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2020年4月16日(木)

「声」にこだわる ブラインドサッカーGK・佐藤大介

視覚に障害がある選手たちの、ブラインドサッカー。パラリンピック競技の中で障害のある人、そして健常者がいっしょにプレーをする唯一のチームスポーツです。フィールドプレーヤーは全員全盲。唯一、目が見える選手が任されるのがゴールキーパーです。日本代表を長年支えるゴールキーパーの佐藤大介選手は、選手たちにかける「声」にこだわっています。

「声」は選手にあわせて

「全体右スライド!ストップ!」

ブラインドサッカー日本代表の合宿。ピッチ中に大きな指示の声が響きます。

5人制で行われるブラインドサッカー。特別なボールから鳴る音と、選手間の声を頼りにプレーします。中でもゴールキーパーは、「ピッチ上の監督」とも呼ばれるポジション。味方を適切なポジションに導く役割を担います。

長年日本代表のゴールマウスを守ってきた、佐藤大介選手35歳。フィールド全体に通る声で、常に声を出し続けます。

佐藤選手はただ指示するだけでなく、選手の性格や癖を考えながら言葉を選んでいます。かけるタイミングや、声色も変えながら、その瞬間に最適な「声」で指示を出していると言います。

1歩出ることをためらいがちな選手には、あえて強い言葉で。

「アブ(選手の名前)!!前に出ろ!前に!ボール行かなきゃ!」

そして経験が浅い選手には、励ますように優しく指示を出します。

「ゆづき(選手の名前)、(敵が)来ているぞ。ゆづきも声出していこうぜ!」

日本代表 園部優月選手

(佐藤選手は)指示もわかりやすいですし、ディフェンスしやすいです。

日本代表 田中章仁選手

(佐藤選手は)自分のプレーの癖を見ているな、とよく感じます。

いかにわかりやすい「声」でつたえるか

佐藤選手は、自分の指示の声で選手を動かすブラインドサッカーのゴールキーパーに、誇りを感じています。
幼稚園でサッカーを始めてからゴールキーパー一筋の佐藤選手。ブラインドサッカーと出会ったのは、大学生の時でした。たまたまテレビでその存在を知り、軽い気持ちで近所のチームに参加。実際にプレーしてみると、11人制のサッカーよりもゴールキーパーが果たす役割が大きい事にやりがいを感じ、のめり込んでいったと言います。

佐藤大介選手

いかに選手に分かりやすい言葉で伝えるか。選手がその指示に従って動いてボールを奪えた時、気持ちいいと感じるんです。

仕事から帰宅後、佐藤選手は試合や合宿のビデオを繰り返しチェックします。その際、重点的に見ているのは、自分が出した指示と味方選手の反応です。

味方チームの守備の場面。佐藤選手が出した指示は「出ろ」。しかし。

佐藤選手

この場面、「出ろ」より、「寄せろ」の方がうまくブロックできたのかなって。


「出ろ」と「寄せろ」。同じような指示でも伝わり方には微妙な違いを感じていました。

佐藤選手

「出ろ」と言われたら、選手は「奪いに行かなきゃ」ってスイッチが入っちゃう。「寄せろ」だと、ボールを取りに行くんじゃなくて近づくというニュアンス、意味ですよね。今見返してみて、気を付けなきゃいけないなと思います」。

試合中、最適な「声」を出し続けるために

もちろん、「声」だけでなくアスリートとしての高い身体能力も必要です。佐藤選手が週3回行うジムトレーニング。入念に取り組むのは、上半身、特に肩甲骨周辺ほぐすこと。あおむけの状態で、テニスボール状の器具を肩甲骨周りに当てて、上半身の動きが硬直しないよう、体を維持しています。

佐藤選手

体が硬直すると声が出ないんです。普段から、肩甲骨あたりを緩めることは意識しています。

そして、マシンでのランニング中に意識するのは、周りの状況を瞬時に把握する事。窓の外から見える歩行者や車の動きなど、何気ない風景を注意深く見る佐藤選手。息が上がっても的確な指示を送るためのトレーニングだと言います。

試合で指示をする相手は、みな目が見えない選手。そのために求められるのは、相手選手の動きを予測し素早く判断する事。いつでも高い意識を持つことが、試合での実践につながります。

メダルへは厳しい道のり それでも

東京パラリンピックで、初のメダル獲得を目指す日本代表。しかしその挑戦は簡単ではありません。去年12月、格上のモロッコとの強化試合が行われました。パラリンピックを前に、実力を試すことができる大事な一戦です。

守備の連係がうまくいかず、個人技に優れる相手のペースにほんろうされます。佐藤選手も、シュートを防ぐことができません。大きな課題が残った敗戦の後、佐藤選手が語ったのはより「声」の精度を高め、味方に動いてもらわなければいけないという反省の言葉でした。

佐藤選手

一人が抜かれても次の選手が行けるように、「コンパクト、(選手の位置を)近くに」、と指示を出したんですが、その間を抜かれてキーパーと一対一でシュートを打たれる形が多くなってしまいました。(味方に)いいポジショニングをとらせてあげられればよかった。

およそ2か月後の合宿。日本代表はモロッコ戦で露呈した課題の克服へ、守備の強化により時間をかけていました。取り入れたのが、選手同士がゴムでつながりながら行う守備練習。選手間の理想の距離を4mに設定し、体に覚えこませます。

過去の試合をすべて分析した結果、その距離間を続けることが、日本選手が最も力を発揮できると考えたからです。

選手たちが距離感をものにし、実践するためには、佐藤選手の声によるアシストがより重要。ひとつひとつの言葉にこだわり、選手たちの力を生かし切る事に全力を注ぎます。

佐藤選手

(日本代表チームは)みんなが光り輝いた時に、目標を達成するだけの力は持っています。ひとりひとりがその力をどう引き出すか。僕もどうやって引き出すか。それが全てだと思います。




新型コロナウイルス感染拡大の影響で、パラリンピックは1年延期が決定。

5月6日まで代表チームの練習も中止し、SNSなどで選手同士で情報交換しながら、コミュニケーションを続けています。佐藤選手も、「ブラインドサッカーは、障害のあるなしに関係なく一緒に戦う事ができるスポーツ。この1年間をもっと強くなるための時間にしたい」と前を向いていました。

ブラインドサッカー日本代表。ゴールキーパー佐藤選手の声で、選手たちが躍動する姿を再び見ることができる日を、多くの人が待っています。

                   
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