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2020年5月15日(金)

自分の体と対話するレジェンド ウエイトリフティング・三宅宏実

両手でつかんだバーベルを一気に頭上まで持ち上げる「スナッチ」と、いったん肩の位置まで持ち上げたあと、次の動作で頭上に突き上げる「ジャーク」。ウエイトリフティングは、それぞれを3回行い、持ち上げた重量の合計を競う競技です。世界のトップ選手が持ち上げるバーベルの重さは、自分の体重の2倍以上。超人的なパワーを生み出すため、選手は、日々身を削るようなトレーニングを積み重ねます。そうしたトレーニングの苦しさを最もよく知る選手の一人が、女子48キロ級で2度のオリンピックメダルに輝いた三宅宏実選手(1985年生まれ)です。

三宅宏実選手(2016年リオ五輪)

三宅選手といえば、バーベルにハグをするシーンを思い出す方も多いでしょう。2012年ロンドン大会の銀メダルに続いて、銅メダルを獲得した2016年リオデジャネイロ大会の一場面です。痛めていた腰の具合が大会直前に悪化し、痛み止めの注射を打ちながら出場した三宅選手は、痛みのため試合に入っても精彩を欠いていました。しかし最後の最後、土壇場で巻き返して奇跡の銅メダルに輝いたのです。
東京オリンピックを自らの集大成と位置づけてトレーニングに励む三宅選手。中学3年生で競技を始めてから20年、30代半ばとなった今も肉体の限界に挑み続けます。その日々を三宅選手に聞きました。

筋肉を壊して、筋力をアップさせる過酷な競技

三宅宏実選手と父の義行コーチ(リオ五輪)

三宅選手の身長は147cm。小さな体をどのように鍛えれば、100kgを超える重さのバーベルを持ち上げる強じんな筋力を身につけられるのでしょうか。

三宅宏実選手

心地良くできる普通の筋肉トレーニングだと「伸びしろ」がなくなってしまうので、筋力をアップさせたいときは、限界まで追い込むハードな練習をします。例えば、10本上げると、最後はもう上がらなくなってくるんですが、それでも、もう一段階強い筋力を付けたいとなると、筋肉の繊維を破壊して、限界まで追い込まなければなりません。「もう1本、もう2本いけるよ」と自分に言い聞かせて奮い立たせます。そうすると、その最後の1~2本ぐらいが「実」になるわけです。そこからが、本当の練習になってくるんですね。

三宅宏実選手

三宅宏実選手

でも、毎日、筋肉を破壊してトレーニングすると、体にかかる負荷が大きくなってダメージを受けやすくなるんです。力を出し切った後に、筋肉が消耗して乳酸がたまるような感じで、疲労がどんどん積み重なってケガにつながります。なので、次の日は体を休めたり、練習を軽くしたりして、強弱をつけて体を持たせるように調整します。1週間の筋力アップで新記録が出ることはありません。私の場合は、3か月くらいかけて試合の日にピークをもっていくようにコントロールします。でも、試合の日にピークが合うとは限りません。100%の状態にどう近づけるか、それがこの競技の難しいところです。

ケガとの戦いから導き出された“体幹トレーニング”

奇跡の銅メダル(リオ五輪)

三宅選手の競技人生はケガとの戦いでした。リオデジャネイロ大会の後、腰を治すために4か月ほど休養。ふたたび実戦に復帰して2018年の全日本選手権で優勝しましたが、その後の試合では故障による棄権を強いられ、苦しい戦いが続いています。不調の原因はどこにあるのでしょうか。

三宅宏実選手

下半身のケガが多くなったのかなって思います。2015年頃から腰が悪くなって、今も続いています。2019年の後半は、さらに内転筋を痛めました。治りが遅いなと思って病院で診てもらったら、大腿骨(太ももの骨)が疲労骨折していたんです。ウエイトリフティングでは、脚力、つまり下半身が一番大事な部位なんですけど、そこをケガしてしまうと記録の低下に直結してしまうので、厳しいですね。

三宅選手が痛めた「内転筋」

どうして下半身のケガが多くなったのか。三宅選手は、足を前後に開いてバーベルを持ち上げる「ジャーク」に原因があるといいます。「ジャーク」は、体の中心線に対して足の動きが左右対称でないため、バランスを崩しやすく、重心が少しでもブレると、そのブレを修正しようと前後に開いた足で踏ん張るため、内転筋に負荷がかかりやすいというのです。

