地上放送高度化に向けた伝送路符号化方式

蔀 拓也

地上デジタルテレビジョン放送の高品質化および高機能化に向けて,現行のISDB-T(Integrated Services Digital Broadcasting — Terrestrial)方式の特長を継承した,次世代地上放送の伝送方式(地上放送高度化方式)の検討を進めている。地上放送高度化方式では,ISDB-T方式のセグメント構造や階層伝送機能などを継承しながら,新たな信号構造の導入により,固定受信や移動受信などの異なる受信形態を想定した複数のサービスへの帯域割り当ての柔軟性を向上させている。さらに,最新の誤り訂正符号や変調方式の導入により,周波数利用効率が高く,伝送耐性に優れる仕様としたことで,ISDB-T方式と同じ所要CN比(Carrier to Noise Ratio)では伝送容量を約10Mbps増加させ,同じ伝送容量では所要CN比を約7dB低減させることが可能である。本稿では,NHKが検討を進めている地上放送高度化方式の概要について報告する。

1.はじめに

わが国の現在の地上デジタルテレビジョン放送の伝送方式は,1999年5月に電気通信技術審議会から答申され,2001年5月にARIB(Association of Radio Industries and Businesses)標準規格として策定された。この方式は,地上用の統合デジタル放送という意味でISDB-T(Integrated Services Digital Broadcasting ? Terrestrial)方式と呼ばれている。

ISDB-T方式は,固定受信や移動受信などの異なる受信形態に向けて,伝送容量と伝送耐性の異なる複数のサービスを地上波の1つのチャンネル(6MHz)で提供できるという特長があり,現在,多くの放送局が,固定受信用のハイビジョン放送と移動受信用のワンセグ放送を同時に提供している。また,OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)変調方式と時間インターリーブを採用することにより,地上放送の伝搬路において発生するマルチパス妨害波*1 や,移動受信における受信電界の変動に対して強い耐性を持つ。さらに,放送番組を構成する映像・音声・データ等の多重化方式として,BS/CSデジタル放送にも採用されているMPEG-2(Moving Picture Experts Group 2)Systemsに対応し,高い相互運用性を有している。

NHKでは,地上デジタルテレビジョン放送の高機能化と,映像・音声の高品質化に向けて,これらのISDB-T方式の特長を継承した,次世代地上放送の伝送方式(以下,地上放送高度化方式)の仕様の検討を進めている1)。仕様の策定にあたっては,周波数が非常にひっ迫しているわが国において,1つのチャンネルで固定受信用のスーパーハイビジョン放送と移動受信用のハイビジョン放送を同時に提供可能であることをサービス要件として設定した。この要件を実現するために,新たな信号構造と最新の伝送特性改善技術を導入し,単位周波数当たりの伝送容量(ビットレート)を拡大して周波数利用効率を高めるとともに,伝送耐性に優れた方式となるよう留意した。多重化方式としては,2018年12月に放送開始予定の新4K8K衛星放送に採用されたMMT(MPEG Media Transport)*2 とTLV(Type-Length-Value)*3 を用いることを前提に2),誤り訂正符号のブロックの構造や,フレーム構造を検討した。本稿では,地上放送高度化方式の物理層の仕様の概要と基本構成について報告する。

2.地上放送高度化方式の概要

2.1 階層伝送等のISDB-T方式の機能を継承

現行のISDB-T方式は,マルチパス耐性に優れるOFDMを変調方式とし,部分受信*4 が可能なセグメント構造*5 を取っている。OFDMセグメントのキャリヤーを,複数セグメントの連結が可能なように構成することで,目的とするサービスに適した伝送帯域幅をセグメント単位で設定でき,固定受信向けと移動受信向けのサービスを1つのチャンネルで同時に実現できる。

