写真:佐々木 陽 研究員

波面合成技術

手前に飛び出す音の表現

テレビ方式研究部 佐々木 陽 研究員

2009年 NHK入局。岡山放送局を経て2014年より放送技術研究所に所属。以降、将来の放送サービスに向けた音響技術の研究開発に従事。専門は信号処理を用いた音場制御・収音技術。もっと数学に強くなりたいと思っている。

立体映像に合わせた3次元音響表現を実現するために、波面※1合成技術の研究を進めています。技研で研究を進めている3次元テレビは、裸眼で目の前に実物があるような立体映像を見ることができます。こうした立体映像に合わせた位置で、あたかも音が鳴っているような音響表現ができれば、これまでにない臨場感でよりリアルに立体的なコンテンツを楽しめるようになります。このような音響表現の実現を目指して、複数のスピーカーユニットによって構成されるアレイスピーカーを使った波面合成技術の研究に取り組んでいます。

波面合成技術では、あらかじめ合成したい音の波面を計算し、それに基づいて各スピーカーユニットで再生される音の強さやタイミングを制御することで、アレイスピーカーの前方に、計算された波面を合成します。実際には音源が存在しない位置から、あたかも音が出ているかのように波面を再現することで、聴取者は立体映像と同様に音が手前に飛び出ているように感じます(図1)。

また、多様な音響表現を実現するために、複雑な波面を合成する研究も行っています。移動する音源によって形成される波面を合成することができれば、滑らかな音源移動だけではなく、音源が移動することによって生じるドップラー効果※2も表現可能となります。こうした表現を実現するため、移動する音源によって形成される波面の計算方法や、計算された波面を合成するためのアレイスピーカーの制御方法を開発しました。

今後は、より自然で立体的な映像・音声コンテンツの実現に向け、波面合成技術の実用化に向けた研究を進めるとともに、さまざまな音響表現を可能とする技術開発に取り組んでいきます。

※1 波面:空気の振動の山と山、谷と谷を結ぶ面
※2 ドップラー効果:音源あるいは観測者が移動することで観測される音の周波数が変化する現象

図1 手前に飛び出して移動する音の表現