位相雑音の影響を軽減した1024QAM復調技術

倉掛 卓也 中村 直義 小山田 公之

デジタルケーブルテレビの伝送容量の拡大を目指して,ケーブルテレビ用1024QAM受信機の開発を行った。開発したQAM復調回路では,従来の64,256QAMを多値化する際に課題となるチューナーの位相雑音の影響をシンボル判定領域の形を変形することで軽減する。位相雑音の影響をモデル化して,隣接シンボル間の判定しきい値線(直線)を求め,各直線で囲まれた多角形領域をシンボル判定領域とする。開発した復調回路が典型的な位相雑音環境において1024QAMの特性の改善に効果があることをシミュレーションで示し,実際に商用で使われているケーブルテレビ施設で試作機を用いた実験を行い,その効果を確認した。このQAM復調技術を用いることにより,BSデジタル放送の1中継器分の情報(約52Mbps)をケーブルテレビ1チャンネル(6MHz帯域幅)で伝送可能である。

1. まえがき

ケーブルテレビは放送を再送信するだけでなく,インターネット接続などができるケーブルモデムの普及により,放送と通信のサービスが融合する情報インフラへと成長している。将来,更に高度化,多様化していく視聴者のニーズに対応するためには,伝送容量を拡大するとともに,情報の伝送効率を高める必要がある。

現在,国内で規格化されているデジタルケーブルテレビの伝送方式は,トレーニング系列*1 を用いない単一搬送波の64,256QAM変調方式であり,6MHzの伝送帯域でそれぞれ約30Mbps,約40Mbpsの伝送容量を有している。また,有線テレビジョン放送法施行規則の技術基準に基づいてアナログ放送(NTSC-VSB*2-AM)とデジタル放送(64,256QAMおよびOFDM)を周波数多重で伝送するための技術的条件が規定されている1)2)3)

将来,ケーブルテレビで伝送する信号がすべてデジタルになれば,アナログ信号を伝送するための技術的条件やアナログ信号とデジタル信号とを混在して伝送するときに必要な伝送レベルに関する制約*3 が無くなると予想される。この制約が無くなれば,デジタル信号のレベルを高く設定でき,CN比*4 を改善することができるので,周波数利用効率のより高い伝送方式を導入して伝送容量を拡大することができると期待される。

本稿では,デジタルケーブルテレビ伝送方式の国際標準であるRec. ITU-T J.83 Annex C4) の64,256QAM方式を1024QAMに拡張した伝送方式を検討した結果について述べる。1024QAM方式は64,256QAM方式よりも,位相雑音が誤り率へ大きく影響するので,チューナーの位相雑音対策が課題となる。これまでに,位相雑音対策として誤り訂正符号の強化が効果的であることが報告されている5)。提案法では誤り訂正の強化に伴う冗長度の増加を抑え,シンボル判定方法を改善することで位相雑音の影響を軽減する。本稿では,まず,デジタルケーブルテレビ用に検討した大容量伝送方式と位相雑音の影響について概観する。次に,位相雑音の影響をモデル化してシンボル誤り率を低減する判定しきい値線を導出し,これに基づいてシンボル判定領域の形を変形する方法を提案する。最後に,シミュレーションおよび試作機を用いた伝送実験を行い,提案方法の有効性を示す。

2. デジタルケーブルテレビのための大容量伝送方式

アナログ放送をケーブルテレビで伝送する際の加入者宅でのCN比の目標性能値は43dB*5 である6)。このアナログ放送をすべてデジタル放送に置き換えた場合には,同程度のCN比が期待できる*6

