ケーブルテレビにおけるデジタル伝送技術の動向

小山田 公之

ケーブルテレビでは,デジタル放送の再送信の規格のほかに,さまざまな規格が定められている。また,光ファイバーの導入も進行している。ケーブルテレビにおけるデジタル伝送技術を最新の動向を含めて概観する。

1. まえがき

日本のケーブルテレビはテレビ放送開始の2年後の1955年に始まり,テレビ放送と共に長い歴史を歩んでいる。ケーブルテレビにおけるデジタル放送は,1996年のCSデジタル放送の開始とほぼ同時に開始され,その後,電波によるデジタル放送をケーブルテレビで再送信する規格のほかに,さまざまな伝送方式が開発・実用化されている。また,ケーブルテレビの信号を伝送する媒体にも変化があり,当初は同軸ケーブルであったが,近年は光ファイバーなどが導入されてきている。

以下,ケーブルテレビにおけるデジタル伝送技術を開発中の技術も含めて概観する。

2. ケーブルテレビの伝送媒体による分類

現在のケーブルテレビの多くは,VHF帯*1 からUHF帯*2 の高周波信号を伝送している。そのため,初期のケーブルテレビでは同軸ケーブルが用いられていた。その後,光ファイバーが実用化され,1図に示すようなさまざまな形態が使われるようになった。以下,伝送媒体別に説明する。

1図 ケーブルテレビの伝送媒体による分類

2.1 全同軸ケーブル型

ケーブルテレビの基本的な形態である。同軸ケーブルにおける伝送損失を補うために,数百メートルおきに増幅器を挿入する必要がある。大規模なケーブルテレビ施設では光・同軸ハイブリッド型(HFC:Hybrid Fiber-Coaxial)への移行が進んでいるが,小規模な施設では現在も主流である。

2.2 光・同軸ハイブリッド型

幹線系に光ファイバーを,その先の分配系に同軸ケーブルを用いる形態である。光ファイバーは同軸ケーブルと比較して伝送損失が小さいので,増幅器を挿入しなくても長距離の伝送が可能である。伝送特性が向上し,増幅器を必要としないので故障率が低く,保守が容易であるなどのメリットがある。幹線系を長距離にできるので,サービスエリアが広い大規模なケーブルテレビ施設に適している。また,分配系は全同軸ケーブル型と同じなので,全同軸ケーブル型からの移行が容易である。2009年度末には,自主放送*3 を行う許可施設*4(682施設)のうち幹線に光ファイバーを導入している施設は581施設(85.2%)であり,全国の幹線の総距離の46.4%が光ファイバー化されている。

2.3 全光ファイバー型

ヘッドエンド*5 から加入者宅まで,光ファイバーだけを用いて伝送する形態で,FTTH(Fiber To The Home)と呼ばれている。現在,通信系のインターネット接続でよく用いられるようになってきている。2010年9月末現在で,FTTHを導入しているケーブルテレビ施設数は213であり,増加傾向にある。

集合住宅などでは,ヘッドエンドから集合住宅までを光ファイバーで伝送し,集合住宅の屋内を同軸ケーブルで伝送する場合がある。このような方式をFTTB (Fiber To The Building)と呼ぶ。また,加入者宅の近くだけを同軸ケーブルで伝送するシステムで,HFCとの中間的なシステムをFTTC (Fiber To The Curb)と呼ぶこともある。FTTHについては5章で詳しく解説する。

2.4 光・無線ハイブリッド型

ケーブルテレビ施設の一部に無線伝送を導入した形態である。1図には,幹線系に光ファイバーを用い,加入者宅へは無線で配信する形態を示した。1図の方式とは逆に,幹線系の一部に無線伝送*6 を用いる技術も開発されている。この方式は離島や山間部など,幹線系で光ファイバーを敷設することが困難な場合に利用されている。

このような光ファイバーでマイクロ波やミリ波などの高周波信号を伝送する技術はRoF(Radio on Fiber)と呼ばれており,本号の報告「デジタル放送のミリ波Radio on Fiber伝送」で詳説する。

3. パススルー方式とトランスモジュレーション方式

最近のケーブルテレビでは,VHF帯からUHF帯以外に,BS-IF(Intermediate Frequency:中間周波数)*7 帯およびCS-IF帯などの高周波信号を伝送している施設もある。再送信をする方式の違いによって,以下の2つに分類できる。2つの方式については,既に,本誌の解説1)2) があるが,その後の動向を含めて紹介する。

