写真:室井 哲彦 主任研究員

インコヒーレントデジタルホログラフィー

超高精細な3次元情報取得に向けて

新機能デバイス研究部 室井 哲彦 主任研究員

2004年に入局。同年より放送技術研究所にて、冷陰極ディスプレー、ホログラムメモリーの研究開発に従事し、2018年よりコンピュテーショナルフォトグラフィーの研究に取り組んでいる。最近の趣味は子供と散歩すること。

インコヒーレントデジタルホログラフィーとは

デジタルホログラフィーは被写体の3次元情報を取得できる技術です。通常のデジタルホログラフィーではレーザー光を用いるため、撮影環境に制限があります。一方、インコヒーレントデジタルホログラフィー(Incoherent Digital Holography; IDH)は、自然光やLED(Light Emitting Diode)光源などの干渉性の低い光(インコヒーレント光)の下での撮影で、3次元情報を取得できる技術です。IDHでは特殊な光を使わないため、さまざまな場所での3次元情報取得に使用できる可能性があります。

IDHの原理

IDHの光学系を図1に示します。LED光源を照射した物体(ここではヒョウとシマウマの玩具)からの光(物体光)はビームスプリッターで2つの光に分離されます。一方の物体光は平面ミラーで、他方は凹面ミラーで反射され、再びビームスプリッターで合成されて撮像素子に入射します。このとき2つの光にはわずかな光路差が生じているため、干渉縞(ホログラム)が生成されます。

次に、平面ミラーの位置をわずかに変えた4か所で、条件の異なる4つのホログラム像を撮影します。これらのホログラム像から、計算機上でホログラムの振幅と位相を求め (図2)、さらに光の逆伝搬計算を行うことにより、任意の奥行き位置での画像を得ることができます(図3)。

図1 インコヒーレントデジタルホログラフィーの光学系(物体にLED 光を照射)
図2 4つのホログラムから計算した振幅と位相
図3 光の逆伝搬計算で得られた画像

ホログラムの撮影と画質改善に向けた原理検証

技研では、実写によるIDHの情報取得システムを試作し、逆伝搬計算により任意の奥行き位置での画像が得られることを確認しました。また、物体の奥行き位置、レンズや撮像素子などの配置、レンズの焦点距離と、画質との関係を計算で明らかにし、物体の奥行き位置に応じた最適な光学系の設計値を理論式で求めました。

今後は、さらなる画質改善や動画像の取得を目指して、IDHの光学系や撮影方法を検討し、将来の超高精細な3次元情報取得を目指していきます。