットが動きながら発話したりすることで,臨場感のある演出が行われる。 まず,ハイブリッドキャストの拡張APIを用いて,放送TSに多重したEMをテレビの放送マネージドアプリが受信し,端末連携プロトコルv1を用いて共通CA上のWebアプリに送信した。次にWebアプリでは,あらかじめEMに多重するメッセージ(例えば得点シーンでは“goal_teamA”)に応じたデバイスの動作を記述しておき,受信したメッセージから動作に変換するとともに,デバイス連携機能を用いて制御デバイスと制御方法を決定し,各デバイスを制御した。
シーン6 試合終了後に番組でスポーツアプリが紹介される。このとき共通CAのWebアプリにスポーツアプリのリンクが表示され,ユーザーがタップするとスポーツアプリが起動する。 シーン5と同様にEMを用いて共通CAのWebアプリにトリガーを送信し,これをきっかけにスポーツアプリのURLスキームを埋め込んだボタンを表示した。ユーザーがボタンを押すとintentが発行され,アプリ連携機能を用いてスポーツアプリの起動を実現した。
シーン7 シーン6と同様に,他の番組が紹介されたときに,共通CAのWebアプリに番組予告のリンクが表示され,ユーザーがタップすると視聴予約が完了する。 シーン5と同様にEMを用いて共通CAのWebアプリにトリガーを送信し,予約対象の番組の開始時刻を埋め込んだボタンを表示した。ユーザーがボタンを押すと,イベント発火機能の発火条件としてその時刻を設定することで視聴予約を実現した。
シーン8 スポーツアプリに試合終了後のハイライト動画がVoDで提供され,スマホに加えボタンを押すだけでテレビでも動画を再生する。 あらかじめスポーツアプリの動画に,共通CAのURLスキームと起動する放送マネージドアプリであるMPEG-DASHの動画再生プレーヤーのAITのURLおよび再生する動画のURLを埋め込んだ。ユーザーがボタンを押すとintentが発行され,アプリ連携機能により共通CAが起動,さらに端末連携プロトコルv2により放送マネージドアプリを起動し動画再生を実現した。
シーン9 シーン7で予約した番組の放送の直前に放送開始の通知が届き,タップするとテレビが起動しチャンネルを選局する。 視聴予約した時間の直前になると,イベント発火機能からのイベント発行により通知が表示されるようにした。通知メッセージには,選局するチャンネルの情報をパラメーターとして埋め込み,シーン2と同様の動作により視聴予約に基づくテレビ視聴を実現した。
6図 各シーンの具体的な動作

4.3 ユーザー評価実験

端末連携アーキテクチャーv2を用いた「スマホを起点とした放送の視聴」に対するユーザーの受容性を把握するために,ユーザーによる評価実験を行った。被験者としては,日本全国に約350万人の登録者を有する調査会社のモニターの中で,日常的にスマホを利用し,かつ自宅にテレビを設置している20 ~ 50代の男女で,東京・神奈川・千葉・埼玉に在住するモニターに,実験への協力を依頼した。そして,モニターを2表のように分類し,サンプル数(被験者数)の上限値を設定した上で,実験参加の意思を示したモニターから先着順に被験者を決定する方法で,計103人の被験者を抽出した。実験は,2017年12月15 ~ 17日の3日間,都内の会議室で実施した。以下に,実験の手順と結果,そして結果に基づく考察を示す。

2表: ユーザー評価実験のサンプル数
20 - 30代 40 - 50代
26人 26人
26人 25人

(1)実験手順

  1. 実験に先立ち,7図に示すイラストと文章を被験者に提示し,「スマホを起点とした放送の視聴」を可能とする機能(以下,新機能)の内容を説明した上で,「新機能をどの程度利用したいか」という設問を提示して,5段階評価の選択肢の中から回答を求めた。さらに,その回答の理由を,7つの選択肢*4からの複数回答により尋ねた。
  2. 実験会場では,テレビの前にスマホとリモコンを用意し,8図に示す2つのタスクを被験者に与えた。テレビの初期状態は,「電源がOFF」または「ドラマを放送中のチャンネルが選局された状態」とした。そして被験者には,スマホに対してサッカー中継の番組情報が通知されたときに,テレビをそのチャンネルに選局するように指示した。選局の方法としては,タスクAではテレビのリモコンを使って,タスクBでは,新機能を搭載した試作アプリによってスマホの画面上に提示した「テレビで見る」ボタンを押して,選局を実行してもらった。
  3. 2つのタスクを行った直後に,新機能を体験した上での利用意向などに関するアンケートを実施した。
7図
8図