ISDB-T方式では,1個のOFDMセグメントの帯域幅は,1チャンネルの帯域幅(6MHz)(以下,チャンネル帯域幅)の1/14となっており, ISDB-Tの伝送信号は13個のOFDMセグメントから構成される。また,伝送パラメーターの異なる最大3つまでの階層を同時に伝送する階層伝送が可能である。各階層は,1つまたは複数のOFDMセグメントにより構成され,階層ごとにキャリヤー変調方式,誤り訂正符号の符号化率,時間インターリーブ長等のパラメーターを設定できる。また,13セグメントのうち,中央部の1セグメント(0.43MHz)を部分受信帯域としている。

地上放送高度化方式においても,ISDB-T方式の階層伝送や部分受信などの機能を継承することとした。すなわち,伝送容量と伝送耐性の異なる3階層(A~C階層)の伝送が可能となるように,セグメント構造を採用し,部分受信を可能とした。地上放送高度化方式における階層伝送と部分受信のイメージを1図に示す。地上放送高度化方式では,チャンネル帯域幅の分割数を14から36へと増やし,このうち最大35セグメントを信号伝送に用いることとした。部分受信を行う狭帯域受信機は,35個のOFDMセグメントのうち,中央部の9個のOFDMセグメント(1.50MHz)を受信することとし,A階層のセグメント数を1から9の範囲で設定可能とすることで部分受信の伝送容量の柔軟性を高めている。また,部分受信帯域幅をISDB-T方式の3.5倍に拡大することで,部分受信の周波数インターリーブの効果を高めている3)1図は,3セグメントを移動受信向けサービスに割り当て,これをA階層で伝送するとともに,固定受信向けサービスを伝送パラメーターの異なるB,C階層で伝送する階層伝送の構成例である。1図の例では,部分受信帯域の9セグメントのうち,3セグメント分の伝送容量をA階層が占めており,A階層のキャリヤーは,部分受信帯域全体に分散するように配置されている。部分受信を行うA階層のキャリヤーについては,他のキャリヤーよりも送信電力を高く設定する機能(電力ブースト)を備え,A階層の耐性の向上を可能とした4)。このほか,LLch(Low Latency channel)と呼ばれる低遅延伝送路を備え,緊急地震速報などの重要情報を低遅延で伝送できるようにしている。

1図 地上放送高度化方式の階層伝送および部分受信(A階層が3セグメントの場合)

2.2 新たな信号構造

2.1節で述べたとおり,地上放送高度化方式では,チャンネル帯域幅のOFDMセグメントへの分割数を14から36へと増やし,このうち35セグメントを信号伝送に用いる。セグメントの分割数を増やすことで固定受信と移動受信への帯域割り当ての柔軟性が向上するだけでなく, 6MHzの13/14を利用するISDB-T方式と比べて,35/36を利用する地上放送高度化方式では,ガードバンド*6 の削減により約5%の容量増加を実現できる。

また,地上放送高度化方式では,情報伝送に寄与しないガードインターバル(GI:Guard Interval)*7 の比率を少なくすることにより,周波数利用効率を高めている。現行のISDB-T方式は8,192(213)ポイントのFFT(Fast Fourier Transform)サイズ*8 で運用されているが,地上放送高度化方式では,最大でその4倍となる32,768(215)ポイントのFFTサイズを利用可能とした。OFDMのキャリヤー周波数間隔と有効シンボル長は互いに逆数の関係にあるため,FFTサイズを大きくすることでキャリヤー周波数間隔が小さくなり,有効シンボル長が長くなることにより,GIを同じ長さに設定した場合でも,伝送シンボル全体の時間長に占めるGIの割合(以下,GI比)が小さくなり,伝送容量を拡大することができる。一方で,現行の放送との両立性も考慮し,帯域幅やGI長が現行方式と一致するパラメーターも選択できるようにした。

さらに,伝搬路特性の推定に使用するパイロット信号の配置は,ISDB-T方式では固定受信向けと移動受信向けの階層で同じ配置としているが,地上放送高度化方式では固定受信と移動受信でそれぞれに最適な配置を選択できるようにした。