下半身に大きな負荷がかかる「ジャーク」

三宅宏実選手

「ジャーク」でバーベルを突き上げて体が真下に入ったときに、バーベルの重さが倍になって体に降ってくるんですが、突き上げたときに、「腹圧」(体の内側への圧力)を入れて、ぐっとバーベルを上に押しこんで、同時に足をガッと開けば、その負荷に耐えられるんですけど、「腹圧」が抜けていると、最後の押し込みが足りず、足が開いて踏ん張ってしまうので、太ももの内側の内転筋にすごいダメージがくるんです。それがどんどん疲労となって蓄積してケガに結びついてしまったんじゃないかと思います。

「腹圧」

「腹圧」とは、横隔膜や腹横筋といったお腹を取り囲んでいる筋肉の内側にかかる圧力のこと。「腹圧」を高めると体全体が安定して運動能力が高まるため、三宅選手は、この体の深いところにあるインナーマッスルを強化する体幹のトレーニングに力を入れています。

三宅宏実選手

今は、1日に6~7時間やっていたバーベルを使ったトレーニングを減らして、7割を体幹のトレーニングにあてています。腹筋だけじゃなくて、お腹の横や背中、腰の奥の筋肉もちゃんとつけて「腹圧」を高めれば、負荷がかかる足や腰を守ることができるので、力が発揮できると思っています。

体との対話から導き出された“食へのこだわり”

練習後に「梅肉エキス」を食べる三宅選手

三宅選手は、競技を長く続ける秘訣は自己管理、「自分をいかに知っているか」だと言います。そんな三宅選手が大切にしているのが日々の食事の栄養、どのような点に気をつけているのでしょうか。

三宅宏実選手

主食、副菜、主菜、乳製品、食べ物にはそれぞれ色々な栄養素が含まれています。疲労回復だったり、骨折だったり、それぞれの場合にはこういうものというのが良いと分かってくると、何のために食べるのかという意識に変わってきました。栄養をバランスよくとっていれば、筋肉もきちんと回復できるんですけど、練習量に対してしっかり栄養補給してないと、疲労回復が遅れたりします。それが、年齢とともにはっきりしてきているのは確かですね。

  • 手作りの梅肉エキス
  • 黒にんにく
三宅宏実選手

私が欠かさないのは、すった梅を真っ黒になるまで煮詰めた「梅肉エキス」。梅は体にいいからと、母と父が作ってくれた手作りなんです。梅肉に含まれるクエン酸は疲労回復してくれるので、練習後にちょっとハチミツを入れてジャムみたいな感じでスプーン小さじ1杯食べます。もうひとつは黒ニンニク、栄養素が整っていて最強です。黒ニンニク食べると、朝すっきり起きることができて、朝から元気です。家で作っているときはすごく臭くて、「うわわわ、部屋に匂いつく」って感じで大変なんですけどね(笑)

栄養バランスを考えた三宅選手の食事

東京オリンピックでは体重区分が変更された女子7階級の最軽量、49キロ級の出場をめざす三宅選手。目標は、自らがもつ旧階級の53キロ級の日本記録、スナッチ90kg、ジャーク117kg、合計207kgの更新だといいます。

三宅宏実選手

自分の記録を1kgでも上乗せできたらめちゃくちゃうれしいです。日本記録を出したのは2011年ですから、「やっと9年かかって、1kg伸びました」っていうセリフを言ってみたいですね。絶対に体は覚えているはず、筋肉は忘れないって思うんです。感覚を覚えているから、眠っている筋肉が早く目覚めて欲しいなって思います。「私にウエイトリフティングを教えてくださいな、この体さんよ」って、いつも問い掛けているんですけどね。はははは・・・(笑)

さらなる高みをめざし、自らの体と日々“対話”を続ける三宅選手。そんな矢先に届いたオリンピック延期の知らせでした。「日々痛みとの戦いがあり、あともうちょっと、もうちょっと、と思いながら気を張ってきたが、糸が切れたかなという感じ」と胸の内を語った三宅選手、それでも「1年をボーナスの期間と思えるように気持ちを調整していきたい」とプラスにとらえようとしていました。2021年の東京オリンピックを35歳で迎える三宅選手、その晴れ舞台に再び、感動のドラマが生まれることを期待したいと思います。

                   
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