読み込み中です...

2020年4月15日(水)

2020延期でピンチ パラアスリートたちならではの課題って?

夢の舞台はこの夏から、1年後へ…。1年延期となった東京パラリンピック。突然の決定にも、選手たちは

「パラアスリートはタフな選手が強い」

と前を向いています。

一方、ウイルスの感染拡大にはパラアスリートならではの課題も。さらに競技団体も1年後に向けた課題に直面しています。4月5日のサンデースポーツ2020では、パラ競泳の“レジェンド”成田真由美さんにテレビ電話で話を聞きながら、大会延期について考えました。

ウイルス感染 高リスクの選手も…

世界中で100万人以上が感染し、8万人余りの命を奪っている新型コロナウイルス(4月8日現在)。中でも、けい髄損傷や脳性まひなどの障害があるパラアスリートは、ウイルス感染よるリスクが高いと、専門家は指摘します。

日本障がい者スポーツ協会医学委員長  陶山哲夫医師

「命に関わると思った方がいいと思います。例えば脳性まひ、重症筋無力症の人たちは呼吸の機能がちょっと落ちる。そのため肺炎の原因となるウイルスが感染すると、非常に重度化になりやすいのです。」

パラ競泳の成田真由美選手も、その課題を抱える一人です。

現在49歳の成田選手は、パラリンピック5大会に出場し日本選手最多の15個の金メダルを獲得したレジェンド。
13歳の時に脊髄炎が原因で下半身が不自由になりました。頸椎を痛めている影響で呼吸機能が低下しているといいます。

成田真由美選手

「先日健康診断を受けた時に肺年齢が出て、去年が93歳、今年94歳でした。」

それでも、多い時で1日4000メートルを泳ぎこむ成田選手。それも選手生活の集大成と位置付ける東京大会のため。自らを追い込むトレーニングを続けています。

リスクよりも、泳ぎたい気持ちが勝っている

成田選手とテレビ電話をつなぎインタビューすると、率直な本音を語ってくれました。


*****

――成田選手、ウイルス感染によるリスクが他の人よりも高いかもしれない今の状況を、どのように受けとめてらっしゃいますか。

成田真由美選手(以下、成田)
ウイルスは目に見えるものではないので、自分で気を付けなくてはいけない事はもちろん、他の人にうつしてはいけない。その危機感をもって生活をしなくてはいけないなと思っています。私のように首を痛めてしまった選手は腹筋や背筋に問題があるので、どうしても肺活量が人よりも少なくなってしまいます。そこは普通の人と比べるとリスクは高いのかなと感じています。

――そのリスクを背負いながらも、どうしてハードに泳ぎ続けていられるのでしょうか。

成田選手
やはり泳ぎたい気持ちの方が、リスクよりも勝ってしまっているのかなと。だからこそ今しかできない、自分ができることはしていかなくてはいけないとも思っています。

――成田選手は東京大会を選手生活の集大成にする予定だったと聞いています。1年延期の判断を聞いた時の正直な気持ちは、どういう思いだったでしょうか。

成田選手
正直自分の個人の感想としては、「えっ?」という感じですよね。もう私は今年の夏で終わろう、来年の今はこんな苦しい練習はしない、と思っていたので頑張れていた部分があったんですけれども。でもやはりウイルスで多くの人が亡くなり、感染が広がっている現状を考えると、1年延期はしかたがないのかなと思いました。

成田選手
2013年に東京大会の開催が決まった瞬間、私はブエノスアイレスのホテルで立ち会っていました。その時はちょっと競技から遠ざかってはいたんですけれど、2020年に向けてもう一度選手に復帰しようと思えたのは、それがきっかけだったんです。2016年のリオデジャネイロパラリンピックに出場することもできましたし、リオが終わってからも毎年代表に入ることができて迎えた2020年だったので、残念だなという気持ちはありました。でも、あと1年練習する時間が増えたので、また強くなれるのかなとも考えています。