2.3 最新の伝送特性改善技術の導入

ISDB-T方式では,誤り訂正符号として,畳み込み符号とRS(Reed-Solomon)符号の連接符号を採用しており,畳み込み符号で訂正しきれない誤りをRS符号で訂正することにより,雑音や干渉等への耐性を高めている。地上放送高度化方式では,所要CN比*9(Carrier to Noise Ratio)を更に低減するために,最新の誤り訂正符号として,畳み込み符号よりも誤り訂正能力が高いLDPC(Low Density Parity Check)符号を採用し,BCH(Bose-Chaudhuri-Hocqenghem)符号との連接符号により,伝送特性を改善した5)

キャリヤー変調方式については,ISDB-TではQPSK(Quadrature Phase Shift Keying),16QAM(Quadrature Amplitude Modulation),64QAMの3種類であり,信号点の配置は均一のコンスタレーション(UC:Uniform Constellation)となっている。一方,地上放送高度化方式では,QPSK ~4096QAMの多値変調とすることで大容量化を実現するとともに,UCに加えて,信号点の配置を不均一にする不均一コンスタレーション(NUC:Non-Uniform Constellation)を導入することで,多値変調における雑音耐性の向上を図っている6)。64QAMのUCとNUCの例を2図に示す。2図のNUCは信号点配置の一例であり,LDPC符号の符号化率に応じて最適な信号点配置を設計し,使用することとした。

ISDB-T方式は,1つの送信アンテナと1つの受信アンテナを想定し,水平偏波または垂直偏波のいずれかで信号を伝送するSISO(Single-Input Single-Output)の伝送システムである。一方,地上放送高度化方式では,SISOに加えて,2つの送信アンテナと1つの受信アンテナを利用する2×1 MISO(Multiple-Input Single-Output)による伝送特性の改善や,2つの送信アンテナと2つの受信アンテナを利用する2×2 MIMO(Multiple-Input Multiple-Output)による伝送容量の拡大を可能とした。

2図 64QAMの信号点配置の例

3.伝送路符号化の概要

本章では,送信側で行う伝送路符号化の信号処理の概要を示すことで,地上放送高度化方式の物理層の技術を説明する。

3.1 伝送路符号化部の基本構成

地上放送高度化方式の伝送路符号化部の基本構成を3図に示す。

入力I/F(インターフェース)部からは,3系統の階層別フレームの信号,TMCC(Transmission and Multiplexing Configuration Control)情報*10,LLchフレームの信号が出力される。3系統の階層別フレーム信号は基本変調部に入力され,誤り訂正符号化とキャリヤーシンボル*11 へのマッピングが行われる。さらにレベル調整部において,階層ごとの電力調整(例えば,A階層の電力ブースト)が行われる。その後,階層合成部においてA階層・B階層・C階層のキャリヤーシンボルを合成した後,帯域分割,時間IL(時間インターリーブ),周波数IL(周波数インターリーブ),帯域合成を行い,データセグメント*12 を構成する。

LLchは低遅延伝送を実現するために,3階層の階層別フレームとは異なる処理が適用され,LLchフレームの先頭に差動基準ビットを付加した後にDBPSK変調を行う。

OFDMフレーム構成部において,データセグメントにパイロット信号,LLch,TMCCを付加し,OFDMフレームを構成した後,逆フーリエ変換(IFFT:Inverse Fast Fourier Transform)によりOFDM変調を行い,さらにGIを付加して,IF(Intermediate Frequency)信号として出力する。

SISO伝送の信号は,3図に示した①②③の系統を経て生成される。

MISO伝送においては,帯域合成後のキャリヤーシンボルにMISO符号化を適用した後,OFDMフレーム構成,OFDM変調を行う。MISOの1系の信号はSISOと同様の系統(①②③)で生成され,2系の信号は①④⑤の系統で生成される。MISO符号化部は,データ用のキャリヤーシンボルのみにSTBC(Space Time Block Coding)またはSFBC(Space Frequency Block Coding)を適用する。STBCは時間方向に2つのデータキャリヤーシンボルを組みとして,またSFBCは周波数方向に2つのデータキャリヤーシンボルを組みとして,データキャリヤーシンボルの複素共役・符号反転を行う。MISO符号化は,劣悪な受信環境において送信ダイバーシティー効果による伝送特性の改善を狙ったものであり,伝送容量はSISOと同等となる。

