写真:西村 敏

映像伝送のためのIPネットワーク技術(1回/全4回)

ライブ映像配信のためのP2P配信技術

次世代プラットフォーム研究部 西村 敏

この連載では、大規模ライブストリーミング実現のためのP2P配信技術、IP通信回線を用いた映像素材伝送の安定化や優先度制御の技術について紹介します。

現在、インターネットで同時に多数の視聴者に向けたライブ配信を行うためには、アクセス数に応じた大規模なサーバー設備と膨大な配信コストが必要になります。そこで技研では、大規模かつ安定な映像配信を低コストで実現することを目指して、ピアツーピア(P2P)技術を用いたライブ配信技術を研究しています。

P2P技術を用いたライブ配信は、配信サーバーから送出される映像ストリームを視聴者の端末が次々と中継していくことで、配信サーバーに負荷をかけることなく、低コストで大規模な配信が実現できる技術として期待されています。その一方で、各視聴者のネットワーク環境や端末の性能に加えて、ストリームを中継する各視聴者が、いつ視聴を開始または終了するかなどを把握することが困難なことから、映像の再生が不安定になる可能性があります。そこで、各々の端末の送受信状態やネットワーク環境を考慮して、安定性の高い中継ネットワークを構築する技術を開発しました。

開発した技術では、複数の端末がメッシュ状に接続され、各端末が複数の経路から映像ストリームを取得します。特に接続する回線の上り帯域が大きく、かつ多くの端末にストリームを中継可能な端末ほど配信サーバーの近くに接続するように、各々の端末が自律的に中継ネットワークを組み替えることにより大規模かつ安定な配信を実現します。

また、P2P技術に加えてクラウドサービスを利用し、高い回線速度や処理速度を必要とする配信サーバーの設備をアクセス数に応じて柔軟に増減できる仕組みを導入することで、本運用に向けた柔軟な設備設計・低コスト化を図った実験システムを構築しました(図)。

ロンドン五輪のネット生中継では、CDN* を使用した通常配信とともに一部競技の高画質配信のシステムとして本システムが使用され、多くの視聴者に高画質かつ安定した映像をご覧いただくことができました。

今後は、多様な放送通信連携サービスの実現に向けて、放送サービスを補完する情報を、通信網経由で大規模、安定かつ安全に低コストに提供する技術の確立を目指していきます。

*CDN:Contents Delivery Network インターネット経由でコンテンツを安定に配信するための機能を備えた専用のネットワーク

図 実験システムの構成