ケーブルテレビの大容量伝送方式として,例えば,DVB*7 がデジタルケーブルテレビの伝送容量を拡大するために開発したDVB-C2方式7) やITU-Tが宅内ネットワーク用に開発したG.99608) の伝送方式などを利用することが考えられる。しかし,64,256QAM方式の受信機は既に実用化されており,それらの受信機の復調回路の多くの部分を共用できる方式の方がメリットが大きいと考えた。そこで,64,256QAM方式を拡張して1024QAMまで多値化する手法を検討した。64,256QAM方式では誤り訂正符号として短縮化リードソロモン符号RS(204,188)*8 を用いている。この訂正符号により訂正前のBER(Bit Error Ratio:ビット誤り率)が10-4以下の場合に訂正後のBERを擬似エラーフリーとなる10-12以下にすることができ,十分に満足できる伝送品質が得られる。1024QAMでは理論的にはCN比37dB弱で訂正後のBERを10-12以下にすることができ,ロールオフ率*9 13%で約48Mbps,4%で約53Mbpsの伝送容量を得ることができる。伝送容量が約53MbpsであればBSデジタル放送の1中継器分の情報(52.17Mbps)を6MHzで伝送できる可能性がある。ただし,1図に示すように,受信機のチューナーなどに位相雑音が存在する場合には受信信号のコンスタレーション*10 が円周方向に揺らぐので,隣接するシンボル間の距離が近い多値の変調方式では,位相雑音がBERに大きな影響を与えるという課題がある。

1図 位相雑音がある場合の64QAMの受信コンスタレーションの例

3. 位相雑音の影響を軽減する復調方法

3.1 送信信号

1024QAMのシンボルa(k)(=aI(k)+jaI(k),kは自然数で,時系列で何番目のシンボルかを表す)は正方形のコンスタレーションで,aI(k)およびaQ(k)は±1/31,±3/31,±5/31,…,±31/31の32通りの値を取る。トレーニング系列を用いない変調方式では,受信機で再生される搬送波の位相に90°の不確定性(4通り)があるので,シンボルマッピング*11 は回転対称の配置とした。具体的には,Rec.ITU-T J.83と同様に,I.Q平面の4つの象限のシンボルマッピング(10ビットシンボルの下位8ビットと信号点との対応関係)はそれぞれ回転対称の関係にある配置とし,10ビットシンボルの上位2ビットは差動符号化*12 して4つの象限のいずれかに対応するようにマッピングする。このようにシンボルマッピングすることで4通りのいずれの位相になっても正しくビットが復元できる。また,ロールオフ率は4%,シンボルレートは5.769Mbaudとする(付録A参照)。

3.2 位相雑音の影響を受けた誤差信号のモデル化

2図に同期検波*13 を行う受信機のモデルを示す。このモデルを用いて位相雑音が受信信号へ及ぼす影響について述べる。解析を簡単にするために,位相雑音の連続したサンプル値は互いに独立,再生された搬送波の周波数誤差は無し,シンボルタイミングは正確に再生されると仮定する。チューナーで周波数変換されたIF信号(復調回路への入力)は(1)式で表すことができる。

ここで,(= xI(t) + jxQ(t))は複素ベースバンド信号,(= nI(t) + jnQ(t))は複素白色ガウス雑音,ω0/2πは搬送波周波数,θ(t)はチューナーの位相雑音である。2図の位相誤差検出回路の出力は

と表すことができる。ここで,θ(t)の推定値である。(1)式および(2)式より復調信号は

となり,これがマッチトフィルター*14 を通して検出される。従って,誤差信号は

となる。ここで

は残留位相雑音であり,ε(t)<<1のとき,

と近似できる。ここでがシンボル周期程度の時間では大きく変動せず*15と相関のない確率過程であれば,(6)式の第2項は複素ガウス過程*16 と近似できる。また,十分に狭帯域化された確率過程はガウス過程と見なせるので9) ε(t)は実ガウス過程と見なすことができる。以上の仮定をおくと,あるシンボルa = aI + jaQに注目したとき,その誤差信号は2つのガウス過程の和であり,(6)式の第1項はベクトル(aIaQ)に直交した向きを持ち,分散が(aI2 + aQ2)に比例した大きさを持つガウス過程,(6)式の第2項は等方性の分布*17 で,分散がの分散と同じガウス過程となる。すなわち,熱雑音だけであれば受信信号(復調信号d(t)のシンボルタイミングでのサンプル値)の送信シンボルからのずれはIQ平面上で等方性の分布を持つが,位相雑音がある場合にはずれの分布が円周方向(IQ平面上のシンボル点と原点を結ぶ直線に直交する方向)に引き伸ばされることになる。