また,地上放送高度化方式では,1系と2系の送信アンテナから異なる情報を送信し,伝送容量を拡大する空間分割多重方式(SDM:Space Division Multiplexing)のMIMOを選択することができる。MIMO伝送には,SISOと比べて2倍の伝送容量を実現できるという利点があるが,見通し受信環境において1系と2系の伝搬路の相関を小さくして良好な伝送特性を実現するためには,直交偏波(水平・垂直偏波)に対応した送受信アンテナが必要となること等,実現に向けての課題もある。

MIMO伝送においては,系統分離部でレベル調整後のキャリヤーシンボルを2系統に分離し,それぞれOFDMフレーム構成とOFDM変調を行い,2系統の信号を出力する。MIMOの1系,2系の信号は,それぞれ①②③,⑥⑦⑤の系統を経て生成される。MIMO伝送における周波数ILでは,1系と2系で異なるインターリーブ処理を適用し,インターリーブ効果を向上させている。

地上放送高度化方式では,SISO,2×1MISO,2×2MIMOを導入したが,送信アンテナを1本としたユースケースでは全階層をSISOで伝送することとし,送信アンテナを2本としたユースケースでは階層ごとにMISOまたはMIMOを指定可能とした。例えば, 移動受信向けのA階層をMISOとして受信特性を改善し, 固定受信向けのB階層をMIMOとして伝送容量を拡大することが可能である。

3図 地上放送高度化方式の伝送路符号化部

3.2 誤り訂正符号のブロック構成

3図の基本変調部の詳細な構成を4図に示す。前方誤り訂正(Forward Error Correction,以下FEC)について,内符号をLDPC符号,外符号をBCH符号とする連接符号の組み合わせは, 欧州の第2世代地上デジタル放送方式DVB-T2(Digital Video Broadcasting — Terrestrial 2)7) や,わが国の新4K8K衛星放送の方式ISDB-S38) にも採用されている。マッピングに使用するコンスタレーションのNUCは,米国の第2世代地上デジタル放送方式ATSC3.0(Advanced Television Systems Committee 3.0)9)にも導入された技術である。ビットインターリーブの最適化や,多値変調時にNUCとLDPC符号を併せて用いることで,シャノン限界*13 に近い特性を得ることができる。

4図のFECブロック変換部では,入力データである可変長のTLVパケットを固定長のFECブロックにカプセル化*14 する。FECブロックの構成を5図に示す。地上放送高度化方式では,強力な誤り訂正を実現するために,FECブロックの長さを69,120ビットとして符号を設計した。このブロック長は,DVB-T2やISDB-S3よりも長い値となっている。このFECブロックに入るLDPC符号のパリティーは,LDPC符号の符号化率によって長さが変わる。たとえば,符号化率が14/16の場合,LDPCのパリティーの長さは69,120×(1-14/16)=8,640ビットであり,情報ビットの長さは69,120-8,640=60,480ビットである。LDPC符号の情報ビットには,BCH符号のパリティーが含まれ,このBCHパリティーの長さは符号化率によらず192ビットである。ここで,可変長のTLVパケットは5図に示す主信号領域に格納され,TLVパケットが主信号領域に入りきらない場合は,TLVパケットを分割して一部を格納し,残りを次のFECブロックの主信号領域に格納する。このとき,各FECブロック内のTLVパケットの開始位置を, 5図に示すFECブロックヘッダー内のTLVパケットポインターで指定することとした。地上放送高度化方式のFECブロック各部のビット長を1表に示す。

