8K番組素材伝送に向けたミリ波(42GHz)帯SHV-FPUの開発

災害現場からのリポートやスポーツ中継など,中継先から放送局までの番組素材伝送に用いる無線伝送装置(FPU:Field Pick-up Unit)は,放送局外の素材(映像・音声など)を用いて番組を制作するために必要不可欠な機材である。現行のハイビジョン放送より高精細な8Kスーパーハイビジョン(以下,8K)の番組素材を無線伝送するFPU(以下,SHV-FPU)は,現行のFPUより多くの情報を伝送することが求められる。当所では,「ミリ波帯*1 の活用」と「偏波MIMO*2 技術」によって大容量化を実現する42GHz帯SHV-FPUの開発を進めている(1図)。

ミリ波帯のうち41~42GHz(以下,42GHz帯)は放送業務で利用できる周波数帯であり,42GHz帯FPUの標準規格(ARIB STD-B43)では,OFDM*3 方式における1チャンネルあたりの最大の周波数帯域幅は112MHz*4 と,広い帯域幅が割り当てられている。このため,約200Mbps*5 の大容量の無線伝送が可能になる。また,水平および垂直の2つの偏波に異なる情報を割り当て,同じチャンネルで同時に伝送する偏波MIMO技術によって,伝送可能な情報量をさらに2倍にすることができる。このように42GHz帯を利用した広帯域信号の伝送技術と偏波MIMO技術によって,400Mbps級の伝送レートで8Kの番組素材の無線伝送が実現できる。

FPUは送受信機と変復調装置で構成される。今回,112MHzの周波数帯域幅と偏波MIMOに対応した42GHz帯の送受信機を新たに開発し,周波数帯域幅が54.4MHzの既存の偏波MIMO対応OFDM変復調装置と組み合わせて評価実験を実施した。この実験により,約200Mbpsの伝送レートで情報を無線伝送できることを確認し,変復調装置を2倍の周波数帯域幅に対応させることで,200Mbpsの2倍の伝送レートを実現できる見通しを得た。今後は,112MHzの周波数帯域幅に対応した変復調装置の開発を進め,400Mbps級の無線伝送の実現を目指していく。

また,42GHz帯の電波は降雨減衰が大きいことが知られており,降雨の強さによって伝送可能な距離が変動する。そこで,今後は42GHz帯の送受信機を用いた屋外での無線伝送実験によって電波伝搬特性を調査し,降雨時でも10km程度の伝送距離が確保できるように42GHz帯SHV-FPUの性能改善に取り組むことで,8K中継番組の制作での活用を目指していく。

1図 42GHz帯SHV-FPUによる8K番組素材伝送のイメージ