3.1 パススルー方式

放送の高周波信号の変調方式を変更しないで,そのままケーブルテレビで伝送する方式をパススルー(Pass Through)方式と呼んでいる。地上放送を再送信する場合と,BS放送を再送信する場合のそれぞれについて説明する。

3.1.1 地上放送のパススルー方式

地上アナログ放送の再送信は放送の高周波信号をそのまま伝送するパススルー方式で行われてきた。デジタル放送の再送信においてもパススルー方式が利用できる。パススルー方式の最も優れた特徴は,市販のデジタル放送受像機を使って受信することができることである。

地上デジタル放送をパススルー方式で伝送する場合には,幾つか注意しなければならないことがある。地上デジタル放送はUHF帯のチャンネルで放送されているが,ケーブルテレビ施設によっては,伝送可能な周波数の上限が低く,UHF帯の信号を伝送できないことがある。このような施設では,変調方式は変更しないで,周波数をケーブルテレビで伝送可能な周波数に変換して伝送する。このような方式もパススルー方式の1種であり,周波数変換パススルー方式と呼んでいる。市販の地上デジタル放送受像機のほとんどは周波数変換パススルー方式に対応している。

3.1.2 BS放送のパススルー方式

BS放送は12GHz帯の電波で放送されており,この周波数をケーブルテレビで伝送することはできない。しかし,BS-IF信号は1.0GHz~1.3GHz帯の周波数なので,広帯域伝送が可能な一部のケーブルテレビ施設では,BS-IF信号でパススルー方式の伝送が可能である。伝送可能な周波数の上限がUHF帯で,広帯域伝送が不可能なケーブルテレビ施設では,2図に示すように,BS-IF信号を低い周波数に変換して伝送する周波数変換パススルー方式1) を用いる必要がある。しかし,周波数変換パススルー方式を市販のBSデジタル放送受像機で受信するためには,加入者宅でBS-IF帯の周波数へ戻すための周波数コンバーターが必要になる。また,BS-IF信号は1チャンネル当たりの帯域が広く,ケーブルテレビで伝送するには周波数利用効率が悪いので,周波数変換パススルー方式を採用している施設は未使用のチャンネルが多い施設で,コストをかけずに再送信をする場合に限定されており,その数は少ない。

2図 BS-IFの周波数変換パススルー方式1)

3.2 トランスモジュレーション方式

ケーブルテレビの伝送路は有線なので,途中に増幅器を挿入することが可能である。また,マルチパスのような反射や降雨減衰のような時間的な変動が少なく,安定で高品質である。この伝送路の特性を生かすために,地上放送やBS放送よりも単位周波数当たりの伝送容量が大きいQAM (Quadrature Amplitude Modulation:直交位相振幅変調)方式がトランスモジュレーション方式として規格化されている。

日本のケーブルテレビの規格は有線テレビジョン放送法施行規則で定められている。ケーブルテレビがデジタル放送を開始した1996年に64QAM変調方式がトランスモジュレーション方式として規格化され,現在,この変調方式を用いた放送が行われている。その後,ケーブルテレビの伝送品質が向上し,より多くの番組を伝送したいという要望もあり,2007年に256QAMが規格化された。1024QAM以上の方式の開発1)3) も行われてはいるが,まだ,実用には至っていない。

誤り訂正後に擬似エラーフリー(実用上エラー無しと見なせる)となる誤り訂正前のビット誤り率1×10-4を確保できる所要CN比は,変調方式が64QAMの場合には26dB以上,256QAMの場合には34dB以上である。64QAMと256QAMで誤り率が等しくなるCN比の差は理論的には6dBであるが,256QAMの固定劣化*8 をより多く見積もったので8dBの差となっている。

伝送路での反射波については,3図に示すように,反射波のレベルの上限が遅延時間の関数として定められている。

QAM受信機では,適応型波形等化器*9 が用いられるのが一般的である。従って,受信側ではどのような性能の適応型波形等化器を用いているのかを考慮して反射妨害を評価する必要がある。適応型波形等化器の動作を単純化すれば,ある値以下の遅延時間の反射波は大きなレベルであっても等化できるが,ある値以上の遅延時間の反射波はまったく等化できないと言うことができる。また,遅延時間が非常に長い場合には,希望波と反射波の相関はほとんど無くなるので,許容される反射波のレベルは同一チャンネル妨害と同じになる。4図(a)に許容される反射波のレベルを模式的に示す。

