8Kスーパーハイビジョンカメラによるハイダイナミックレンジ撮影技術

8Kスーパーハイビジョン(以下,8K)の放送規格には,映像で表現できる明るさの範囲(ダイナミックレンジ)を広げるハイダイナミックレンジ(HDR:High Dynamic Range)技術が規定されている。当所では,BBC(British Broadcasting Corporation:英国放送協会)と連携して開発した,HLG(Hybrid Log-Gamma:ハイブリッド・ログ・ガンマ)方式のHDR技術を採用して研究開発を進めている。HDR技術の導入により,従来の標準ダイナミックレンジ(SDR:Standard Dynamic Range)映像では難しかった,大きな明暗差や物体のきらめきなどを表現できるようになる(1図)。今回,既存の8KカメラでHDR撮影を実現するために,HLG方式に対応した信号処理回路を開発した。

HLG方式は,SDR方式と高い互換性があり,さらにSDR映像の約20倍のダイナミックレンジを持っている。しかし,ダイナミックレンジが広くなると,特に暗いシーンでは映像のノイズが目立ちやすくなる。そこで,被写体の明るさに比例した信号レベルをHLG方式の信号レベルに変換するための,光-電気変換関数(OETF:Opto-Electronic Transfer Function)を信号処理回路の中に複数用意し,撮影するシーンの明るさに応じて選択できるようにした。例えば,映像のノイズが目立ちやすい暗いシーンでは,ダイナミックレンジがSDRの4倍までの関数を選択することで,20倍までの関数を選択した場合の1/5程度にノイズを抑えられる。逆に,十分に明るいシーンでは,より広いダイナミックレンジに対応した関数を選択できる(2図)。

理想的には,たとえ暗いシーンであっても広いダイナミックレンジでノイズの少ない8K映像を撮影できることが求められる。そのためには,今よりも高性能な撮像素子や高度な信号処理技術の開発が必要である。今後も,より美しい8KのHDR映像をご覧いただくために,8Kカメラの高画質化に向けた研究開発を進めていく。

1図 HDRで表現できる映像の例
2図 開発した信号処理回路の原理図