パラアスリートはタフ

成田選手だけでなく他のパラアスリートたちも、東京パラリンピック1年延期を受けて前を向いています。

パラ陸上 山本篤選手

「無観客でやるよりは、観客がいたほうがやる気は出ますのでね。来年、たくさんの観客の中で跳びたいです。」

パラアーチェリー 上山友裕選手

「1年延びたことによって、もっとアーチェリーを知ってもらえるきっかけにできると、前向きに捉えています。」

パラ陸上 中西麻耶選手

「パラリンピックのアスリートは、ものすごくタフな印象があるんですよね。挫折を味わったり、命と向き合ったりして、そこから生きがいとしてスポーツをやっている選手がほとんどだと思うので。自分ができることを、1年かけてひたむきにやっていきたいです。」

*****

――「一度命と向き合って、生きがいとしてスポーツを選んできた。だから、パラの選手はタフな人が多い」。この言葉は、成田さんにも通ずるところがあるのではと思いますが、いかがでしょうか。

成田選手
パラリンピックの選手というのは、自分の病気や障害を受け入れてスポーツをしている部分があると思うんですね。私も追突事故にあったり、再発を何度も繰り返したり、本当にたくさんの出来事があったので。そういう意味では、今の自分を受け入れなくてはいけない、その判断を自分ではしなくてはいけないのだと思っています。残されたもので、精一杯自分の力を発揮すると。ひとつ大きく言えるのは、来年の開催日程が決まった事、それだけでも選手のモチベーションが上がったことは事実です。今現在は、思うように練習ができない選手が多いと思うんでが、日程が決まった事でさらに頑張れるようになる選手は増えると思います。

競技団体が直面する課題

パラリンピック1年延期の影響は、選手を支える競技団体にも広がっています。
日本身体障がい者水泳連盟では、延期によって2つの不安が高まっています。
ひとつがスタッフの確保です。

総勢26人のうち、5人は外部企業などからの出向者。彼らは代表監督やスポンサー対応など、重要な役割を任されています。大会の延期によって出向期間を延ばしてもらえるかどうか、目途は立っていません。

櫻井誠一 常務理事

「もう1年で、とお願いをしたいなと思っています。これがだめだったら、体制そのものも非常に厳しくなりますから、最後まで全うしてほしいです。でも会社の都合もあるし彼らの将来の事もあるから…、頭を悩ませています」。

もうひとつが、運営を支えるお金の問題です。連盟の今年度のスポンサーは17社。新型コロナウイルスの感染拡大で経済が悪化し、支援が継続されないのではないかと懸念しています。

取材に訪れた日は、スポーツアパレル会社にテレビ電話で支援の継続を依頼しました。この会社も、ウイルスの感染拡大を防ぐために直営店の週末の営業を自粛するなど、影響が出ていました。スポンサー企業自身も本業や社員を守らなければならない中で、支援を継続してもらえるか。連盟の依頼にスポンサー企業の担当者は答えました。

スポンサー企業担当者

「パラリンピックが1年延期になったとはいえ、東京オリパラが決まる前から(日本)障がい者水泳連盟さんのサポートをさせて頂いていますので、この姿勢は変わらずに続けていきたいと思っています。」

ほっと胸をなでおろす連盟の職員たち。しかし今後も厳しい状況が続くかもしれないと、気を引き締め直していました。

櫻井常務理事

「我々はパラ競技の中ではまだ大きい団体で、運営もしっかりしていると言われていますが、それでもかなり厳しい状況が見えています。これからもしっかりと計画を立てながら、全力で取り組んでいきたいなと思います。」