4図 基本変調部の構成
5図 FECブロックの構成
1表 FECブロック各部のビット長
LDPC符号 BCH符号 FEC
ブロック
ヘッダー
主信号
符号化率 符号長 パリティー
ビット長
情報
ビット長
パリティー
ビット長
情報
ビット長
2/16 69,120 60,480 8,640 192 8,448 16 8,432
3/16 69,120 56,160 12,960 192 12,768 16 12,752
4/16 69,120 51,840 17,280 192 17,088 16 17,072
5/16 69,120 47,520 21,600 192 21,408 16 21,392
6/16 69,120 43,200 25,920 192 25,728 16 25,712
7/16 69,120 38,880 30,240 192 30,048 16 30,032
8/16 69,120 34,560 34,560 192 34,368 16 34,352
9/16 69,120 30,240 38,880 192 38,688 16 38,672
10/16 69,120 25,920 43,200 192 43,008 16 42,992
11/16 69,120 21,600 47,520 192 47,328 16 47,312
12/16 69,120 17,280 51,840 192 51,648 16 51,632
13/16 69,120 12,960 56,160 192 55,968 16 55,952
14/16 69,120 8,640 60,480 192 60,288 16 60,272

3.3 パイロット信号の設計

地上放送高度化方式におけるOFDM信号の伝送では,伝搬路で発生した振幅や位相のひずみを受信機が推定し,補正できるようにするため,既知の信号(パイロット信号)を規則的に配置して伝送するSP(Scattered Pilot)方式を用いている。この伝搬路推定に使用するパイロット信号の配置については,放送エリアの大きさや受信環境等により,周波数方向の配置間隔(Dx)と時間方向の配置間隔(Dy)を最適に設計することが重要である。ここで,Dxを小さくするほど時間的に広範囲のマルチパス妨害波を推定できるようになり,大規模な放送エリアを実現できる。一方,Dyを小さくするほど伝搬路の時間変動に対する追従性が高くなり,高速な移動受信を実現できる。

地上放送高度化方式では,放送エリアは全階層で同等であることを前提として,Dxは全階層で同じ値を,Dyは階層ごとに異なる値を設定可能とした。6図は,固定受信向けであるB階層のOFDMセグメントに(DxDy)=(3,4)を,移動受信向けであるA階層のOFDMセグメントに(DxDy)=(3,2)を設定した例を示す。6図で,青色のSPはAとBの両階層に挿入され,緑色のSPはA階層のみに挿入される。

6図 SP配置の例(1マスが1キャリヤーシンボルを示す)

3.4 伝送パラメーターと伝送容量

地上放送高度化方式の伝送パラメーターを2表に示す。階層伝送の機能を継承しつつ,FFTサイズを拡大してGI比を小さくするなど, フレーム構成を効率化することで,ISDB-T方式と比較して伝送容量の拡大を図っているが,現行の地上放送から次世代方式へのマイグレーションを見据えて,ISDB-T方式の運用パラメーターと同じGI長である126μsに設定するためのGI比として,800/NFFTを仕様に含めた。ここで,NFFTはFFTサイズを示し,モードに応じて8, 192(8k),16,384(16k),32,768(32k)のいずれかの値となる。信号帯域幅については,チャンネル帯域幅の35/36を用いるノーマルモード(5.83 MHz,ISDB-T方式と比べてガードバンドを削減)と,互換モード(5.57 MHz,ISDB-T方式と同じ帯域幅)を選択できるようにした。

7図に,地上放送高度化方式の1チャンネル当たりの伝送容量と所要CN比の関係を示す。伝送システムはSISOとし,FFTサイズは16k,GI比は1/16,セグメント数は35セグメント,SP比率は8.3%として,計算機シミュレーションにより算出した。地上放送高度化方式()とISDB-T方式()を比較すると,同じ所要CN比では伝送容量が約10Mbps増加し,同じ伝送容量では所要CN比を約7dB低減できることが分かる。