アナログ放送の場合,伝送路の反射妨害は映像のゴーストとして現れる。同じレベルの反射波であっても,遅延時間が短い場合には主観的な妨害量は小さい。また,遅延時間がある程度以上長くなると,遅延時間が変わっても主観的な妨害量は変化しない。従って,許容される反射波のレベルは模式的に4図(b)に示すように表すことができる。3図4図(a)と(b)の厳しい方のレベルを採用した結果である。

ケーブルテレビの国際規格としては,日本,ヨーロッパ,北アメリカ方式の3種類の方式がある。1表にこれらの方式を比較して示す。日本とヨーロッパの方式は一部のパラメーターは異なるが類似の方式であり,北アメリカの方式は日本やヨーロッパの方式とは異なる方式である。

3図 QAM伝送時の反射レベルの許容値
4図 反射波のレベルの許容値の模式図
1表 ケーブルテレビの日本,ヨーロッパ,北アメリカ方式の比較
日本 ヨーロッパ 北アメリカ
規格 Rec. ITU-T
J.83 Annex C
Rec. ITU-T
J.83 Annex A
Rec. ITU-T
J.83 Annex B
Rec. ITU-T
J.83 Annex D
誤り訂正方式 RS (204, 188)* RS (128, 122) と
畳み込み符号の連接
RS (207, 187)
帯域幅 6MHz 8MHz 6MHz 6MHz
変調方式 64/256QAM 16/32/64/128/256
QAM
64/256QAM 2/4/8/16VSB

※ リード・ソロモン符号 (Reed-Solomon Coding)

4. MPEG-2 TSの伝送方式

地上デジタル放送やBSデジタル放送をはじめとして,すべてのデジタル放送で伝送される情報はすべてMPEG-2 TS(Transport Stream)*10 であるが,放送の目的や伝送路が異なるので,TSの伝送容量はそれぞれ異なっている。ケーブルテレビのパススルー方式でこれらの放送を再送信する場合には,変調方式を変更しないので,TSの伝送容量の違いはほとんど問題にならない。しかし,トランスモジュレーション方式で再送信する場合には,ケーブルテレビの1つの搬送波で伝送できる容量が一定であることを考慮する必要があり,それらの放送を効率よく伝送するための仕組みが用いられている。5図に規格化されているデジタル伝送方式を示す。以下,それらの方式を簡単に解説する。

5図 ケーブルテレビのデジタル伝送方式

4.1 単一TS方式

狭帯域CSデジタル放送を再送信するために規格化された。伝送容量は狭帯域CSデジタル放送と同じ値約29Mbpsである。狭帯域CSデジタル放送の1つの搬送波で伝送される1つのTSをそのまま再送信する方式である。

4.2 複数TS方式

BSデジタル放送の1つの搬送波で伝送される複数のTSをTS単位に分割し,TSごとに別の搬送波で再送信することを目的に規格化された方式である。BSデジタル放送の1つの搬送波の伝送容量(約52Mbps)は狭帯域CSデジタル放送の伝送容量より大きく,ケーブルテレビの1つの搬送波ではBSデジタル放送の複数のTSをそのまま再送信することができないので規格化された。

複数TS方式では,複数のTSを多重するためのフレーム構造4) を導入した。ただし,変調方式は単一TS方式と同一であり,単一TS方式のチューナー・復調回路などをそのまま利用できる。

4.3 TS分割方式

複数の番組から成る1つのTSがデジタル放送の1つの搬送波で伝送される場合に,1つのTSを番組単位に分割し,番組ごとのTSを新たに生成して,それらをそれぞれ別の搬送波で再送信する方式である。

広帯域CSデジタル放送(東経110°)の規格はBSデジタル放送の規格と同じである。ただし,実際の放送では,変調方式として畳み込み符号の符号化率3/4のQPSKを用いているので,伝送容量は約39Mbpsである。また,ほとんどの中継器では,1つの搬送波で1つのTSを放送している。ケーブルテレビの単一TS方式の1つの搬送波の伝送容量は約29Mbpsであり,広帯域CSデジタル放送を再送信をするためには,1つのTSを分割する必要があった。

TS分割方式では,TSの分割を番組単位に行うので,受信機は希望の番組が伝送されている1つの搬送波だけを受信すれば良い。

4.4 リマックス方式

デジタル放送の再送信においては,原則として放送の内容には変更を加えずにそのまま伝送する。一方,CS等で配信される番組や独自に調達した番組は再送信の際にTSを新たに生成し直して放送する。この方式をリマックス方式と呼ぶ。