2図 同期検波を行う受信機のモデル

3.3 QAM復調回路のシンボル判定領域

位相雑音の影響を軽減するために効果的なシンボル判定領域を考察する。熱雑音はIQ平面上で等方性の分布を持つので,従来は正方形のシンボル判定領域が用いられていた。位相雑音によって誤差の分布がIQ平面上で円周方向に引き伸ばされるので,BER特性の劣化を軽減するために,分布の形に応じてシンボル判定領域の形を変形することにした。

議論を簡単にするために,2つの隣接するシンボル間での誤り率を最小にする判定領域の境界を考える。ここで,2つのシンボル(シンボルAとシンボルB)間の距離は原点からの距離と比較して十分に小さく,雑音分布の確率密度関数はそれぞれ(7)式で近似できると仮定する。

ここで,uv座標系は,3図に示すように,シンボルAとシンボルBを結ぶ直線の中点を原点とする座標系で,u軸はこの原点とIQ平面の原点を結ぶ直線で,向きをIQ平面の原点が負の向きになるように設定する。v軸はu軸に垂直な直線で,IQ平面の原点から反時計回りの向きを正とする。(uN, vN)はシンボルNの座標であり,NAまたはBである。σvは熱雑音と位相雑音の和,σuは熱雑音の大きさに対応した量である。位相雑音の影響の大きさを熱雑音の大きさで正規化した値をαIQ平面の原点とシンボル間の中点の距離をR0とすると

の関係がある。(7)式は,シンボルAとシンボルBを結ぶ直線の中点の位置の仮想的なシンボルの雑音分布がシンボルAとシンボルBの位置までシフトした雑音分布を持つと仮定した場合の式である。uv座標系で見た雑音分布は3.2節で述べたようにuvが無相関の2次元ガウス分布であり,v方向の分散はu方向の分散に対してR02に比例する成分が加算された分だけ大きくなっている。

誤り率を最小とする最大事後確率(MAP:Maximum A-posteriori Probability)受信*18 のしきい値線は,事前確率*19 が等しいと仮定すれば,確率密度が同じ値となる点の集合,すなわち

の解として求まる。この方程式の解はuv座標系の原点を通る直線

である(付録B参照)。ここで,ΔuΔvはシンボル間の座標差

である。

IQ平面上の任意のシンボルとそれに隣接するシンボルとの間のしきい値線を(10)式で求め,任意のシンボルの判定領域をそれらのしきい値線で囲まれた領域とする。4図に1024QAMの判定領域の例を示す。なお,この例では,最外周のシンボルの判定領域をI方向,Q方向共に65/62で制限している*20

しきい値線で囲まれた領域の一部を拡大して見ると,5図に示すように,縦方向および横方向に隣接する3つのシンボル間の3本のしきい値線は1点では交わらない。そのため,IQ平面上には上記の判定領域に含まれない領域が存在するが,判定領域に含まれない領域に含まれる受信信号はIQ平面上でユークリッド距離の最も近いシンボルであると判定することにする。なお,ユークリッド距離の最も近いシンボルに判定する手法は従来の手法そのものである。

以上のシンボル判定法を,以下,多角形領域判定と呼ぶことにする。

3図 シンボルA,B間のしきい値を決める際の雑音分布のモデル
4図 1024QAMのシンボル判定領域 (第1象限) の例
5図 隣接する3つのシンボルの境界領域の拡大図

4. シミュレーションによる評価

位相雑音を有する搬送波に対して,多角形領域判定を用いた場合と従来の正方形の判定領域を用いた場合(以下,正方形領域判定)のシンボル誤り率をシミュレーションを行って比較する。位相雑音は1/ƒ特性を持つピンク雑音とした。(8)式のαをパラメーターとしてCN比対シンボル誤り率をシミュレーションした。結果を6図に示す。ここで,位相雑音の大きさを10kHzオフセット*21 で,-95.5dBc*22/Hzまたは-92.5dBc/Hzに設定した。比較のために正方形領域判定の場合の結果も示した。また,位相雑音が存在しない場合のシンボル誤り率の理論値SERは(13)式を用いて算出した10)。ここで,erfcは誤差補関数を表し,CN比の値をCNRとした。