(2)実験結果

まず,被験者に対して,新機能の体験前と体験後に,その利用意向と理由を尋ねた。体験前のユーザーの利用意向の割合を9図に,体験前後の利用意向の変化を10図に示す。9図10図においては,「ぜひ利用したい」と回答した被験者と「やや利用したい」と回答した被験者の合計を,「利用意向を示した被験者」とした。今回は,あらかじめテレビとスマホの新しい技術に関する実験を実施する旨を伝えて被験者を募集したことから,9図を見ると,体験前に利用意向を示した被験者は60%と,比較的高い値を示した(結果1)。一方,10図の体験後の利用意向では,被験者全体の94%,当初利用意向の無かった被験者でも8割以上が利用意向を示した(結果2)。

また,利用意向を示した理由(7つの選択肢からの複数回答,および自由記述)としては,被験者の71%が「リモコンよりテレビの操作が楽になる」を,65%が「見たい番組を探すのが楽になる」を,92%が「見たかった番組の見逃しが減りそう」を選んだ(結果3)。さらに,新機能による放送番組の選択のしやすさについて5段階評価で尋ねたところ,被験者全体の97%が「かなりしやすくなる」または「ややしやすくなる」と回答し,ほぼすべての被験者が肯定的な回答をした(結果4)。

次に,11図に示すように,新機能によってテレビの視聴頻度がどのように変化しそうであるかを5段階評価で尋ねた。その結果,被験者全体の78%,当初利用意向の無かった被験者でも6割以上が,視聴頻度が「かなり増えると思う」または「やや増えると思う」と回答した(結果5)。

最後に,自由記述形式の質問により,新機能に対する意見や要望について尋ねた。その結果,「新機能を利用するための新しいアプリのインストールや,事前の複雑な設定は望まない」という意見が多く得られた(結果6)。

9図 新機能の利用意向 (体験前)
10図 新機能の体験前後の利用意向の変化
11図 テレビの視聴頻度の変化の予測

(3)考察

実験結果に基づき,新機能に対する利用意向と放送の視聴への影響について分析を行った。まず新機能の利用意向の有無については,結果1より,機能の説明だけでは,利用意向を示した被験者の割合は6割程度と必ずしも高くなかった。一方,結果2より,機能を実際に使用してみると,多くの被験者が利用意向を示すことが分かった。この結果から,ユーザーは新機能を一度使うと継続して使う可能性が高いという知見が得られた。さらに結果6より,継続的に機能を利用してもらうためには,テレビとのペアリングなどの事前の設定を可能な限り簡単にすることが,実用化に向けた課題となることが明らかになった。

また,結果3と結果4より,スマホの情報を基に放送を視聴する状況においては,リモコンと比較して新機能の方が,操作性や番組の探しやすさの面で優れていることが分かった。特に,8図のように,番組情報の通知・表示手段と新機能を組み合わせることが,リアルタイム性の高い放送の視聴機会の損失を防ぐとともに,ユーザー満足度を向上させる手段として有効であると考えられる。さらに,結果5より,新機能によって放送の視聴頻度が増える可能性があるという結果も得られた。

以上の評価結果から,端末連携アーキテクチャーv2は,スマホ上のサービスから放送へのスムーズな動線の構築と,ユーザー満足度向上にとって有効であるとともに,放送の視聴頻度を増加させる可能性もあるという結論を得た。

5.おわりに

本稿では,放送とネット,あるいは放送と実社会のサービスとの連携を容易にし,番組視聴と多様な生活行動とをスムーズにつなげるために,ハイブリッドキャストを拡張した端末連携アーキテクチャーv2を提案した。これにより,テレビを起点としたデバイス連携に加えて,スマホやIoTデバイスを起点としたデバイス連携も可能となった。また,本アーキテクチャーを用いた複数の事例の試作・検証を行い,その実用性と汎用性の高さを確認した。さらに,スマホを起点とした放送視聴に関するユーザー評価実験を実施した結果,本アーキテクチャーによって放送を視聴する際の利便性やユーザー満足度が向上し,放送の視聴機会を増加させる可能性があることが分かった。以上の検証結果より,本アーキテクチャーが番組視聴と生活行動をスムーズに連携させるための手段として有効であるという結論を得た。

なお,IPTVフォーラムにおいて,本稿で提案した端末連携プロトコルv2をベースに,コンパニオンデバイスを起点にテレビのチャンネルの選局と放送マネージドアプリの起動を可能とする端末連携の拡張機能に関する規格が2018年9月に策定され,「放送通信連携システム仕様3) 2.2版」および「ハイブリッドキャスト運用規定4) 2.7版」として公開された。現在,IPTVフォーラムを中心に,この端末連携の拡張機能の実用化に向けた技術検証が進められており,対応サービスの開始に向けた環境が整うことが期待される。

謝辞 本研究における事例の検討および試作検証にご協力いただいた放送事業者やテレビメーカーをはじめとする関係者各位に感謝の意を表する。

本稿は,情報処理学会論文誌に掲載された以下の論文を元に加筆・修正したものである。
大亦,池尾,小川,山村,瀧口,藤沢:“番組視聴と生活行動のスムーズな連携を可能にする行動連携システムと端末連携アーキテクチャ,”情処学論,Vol.60,No.1,pp.223-239(2019)