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2020年10月8日(木)

東京オリンピックへの試金石 感染症対策陸上 日本選手権から

10月1日から3日間、新潟市で開催された陸上の日本選手権。運営側の最大の課題となったのは感染症対策でした。3日間で、のべおよそ1万人が全国から集まった一大イベントの裏側にあったもう1つの戦い。東京オリンピックに向けた試金石にもなった大会運営の現場の模索を追いました。

選手も驚く感染症対策

新潟市のビッグスワンスタジアムで開催された陸上の日本選手権。全国からトップ選手が集まり、新潟県民限定で2000人の観客も入れて行われました。大会は全選手の検温を義務づけるなど、選手も驚く徹底した感染症対策のなかで行われました。

桐生祥秀 選手

「ぎりぎりまでマスクをつけて、今回初めて、そこまでつけるんだと思った。しっかりルールにのっとってやっていきたいと思います」

大阪で予定されていた大会が延期となり、新潟での開催が決まったのはことし6月。5年前に日本選手権が行われていることなどが考慮され、急遽白羽の矢が立ちました。開催まで、すでに3か月にせまっていました。

新潟陸上競技協会 高塚 俊 専務理事

「準備期間が非常に短い上に、絶対に失敗できない。一生に一度だと思ってた大会が、まさかこのタイミングで回ってくるとはという思いだった」

「この大会でなによりも重要なのは、感染症対策」
大会に向けた会議で繰り返し強調されたのが、感染症対策の重要性でした。万が一感染者やクラスターが発生すれば、今後のスポーツ大会、ひいては来年の東京オリンピックの開催にまで影響するかもしれない。今後の大会運営の試金石として関係者の間には、従来の大会とは違う緊張感が広がっていました。

スポーツイベントの “ロールモデル”に

そんな中で、感染症対策を任されたのが、地元の陸上競技クラブ「新潟アルビレックスランニングクラブ」でした。大きなプレッシャーの中、責任者を務めたのは、普及部の田中義雄部長(38)です。大会を通じて、1つの決意がありました。

田中義雄 部長

「今後のスポーツイベントの感染症対策の1つの『ロールモデル』にする」

スポーツの大規模大会の「ロールモデル」を作り上げ、最終的には東京オリンピックの感染症対策にもつなげたいと考えたのです。クラブでは、新型ウイルスの中で大会が少しずつ行われるようになったことし6月以降、県内外のスポーツイベントの運営を重ねる中で、解決すべきポイントはなにか。感染症対策の現状と課題を1つ1つ洗い出してきました。すると、大規模な大会に共通する一つの大きな課題が見えてきました。

課題は“密集”

それが受け付けの際の「密集」です。9月、同じビッグスワンスタジアムで行われた日本学生陸上対校選手権では受付で入場に必要な、体調チェックシートを提出する人たちで混雑しました。田中義雄さんたちは受付の混雑を解消するため新たな取り組みを導入することにしました。

密集解消の“秘密兵器”

それが健康状態をスマートフォンで事前に登録できるアプリの活用でした。クラブはスポーツ大会やイベントの体調チェック専用アプリを全国で初めて開発。参加者は大会の1週間以上前から毎日の体温と体調を入力します。運営側は事前に参加者のデータを一括して管理でき、問題がある場合は大会前からコンタクトをとることが可能な上、当日も参加者は受付に設置されるバーコードリーダにスマートフォンをかざすだけ。紙の記入や提出は必要ありません。


さらに検温方法も見直し、AIを搭載した検温機も導入しました。カメラに顔をかざすと自動で額の位置を感知し、1秒ほどで体温を測ることができます。マスクをしているかの判定や、入場人数のカウントも自動で行うことができ、これまで必要だった検温のための担当者を減らせるうえ、多くのレーンを設置できるため、密集の解消につながると考えました。

大会によっては同じ場所になることもあった選手や役員、観客の受付も分離。従来は選手と観客が混在していた競技場内のスタンドもエリアを完全に分けました。前例のない大会運営の準備は、ぎりぎりまで続き、田中さんたちの姿からは、失敗は許されないという覚悟が感じられました。

田中義雄さん

「万全の準備をして、石橋を叩きまくってやっていくという感じです」

大会本番、成果は・・

迎えた大会初日。受付では選手や役員などおよそ1300人がアプリを使用しました。田中さんたちは選手や役員などの入場のピークは午前10時から11時までと予想していましたが、その時間帯もこれまでのように混雑することはありませんでした。

会場の出入りが多い陸上の大会ですが、誰が検温を受けたか一目でわかるよう、検温した人のパスに目印となるシールを貼る工夫もしました。3日間を通して大きなトラブルなく、すべての日程を終えました。

田中義雄さん

「スムーズすぎて、受付で『これで終わりなの』っていう選手のリアクションが見られて新鮮でした。スポーツのイベントも含めて、新型ウイルスとともに生活していかなければならない中、最高峰の日本選手権という大会をきっかけとして、今回の感染症対策が全国に広がっていってほしい」

取材中に印象的だったのが、田中さんがふとこぼした言葉でした。「スポーツや文化って生きるために絶対に必要なものというわけではない。だけど、切り捨てられるわけにはいかないんです」。新型コロナウイルスによってさまざまな生活のあり方が変わる中、日本のスポーツ文化をどうやってつなぎとめていくのか。東京オリンピックを来年に控える中、安全安心な大会の開催に向けた現場の模索が続いています。

本間祥生 記者

平成27年NHK入局 水戸局→新潟局 
高校までバスケットボールに打ち込む。
今回の日本選手権では新潟の注目選手や
感染症対策の最前線などを取材。
東京五輪にもつながる最高峰の大会の
舞台裏に(3密を避けながら)密着。

                   
※NHKサイトを離れます

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