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2020年10月7日(水)

サニブラウン "おみくじ引かない"ワケ

陸上担当の記者やディレクターが取材で見つけた話を発信する「いだてん」たちの“つぶやき”。男子100メートルの日本記録保持者、サニブラウン アブデル・ハキームが第6話に続きシリーズ2回目の登場だ。

アメリカ・フロリダ州のプロチームに移籍後、初めて応じた本格的なインタビュー。言葉を紡ぐ姿から見えたのは「大人のサニブラウン」だった。

21歳の今、感じること

インタビューは一時帰国中だった9月中旬。21歳の今、テーマは、競技はもちろん人種差別の問題や新型コロナウイルスの影響を受ける中でスポーツが存在する意味など、多岐にわたった。アメリカに拠点を置くからこそ感じることが多くあった。いくつもの質問にサニブラウンはかわすことも、はぐらかすこともせず、ことばを選びながら胸の内を語った。

プロであるということ

まずは、7月から新たに所属しているアメリカで有数のプロチーム「タンブルウィードトラッククラブ」での日々について。オリンピックの金メダリストを輩出してきたこのチーム、環境を変える決断は「オリンピックの1年延期」がきっかけだったと言う。「人生の先輩」たちと過ごす日々は「プロである自分」を自覚させられるものだった。大会に向けた調整法や体のケアなど「もっと学んでいかないと」と感じさせられたという。

サニブラウン選手

自分がわからないことを聞いても答えてくれて、陸上以外でもお世話になっています。日々練習に取り組む姿勢、私生活もそうですけど、まだまだ全然やれることがあったとわかりました。トップ選手と練習することで見えてくるところがあるんだなと。1段階、2段階とレベルアップしているという感じです。

プロとしての「陸上漬け」の毎日。その充実ぶりが表情や口調から感じられた。

どう映った 大坂なおみ選手の行動

サニブラウンは、高校卒業後アメリカに渡るまで日本で生まれ育った。同世代であり、同じアメリカを拠点とするテニスの大坂なおみが全米オープンで見せた人種差別への抗議の姿勢。黒いマスクを着用した彼女の行動は、サニブラウンの目にはどう映っていたのか、たずねた。

サニブラウン選手

大勢の人が見ている中でそういうことができるのは、少しすごいなと思う部分もあります。なかなか難しい問題でもあり、自分はああは出来ないなと思いました。
ただ大事な問題ではあるので、いろいろな人が目を向けて、もう一度考えて行動してもらえればいいのかなと思いつつ、ニュースを見ていました。

人々の行動は海の向こうではなく、すぐそばで起きていた。フロリダ大学の近くに住んでいたサニブラウン。身近なところで起きたデモの中には知り合いもいた。

サニブラウン選手

日本で育ったので、これまで人種差別やそれに対する活動は経験してこなかったです。大学では人種差別について学びはしましたが実際に起こるとは思っていなかったです。まだまだそういう問題が残っているんだということを再確認し、いろいろなことを考えさせられる部分があったと思います。

自分に出来ることは

大坂の行動と同じではないが、「アスリートとしての社会への発信」という面では、彼自身思うところがあるという。見据えるのは、陸上競技の普及だ。

サニブラウン選手

今後、自分が陸上をどのように広めたらいいのかを考えているんです。ただスポーツをやるのではなく、そのスポーツをどうよくしていったらいいのか。そう考えていくことがスポーツをやる上で大切になってくるのかなと、いろいろな方を見て思いますね。

閉店した店を見て考えた スポーツについて

自分が取り組んできた陸上競技はどうあるべきか、そして、自分はどう向き合って行くべきか。話しは広がり「スポーツそのもののあり方」に及んだ。アメリカでは日本とは比較にならないほど「大学スポーツ」が盛り上がる。サニブラウンが通うフロリダ大学も同様だ。アメリカンフットボールの試合があれば数万人規模の観客が町にやってくる。こうした「日常」が、新型コロナウイルスによって当たり前ではなくなった。サニブラウンにとってショッキングな街の様子だった。賑わっていた街のレストラン。気がつけば、つぶれていた。

サニブラウン選手

スポーツがことしほとんどなかったので、つぶれているお店や経済的に困難なお店もいっぱいありました。スポーツがあることによって街が回っていることやスポーツがあることによって存在しているものがあるんだなということを再確認しました。

続いて「スポーツ…」と口にしたあと、いったん考えを整理して続けた。

サニブラウン選手

スポーツのことを、こんなにふだんは考えていなかったということを身にしみて感じましたね。当たり前のようにあるものだと思って日々取り組んでいたと思うので。

「自分が競技を出来ていることに対する喜びを感じていたのか」と聞く記者に対し「そうですね…」と答えたサニブラウン。この日一番、しみじみとした様子に見えた。

自分の“伸びしろ”

インタビューで最も印象的だったのが、正月に多くの人が一度は経験したことがあるであろう「おみくじ」を引き合いに出したくだりだ。“21歳のいま、自分の“伸びしろ”をどう考えているのか?”という記者の問いに、サニブラウン選手はこうこたえた。

サニブラウン選手

そこが分からないのが、おもしろいかなというのは思いますね。正月に初詣に行った時、友達は“おみくじ”を引くんですけど、自分は引かないんです。ことしの運勢を見ずに“(ことしは)どうなるんだろうな”と思っているので。

おみくじを引かなかったのは子どもの時から。小さな紙に書かれた「1年の運勢」に一喜一憂するのではなく「ことしはどうなるんだろう」と考える。そして1年を終えた時には「ことしはどうだったのかな」と振り返ってみる。みずからの足で成長の跡を刻み、誰も開けたことのない扉を開けてきたサニブラウンならではの答えだった。

変わらない自分

オリンピックが1年延期になっても目標は変わらず「個人での金メダル」。「小さな課題や目標をクリアしていけば、その先にある一番大きな目標にたどりつける」と迷いは一切無い。オリンピックの開催自体がいまだに議論となるなかで、今、みずからの心を支え保っている理由は1つだ。

サニブラウン選手

何事もポジティブに考えることが大切だということが、スポーツにおいて本当に大きいとずっと思っている。焦っても何も変わらない。その時、その時で臨機応変に対応していくことが大事ですね。まあ性格上、そんな感じかなと。

変わる自分、変わらない自分。双方が相まって、成長を止めないサニブラウンの今がある。

佐藤滋

スポーツニュース部記者。平成15年入局。
札幌局・山形局を経て現所属に。途中1年間はネットワーク報道部に所属。オリンピック取材は、ソチ・リオデジャネイロ・ピョンチャンの3大会を経験。自身は小学3年から大学まで野球一筋。

                   
※NHKサイトを離れます

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