5. FTTH

5.1 光ファイバーの敷設形態

伝送ネットワークの敷設形態を6図に示す。送信局と加入者を1対1に接続するスター型*11,途中で分岐して複数の加入者と接続するダブル・スター型,多段に分岐して多数の加入者と接続するツリー型などがある。同軸ケーブルを用いた通常のケーブルテレビ施設はツリー型である。一方,光ファイバーを用いたネットワークでは,光増幅器を用いないで分岐を多数行うことは困難なので,スター型やダブル・スター型が用いられる。

ダブル・スター型は送信局から出る光ファイバーを複数の加入者で共有できるので,光ファイバーの総延長は短くてよい。そのため,ダブル・スター型は広いエリアでサービスをするのに適している。分岐に受動素子を用いるダブル・スター型の光ファイバーのネットワークはPON(Passive Optical Network)*12 と呼ばれている。現在,FTTHを用いたサービスでは,PONを用いるのが主流である。

6図 伝送ネットワークの敷設形態

5.2 FTTHにおける通信サービス

FTTHを用いて,放送配信サービスだけでなく通信サービスを提供することができる。また,波長多重*13 することで,両方のサービスを1本の光ファイバーで提供することも可能である。どのように波長多重するのかを説明する前に,PONにおける通信サービスの仕組みを簡単に説明する。PONを利用した通信サービスもPONと呼ばれているが,紛らわしいのでここでは,通信サービスを意味する場合はPONサービスと呼ぶことにする。

PONサービスは双方向の通信である。7図に示すような仕組みを用いて,下り(送信局から加入者へ)と上り(加入者から送信局へ)の伝送を行っている。下りの情報は送信局から送り出された光信号によって伝送され,すべての加入者側の端末に届く。加入者側の端末は該当する加入者宛の情報だけを選び出して出力する。上りの情報は加入者側の端末から送り出す光信号によって伝送される。加入者側の端末は,送信局に到達したときに他の加入者からの光信号と重ならないように,それぞれに割り当てられたタイミングでバースト状に光信号を送信する。送信局はそれらを一括して受信する。上りと下りには異なる波長の光信号が用いられており,1本の光ファイバーで双方向を実現している。

ギガビット(Gbps)級の方式としては,Rec. ITU-T G.984シリーズで勧告されているGPON (Gigabit-capable PON)と呼ばれる方式がある。IEEE(The Institute of Electrical and Electronics Engineers, Inc.)*14 の規格IEEE 802.3h ではGE-PON(Gigabit Ethernet - PON)が制定されている。2表に簡単な比較を示す。ATM(Asynchronous Transfer Mode)*15 をベースにして開発されたGPONは主にヨーロッパとアメリカで普及しており,イーサネットをベースにして開発されたGE-PONは主に日本で普及している。最近では10Gbps級のPONサービスとして,Rec. ITU-T G.987シリーズ(XG-PON*16)や,IEEE802.3av(10GE-PON)が規格化されている。

8図に示すように,GPONやXG-PONの勧告では,上り・下りで使用する波長帯域が規定されている。8図はITU-Tで勧告されている波長帯域であるが,IEEEの規格でも同様に波長帯域が定められている。GPONの上りの波長帯域として複数の規定がある理由は,光源に使用する半導体レーザーの発振波長の精度の違いに対応するためである。また,これらの規格の中で,映像配信サービスで用いることのできる波長帯域も規定されている。規格に従った波長を用いることで,1本の光ファイバーで,PONサービスと映像配信サービスを同時に提供することが可能となる。

7図 PONサービスの仕組み
2表 GPONとGE-PON
GPON GE-PON
規格 Rec. ITU-T G.984 IEEE 802.3h
伝送容量 上り:1.2/2.4Gbps
下り:2.4Gbps
上り:1.25Gbps
下り:1.25Gbps
備考 主にヨーロッパとアメリカで普及 主に日本で普及
8図 GPONおよびXG-PONで使用する波長帯域

6. 光ファイバーを用いた映像配信の伝送方式

6.1 BS-IF/CS-IF帯を含むパススルー光伝送

光ファイバーでも,光を強度変調することで高周波信号を伝送することができるので,同軸ケーブルにおけるパススルー方式をそのまま適用することができる。また,光ファイバーは同軸ケーブルと比較して,より高い周波数の信号を小さい減衰で伝送できるので,9図に示すように,BS-IF/CS-IF*17 帯の信号のパススルー伝送が可能である。2010年9月末現在で,81施設がBS-IF帯の信号をパススルー伝送している。