競技団体も、選手たちも課題山積

パラ競技の団体が、1年後までどう生き残っていくか。パラリンピック担当の島中俊輔記者が解説します。

――島中さん、日本障がい者水泳連盟の例のように、パラ競技団体にとってスポンサーの企業の支援は、やはり大きいということなんでしょうか。

島中俊輔記者(以下、島中)
その通りです。競技団体の収入は、国などからの助成金、そしてスポンサー企業などからの協賛金。この2つが大きな柱です。NHKは2月、すべての競技団体を対象にアンケート調査を行いました。それをもとに総収入に占める協賛金の割合をまとめました。パラ競泳の団体・日本身体障がい者水泳連盟の協賛金は6600万円、これは総収入のおよそ30%にあたります。トライアスロンは半分近く。柔道、陸上は3割前後と、協賛金が貴重な収入源になっている事がわかります。仮にこうした協賛金が来年度に減ってしまった場合、国際大会や合宿といった選手の強化にかかる費用を削らなければいけないのではないか。そういった危機感を訴える声も競技団体から出ているんです。

――感染拡大で企業の業績が悪化していると、支援を見合わせるという動きも、出てくるのではないか心配です。

島中
パラリンピック競技への支援を続けたいという気持ちがあっても、やはり企業にとっては本業も大事ですから、撤退せざるをえないスポンサーが出てくるんじゃないか。競技団体も懸念しています。東京パラリンピックの開催が決まって、少しずつ支援が増えてきた中での「コロナショック」が、これまでのいい流れに水をさすのではないかという、不安の声も聞こえてきます。競技団体や選手にとっては、大会を目前に苦境に立たされたといっても構わないと思います。

*****

加えて、パラリンピックならではの大きな問題があります。それは「クラス分け」。クラス分けとは、様々な障がいがある選手が公平に競技を行うための、パラリンピック特有の制度。障がいの「種類」や「程度」、どこまで体を動かせるかという身体機能などを、100以上のチェック項目からなる国際ルールで細かく判定します。
(たとえば車いすバスケットボールの場合は、腹筋や背筋がどれだけ機能しているかなどによって、クラスが8つに分けられています。)

これが確定しないと、仮にパラリンピックの代表に内定しても出場できない可能性があります。クラス分けには有効期間があり、日本にも来年の東京パラリンピックが行われる8月までに有効期間が切れてしまう選手もいます。

クラス分けは国際大会に合わせて行われますが、ウイルスの感染拡大で国際大会が次々と中止になり、クラス分けを行う貴重な機会が次々と失われ今後の見通しも立っていません。

*****

島中
クラス分けを待つ選手というのは日本だけでなく世界各国に大勢います。仮に今後国際大会が再開され、クラス分けの機会が行われるとなったとしても、その大会に選手のエントリーが集中して、調整が難航されるということも予想されます。パラリンピックについては、重症化のリスクが高い選手もいて、なおかつクラス分けにも時間がかかる。新型コロナウイルスの一刻も早い終息というのは、オリンピック以上に求められてくると思います。

成田選手が2020大会にかける思いは

ウイルス感染へのリスク、先行きが見えないクラス分け、そして選手を支える競技団体の人員や資金の問題…。様々な課題を抱える中で、今パラアスリートが感じていることは、改めて成田選手に尋ねました。

*****

成田選手
現状で選手たちに何ができるか…。やはり今の状態を崩さないで、ちゃんと毎日練習ができればいいと思うんですけれどね。私たちは目の前にある事をしていくこと、それしか分からないです。
私は東京パラリンピックは「ゴール」ではなくて、次の2024年大会に続くような大会でありたいと思っています。そしてパラリンピックが終わったあと、海外の選手やそのご家族に「もう1回東京に、日本に行ってみよう」と思ってもらえるような、東京パラリンピックでありたいなと思っています。

****

世界的な感染拡大の先行きが見えない中で、来年しっかりと開催にこぎつけられるか。多くの課題に直面しながら、それでも選手たちは前を向いています。彼らを支えるために、私たちには何ができるでしょうか。


                   
※NHKサイトを離れます

関連記事

    人気の記事ランキング

      記事ランキングをもっと見る

      最新の記事