3表に,地上放送高度化方式の伝送容量について,移動受信で4セグメント,固定受信で31セグメントを利用した場合の例を,現行の地上デジタル放送の伝送容量と比較して示す。現行の地上デジタル放送に合わせて,A階層,B階層の2階層伝送の例で比較する。地上放送高度化方式では,伝送帯域幅の拡大,FFTサイズの拡大によるGI比の低減,キャリヤー変調方式の多値化などにより,ISDB-T方式と比べて大幅に伝送容量が拡大している。

2表 伝送パラメーター
地上放送高度化方式 ISDB-T方式
チャンネル帯域幅(MHz) 6
FFTサイズNFFT(伝送モード) 8,192(3),16,384(4),32,768(5) 2,048(1),4,096(2),8,192(3)
セグメント分割数 36 14
伝送信号のセグメント数 33+調整帯域 35 13
信号帯域幅(MHz) 5.57(互換モード) 5.83(ノーマルモード) 5.57
階層数 最大3階層
部分受信帯域のセグメント数 1~9 1
FFTサンプル周波数(MHz) 6.321
(=512/81)
8.127
(=512/63)
ガードインターバル比(GI比) 1/4,1/8,1/16,1/32,1/64,1/256,800/NFFT 1/4,1/8,1/16,1/32
キャリヤー変調方式 QPSK,16QAM,64QAM,256QAM,
1024QAM,4096QAM
(16QAM以上はNUCあり)
DQPSK,QPSK,16QAM,64QAM
誤り訂正符号(内符号) LDPC符号 畳み込み符号
誤り訂正符号(外符号) BCH符号 RS符号
伝送システム SISO,2×1 MISO,2×2 MIMO SISO

※ 1セグメント未満のキャリヤー数で構成される帯域。右端,左端の各調整帯域には,パイロット信号の間隔(Dx×Dy)の整数倍のキャリヤーを配置し,ISDB-T方式と同等の信号帯域幅(5.57MHz)となるように調整する。

7図 伝送容量と所要CN比の関係(SISO)
3表 地上放送高度化方式の伝送容量の例
地上放送高度化方式 ISDB-T方式
A階層(移動受信) B階層(固定受信) A階層(移動受信) B階層(固定受信)
FFTサイズ 16384 8192
帯域幅 5.83MHz 5.57MHz
有効シンボル長 2,592µs 1,008µs
ガードインターバル長(GI比) 126µs(800/16,384) 126µs(1/8)
セグメント数 35 13
4 31 1 12
パイロットの比率 0.041 0.041 0.083 0.083
キャリヤー変調方式 64QAM 1024QAM QPSK 64QAM
誤り訂正符号 LDPC符号,BCH符号 畳み込み符号,RS符号
符号化率 7/16 11/16 2/3 3/4
多重化方式 MMT-TLV MPEG-2 TS
伝送容量 SISO伝送の場合
1.5Mbps
MIMO伝送の場合
3.0Mbps
SISO伝送の場合
31.4Mbps
MIMO伝送の場合
62.8Mbps
0.4Mbps 16.8Mbps

4.まとめ

本稿で述べたように,NHKでは,地上デジタルテレビジョン放送の高機能化と高品質化に向けて,1つのチャンネルで固定受信用のスーパーハイビジョン放送と移動受信用のハイビジョン放送を同時に提供可能とする新しい伝送方式の検討を進めている。

新たな方式である地上放送高度化方式では,セグメント構造に基づく階層伝送機能などのISDB-T方式の特長を継承しつつ,新たな信号構造と最新の伝送特性改善技術を導入した。固定受信や移動受信などの異なる受信形態に向けた複数のサービスへの帯域割り当ての柔軟性を向上させた。また,伝送特性改善技術として最新のLDPC符号,NUC,MISO/MIMO技術等を導入することにより,ISDB-T方式と比べて周波数利用効率が高く,大容量で,伝送耐性に優れる伝送方式を実現した。

今後は, 変復調装置を用いた特性評価や機能検証を重ね,地上デジタルテレビジョン放送の更なる高品質化・高機能化に向けて,地上放送高度化方式の改良を進めていく。