所要シンボル誤り率を10-3とした場合*23,位相雑音が-95.5dBc/Hzのときα=0.04~0.2で所要CN比を1dB程度,-92.5dBc/Hzのときα=0.1~0.4で所要CN比を2dB以上改善できるという結果が得られた。すなわち,多角形領域判定を行うことで位相雑音によるBER特性の劣化を軽減できる可能性があること,多角形領域判定はαの値に大きくは依存しないことがわかった。

6図 αをパラメーターとして計算したCN比対シンボル誤り率特性

5. 試作受信機による性能評価

5.1 試作受信機

試作受信機の全体の構成を7図(a)に,復調回路の構成を7図(b)に示す。チューナーの位相雑音の影響を調べるために,RF信号の周波数をIF帯へ変換する方法を2通り検討した。第1の方法は,市販のチューナーを用いて第1IF(57MHz)へ周波数変換した後,SG(Signal Generator)とミキサーを用いて第2IF(11.538MHz)へと2段階で周波数変換する方法である。第2の方法は,SGとミキサーを用いて,RF信号を第2IF(11.538MHz)へ直接周波数変換する方法である。市販のチューナーとSGの位相雑音特性を8図に示す。SGの位相雑音はチューナーの位相雑音より十分小さいことが確認できる。市販のチューナーの位相雑音はほぼ1/ƒ特性であり,10kHzオフセットで約-92dBc/Hzである。

復調回路では,7図(b)に示すように,まず,入力される第2IF信号を第2IFの中心周波数の4倍(=シンボルレートの8倍)のサンプルレートでA/D変換する。次に,LPFを通した後にサンプルレートを半分にしてロールオフフィルター(付録C参照)を通して波形整形を行い,ゲイン調整を行う。その後,リサンプラーを用いてタイミング再生を行い,更に搬送波再生と等化を行う構成である11)

9図を用いて,多角形領域判定を行う手順を説明する。なお,9図IQ平面を表しており,判定回路の入力信号をXで表している。

第1ステップでは,入力信号Xにユークリッド距離で最も近いシンボルを見つける。9図の例で最も近いシンボルはSである。入力信号Xを最も近いシンボルSであると判定する方法は従来の正方形領域判定と同じである。

第2ステップでは,I方向およびQ方向に隣接する4つのシンボル*24 のいずれかの判定領域(9図の色付きの領域)に入力信号が含まれるのかどうかを判定する。I方向およびQ方向に隣接する4つのシンボルだけを考慮すればよい理由は,9図に示すように,多角形判定領域が正方形判定領域である四角形の頂点a,c,f,hおよび各辺の中点b,e,g,dのいずれかを通る直線で囲まれた多角形であり,正方形判定領域からはみ出す領域は隣接した4つのシンボルだけであること,また,シンボルS以外のシンボルの判定領域で,シンボルSの正方形判定領域acfhに重なることのあるシンボルはI方向およびQ方向に隣接した4つのシンボルだけであることによる。多角形領域の内か外かの判定は以下のようにして行う。まず,判定領域の頂点A,B,C,D,E,Fの座標をメモリーから読み出す。次に,入力信号Xと判定領域の頂点を結ぶベクトルを求め,隣り合う頂点のベクトル(例えば)の外積演算を反時計回りに順次行い(次は,…),6つの外積のベクトルの向き(符号で判定)がすべて同じ場合に入力信号Xは判定領域ABCDEFの内側にあると判定する*25。隣接した4つのシンボルのいずれかのシンボルの判定領域の内側と判定された場合にはそのシンボルを判定値として出力する。いずれのシンボルの判定領域にも含まれないと判定された場合には,第1ステップで見つけたユークリッド距離の最も近いシンボルを判定値として出力する。

7図 試作受信機の構成
8図 受信機の周波数変換に用いた機器の位相雑音特性
9図 正方形判定領域と多角形判定領域の関係

5.2 伝送実験による評価

実際のケーブルテレビ施設を使って1024QAM信号を伝送し,試作機で受信する伝送実験を行った。実験を行った施設では36チャンネルの放送を行っており,光伝送部分は6.9kmのHFC(Hybrid Fiber-Coaxial)システム*26 である。施設の構成を10図に示す。1024QAMの伝送実験はUHF 18ch(中心周波数623MHz)を利用して行なった。10図に示す測定点の位置にある加入者端子(保安器出力)で測定した受信CN比(復調回路入力のCN比)は45dB以上,チャンネル内の周波数特性から推定した反射波のレベルは-25dB以下と良好な伝送路であった。

