写真:古屋 琴子 研究員

地上放送高度化の伝送技術(第1回/全3回)

地上放送高度化に向けた伝送路符号化方式

伝送システム研究部 古屋 琴子 研究員

当所では、次世代の地上テレビ放送に向けた地上放送高度化の研究開発に取り組んでいます。この連載では、放送局からご家庭の視聴端末までコンテンツを届けるための、伝送技術の最新の研究を紹介します。

2003年の地上デジタルテレビジョン放送開始から来年で20年となります。この間、放送技術は大きく進展しており、地上放送においてもサービスの高品質化や高機能化といった高度化に向けた検討が本格的に進められる時期となっています。当所では、家庭などの固定受信向けの4K放送と自動車など移動受信向けのハイビジョン(2K)放送を地上波の1チャンネル(6MHz幅)で同時に提供するため、新しい伝送路符号化方式として地上放送高度化方式(以下、高度化方式)の研究開発を進めています。

高度化方式では、現行の地上デジタルテレビジョン放送で用いている伝送方式(現行方式)の信号構造や伝送機能などを引き継ぎながら、さらに改良を加え進化させています。例えば、現行方式と同様に信号構造として周波数セグメント構造*1を採用していますが、セグメントへの分割数を13から35へ増やすことで、固定受信や移動受信など複数のサービスに割り当てる伝送容量をより柔軟に設定できるようになりました。また、新たな技術として、不均一な信号点配置(図1)や性能の優れた誤り訂正符号*2を導入することで、雑音やマルチパス波*3への耐性が高くなり、より効率的に大容量のデータを伝送できるようになりました。高度化方式は、受信に必要な信号品質を示す所要CN比(信号と雑音の電力比)が同じ場合では現行方式と比べて伝送容量が約1.7倍となり、伝送容量が同じ場合では現行方式と比べて所要CN比を約7dB低減させることが可能となるなど、より高品質な伝送が可能であることを確認しました(図2)。

現在、東京、大阪、名古屋、福岡地区に設置された実験試験局を用いて、高度化方式の実証実験を進めています(図3)。昨年度は100を超える多地点での固定受信実験や、高架下など電波を受信しにくい環境での移動受信実験を行いました。今後も高度化方式の実用化に向けて、引き続き検証を進めていきます*4

図1 不均一な信号点配置の導入(信号点配置を所要CN比に合わせて調整した配置であり、従来の間隔が均一な配置よりも良好な受信特性が得られます。)
図2 伝送容量と所要CN比の関係
図3 実証実験の様子
  1. 信号帯域幅を周波数方向で分割したブロック(セグメント)を単位として伝送を行う構造
  2. 伝送路で発生する誤りを受信側で訂正する技術
  3. 直接到来する電波に加えて、建物や山などに反射して届く電波
  4. 本研究の一部は、総務省の周波数ひっ迫対策技術試験事務「放送用周波数を有効活用する技術方策に関する調査検討」として実施しました