写真:新井 大地 研究員

VVCにおける解像度の動的変更技術

テレビ方式研究部 新井 大地 研究員

2017年NHK入局。技術局を経て、2020年より放送技術研究所に所属。以降、映像符号化の研究開発に従事。趣味は旅行とサイクリング。

当所では、次世代の映像サービスに向けた映像符号化技術の研究開発に取り組んでいます。

解像度の動的変更技術とは

テレビやインターネットにおける映像サービスでは、限られた帯域の中で高品質な映像を届けるために映像データの圧縮を行う映像符号化技術が使用されています。最新の映像符号化方式VVC(Versatile Video Coding)では、2018年に開始した新4K8K衛星放送で使用されているHEVC(High Efficiency Video Coding)と比較して、約60%のデータ量で同程度の画質を実現できるようになりました。

しかし実際の圧縮後の画質は、映像中の被写体の絵柄の細かさや動きの速さによって異なります。そのため、絵柄が高精細で動きの激しい映像を送る場合、絵柄や動きを再現できないなどの映像乱れが発生することがあります。これを防ぐため、映像全体の解像度をあらかじめ下げて符号化し、復号後に元の解像度に戻す処理が提案されています*1。VVCでは、解像度を下げて符号化する処理を常時ではなく一時的に適用することができる“動的解像度変更”(ARC:Adaptive Resolution Change)と呼ばれる新しい技術が導入されました。

ARCにおける解像度決定手法の開発

実際にARCを行うためには、映像中の被写体の絵柄の細かさや動きの速さに応じて、適切な解像度を決定する必要があります。しかし、VVCの規格*2では解像度の決定手法は定められていません。そこで当所では、解像度の縮小度合いを変えた複数の映像を同時に符号化して画質を比較することで、最適な解像度を決定する手法を開発しました(図1)。例えば4K映像を符号化する場合、4Kだけでなく3K、2Kなどの複数の解像度に縮小した映像も並列に符号化処理を行います。それぞれの解像度の符号化結果を比較し、より画質がよくなる解像度を時間に応じて選択することで、解像度を決定します。この手法により、そのままの解像度で符号化する場合よりも、映像品質を向上することができました(図2)。

より高品質な映像をお届けできるように、今後も映像符号化技術の研究開発を進めていきます。

図1 動的解像度変更(ARC)における解像度決定手法の例
図2 ARCによる映像品質向上の例*3