写真:古宮 弘智 研究員

『技術』の枠を超えた研究(第2回/全3回)

文理融合によるELSIへの取り組みについて

スマートプロダクション研究部 古宮 弘智 研究員

当所が進めている研究は、いわゆる技術的な研究が中心です。しかし、「より豊かな未来のメディア」を実現するためには、技術的な研究をサポートする周辺分野や、技術以外の分野との横断領域の研究も重要になってきます。このような「技術」の枠を超えた研究をご紹介します。

ELSIとはなんですか?

近年、私たちを取り巻く社会環境は、AI(人工知能)やビッグデータ解析などの技術革新によって、急激に変化しています。番組の制作やインターネットサービスにおいても、効率的な番組制作や視聴者サービスの利便性向上のため、AIやビッグデータが活用されています。一方で、そういった新たな技術を社会実装しようとすると、倫理的な問題や法的な問題が発生する場合があります。当所では、2021年4月からNHK放送文化研究所と連携して文理融合プロジェクトを立ち上げ、倫理的・法的・社会的課題(ELSI: Ethical, Legal and Social Issues)の視点から、メディア技術を社会実装する際の諸課題の解決に向けた研究を進めています。

具体的にはどんな研究ですか?

例えば、商用の顔画像認識システムにおいて、性別や肌の色による誤り(学習データの偏り)の存在が明らかになりました。顔画像認識にはディープラーニング(深層学習)が多く活用されていますが、人種によっては人を誤って動物と認識しやすいという事例が報告されており、サービスの提供事業者にもモデルや学習結果に関する説明責任や透明性の担保が求められています。国内外の企業や大学、研究機関の多くがこのようなELSI の解決に向けた研究に取り組んでいますが、当所でも多様性や公平性に配慮した研究開発の進め方と、業務にあたって参照すべき手引きの検討に取り組んでいます。

今後どのように変わりますか?

ELSIに配慮した研究の進め方と手引きの策定により、今まで以上に人や社会に寄り添った研究開発が可能になります。

文理融合によるELSIへの取り組み