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2020年6月19日(金)

女子バドミントン福島由紀・廣田彩花 成長の軌跡

延期となった東京オリンピック。バドミントン・女子ダブルスの東京オリンピック金メダル候補と言われるのが福島由紀選手と廣田彩花(さやか)選手です。7年前にペアを結成、「フクヒロ」の愛称で知られ、その精密なプレースタイルで代表選考レースのトップを堅持。オリンピックの前哨戦と言われた3月の全英オープンを制しました。
 
しかしその後、新型コロナウイルスの影響でバドミントンの試合は中止に。いまふたりは難しい調整を強いられています。彼女たちが全幅の信頼を寄せるコーチとのトレーニングと波乱万丈の日々を追いながら、いまの思いに迫ります。

東京オリンピック金メダル候補 フクヒロペア

福島選手と廣田選手のペアは世界ランキング1位になったことがあるにも関わらず、所属チームの都合で、一般の人も利用する体育館を転々としながらトレーニングを続けています。

公共施設内の体育館で練習する福島選手と廣田選手

フクヒロペアは2020年3月には「この大会を制すればオリンピックも制する」と言われる全英オープンで初優勝。東京オリンピックを目指して最高の状態に仕上げてきたにも関わらず、いま先行きが見通せない状況に追い込まれています。

2019年世界選手権 福島選手(左) 廣田選手(右)

ふたりが戦うバドミントンは、スマッシュの初速は女子選手で時速300キロ以上。“世界最速の球技”と言われています。

活躍する女子ダブルスの日本勢

体格とパワーがものをいうため、これまでは海外勢が世界をリードしてきましたが、最近ではリオデジャネイロオリンピックで金メダルを獲得した髙橋礼華(あやか)選手と松友美佐紀選手の「タカマツペア」や、世界ランニング3位(2020年3月時点)の永原和可那(わかな)選手と松本麻佑選手の「ナガマツペア」など、日本勢の存在感が高まっています。

そんな強力なライバル達を抜いて、フクヒロペアが金メダル候補と言われるのには、そのプレースタイルに秘密がありました。

粘り強い守りと精密さ フクヒロペアの強み

2019年の全日本総合選手権 決勝

フクヒロペアの最大の強みは、相手の動きを絶えず読みながら粘り強く守り、一瞬の隙を見逃さない精密さにあります。2019年の全日本総合選手権決勝でのナガマツペアとの試合に、その真髄を見ることができます。

23回も続いたラリーでポイントになったのは、相手のスマッシュに対する廣田選手のレシーブでした。

12球目の廣田選手のレシーブは下から上に打ち上げる山なりの返球「クリア」。18球目のレシーブは地面と平行に打つ低く速い返球「ドライブ」。

左:クリア 右:ドライブ

写真で見比べると、高速で向かってくる相手のスマッシュに対して打ち方を変えていることがよくわかります。

実はこのとき、廣田選手は相手がスマッシュを打つ瞬間の体勢を見ていました。

12球目に比べて、18球目のほうはシャトルの落下点に体が入っておらず、わずかに体勢が崩れていることに気づいた廣田選手は、相手のスマッシュが浮いてくると予測し見事的中。そして浮いた分、ラケットを地面と並行に振り、相手のいないスペースを狙って、低く速くレシーブすることができたのです。

これが守りから攻撃へのスイッチとなり、廣田選手の狙いに気づいた福島選手もピンポイントで相手が返しづらいコースに打ち込んでいきます。そして最後には、狙い通り返ってきたチャンスボールを廣田選手が仕留めました。

廣田選手が相手のわずかな体勢の崩れを見抜きレシーブ、そして福島選手が相手の弱点を突く。細かい技術に裏打ちされた正確無比なラリーで相手を切り崩す、それがフクヒロペアの持ち味です。

勝てる試合に勝ちきれない フクヒロペアに足りないもの

廣田選手は5歳、福島選手は9歳でバドミントンを始め、学生時代はどちらもシングルスの選手。そんなふたりを引き合わせたのが、ペア結成以来、指導してきた今井彰宏(あきひろ)監督です。

今井監督

「教えなくてもスムーズなローテーションができている。廣田と福島の形があったんですよ。」

そんなフクヒロペアですが、東京オリンピック日本代表のライバルたちに対し、最後で勝ちきれない日々が続いていました。

2019年8月の世界選手権。この時点でのトップはフクヒロペア。2位がタカマツペア、3位がナガマツペアで、この3ペアが約3700ポイントの差で競り合っていました。優勝すれば1万3000ポイント獲得できる世界選手権。その結果が代表レースを大きく左右します。

