写真:椎野 弘崇

放送を支える記録技術(3回/全4回)

熱アシスト記録

材料・デバイス 椎野 弘崇

連載「放送を支える記録技術」では、「ビデオテープ」に代わる新しい映像記録メディアとして高性能化が著しいハードディスクの高密度記録技術と、飛躍的な大容量化が将来期待できるホログラム記録技術について紹介します。

スーパーハイビジョンをコンパクトな装置に記録するには、ハードディスクの記録密度を飛躍的に向上させる必要があります。今回は、現在最も高い記録密度が達成できる磁気記録技術と考えられている、熱アシスト記録技術について紹介します。

超高密度磁気記録における課題

ハードディスクでは、図1左に示すように磁気ヘッドを使ってディスク上の磁性粒子を磁化することでデータを記録します。ディスクの記録密度を上げるためには磁性粒子を小さくすることが有効ですが、磁性粒子を小さくすると磁化が熱に対して不安定になり、記録したデータが消える可能性が高くなります。これを防ぐために、磁性粒子の持つ磁気エネルギーを大きくして磁化の安定性を高める必要があります。しかし、それに伴いディスクの保磁力(磁化の反転しにくさ)が高くなり、データの書き込み性能が低下します。スーパーハイビジョンの記録に必要と考えられる1平方インチあたり1テラビット以上の超高密度記録を実現するためには、安定性確保の点からディスクの保磁力を磁気ヘッドの記録能力を超えるほど高くする必要があります。このため、通常の磁気ヘッドでは記録できなくなるといった問題が生じます。

熱アシスト記録

この問題を解決するために提案されている1つの方法が熱アシスト記録です。熱アシスト記録では、図1右に示すようにディスク上の記録する部分をレーザーで瞬間的に加熱し、磁気ヘッドでデータを記録します。磁性粒子の温度が上がると保磁力は低くなるので、レーザーで加熱することによって、室温では高い保磁力を持つディスクでも通常の磁気ヘッドで記録できるようになります。この技術を使うと、磁性粒子の微粒子化と安定な記録を両立できるため、超高密度記録の実現が期待できます。

図1 熱アシスト記録の原理

これまでの研究成果

現在、評価装置を使って熱アシスト記録の効果の検証を進めています。図2は高い保磁力のディスクを磁気ヘッドのみで記録した場合と、熱アシスト記録した場合の再生波形を示しています。磁気ヘッドだけでは再生信号が小さく記録できていませんが、熱アシスト記録により十分な記録ができることが確認できました。今後は超高密度記録の実現を目指して、記録方式の改善やディスクの開発などの研究を進めていきます。

図2 高保磁力ディスクにおける記録再生波形の比較