受信側で熱雑音を加えて測定したCN比対BER特性の測定結果を11図に示す。周波数変換にSGだけを用いた場合には,CN比が38dBでBERは10-4以下であった。また,位相雑音が存在しない場合の理論値からの劣化は2dB以下であった。ここで,BERの理論値BERは(14)式を用いて算出した12)

市販のチューナーでIF帯に変換した信号を用い,多角形領域判定を行った場合には,CN比が43dBでBERが10-4以下になる見通しを得た。市販のチューナーの位相雑音はSGの位相雑音より大きいが,多角形領域判定を行うことによって,SGだけを用いた場合と比較して5dBの劣化に抑えることができた。また,従来の正方形領域判定の場合と比較して2dB以上の改善ができた。2章で述べたように,CN比43dBはアナログ放送における目標値であり,アナログ放送終了後には1024QAM伝送を実現できる可能性があると言える。

10図 実験を行ったケーブルテレビ伝送路の構成
11図 CN比対BERの測定結果

6. まとめ

QAM復調回路のシンボル判定領域の形を変形することで,位相雑音によるBER特性の劣化を軽減する手法を開発した。シミュレーションおよび実際のケーブルテレビ施設における伝送路での評価実験を行い,提案手法を用いることで市販のチューナーの位相雑音の影響を軽減でき,1024QAM伝送を実現できる可能性があることを示した。また,ケーブルテレビの1チャンネル(帯域6MHz)で,BSデジタル放送の1中継器の情報容量(約52Mbps)を伝送でき,周波数利用効率の向上が期待できる。

謝辞:実験にご協力いただいたエルシーブイ(株)に感謝する。

本稿はIEEE Trans. on Consumer Electronicsに掲載された以下の論文の内容を元に加筆・修正したものである。
T. Kurakake, N. Nakamura and K. Oyamada:“1024-QAM Demodulator Robust to Phase Noise of Cable STB Tuners,” IEEE Trans. on Consumer Electronics, Vol. 51, No.2, pp.413-418(2005)

付録A

国内で採用されている64,256QAM変調方式のロールオフ率は13%,シンボルレートは5.274Mbaudであるが,今回の1024QAMの検討ではロールオフ率を4%,シンボルレートを5.769Mbaudとした。その理由は以下のとおりである。BSデジタル放送では48 TSパケット周期のフレーム構造*27 を用いて1中継器で複数のMPEG-2 TSの伝送(48TSの合計レートは最大52.17Mbps)が可能である13)。ケーブルテレビではBSデジタル放送を再送信するために,64,256QAM信号で複数のTSを伝送するフレーム構造が規格化されている14)15)。このフレーム構造は52TSパケットと1ヘッダーパケット*28 から成る53パケット周期となっている。そこで,1024QAMでは96TSパケット*29 と1パケットヘッダーから成る97パケット周期のフレーム構造を採用することとした。このフレーム構造でBSデジタル放送の1中継器分の情報を伝送するためには,誤り訂正を除いた伝送レートで52.17×97/96 = 52.71344Mbpsが必要であり,誤り訂正を考慮すると5.72Mbaud以上のシンボルレートが必要である。このシンボルレートを6MHzに収めるためには,4.8%以下のロールオフ率にすれば良く,今回はロールオフ率を4%,シンボルレートを5.769Mbaudとした。

付録B

(9)式に(7)式を代入し,両辺に2πσuσvを掛けて対数を取ると,

となる。両辺を展開して,uB=-uAvB=-vAであることに注意して整理すると(10)式になる。

付録C

小さなロールオフ率で固定劣化*30 を抑えるためには,ロールオフフィルターのタップ数を増やす必要がある。そこで,タップ数をパラメーターとして,ロールオフ率を4%とした場合のCN比対BER特性を計算した。C1図に示すように,ロールオフフィルターのタップ数が129の場合に固定劣化を2dB程度にすることができる。

C1図 ロールオフ率4%のロールオフフィルターのタップ数を変化させたときのCN比対BER特性