決勝でのフクヒロペアの相手はライバルのナガマツペア。先にペースを握ったのはフクヒロペアでしたが、相手をあと一歩まで追い詰めながらも最終的には逆転負け。

ナガマツペアに逆転負けを喫する

その4か月後の全日本総合選手権決勝。相手は再びナガマツペア。今回も第1ゲームでは相手を圧倒していたものの、やはり逆転負け。

せっかく勝機をつかみながら勝ちきれない。ふたりには意外なもろさがあったのです。

実は世界選手権での敗退のあと、今井監督は厳しい言葉でふたりの課題を指摘していました。

今井監督

「言われて教えられたことをそのままコートの中でやるのは1分ぐらいしかもたないですよ。本人たちが本当に頭で理解して腹の中ですえて分析しないかぎり。そこを超えないといけないということなんですよ。僕じゃないんです。ふたり自身の課題なんですよ」

必要なのは、積極性と監督からの自立

「勝てる試合を勝ちきれないのは、心のどこかに自分に頼ってしまうところがあるからではないか。」そう考えていた今井監督は、ふたりに主体性を持たせようと、あるプレーを授けることにしました。それは、相手のスマッシュをレシーブで返したら、そのまま前に出ること。

レシーブをしたらそのまま前に出て相手の意表を突く

求められるのは、勇気を振り絞って前に出る「積極性」です。

今井監督

「自分たちから長いラリーに対して主導権をとりにいくとか。もうちょっと果敢に攻めてもらいたい。ふたりで目的意識が出ると迷いがなくなる。迷いがなくなるっていうことは強いよね」

わずかな迷いが隙を生む難しさに苦戦するフクヒロペア

このショットには、守りから攻撃へと試合の流れを大きく変える役割があります。しかし、一瞬でも前に出るのをためらうと、逆に空いたスペースを狙われます。

廣田選手

「迷っているときにどっちかが積極的に前にいったりすることで、自分たちのリズムも戻ってくる」

福島選手

「勇気を持って前にいかないといけないので。仕掛けにいくところは意識してやっていかなければいけない」

新しいプレーに苦戦しながらも、ふたりは地道に練習を重ねていきました。

“ふたりでもできる” 成長、そして進化

2020年3月。新型コロナウイルスの感染が拡大し始め、不安を募らせていた福島選手と廣田選手。ふたりの闘争心をかきたてるため、今井監督は自ら対戦相手を買って出ました。一歩も譲らぬ真剣勝負です。

今井監督との真剣勝負

互角の展開のまま迎えた終盤。今井監督のスマッシュを福島選手が拾い、思い切って前進。流れを変えるあのショットです。ふたりは、このショットで流れを自分たちに引き寄せました。

この真剣勝負で手応えをつかんだふたりは「この大会を制したペアがオリンピックも制する」といわれる全英オープンに参戦。このとき、ふたりには大きな試練がありました。今井監督が大会への帯同を断念。ふたりだけでこの大会に参戦することになったのです。

決勝戦の相手は、ライバルのナガマツペアを破った中国ペア。

1ゲームは先取したものの、第2ゲームとなり相手に次々攻め込まれます。相手が流れをつかみ始め、負けパターンが頭をよぎります。

しかし、この日は違いました。31回に及ぶ長いラリー、福島選手が仕掛けます。
相手選手のスマッシュを返すとすかさず前に出ます。不意を突かれた相手のクリアはわずかにアウト!取り組んできたあのショットで決めたのです。

そして迎えたマッチポイント。福島選手のスマッシュが決まり、ストレート勝ち。
今井監督不在の中で、大会初優勝。オリンピック代表に向け、大きく前進しました。

全英オープン初勝利に手を取り合うふたり

この結果に、「監督もスタッフもいない中、ふたりでやれた」と福島選手と廣田選手は自分たちの成長を実感。

自分たちだけで優勝を決めてきたふたりについて、今井監督はこう話します。

今井監督

「安心感の中でやってた部分が、甘えになってやってたときも多分あると思う。今回、甘えも安心感もない状況の中でチャレンジした結果が優勝して帰ってきたという、本当に喜ばしい結果を残して帰ってきた。本当によく頑張ったと思います。」

いま、ふたりが思うこと

緊急事態宣言の解除を受けて、通常通りの練習を再開したふたりに吉報が届きました。東京オリンピックの代表選考基準が発表され、代表入りが確実になったのです。

廣田選手

「自分たちの目標はオリンピックでの金メダルなので、そこに向けてしっかりと調整して、練習したことを出していきたいと思います」

福島選手

「今よりもレベルアップした姿をいろんな方に見てもらえたらいい。それまでやれることをしっかり準備していきたいと思います」

ふたりで考え、戦い、勝ち抜いていくーー。

来年の東京オリンピックでは、さらに大きく成長したフクヒロペアの姿を見ることができるでしょう。

                   
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