VHF~UHF帯からBS-IF/CS-IF帯にわたる多チャンネルを一括して伝送するためには,線形性の良い光送信器・光受信器が必要である。また,現在はアナログ放送信号も伝送しなければならないので,低雑音であることも要求される。これらの要求を同時に満たすシステムのコストは高くなるが10図に示すように,高性能な半導体レーザーを用いた1波長伝送方式と,全帯域を2つ以上に分割して,それぞれを別の光で変調して多重する2波長伝送方式が実用化されている。

9図 BS-IF/CS-IF帯の周波数
10図 BS-IF/CS-IF帯を含むパススルー光伝送

6.2 FM一括伝送方式

光ファイバーで放送信号を伝送するためには,前述のように厳しい伝送特性を満たさなければならない。この制約を緩和するための伝送方式としてFM一括伝送方式6) がある。この方式は,光ファイバーの広帯域な伝送帯域と高度な光デバイス技術を活用した方式である。

FM一括伝送方式の概要を11図に示す。多チャンネルの放送信号を多重した高周波信号をFM変調器に入力し,広帯域なFM信号に変換する。このFM信号で強度変調した光信号を光ファイバーで伝送する。受信機では,光信号を電気信号に変換した後に,FM復調して多チャンネルの放送信号が得られる。装置が複雑になるが,FM変調をすることで,光伝送における雑音や歪(ひず)みに強い伝送特性が得られる。

FM変調器への入力信号は約1GHzの高周波信号であり,出力のFM信号のスペクトラムは約0.5GHz~6GHzの範囲に及ぶ。このような広帯域のFM変調器を電子回路だけで実現することは極めて困難であり,以下で説明するように半導体レーザーを用いて実現している。

半導体レーザーは流す電流に比例した強度の光を発する素子であるが,電流を変化させたときに強度だけでなく発振波長(周波数)も変化する。光の周波数は約300THzと非常に高いので,わずかな波長の変化であっても,大きな周波数偏移となる。12図(a)は直接変調型と呼ばれる広帯域なFM変調器である。まず,FM変調用の半導体レーザーでFM変調された光信号を作る。次に,その半導体レーザーとわずかに波長の異なる別の半導体レーザーとのビートを作り,それを電気信号として取り出す。12図(b)は直接変調・位相変調併用型と呼ばれる広帯域なFM変調器である。CS-IF帯を含む上限2.1GHzまでを伝送するために開発された方式であり外部光位相変調器を併用している。

11図 FM一括伝送方式
12図 M一括用FM変調器

6.3 ベースバンド伝送方式

6.1節と6.2節で述べた方式は,いずれも周波数多重された高周波信号をアナログ伝送する方式である。光ファイバーは伝送帯域が広く,アナログ信号よりもデジタル信号を伝送するのに適している。デジタル放送の信号で変調したアナログ信号を光ファイバーで伝送するという方式は,これまでのケーブルテレビとの互換性を保つために採用されている方式と言ってよい。互換性を考慮する必要がないのであれば,デジタル放送をそのままデジタル信号として伝送した方がメリットが多い。そこで,当所では,FTTHに適した伝送方式として,デジタル放送をベースバンドのデジタル信号で伝送するシステムの研究を行っている7)8)

以下では,高周波信号を多重する従来の方式をFDM(Frequency Division Multiplexing)方式,ベースバンドのデジタル信号を多重する方式をTDM(Time Division Multiplexing)方式と呼ぶことにする。TDM方式はFDM方式よりも雑音や歪みに強く,低い受光電力で受信可能である。従って,FDM方式よりも伝送路長を長くしたり,信号分配数を増やしたりすることが可能であり,システムの低廉化が図れる。特に,13図に示すように,通信信号と波長多重する場合には,同じ方式で伝送できるので,回線設計を共通に行うことができる。

TDM方式には上記のような優れた特徴があるが,既存のケーブルテレビとの互換性はなく,専用のSTB(Set Top Box)が必要である。また,ベースバンドのデジタル信号を屋内で分配するためには,屋内配線にも光ファイバーが必要になる。これを解決するために,屋内では高周波信号に再変換して分配する装置8) を開発している。

13図 通信サービスと波長多重するTDM方式放送

7. むすび

ケーブルテレビのデジタル伝送方式について,規格を中心に概観した。これからのケーブルテレビは,既存の放送だけを再送信するのではなく,新しい放送サービスと通信技術を利用したサービスを融合させた総合的情報通信基盤として重要な役割を担っていくと期待される。当所においても,放送とケーブルテレビの発展のための研究開発を進めていく。