22.2マルチチャンネル音響ラウドネスメーターの開発

現行のデジタル放送では,番組間の音量の差を無くすために,番組ごとのラウドネスレベル(主観的な音の大きさに対応した客観的な推定値)をそろえている。NHKは,8Kスーパーハイビジョン放送においても,番組ごとのラウドネスレベルを測定する技術の開発を進めている。今回,5.1chサラウンドまで対応する既存のラウドネス測定法(ITU-R*1 勧告 BS.1770-3)を22.2マルチチャンネル音響(以下,22.2ch音響)用に拡張し,その妥当性を検証するとともに,勧告の改訂に寄与した。

22.2ch音響用ラウドネス測定法

22.2ch音響用ラウドネス測定法(1図)は,既存のアルゴリズムをベースに入力チャンネル数を増やし,各チャンネルの方向の頭部伝達関数*2 から算出した重み係数を使用している(2図)。5.1chサラウンドまでの重み係数と,聴覚特性をモデル化したK特性フィルター*3 は,既存の勧告と同じである。

22.2ch音響用ラウドネス測定法の妥当性を検証するために,主観評価実験によって人が感じる感覚量を調べ,ラウドネスレベルと比較した。主観評価実験では,20個の番組音声素材を22.2ch音響,5.1chサラウンド,2chステレオ,モノラルで再生したものを評価音源とし,基準音源(女性の音声)と音の大きさが等しくなるように評価音源の再生レベルを評価者に調整してもらい,基準音源と評価音源の再生レベル差(主観評価値)を求めた。この主観評価値と,基準音源と評価音源とのラウドネスレベルの差(客観評価値)とを比較した結果,主観評価値と客観評価値の間に高い相関が見られ,22.2ch音響においても,5.1chサラウンドや2chステレオと同じ精度でラウドネスレベルを測定できることが分かった。

1図 22.2ch 音響用ラウドネス測定法
2図 方向別の重み係数 (耳介の向いている方向は,音を大きく感じるので重み係数が大きい)

NHKは,上記のラウドネスレベル測定法の拡張アルゴリズムをITU-Rに提案し,勧告の改訂に貢献した。これに準拠した22.2ch音響ラウドネスメーターを開発し,8K番組制作で使用している。今後も,国内外の標準化に寄与するとともに,高品質な音声サービスの実用化に向けて研究開発を進めていく。