2.9 有線伝送技術

新4K8K衛星放送のさらなる普及促進や、放送通信連携によるサービスの高度化を目指して、ケーブルテレビ(CATV)事業者が所有するFTTH(Fiber To The Home)の商用クローズドネットワークを利用したIPマルチキャスト配信方式の研究を進めている(図2-25)

戸建て住宅や光ファイバーが敷設された集合住宅において放送通信連携サービスを実現することを目指したIPマルチキャスト配信実験を行った。実験では、IX(Internet eXchange)事業者に設置した配信サーバーから、放送ルートを想定した4K映像(図2-25の①)と通信ルートでの伝送を想定した自由視点ARデータ(図2-25の②)の信号をCATV事業者に向けてマルチキャスト配信し、CATV局内の実験用クローズドネットワーク内に配置したIP-STBとタブレット端末で受信した。MMTパケットに含まれる絶対時刻情報を用いることで4K映像と自由視点ARデータが同期してタブレット端末で再生できることを確認した。さらに、配信サーバーとIP-STB間のパケットエラーレート、遅延時間、ジッタを測定した結果、実験用のクローズドネットワークにおいてIP放送に関する総務省令で規定された技術的条件を満足することがわかった(1)(2)。これらの結果から、CATV事業者の商用クローズドネットワークで放送通信連携サービスを実現できる可能性を示した。

同軸ケーブルのみが敷設されている集合住宅では、多チャンネルの4K・8K放送を集合住宅内で伝送することができない。この課題解決のために提案した、限られたチャンネルで番組を効率的に配信できるIPカプセル化方式の有効性を検証するために、2018年度に試作したIPカプセル化装置と、既存のDOCSIS(Data Over Cable Service Interface Specifications)規格の装置を組み合わせたIPマルチキャスト配信実験を行った(図2-26)。その結果、IX事業者から配信した4K・8K番組をCATV事業者が所有する棟内伝送の実験ネットワーク内で正常に配信・選局できることを確認し、提案方式の有効性を示した。また、同軸ケーブルのC/Nが悪い場合に発生するパケットロスの対策として、IPレイヤーの誤り訂正技術であるAL-FEC(Application Layer–Forward Error Correction)の使用が有効であることを確認した(3)。ただし、ペイロード長を調整できない新4K8K衛星放送のMMT方式のIPパケットに対してAL-FECを適用する場合、AL-FECのヘッダ情報を付加することでIPパケット長が1500Byteを超えるため、市販の一部のネットワーク機器ではそのIPパケットを伝送できない。この対策として、IPv6ヘッダをIPv4ヘッダに変換してヘッダ長を短縮する方式を考案し、AL-FECを用いて安定したIP配信を実現できる見通しを得た(4)

図2-25 IPマルチキャストを活用した、放送通信連携による4K・8K放送高度化のイメージ
図2-26 IPマルチキャスト配信実験の様子